腹巻猫です。9月20日(日)「渡辺宙明トークライブPart8 〜祝!生誕90年!&レイナ伝説〜」を阿佐ヶ谷ロフトで開催します。ゲストに映画・映画音楽評論の小林淳さん、アニメ監督のはばらのぶよし(羽原信義)さん、メカニックデザイナーのやまだたかひろさん。渡辺宙明先生の生誕90年を祝うお祭りです。ぜひおいでください!
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/37035
劇場作品、TVドラマ、アニメ等の音楽で活躍する作曲家・大島ミチルが、7月期放送のTVアニメ2作品の音楽を担当している。『赤髪の白雪姫』と『六花の勇者』だ。同じく7月から放送中のNHK木曜時代劇「まんまこと」の音楽も担当中。10月には映画『リトルウィッチアカデミア 魔法仕掛けのパレード』の公開も待機しているし、録音のために東京、パリ、モスクワと世界を駆け回る精力的な仕事ぶりに圧倒されてしまう。8月30日には故郷・長崎で「大島ミチル スペシャルコンサート」も開催された(聴きたかったが、遠い上に「渡辺宙明卒寿記念コンサート」と重なって断念……)。
今回はそんな大島ミチルの作品の中から『Project BLUE 地球SOS』を紹介したい。
『Project BLUE 地球SOS』は、SFイラストの大家・小松崎茂が1948年に発表したSF絵物語『地球SOS』を原作に『WOLF’S RAIN』『青の祓魔師』の岡村天斎監督が映像化、2006年に発表されたアニメ作品だ。1話1時間(正味46分)で全6話。アニメ専門チャンネルAT—Xほかで放送された。
西暦2000年の地球を舞台に、地球侵略を図るバグア遊星人と地球人との一大科学戦を描く物語。設定やストーリーはアレンジされているが、小松崎茂独特のデザインラインを受け継いだメカニックの活躍はレトロフューチャーの雰囲気たっぷりで、元SF少年の心をくすぐる。前回取り上げた「サンダーバード」にも通じる香りがある作品だ。
音楽を担当した大島ミチルは長崎県出身。幼少時から音楽に親しみ、16歳でエレクトーン演奏の世界大会でグランプリを受賞した。が、演奏家の道には進まず、国立音楽大学作曲科に進学。在学中から作・編曲家として活動を始め、CM音楽でプロデビューを果たした。クラシック出身と思われがちだが、小さい頃から親しんだポップスやロックが自身の音楽のバックボーンになっているという。
TVドラマ「ショムニ」(1998)、「ごくせん」(2002)、「天地人」(2009)、劇場作品「失楽園」(1997)、「ゴジラ×メカゴジラ」(2002)、「北の零年」(2005)など代表作は多数。アニメ作品にはOVA『キャシャーン』(1993)、TVアニメ『花より男子』(1996)、『鋼の錬金術師』(2003)、『隠の王』(2008)、劇場アニメ『伏 鉄砲娘の捕物帳』(2012)、『サカサマのパテマ』(2013)、『リトル ウィッチ アカデミア』(2013)などがある。
大島ミチルと言えば、『キャシャーン』や『鋼の錬金術師』などで聴かれるドラマティックで叙事詩的な音楽、『花より男子』「ショムニ」「美少女戦士セーラームーン(実写版)」などで聴かれる華やかでカラフルな音楽、NHK大河ドラマ「天地人」や劇場作品「ゴジラ×メカゴジラ」などで聴かれる重厚・豪快な音楽などが思い浮かぶ。作品によって音楽スタイルは変わっても、大島ミチル節とも呼べる流麗なメロディと色彩感に富むアレンジは一貫している。
では『Project BLUE 地球SOS』の音楽はというと、これがちょっと変わっているのだ。ビッグバンド・フュージョンとも言うべきスタイルの音楽で、ほかの大島ミチル作品ではあまり聴かれない感じのユニークな作品になっている。
サウンドトラック盤は2006年11月にランティスから発売された。収録曲は以下のとおり。
- 地球SOSのテーマ
- 結束の心
- 正義のテーマ
- 勇気ある行動
- 希望の証
- 戦いは終わらない
- 平和のテーマ
- 謎めく少女
- 前進あるのみ
- 困惑?迷惑?
- 志しの戦い
- 解けない糸
- 未知への緊迫
- 罪
- 日々の暮らし
- 分かち合う成功
- 微かなる希望
- 真実は何処に…
- 見えない敵
- 高まる不安
- 忍び寄る恐怖
- 冷めた目線
- 悲しい欲望
- 心の揺らぎ
- 悪意の塊
- 迷いと困惑
- 失われた未来
- 行動の先
- 強い意志
- クールな瞳
- かわいい瞳
- 仲良し
- バッキーショウのテーマ
- プロの仕事
- 信じる気持ち
- 豊かなる日々
- 人々の笑顔
- やすらぎ
- 風の産声〈TVサイズ〉(歌:Solua)
本作の音楽作りでは「『サンダーバード』のような感じで」というリクエストもあったという。その中でオリジナリティを出すのに苦労したそうだ。大島ミチルが採用したのは、ジャズやロックのリズムにブラスの響きが重なる軽快なサウンド。ちょっと懐かしさを感じるような音楽だ。
1曲目「地球SOSのテーマ」は本作のメインテーマ。キャッチ—なイントロのアタックに続いてドラムスとベースがリズムを刻み始め、ブラスセクションが奏でるジャジーなフレーズが颯爽と入ってくる。50〜60年代の海外TVドラマ音楽のような雰囲気が本作にぴったりである。
アルバムの序盤はノリのいいビッグバンド・スタイルの曲が続く。
2曲目の「結束の心」はタイトルどおり団結心を表現する力強い曲。熱い気持ちをストレートに表現する曲調が胸にぐっとくる。
3曲目の「正義のテーマ」はトランペットが高らかに歌うマーチ風の曲。
次の「勇気ある行動」はビッグバンドが奏でる軽快なフュージョン曲。中盤にサックスのアドリブ・ソロが入る遊び心が楽しい。
5曲目「希望の証」は弦楽器主体の叙情的な曲。心に湧き上がる「希望」が伝わってくるような大島ミチルらしい楽曲だ。
6曲目「戦いは終わらない」は束の間の勝利のよろこびから明日への決意を描写する曲。力強いリズムにトランペットが朗々と歌う前半は苦い勝利を思わせる渋い味わい。弦が勇壮なメロディを奏でる後半部分は本編クライマックスのバグア遊星人対地球人の決戦シーンに使用されている。
7曲目「平和のテーマ」は物語終盤の新鋭宇宙戦闘機ユニバースナイト登場シーンを大いに盛り上げた曲。平和描写曲というより、平和を守る決意を示す音楽だ。
8曲目の「謎めく少女」は本作のヒロイン・マーガレットのテーマ。愁いを帯びたフルートの旋律と弦とピアノによるミステリアスな伴奏のアンサンブルが絶妙。人間的な感情のひだをを巧みなオーケストレーションで描写する音楽は大島ミチルの面目躍如といったところ。
アルバムの中盤からは緊迫と不安をはらんだスリリングな曲が続けて登場する。
悲壮感がにじむアクション曲「志しの戦い」、謎めいた展開を予感させる12曲目「解けない糸」、重いサスペンスの13曲目「未知への緊迫」など。SF冒険ものらしい緊迫感のある曲調が聴きどころだ。
複雑で繊細な心情を描く心理描写曲も深みがある。メランコリックな24曲目「心の揺らぎ」や葛藤する心を表す26曲目「迷いと困惑」などは『鋼の錬金術師』にも通じる曲調で、派手な展開はないが聴きごたえがある。
筆者が印象深かったのは、もの悲しい旋律が心に残る35曲目「信じる気持ち」。第6話でベニーとマーガレットが最後に心を通わせる場面を彩った曲だ。
同じく第6話でバグア遊星人が死んでいく場面に流れた27曲目「失われた未来」も忘れがたい。人口生命体の悲しき運命を悼むレクイエムである。
終盤は平和をイメージさせる希望的な曲が集められている。ジャジーな「クールな瞳」、キュートな「かわいい瞳」、ギターとブラスの音色が心地よいフュージョン風の「プロの仕事」など。「ショムニ」などの明るいドラマ音楽の流れを汲む元気の出る曲調が楽しい。
37曲目「人々の笑顔」はグランドエンディングに流れた希望に満ちたおだやかな平和曲。ベニーがマーガレットからの声を待ち続けるラストシーンを思い出して胸がきゅっとなる人もいるだろう。
BGMパートのラストはメインテーマのピアノ・アレンジ「やすらぎ」。ピアノ・ソロで聴くとオープニングとは印象が違って、実にロマンチックなメロディであることに気づく。夜空を見上げて宇宙にいるかもしれない未知の存在に思いを馳せてみたくなる。そんな曲だ。心が温かくなる余韻はアルバムの締めくくりにもぴったり。
最後は音楽ユニットsoluaによるエンディングテーマ「風の産声」。
聴き終えてみると、「やっぱり大島ミチルの音楽だなあ」と思う。聴くうちに勇気、力が湧いてくる音楽なのだ。
どんなシビアな設定の作品でも、悲劇的な作品でも、そこに流れる音楽の根源に人間への信頼と希望を宿しているのが大島ミチル作品の魅力だと思う。『キャシャーン』も『鋼の錬金術師』も、音楽が宿したポジティブなメッセージが作品の希望になっていた。
50年前のSF冒険活劇を現代によみがえらせた本作も、その根底には団結と友愛と希望のテーマが流れている。それを軽快なビッグバンド・サウンドで表現した音楽設計は実に巧みだし、本作のカラーにも合っている。大島ミチル音楽の幅広さと芯の太さを堪能できる快作である。