腹巻猫です。いよいよ今週末! 8月8日(日)にサントラDJイベント「Soundtrack Pub【Mission#27】」を蒲田studio80(オッタンタ)で開催します。ジェームズ・ホーナー追悼コーナー、特集「日本アニメーション&世界名作劇場40周年」、最新サントラ事情をレポートする「サントラ最前線」など。詳細は下記リンクを参照ください!
http://www.soundtrackpub.com/event/2015/08/soundtrack_pubmission27.html
スタジオ・カラーとドワンゴが贈る短編映像シリーズ「日本アニメ(ーター)見本市」のサードシーズンが公開中だ。その中で、一部で話題を呼んだタイトルがある。『ザ・ウルトラマン』である。
1979年に同名のTVアニメ作品があった。それを知るファンが「あの“ザ☆ウルトラマン”が復活!?」と色めきたったのだ。
結局、アニメ(ーター)見本市の『ザ・ウルトラマン』は“あの”『ザ☆ウルトラマン』ではなかった。むしろ、もっとすごいものだった。が、久しぶりに『ザ☆ウルトラマン』が話題になって、なんともいえない懐かしさがこみあげてきたのだった。
※「日本アニメ(ーター)見本市」の公式サイトはこちら↓
http://animatorexpo.com/
『ザ☆ウルトラマン』は1979年4月から1年間、TBS系で全50話が放送されたTVアニメ作品。円谷プロが製作したウルトラシリーズ初のアニメ作品だ。
第2期ウルトラシリーズ最後の作品「ウルトラマンレオ」(1974)の終了から4年が経っていた。『ザ☆ウルトラマン』はウルトラシリーズ復活を告げる作品として大きな話題を集めた作品だ。
が、本作がアニメ作品であることに不安を感じるファンも多かった。ウルトラマンをなぜアニメでやるのか? いざ始まってみると、「巨大感が感じられない」「怪獣に迫力がない」「メカニックも重量感がない」等々の声が聞こえてきた。
が、筆者は——大の特撮ファン・ウルトラファンであったけれど——この作品が大好きだった。確かにセルアニメで表現された世界は特撮の質感とは違うけれど、作品としてはけっこう面白いではないの? と思っていた。
異星人ウルトラマンと地球人とのファースト・コンタクトを描き、ウルトラマンと人間との共棲がもたらすドラマに切り込んでいく前半、ウルトラの星U・40を舞台に一大スペースオペラを見せる後半。特撮シリーズでは描かれなかった展開にぞくぞくした。主要エピソードの脚本を手がけた吉川惣司の作劇が光っている。
実は『ザ☆ウルトラマン』のスタッフはけっこう豪華だ。アニメーション制作は日本サンライズ(現・サンライズ)が担当。鳥海永行(チーフディレクター)、二宮常雄(キャラクターデザイン・作画監修)、大河原邦男(メカニックデザイン)、中村光毅(美術)ら、『科学忍者隊ガッチャマン』をはじめとするタツノコプロのSFアクション作品で活躍したスタッフが集結している。
声の出演も主役のヒカリ超一郎が富山敬、ウルトラマンジョーニアスが伊武雅之(現・雅刀)、ヒロイン・ムツミ隊員には『ルパン三世 カリオストロの城』(1979)のクラリス役でブレイクする直前の島本須美という顔ぶれ。兼本新吾、滝口順平らが脇を固めた。ナレーターの蟹江栄司も渋い。
そしてなにより、音楽だ。『ザ☆ウルトラマン』の音楽は宮内國郎。これだけで、毎週放映を観るモチベーションになった。
宮内國郎。「ウルトラQ」「ウルトラマン」の音楽を作った作曲家である。
宮内國郎は1932年生まれ。高校生時代にジャズに傾倒し、トランぺッターを目指した。が、肺結核を患ったことからトランぺッターの道をあきらめ、作曲家に転向。ニッポン放送やフジテレビの番組音楽を手がけた。1961年には東宝の傑作SF映画「ガス人間第一号」を担当し、サスペンスと人間ドラマを融合したスリリングな音楽で鮮烈な印象を刻んだ。この作品の音楽は「ウルトラQ」「ウルトラマン」に流用使用されている。1966年放映の「ウルトラQ」を皮切りに、円谷プロ作品の音楽を多く手がけた。「ウルトラマン」(1966)、「快獣ブースカ」(1966)、「戦え!マイティジャック」(1968)、「トリプルファイター」(1972)等々である。主題歌のみを担当した『怪獣王ターガン』(1969)、「宇宙猿人ゴリ(スペクトルマン)」(1971)、「恐竜戦隊コセイドン」(1978)も印象深い。劇場作品「ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃」(1969)の音楽も手がけており、特撮・怪獣ファンには忘れられない作曲家である。数年前に突然話題になったTVアニメ『チャージマン研!』(1974)の音楽も宮内の手になるものだ。
宮内國郎が作り出す音楽は温かく明朗で高揚感に富んでいる。それに、「ウルトラQ」の「鳥を見た!」や「ウルトラマン」の「怪獣墓場」「恐怖の宇宙船」などのエピソードで聴かれるような、日本人の心にフィットする叙情的なメロディを持っている。「ウルトラQ」の時空を超えたおとぎ話のような雰囲気や「ウルトラマン」のウルトラマンより怪獣に感情移入してしまうような大らかな世界は宮内國郎の音楽があってこそだと思う。
宮内國郎の音楽はウルトラシリーズの音楽のベースとなった。第2期ウルトラシリーズでは「ウルトラセブン」の冬木透が、「帰ってきたウルトラマン」「ウルトラマンA」「ウルトラマンレオ」の3作を担当。ウルトラシリーズの音楽イメージを確立する。が、「ウルトラの心のふるさと」とも言うべき音は、「ウルトラQ」「ウルトラマン」の宮内國郎の音なのである。
ファンならご存知のとおり、『ザ☆ウルトラマン』の音楽には後半から冬木透が参加している。「ウルトラマン」と「ウルトラセブン」の作曲家の共演! これもウルトラファンには夢のような出来事だった。ワーグナーのオペラ作品のような雄大で格調高い冬木透の音楽もすばらしい。
が、今回は宮内國郎作曲の音楽に絞って紹介したい。本作の音楽イメージを決定づけているのは宮内の音楽だと思うからだ。
本作のサウンドトラック盤は宮内國郎作曲分のBGMが「組曲 ザ☆ウルトラマン」として1979年5月に発売された。これは主要BGMを組曲に構成し、一部にSEを重ねた作品。正副主題歌は収録されていない。
冬木透作曲分のBGMは1979年8月に発売された2枚組LP「冬木透作品集」に「交響詩 ザ☆ウルトラマン」のタイトルで初収録された。
その後、LP、CDで、未収録音楽を含む再構成盤が何種類かリリースされ、本作の音楽の全貌がファンのもとに届けられた。現在入手しやすいのは「組曲 ザ☆ウルトラマン」の廉価復刻盤と「ウルトラサウンド殿堂シリーズ ザ☆ウルトラマン」の2種類。後者は宮内國郎作曲の「組曲」と冬木透作曲の「交響詩」をカップリングし、さらに主題歌と重要BGMを追加したアルバムで、1枚で『ザ☆ウルトラマン』の主要音楽が手に入るお得なアルバムになっている。これから聴いてみたいという人は「殿堂シリーズ」のほうがお奨めである。
「ウルトラサウンド殿堂シリーズ ザ☆ウルトラマン」の前半は次のような構成になっている。
- ザ・ウルトラマン(歌:ささきいさお)
- 序曲・・・・怪獣王国
- ウルトラの国・・・・神秘な世界
- 怪獣出現・・・・SOS!!
- ウルトラマン登場・・・・勝利のアタックファイト!
- 科学警備隊VS怪獣
- 悲しみ・思い出・・・・光
- 太陽・花・・・・微笑
- 大怪獣との死闘・・・・平和の戦士ウルトラマン
- 愛の勇者たち(TVサイズ)(歌:ささきいさお)
(トラック11以降は冬木透作曲分と主題歌になるので省略)
オープニング主題歌「ザ・ウルトラマン」がすばらしい。弦の序奏に続いてブラスの歯切れよいフレーズが畳みかける秀逸なイントロから、ぐっと心をつかまれる。このイントロを聴くだけで「よし、今週も30分観てみよう」という気にさせられた。歌メロもシンプルで心に残る名旋律。「ウルトラマンタロウ」で「ウルトラの父がいる」の名フレーズを生み出した阿久悠の詩も、歌い出しからキャッチ—で耳に残る。ウルトラシリーズ主題歌ベスト3に数えたい名曲だ。
トラック2〜9は「組曲 ウルトラマン」の内容。LPではSEが重なっていた曲もSEなしで収録されているのがうれしい。
当初から組曲として作曲されたものではなく、音楽メニューに沿って作られたバラバラの曲を再構成したものだ。
組曲の1曲目「序曲・・・・怪獣王国」は平和な情景から怪獣出現、そしてメインテーマを紹介する楽章。冒頭に置かれたのは夜明けをイメージした神秘的でスケール豊かなM-31。続くM-12は怪獣出現のテーマ。「ウルトラマン」でもそうだが、怪獣描写音楽でもブラスがガンガン鳴ってぞくぞくするようなカッコよさと高揚感があるのが宮内國郎の音楽の特徴だ。続くM-15はウルトラマンと怪獣の代表的な戦いの音楽。やや劣勢気味のバトルのイメージで緊迫感が盛り上がる。そこに主題歌アレンジのM-3がさっそうと登場。ウルトラマンの逆転勝利を力強く歌い上げる。本作の世界観を凝縮したすばらしい序曲である。
組曲の2曲目「ウルトラの国・・・・神秘な世界」はヒカリとウルトラマンの出会いを描いたM-24Aからスタート。女声コーラスとハープによる神秘的な音楽は本作における「未知との遭遇」のテーマとして忘れがたい。続くM-32、M-36は平和な情景を描く楽園イメージ漂う音楽。
組曲の3曲目「怪獣出現・・・・SOS!!」は怪獣出現からウルトラマン登場をイメージした楽章。おだやかな平和曲M-33に続き、異変発生をイメージしたミステリー曲M-13。そして、変身シーンの音楽M-19から怪獣出現や戦いの場面を盛り上げた重厚なM-11へと続く。
組曲の4曲目「ウルトラマン登場・・・・勝利のアタックファイト!」は前楽章とセットになった楽章。ウルトラマンの戦いと勝利が描かれる。「ウルトラマン」や「ガス人間第一号」のイメージを継承するM-21は危機描写のBGM。次のM-22とM-37は戦い終わったあとのやすらぎを表現する曲。そして、科学警備隊のテーマM-6が勝利を高らかに宣言して組曲の前半は終わる。
科学警備隊のテーマ! これがまた、主題歌と並ぶ大傑作なのである。ウルトラシリーズでは作品ごとに趣向を変えた防衛隊のメカニックとテーマ曲が見どころ・聴きどころになっている。第2期ウルトラシリーズでは冬木透が「ワンダバ」という画期的な発明をして、防衛隊音楽にひとつのスタイルを築いた。
宮内國郎は「ウルトラマン」で「科学特捜隊の歌」というマーチ調の防衛隊テーマを作っている。本作では、それとはがらっとイメージを変え、勇壮さとスピード感をあわせ持つ現代的な科学警備隊のテーマを生み出した。燃える。問答無用で燃える。放送当時、この曲がほしくてサントラ盤を買ったようなものだった。
その科学警備隊の戦いを描いたのが組曲の5曲目「科学警備隊VS怪獣」。M-27は怪獣の侵攻をイメージしたスリリングな曲。細かく刻む弦のフレーズが危機感をあおる。続いて科学警備隊の攻撃テーマM-17。緊迫感のあるモチーフを繰り返すブラスの咆哮が万能戦闘母艦スーパーマードック号と戦闘機バーディの攻撃シーンをいやがおうにも盛り上げる。3曲目のM-8は第1話の科学警備隊結成シーンにも選曲された科学警備隊のテーマの変奏。勇壮なイントロから始まる力強いアレンジ。やっぱりいい曲だぁ。本楽章が序曲とならぶ「組曲 ザ☆ウルトラマン」の聴きどころだと思う。
「悲しみ・思い出・・・・光」と「太陽・花・・・・微笑」は情感描写、情景描写曲を中心に構成。『ザ☆ウルトラマン』の世界観を広げるしっとりした曲や美しい曲、コミカルな曲が集められた。
終曲となる「大怪獣との死闘・・・・平和の戦士ウルトラマン」では再びウルトラマンと怪獣の対決が描かれる。1曲目からいきなりウルトラマンの苦戦を表わすM-14が登場。次のM-20もウルトラマンのピンチを表す曲。ブラスとエレキギターの荒々しい響きに、カラータイマーが点滅するウルトラマンの姿が目に浮かぶ。最後に登場するのはウルトラマンの雄姿を讃える主題歌のマーチアレンジM-1。力強いコーダの余韻を残して組曲は幕を閉じる。
エンディング主題歌「愛の勇者たち」は男のロマンたっぷりのバラード曲。ささきいさおが歌うとまるで「宇宙戦艦ヤマト」シリーズの歌みたいだが、これもいい曲だ。BGMにこのメロディが生かされなかったのが残念。
『ザ☆ウルトラマン』はウルトラシリーズとしては初めて海外録音を行った作品でもある。主題歌のカラオケはもとより、宮内作曲分のBGMもロサンゼルスのスタジオで、現地のミュージシャンによって録音されている。
ロサンゼルス録音の芯の太いパキパキっとした音とアメリカンな響きが、本作のサウンドを印象深いものにしている。日本のスタジオミュージシャンの緻密な演奏と比べると、ノリと勢い勝負みたいなところもあるが、それもまた、本作の雰囲気にあっていた。
アニメ作品として復活したウルトラシリーズが宮内國郎の音楽とともに始まったのはとても幸福なことだったと思う。カラッとした陽性のサウンド、親しみやすいメロディ。海外で録音されたことも手伝って、ちょっと海外ドラマの音楽を思わせる香りがある。「そうだよなあ、ウルトラマンってこういう世界だったよなあ」と思わせる音楽だ。
宮内國郎はその後、「ウルトラQ dark fantasy」(2004)で「ウルトラQ」のメインテーマを自らリアレンジして、ふたたびウルトラ世界への音楽による水先案内の役割を果した。21世紀に入って新しいウルトラマンもいくつか作られたが、宮内國郎はそれには参加せず、2006年に74歳で世を去った。
古くからのウルトラシリーズのファンにとって、宮内國郎の音楽は「いつかこの世界に帰ってきたい」と思わせるふるさとの音楽である。どこか懐かしく、胸をわくわくさせてくれる宮内國郎の音楽が大好きだった。アニメブーム華やかなりし頃にぜいたくな録音で残された『ザ☆ウルトラマン』の音楽がとても愛おしい。