腹巻猫です。8月30日に開催された「渡辺宙明卒寿記念コンサート」、昼夜連続で堪能しました! 夜公演では渡辺宙明先生、渡辺俊幸さん、マコプリさんの親子孫3代共演に感激。当日、会場で先行販売もしていましたが、渡辺岳夫と渡辺宙明が音楽を手がけた東映映画「ザ・カラテ」シリーズのサウンドトラックCD「ザ・カラテ トリロジー サウンドトラック・コレクション」が9月9日に発売されます。そして、9月20日には「渡辺宙明トークライブ Part8 〜祝!生誕90年!〜」を阿佐ヶ谷ロフトで開催。アニバーサリー・イヤーを一緒にお祝いしましょう。詳細は下記で!
「ザ・カラテ トリロジー サウンドトラック・コレクション」
http://www.amazon.co.jp/dp/B0142C6V5O/
「渡辺宙明トークライブ Part8 〜祝!生誕90年!〜」
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/37035
「サンダーバード」の新作「サンダーバード ARE GO!」がNHKで始まった。8月に1〜3話を放映。9月以降も放映が予定されている。60年代に世界の子どもたちを熱狂させたイギリスのSF特撮人形劇「サンダーバード」を現代の技術でリメイクした作品だ。
旧作ではキャラクターはすべて操り人形だったが、新作では人物はCGで表現されている。が、フルCGかと思いきや、トレーシーアイランドやメカニック等の一部はミニチュア特撮が使用され、CGと合成されている。昔ながらの特撮と最新技術を巧みに組み合わせた映像に感心した。そしてなにより感激したのは、テーマ曲にオリジナル・テーマのメロディが使用されていたことだ。
「やっぱり『サンダーバード』と言えばこの曲だよね!」と思ったファンは筆者だけではないだろう。
今回は、オリジナル版「サンダーバード」の音楽の話。
「サンダーバード」は1965年〜1966年にイギリスで製作・放映された作品。日本では1966年4月からNHKで初放映された。制作はジェリー&シルヴィア・アンダーソン夫妻が主宰したAPフィルムズ(のちにセンチュリー21プロダクションと改称。現在はジェリー・アンダーソン・プロダクション)。2065年の未来を舞台にアメリカの大富豪ジェフ・トレーシーが創設した国際救助隊の活躍を描くSFスペクタクル作品だ。
国際救助隊の基地は南太平洋に浮かぶトレーシー・アイランド。基地のありかやサンダーバードの装備は秘密になっていて、メカニックの発進口はプールや洞窟などに巧みに偽装されている。その発進口が開いてサンダーバード1〜3号が発進するシーンは毎回の見せ場になっていた。リアルかつ未来的なメカニック描写は、日本の特撮やアニメ作品にも大きな影響を与えている。
そのメカニックの活躍場面を盛り上げたのが、バリー・グレイの音楽である。
「サンダーバード」の音楽を担当したバリー・グレイはイギリスの作曲家。ジェリー・アンダーソン作品には初期から関わっており、「宇宙船XL‐5」(1962/日本放映[以下同]1963)、「海底大戦争 スティングレイ」(1964/1964)、「キャプテン・スカーレット」(1967/1968)、「ジョー90」(1968/1968)、「謎の円盤UFO」(1970/1970)、「スペース1999(Season 1)」(1975/1977)など、ジェリー・アンダーソンが60〜70年代に制作した代表的な作品はすべてバリー・グレイが音楽を担当している。
筆者の頭には「サンダーバード」とその前後に作られた一連の作品の音楽がセットで刷り込まれている。バーバリックなリズムに興奮する「スティングレイ」、謎の異星人と地球人との戦いをミステリアスな音楽と軽快な音楽の対比で描いた「キャプテン・スカーレット」、GSサウンド風の「ジョー90」、緊迫感とジャジーなサウンドが融合した「謎の円盤UFO」。どれもカッコよかったなあ。バリー・グレイの音楽は、60〜70年代のSF・特撮大好き少年の心をがっちりつかんでいた。
『機動戦士ガンダムSEED』「ウルトラマンガイア」などの音楽を手がけた佐橋俊彦は、少年時代に影響を受けた音楽として「ウルトラセブン」と「サンダーバード」の名を挙げている。学校の音楽室のピアノで「サンダーバード」のテーマを弾いて同級生の人気を集めていたそうだ。「サンダーバード」は音楽面でも日本の特撮・アニメ作品に影響を与えているのである。
しかし、人気作品であるにも関わらず、「サンダーバード」のオリジナル・サウンドトラックは長い間、発売されなかった。本作の音楽を聴こうと思ったら、バリー・グレイが自身のオーケストラでカバーしたアルバム「No Strings Attatched」か劇場版「サンダーバード(Thunderbirds are Go)」のサントラ盤を聴くしかなかった。筆者も輸入レコード店でこれらのアルバム(LP)を入手して聴いていた。ほかにはイギリスのジェリー・アンダーソン公式ファンクラブ「ファンダーソン(Fanderson)」が頒布したレコードや、日本で独自に企画・録音されたカバー盤などがあるが、前者はファンクラブ・メンバーしか購入できなかったし、後者はオリジナルとは程遠いものだった。
サントラ盤が発売されなかったのは音楽テープの所在が不明だったからである。そのテープがバリー・グレイが使っていたスタジオの倉庫から発見され、商品化されたのが2003年3月。イギリスの映画音楽専門レーベルSILVA SCREEN RECORDSから“Thunderbirds Original Television Soundtrack”のタイトルでCDが発売された。
たちまち評判となり、翌2004年10月にはサントラ第2弾“Thunderbirds 2 Original Television Soundtrack”が発売される。余談だが、CDのジャケットは第1弾がサンダーバード2号、第2弾がサンダーバード1号なので、ちょっと混乱する。
日本では、2004年8月に上記2枚をまとめた2枚組が「サンダーバード オリジナル・サウンドトラック」のタイトルで発売された。
その後、SILVA SCREEN RECORDSは初収録曲を含むサントラ第3弾“The Best Of Thunderbirds”を2006年2月に発売。日本でも3枚のサントラをセットにした「サンダーバード・コレクション」が2009年6月に発売された。これが日本でリリースされた決定盤と言ってよいだろう(残念ながら現在入手困難)。
実は「サンダーバード」のオリジナル・サウンドトラック盤はほかにもある。ファンダーソンが2015年に放映50周年を記念して発売した4枚組CDセットである。SILVA SCREEN版とは別構成で収録曲も増えている。こちらはファンダーソン・メンバーだけが購入できる限定販売なので、どうしても入手したい方はファンダーソンに入会するしかない。
今回紹介するのは、記念すべきSIVA SCREEN版のサントラ第1弾。本アルバムはダウンロード販売でも購入することができる。
収録曲は以下のとおり。
- Main Titles(メイン・タイトル)
- Sun Probe(ロケット“太陽号”の危機)
- Tracy Island and International Rescue(トレーシー・アイランドと国際救助隊)
- Monorail to Disaster from ‘The Perils of Penelope’(モノレール・トゥ・ディザスター)
- Thunderbirds Are Go!(サンダーバーズ・アー・ゴー!)
- Dangerous Game-Latin Rhythm Instrumental from ‘The Cham Cham’(危険な賭け—ラテン・リズム・インストゥルメンタル)
- Suite from ‘Vault of Death’(死の大金庫・組曲)
- The Man from MI.5(情報員MI.5)
- Suite from’Desperate Intruder’(湖底の秘宝・組曲)
- Commercial Break(コマーシャル・ブレイク)
- Dangerous Game from ‘The Cham Cham’(危険な賭け)
- Let’s Play Ad Lib from ‘The Cham Cham’(レッツ・プレイ・アドリブ)
- Lady Penelope on the Move :Suite from ‘Pit of Peril’(レディ・ペネロープ・オン・ザ・ムーブ)
- The Fate of the Sidewinder(ゴングの宿命)
- Pit of Peril(ジェット“モグラ”号の活躍)
- Rescue!(救出!)
- Jeremiah and Lady Penelope from ‘The Impostors’ :from ‘Trapped in the Sky’(ジェレマイアとペネロープ)
- Deadly Plot-The Hood and the Fireflash(致命的陰謀—フッドとファイアーフラッシュ号)
- Fireflash Landing(ファイアーフラッシュ号着陸)
- FAB I Pursuit(ペネロープ号の追跡)
- The Tracy Lounge Piano(トレーシー・ラウンジ・ピアノ)
- End Titles(エンド・タイトル)
ライナーノーツによれば、「サンダーバード」の音楽は「個別エピソード用の音楽+汎用の溜め録り音楽」という方式で録音されているそうだ。
“Trapped in the SKY”(SOS原子旅客機)、“The Perils of Penelope”(ペネロープの危機)、“Terror in New York City”(ニューヨークの恐怖)、“Pit of Peril”(ジェット“モグラ”号の活躍)、“End of the Road”(死の谷)、“Edge of Impact”(超音ジェット機レッドアロー)、“Desperate Intruder”(湖底の秘宝)、“Vault of Death”(死の大金庫)、“Man from MI.5”(情報員MI.5)の9エピソード分の音楽がそれぞれ異なるセッションで録音され、ライブラリとして他のエピソードにも流用された。それ以外に、別エピソードのための追加曲とテーマ曲、ライブラリー用楽曲が録音されている。
サントラ第1弾は、その中から代表的な楽曲を集めて組曲風に構成したもの。エピソード単位で曲が並んでいる部分もあるが、全体としては、音楽アルバムとして楽しめるように考えた曲順になっている。日本のTVアニメ・サントラにも通じる作り方が興味深いし、大いに参考になる。
トラック1は「メイン・タイトル」。ファンなら、いやおうなしにテンションが上がる「5、4、3、2、1……」のカウントダウンの声が入った放送バージョンである。台詞なしのバージョンはサントラ第2弾に収録されている。
おなじみのマーチに入る前に、スリリングな危機描写曲が挿入される。毎回の見どころが映し出されるアバンタイトルの曲である。この部分もオープニング・タイトルの重要な一部分だ。
そして、サンダーバード・マーチ! 子どもの頃に本作を観ていた人なら、一度はこのメロディを口ずさんだことがあると思う。高揚感に富み、覚えやすく、聴き飽きない。本当に名曲中の名曲だ。バリー・グレイが手がけた前作「海底大戦争 スティングレイ」のテーマ曲と挿入曲「オイスター・マーチ」に、この曲の原型となったモチーフを聴くことができる。
トラック2は日本放映第3話「ロケット“太陽号”の危機」からオープニング・シークエンスの曲。事件を予感させる不安な曲調がしだいに盛り上がり、緊迫したままこのトラックは終わる。
トラック3は「トレーシー・アイランドと国際救助隊」というタイトルからわかるとおり、われらが国際救助隊の登場を表すトラック。トロピカルムードの1曲目は秘密基地トレーシー・アイランドのテーマ。基地が南太平洋にあることから、「サンダーバード」にはリゾート・ミュージック風の音楽もよく登場するのである。2曲目は国際救助隊の勇姿を描写するメインタイトルの勇壮なアレンジ。
トラック4は日本放映第9話「ペネロープの危機」からのBGM。ゴッドバー博士によって危機に追い込まれるペネロープを描写した曲だ。メインテーマのモチーフの断片が繰り返し登場するのは映像に合わせて書かれた音楽らしい趣向。数小節のライトモチーフを効果的に使って、ブラス、パーカッション、弦をメインにしたアレンジで仕上げていくのがバリー・グレイの音楽スタイルだった。このトラックで「いよいよ事件発生!」という雰囲気になる。
トラック5はその名も「サンダーバーズ・アー・ゴー!」と名づけられたサンダーバード発進の曲。スネアドラムの長い序奏に電子オルガンの宇宙的な響きが重なる。ここは宇宙に浮かぶサンダーバード5号のカットをイメージした音響設計だ。続いてメインタイトルのストレート・アレンジでサンダーバード発進! プールがスライドしてサンダーバード1号が、やしの木が左右に倒れてサンダーバード2号が発進していくようすが目に浮かぶ。アルバム前半の聴きどころである。
トラック6は日本放映第28話「魅惑のメロディー」で挿入歌として登場した「危険な賭け」のラテン・リズム・インストゥルメンタル。緊迫感を維持しつつもムーディな演奏でちょっと一息というアルバムの句読点になっているトラック。センスのいい構成だ。
トラック7以降は「死の大金庫」「情報員MI.5」「湖底の秘宝」「ジェット“モグラ”号の活躍」といったエピソードの音楽が続く展開。作品の性質上、どうしても「危機また危機」という音楽の連続になりがちだが、ペネロープが歌う挿入歌「危険な賭け」やジャズ・ナンバー「レッツ・プレイ・アドリブ」、CM用音楽「コマーシャル・ブレイク」、ユーモラスな「ジェレマイアとペネロープ」といった雰囲気の異なる音楽を挟んでいるので続けて聴いても飽きることはない。「サンダーバード」の音楽の多彩さが楽しめる巧みな構成である。
筆者が印象深かったのは、トラック14の「ゴングの宿命」。日本放映第2話(英国放映も同じ)「ジェット“モグラ”号の活躍」で登場した武骨な4本脚戦車「ゴング」のテーマだ。ゲストに登場するメカにまでテーマ曲が与えられているあたり、メカも個性を持ったキャラクターとして描写される本作の特徴と魅力がよく表れている。
アルバムの終盤に登場するのは第1話「SOS原子旅客機」の音楽。ふつうに考えると第1話の音楽をアルバム冒頭に配置するところだ。それを終盤に持ってきたのは、第1話ということで音楽も力を入れて作られていて、聴きごたえのある曲が多いからだろう。
シリーズを通じての悪役フッド、第1話のほかにも何度か登場した原子力旅客機ファイアーフラッシュ号、そのテーマがトラック18で演奏される。
次のトラック19は第1話のクライマックスとして印象深い、高速エレベーターカーを利用したファイアーフラッシュ号着陸シーンの曲。「サンダーバード」の危機描写音楽の中でも特に印象に残る代表的曲のひとつだ。
ペネロープの活躍を描写する痛快なトラック20を挟んで、バリー・グレイ自身がピアノを奏でるトラック21「トレーシー・ラウンジ・ピアノ」でアルバムもクロージングを迎える。小粋なピアノの響きは困難な任務を終えてほっとする国際救助隊の平和なひとときのテーマでもある。
ラストは「エンド・タイトル」。もともとエンディング用には「フライング・ハイ」というボーカル曲が用意されていたのだが、ジェリー・アンダーソンはこれを没にした。最終的に使われたのはサンダーバード・マーチの変奏。オープニングとエンディングがどちらも高揚感のあるマーチという構成は結果的によかったと思う。おかげで視聴者は番組が始まるときと同じテンションで放映を見終わることになったのだ。
「サンダーバード」の最大の発明は「国際救助隊」という設定だろう。ジェリー・アンダーソンのほかの作品では、「海底大戦争 スティングレイ」でも「キャプテン・スカーレット」でも「謎の円盤UFO」でも、激しく果てしない敵との戦いが描かれる。しかし、大災害や事故に遭った人々の救助を目的にした国際救助隊の物語に、基本的に「戦闘」はない。戦闘用マシンでないサンダーバード・メカは武器を積んでいない。それが本作を世界中で長く愛されるものにした大きな要因だと思う。
バリー・グレイの音楽にも危機を描写する曲はあっても戦いをテーマにした曲はない。「サンダーバード」の音楽は、不運な災害や事故から人々を守る使命感と勇気と叡智を歌った音楽なのである。サンダーバード・マーチを聴くたびに胸にわき上がってくる希望と誇らしさにも似た温かい気持ちは、きっと、そのせいなのだ。
これだけすばらしい音楽を残したバリー・グレイだが、ジェリー・アンダーソン作品以外の作品はほとんど知られていない(筆者も知らない)。晩年はホテルのピアニストとして働いていたというから驚く。世界中の「サンダーバード」ファンに愛されたバリーは1984年4月に世を去った。イギリスではバリーの死後もその作品を演奏するコンサートがたびたび開かれている。
バリー・グレイのほかの作品も聴いてみたいという人には、2009年に発売された“Stand By for Action!”というCDがお奨め。バリー・グレイが手がけたジェリー・アンダーソン作品の音楽を集めたコンピレーション・アルバムだ。輸入盤になるのでブックレットも英語だけど、「サンダーバード」や「謎の円盤UFO」の音楽が好きなファンなら感涙間違いなしの1枚である。