腹巻猫です。9月30日に日本コロムビアより「キャンディ・キャンディ SONG&BGM COLLECTION」が発売されました。CD3枚組のボリュームで、主題歌・挿入歌全曲と現存するカラオケ、そして初商品化曲多数を含むBGMを収録。『キャンディ・キャンディ』ファン、渡辺岳夫ファンの悲願が実りました! ロマンティックな音楽にキュンとなること請け合いです。
http://www.amazon.co.jp/dp/B012OW2UMM/
歌謡曲やジャズなど映像音楽以外の分野で活躍している、いわゆる「映像音楽畑でない」音楽家が劇場作品やTVドラマ、アニメの音楽を手がけることがある。そういうとき、映像音楽の伝統にない音楽が生まれて、思わぬ傑作・快作が生まれることが多い(ような気がする)。
日本のTV作品で挙げるなら、大野克夫、井上堯之が手がけた「太陽にほえろ!」がそうだし、鈴木宏昌の『海のトリトン』、宮川泰の『宇宙戦艦ヤマト』もその例に数えられるだろう。ミッキー吉野(ゴダイゴ)の「男たちの旅路」やさだまさしの「北の国から」なども含めてよいかもしれない。ミュージシャンとしての作家性と映像音楽としての機能性がせめぎあった末はじけたような、インパクトの強い作品がたびたび生まれている。そして、「一期一会」と言いたくなるような、ワン・アンド・オンリーの作品が目につくのも特徴的である。
それは、強い個性を持った映像と音楽とがぶつかりあう「異種格闘技」から生まれた傑作と呼んでよいかもしれない。
今回紹介するのも、そんな「異種格闘技」から生まれた名作のひとつ。
1998年から2000年にかけて発表されたOVA作品『青の6号』である。
『青の6号』は、「サブマリン707」などの潜水艦マンガで知られる小沢さとるの同名作品を前田真宏監督が映像化した作品。アニメーション制作はGONZO。海洋シーンやメカニック描写に3DCGを取りいれ、世界初のフルデジタルOVA作品として話題になった。
海洋開発の進んだ近未来。海洋の安全と秩序を守る超国家組織「青」と、人類に反旗を翻した天才科学者ゾーンダイクが生み出したミュータントとの戦いを描く海洋SFアクション。CGで描かれる潜水艦戦などが見どころだ。
音楽はブラスバンド編成ロックバンド「THE THRILL(ザ・スリル)」が担当した。
THE THRILLは1990年に結成。リズムセクション5人にホーンセクションを加えた15人編成のロックバンドである。結成から25年。多少のメンバーの変更はあるが、現在も活動を続けている(9月30日には25周年記念ライブイベントが開催された)。
THE THRILLは「ビッグバンドによるロック」を追求するバンドで、60〜70年代に流行した「ブラスロック」の現代版という趣。よりロック志向が強く、スピード感のある曲を緻密なアレンジと演奏で聴かせる音楽だ。前回取り上げた『Project BLUE 地球SOS』のビッグバンド・ジャズ風の音楽とは対照的である。
そんなTHE THRILLが手がけた『青の6号』の音楽は、いわゆる「劇伴らしい」音楽ではない。むしろ、映像に合わせることをほとんど考えてないような自立性の高い楽曲になっている。
「青の6号 オリジナル・サウンドトラックVol.2」のライナーノーツによれば、『青の6号』の音楽づくりでは映像側からの制約がほとんどなかったという。OVAの音楽であれば、映画音楽のように具体的なシーンに合わせて音楽を発注するのが一般的だが、本作の場合は違う。画コンテ、台本、キャラクターデザインなどをもとにTHE THRILLのメンバーがイメージをふくらませ、音楽を作り上げていった。自由に作った曲を映像の中でどう使うかは監督の判断に任せるというスタンスだったという。コンセプトアルバムのような作り方だ。結果、一聴してアニメのサウンドトラックとは思えない、「THE THRILLの色」が前面に出た音楽ができあがった。
サウンドトラック盤は東芝EMIのFUTURE LANDレーベルより「青の6号 オリジナル・サウンドトラック Part.1」(1998年10月28日発売)、「同 Part.2」(1999年4月28日発売)の2枚がリリースされた。
収録曲数が少ないので2枚とも紹介しよう。収録内容は次のとおり。
Part.1
- 青の覚醒
- 006〜潜航
- 暗闇に気をつけろ
- 波紋
- 哀愁のサブマリナー
- グランパス
- 深海魚
- 006〜進撃
- みなそこに眠れ(Vocal:YUKARIE)
Part.2
- 青の作戦
- 汚れた手
- 006〜侵攻
- ちぎれた浮標
- 海獣
- のろわれたロンド
- Pole Shift/地底の胎動
- 南へ
- 006〜彷徨
- Blue Bloom
- レクイエム
- みなわに還れ
- みなそこに眠れ(short version)(Vocal:YUKARIE)
トラック数が少ないのは1曲が3分〜5分以上と長いため。収録時間はPart.1が約41分、Part.2が約56分。作曲・編曲を担当したのはすべてTHE THRILLのメンバーだ。主題歌「みなそこに眠れ」もサックス奏者のYUKARIEが作詞・作曲・ボーカルを務めている(なお、Part.1のライナーノーツに作・編曲者クレジットはなく、Part.2のライナーノーツに2枚分が表記されている)。
OVA『青の6号』は全4巻が発売された。サウンドトラック Part.1がVol.1とVol.2の、Part.2がVol.3とVol.4のサントラ盤になっている。2枚そろって世界が完結する構成なので、これから聴こうという方、もしくはPart.1しか聴いてないという方はぜひ2枚そろえて聴いてほしい。
Part.1の1曲目「青の覚醒」はVol.2の冒頭の潜水艦戦場面に使用。生体潜水艦ナガトワンダー=通称「幽霊船」と「青」の潜水艦隊との死闘場面に長尺で使用されている。リリカルなイントロからアップテンポのリズムが入ってきて、ホーンセクションが颯爽と歌い始める。曲だけ聴くと、激しい戦闘シーンの曲とは思えないだろう。ライナーノーツの楽曲コメントには「深い眠りからの目覚め」とあり、全編のプロローグ的なイメージで書かれた曲とも思える。
続く2曲目「006〜潜航」はグルービーなベースラインにギターのリフが重なり、ホーンセクションのテーマとアドリブが続く構成。本編ではVol.1の中盤でミュータントの生体戦闘メカ「ウミグモ」が港湾を襲撃する場面に流れた。スリリングな曲だが、これも曲だけ聴くと「カッコいい曲」という印象が圧倒的で、戦闘・破壊シーンのイメージはない。ライナーノーツのコメントでは「引き返すことのできない航海の始まり」とある。
Part.1の3曲目「暗闇に気をつけろ」はドラムス、パーカション、ギター、オルガンなどの上でホーンセクションの緊迫したフレーズがたたみかけるスピード感満点の曲。この曲は劇伴的雰囲気が濃い。コメントは「最高速で深度400mを突っ走る」とあり、海中チェイスシーンのようなイメージか。本編ではVol.2の中盤の「青」の基地がミュータントの艦隊に攻撃されるシーンでかかっていた。
映像音楽を作るときに音楽としての独立性を重視しすぎると、映像音楽としては使いづらい音楽になってしまったり、映像と合わない音楽になってしまうことがある。この『青の6号』でも、音楽が意図したイメージと実際に使用されたシーンは必ずしも一致していないように思える。
では、音楽と画が合ってないかというと、これがすごく合っているのだ。
いや、「合っている」という言い方は少し違うかもしれない。
先に挙げた「青の覚醒」が本編で流れるシーン。画面の展開に合わせて音楽を細かく編集して映像に合わせるという手法もあるが、本作ではその手法は採られていない。長い曲を一連のシークエンスにずっと流し続けている。映像上のドラマの展開・リズムと音楽の展開・リズムがそれぞれに流れを作り、どちらが主役とも呼べない緊張感のある関係が生まれる。CGによる独特の質感の映像とあいまって、音楽が主役のPVのように観えるときもある。それがちぐはぐではなく、心地よいのだ。
同様のことは、ほかの音楽の場面にも言える。長い曲をぶつ切りにせず、ずっと流し続ける演出。音楽は音楽、映像は映像で自立して、双方がぶつかったときに生まれる化学反応が思わぬ効果を生む面白さ。「異種格闘技」の醍醐味である。
筆者が印象深かったのは、Vol.3のミュータントの少女(ミューティオ)と主人公・速水との交流シーンに流れる女声スキャット入りの「海獣」(Part.2収録)。本作のテーマに直結する音楽だ。水音やミュータントの声をサンプリングした実験音楽のような印象の不思議な曲になっている。
Vol.4のクライマックスに流れたブラジリアン・ジャズのような「Blue Bloom」(Part.2収録)も、いかにも「海がテーマの音楽」という雰囲気でいい。こういう曲が含まれているのは『青の6号』という作品を意識した音楽ならではだろう。THE THRILLのオリジナル作品ではなかなか聴けない曲調である。
もちろん、THE THRILLが得意とするビッグバンド編成のロックも聴き応えがある。
Vol.1で速水が小型潜航艇グランパスで出撃する場面の「グランパス」(Part.1収録)は曲名と使用場面もぴったり一致。オルガンとホーンセクションの絡みあいがぞくぞくする。
Vol.1のクライマックスの青の6号対生体潜水艦ムスカの対決シーンに流れた「006〜進撃」(Part.1収録)は、まさに「青の6号活躍!」というイメージの曲で、次第にヒートアップいていくホーンセクションのプレイに興奮必至。アルバムのクライマックスにもふさわしい。
THE THRILLのアルバムとしても聴きごたえのある『青の6号』のサウンドトラック・アルバム。音楽単独でも十分楽しめるが、映像作品を観てから聴くと、また違う面白さが味わえる一粒で二度おいしい作品である。本編を未見の方、もしくは昔観たきりという方は、音楽の使い方に注目しながら観てみると新しい発見があるだろう。残念ながらサントラ盤は2枚とも入手困難になっているが、THE THRILL結成25周年を期にぜひ復刻してもらいたいタイトルだ。