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第62回 大地に足をつけて 〜未来少年コナン〜

 腹巻猫です。8月8日(日)に東京・蒲田でサントラDJイベント「Soundtrack Pub【Mission#27】」を開催します。特集は「ジェームズ・ホーナー追悼」「日本アニメーション&世界名作劇場40周年」を予定。詳細は下記リンクを参照ください!
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 アニマックスの日本アニメーション創業40周年記念番組「名作アニメ見聞録」で『未来少年コナン』を久しぶりに観て、すっかり引き込まれてしまった。放映されたのは第25話「インダストリアの最後」。コナンたちが巨大空中戦艦ギガントを落とすエピソードだ。動きや演出のすばらしさは言わずもがな。池辺晋一郎の抑制の効いた音楽が一大漫画映画の世界に実在感を与えている。
 『未来少年コナン』は1978年4月から同10月まで、NHKで全26話が放送されたTVアニメ作品。制作は日本アニメーション。宮崎駿の初監督作品である。
 当時はアニメブームがまさに盛り上がろうとしていた時期。中高生のアニメファンの間では、『宇宙戦艦ヤマト』『ルパン三世』『宇宙海賊キャプテンハーロック』といった作品が話題になっていた。
 そんな中に登場した『未来少年コナン』は衝撃的だった。TVアニメで育ったアニメファンが好きな、カッコいいキャラクターが活躍するタイプの作品とはまるで違っていたのだ。ふだん熱心にアニメを観ない一般の視聴者や長編漫画映画時代からのアニメファンのほうが本作の魅力に気づくのが早かったと思う。

 『未来少年コナン』は音楽もほかのTVアニメとは異なる雰囲気を持っていた。TVアニメっぽい音楽ではないな、というのは観ていてすぐに思った。
 音楽を担当した池辺晋一郎は1943年生まれ。東京藝術大学卒業、同大学院修了。純音楽の作曲家として活躍するかたわら、多くの劇場作品、TVドラマの音楽を手がけてきた。代表作に劇場作品「影武者」(1980)、「楢山節考」(1983)、「瀬戸内少年野球団」(1984)、「スパイ・ゾルゲ」(2003)、TVドラマ「黄金の日日」(1978)、「峠の群像」(1982)、「澪つくし」(1985)、「独眼竜政宗」(1987)、「八代将軍吉宗」(1995)、「元禄繚乱」(1999)など。黒澤明や今村昌平、篠田正浩ら日本を代表する監督の作品を多く手がけ、NHKの大河ドラマを5作も担当している。少年ドラマシリーズ世代にはミステリアスな「なぞの転校生」(1975)の音楽が印象深いだろう。
 池辺晋一郎のNHKでの仕事は1968年にさかのぼる。「明治100年」という大型番組の音楽を2人の作曲家とともに分担して担当した。このとき池辺を推薦したのが藝大で池辺が師事した三善晃(『赤毛のアン』の主題歌の作曲家)と、当時まだ面識がなかった武満徹だったという。武満徹はラジオで池辺の現代音楽の作品を聴いて推薦したのだそうだ。この仕事がきっかけで池辺はNHKの仕事を数多く手がけることになる。
 『未来少年コナン』は池辺晋一郎の初めてのアニメの仕事だった。本作のあと池辺は水上勉原作の劇場アニメ『ブンナよ木からおりてこい』(1987)や川本喜八郎監督の『連句アニメーション 冬の日』(2003)等のアニメ作品の音楽を手がけているが、連続TVアニメは『未来少年コナン』しかない。本作は池辺晋一郎のフィルモグラフィの中でも特異な作品である。
 当時のNHKのTVドラマの音楽は、大河ドラマも含めて、すべてエピソードごとに毎回、作曲・録音を行う方式だった。ところが、『未来少年コナン』は完成した画を観る前に音楽メニューに沿ってまとまった曲数を作曲・録音する「溜め録り」方式の作り方。池辺は初めて経験する「溜め録り」と曲数の多さに苦心したという。そのいっぽうで、コナンやラナをイメージしながら作曲するのはとても新鮮で楽しい作業だったと語っている。
 音楽録音は3回行われている。第1回は1977年11月、第2回は同年12月。2回のセッションで、コナン、ラナ、ダイスら主要キャラクターのテーマや主題歌アレンジ曲、初期に使われたサスペンス曲など、メインとなる楽曲およそ80曲が録音されている。第3回録音は放送開始後から1ヶ月経った1978年5月。2クール目以降で使用されるシリアスなサスペンス曲や情感曲が追加された。
 サウンドトラック盤は放送終了から1年後の1979年10月にキングレコードからドラマ編&BGM集の2枚組LPアルバムとして発売された。構成は氷川竜介。収録時間の制約からBGM集は完全収録ではなく、主要曲を抜粋した内容だった。このアルバムは1991年にCD化されている。
 2004年に本作の音楽を完全収録した新構成の2枚組CD『未来少年コナン 総音楽集』がキングレコードから発売された。構成・解説・取材は氷川氏をメインに筆者がお手伝いで参加した。ジャケットは『ロミオの青い空』等の日本アニメ作品でおなじみ、佐藤好春の描き下ろし(恐れ多くもラフを筆者が描きました)。『未来少年コナン』音楽集の決定版と呼べるアルバムである。
 トラック数が多いので収録内容は下記を参照。

未来少年コナン 総音楽集
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 全26話のストーリーを音楽で再現する構成。複数のBGMをブロックにまとめてタイトルをつけているが、トラックはBGM1曲ごとに分けている。この作りは「総音楽集」ブランドのこだわりとして、「機動戦士ガンダム 総音楽集」や「装甲騎兵ボトムズ 総音楽集」などにも継承された。が、「伝説巨神イデオン 総音楽集」以降は複数曲1トラックに戻ってしまい、ちょっと残念。
 ファンならずとも記憶に残っているのはプロローグに使われた「大変動」だろう。ディストーション・ギターとトランペットの不穏な響きが不安感をかきたてる。伊武雅刀のナレーションが聞こえてくるようだ。
 「大自然の子」は「コナン登場!」というイメージでまとめたブロック。最初の1-M-1はコナンのテーマで、木管によるさわやかな旋律に続いて木琴と弦のユニゾンが元気いっぱいのコナンを描写する。続いて、第1話のコナン初登場シーンに流れた1-M-43、コナンが海岸で倒れているラナを見つける場面の1-M-16。最後に主題歌アレンジの予告編音楽で締めくくった。
 次の「のこされ島」はコナンが育った島の歴史と自然を紹介するブロック。迷う心をイメージした2-M-9スローは第2話でおんじが宇宙船の墜落を回想する場面に使用。第1話でロケット塔の全景が映るカットに流れた短い1-M-31′をはさんで、のこされ島に自然が復活する回想場面の2-M-11。弦、木管、ハープ等が奏でる美しい情景描写曲である。
 「鳥と話す少女」はラナをイメージしたブロック。1曲目の1-M-15は第1話でラナが海岸で目覚めるシーンに使用されたエンディング主題歌のアレンジ曲。シンセの寂しげな音色が耳に残る。次の1-M-26はラナのテーマとして書かれた曲。ピアノのメロディが美しい。そのバックに1-M-26と同じシンセの音色が通奏低音のように響いていて、神秘的な印象を残す。1分に満たない短い曲だが、本作の音楽の中でも屈指の名曲のひとつだ。
 『未来少年コナン』の音楽というと、コナンやジムシーたちのユーモラスな場面に使われた楽しい曲がまず思い出される。「はじめての仲間」を聴くとコナンとジムシーの力比べの場面がよみがえってくるし、「海の男ダイス」ではロボノイドを走らすダイス船長の画が目に浮かぶ。いずれも本作の「漫画映画」的楽しさを表す楽曲だ。
 いっぽう、「鳥と話す少女」で聴かれる静謐で美しい抒情的な曲も『未来少年コナン』の音楽を構成する重要な要素である。
 「ゆれる想い」「コナン、生きて!」「新しい絆」「去りゆく思い出」など、いずれも抑えた曲調で繊細な心情を描写する楽曲だ。「さあ、哀しい曲ですよ」と主張するわかりやすい音楽ではなく、哀しみを胸に秘めつつじっとたたずんでいるような、大人のドラマの雰囲気を持った曲である。この大人っぽい雰囲気がキャラクターの心情に真実味を与え、実に味わい深い効果を上げている。
 そして、本作の音楽を構成するもう一つの重要な要素がインダストリア側につけられたサスペンスタッチの楽曲である。コナンやハイハーバー側の音楽がクラシカルでやさしい感触を持っているのに対し、インダストリア側の楽曲は、不安を募らせる現代音楽的なアレンジとサウンドで作られている。
 初期から使われたサスペンス曲「ラナを返せ!」「インダストリア」、追加録音分を含む「脱出」「自由への戦い」「ギガント」など、本作を観ていたファンなら音楽を聴いただけで、ラナを助けに走るコナンやフライングマシンとファルコの空中チェイス、ギガントを破壊するコナンなど、緊迫した名場面が思い出されるだろう。
 こうしたサスペンス曲ではエレキギターやシンセサイザー、電子ピアノなどの電気的な音が挿入されてインダストリアの得体のしれない脅威をサウンドで表現している。が、それ以上に曲の構成やアレンジ、演奏などにサスペンスを盛り上げる技巧が凝らされていて、あらためて音楽だけを聴くと「『コナン』の音楽、ただものじゃないな」と思わされるのだ。現代音楽作曲家でもある池辺晋一郎ならではの楽曲だ。

 『未来少年コナン』の音楽は、音楽的カッコよさを追求するというタイプの曲ではない。ほぼ同時期に放送されたTVアニメ『ルパン三世(新)』や『宇宙海賊キャプテンハーロック』『新・エースをねらえ!』『宝島』といった作品と比べても、本作の音楽はきわめてオーソドックス。音楽だけで聴かせようという色気や主張は感じない。同じ宮崎駿監督作品でも、その後の『ルパン三世 カリオストロの城』の大野雄二の音楽や『風の谷のナウシカ』以降の久石譲の音楽とも感触が違っている。
 『未来少年コナン』の音楽はすごくストイックで実写的なのである。
 特にそれを感じるのは戦闘シーンによく使われたサスペンス曲だ。インダストリアの侵攻やそれに抵抗する人々の戦いを描く音楽には、ヒロイックな勇ましさやカッコよさは微塵もない。ドキュメンタリー的とも呼べるくらい、シリアスで硬質な音楽である。
 この音楽が、『未来少年コナン』という作品の印象をぐっと引き締めていると思う。アニメ作品の音楽は映像の持つイメージを2倍、3倍に拡大して、よりファンタスティックな世界を創り上げるために貢献することが多いのだが、『未来少年コナン』の音楽は逆に、日常から浮き上がりそうになる映像を地面につなぎとめようとしているような印象がある。
 たぶん、『未来少年コナン』は音楽がなくても成り立つ作品なのである。宮崎駿と大塚康生が作り出した映像にはそれだけの力がある。けれども、池辺晋一郎の音楽は映像では表現しきれない現実感をそっと映像の中に忍び込ませて、本作に漫画映画を越えたリアリティを与えている。大地に足をつけた音楽。本作の音楽としてこれ以上ふさわしいものはない。やはり、『未来少年コナン』は音楽も名作なのである。

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