腹巻猫です。7月15日にSOUNDTRACK PUBレーベルから「渡辺宙明コレクション オレとシャム猫/新 忍者部隊月光」が発売されます。渡辺宙明先生の生誕90周年を記念した1枚。なかなか聴く機会のない1960年代のTVドラマ2作品のカップリング。全曲、マスターテープからの初商品化です。ぜひお聴きください!
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前回の更新の直後、アメリカの映画音楽作曲家ジェームズ・ホーナー急逝の報を聞いた。6月22日、ホーナーが所有する自家用ジェット機が墜落。ほどなく、操縦していたのはホーナー自身と伝えられ、ホーナーの死亡が報じられたのだ。61歳という若さだった。
ジェームズ・ホーナーといえば、アカデミー賞の作曲賞・歌曲賞に輝いた「タイタニック」(1997)をはじめ、「アバター」(2009)、「ビューティフル・マインド」(2001)、「ブレイブハート」(1995)など、大作、話題作に音楽を提供しているハリウッドを代表する作曲家。現役バリバリで活躍する作家の突然の訃報に、ただただ驚いた。
筆者はホーナーの大ファンというほどではないし、サントラ盤を熱心に集めているわけでもない。それでも、ホーナーの音楽やホーナーが手がけた劇場作品には思い出がある。今回は一サントラファンとして、ホーナーのことを書いてみたい。
先に書いたように、現在のファンにとってジェームズ・ホーナーといえば大作・話題作を手がけるハリウッドの大作曲家というイメージだろう。
しかし、80年代のサントラファン、SF映画ファンにとって、ホーナーといえば「宇宙の7人」(1980)、「ウルフェン」(1981)、「ブレインストーム」(1983)、「銀河伝説クルール」(1983)といったユニークなSF・ファンタジー作品で「これは!」という曲を書く作家だった。
なかでも「宇宙の7人」と「銀河伝説クルール」の人気は高い。「宇宙の7人」は今年4月26日に三鷹芸術文化センター風のホールで開催されたサントラファン向けコンサート「ファンタジー・フィルム・スペクタキュラー2015」で演奏され、大喝采を浴びていた。「銀河伝説クルール」のサントラ盤もたびたびCD化されている(限定CD化→売り切れ、限定CD化→また売り切れ、の繰り返し)。ひそかな人気作なのだ。
そんなホーナーの名が一般のファンにも注目された初期の作品が「スタートレックII カーンの逆襲」(1982)だった。前作(劇場第1作)の音楽が巨匠ジェリー・ゴールドスミスであったというハンデをものともしないパワフルな音楽。「タイタニック」以降のホーナーしか知らないという方は、ぜひ本作を聴いてもらいたい。ゴールドスミスの劇場版テーマやアレクサンダー・カレッジのTVシリーズ版テーマ曲を引用しながら独自の展開を見せていくメインタイトル曲やカーンの襲撃を描写するスリリングな曲など、聴きどころ満載である。
「スタートレックII」が評価されたホーナーは続く「スタートレックIII ミスター・スポックを探せ」(1984)も担当。いっぽうでロン・ハワード監督のハートウォーミングなSF映画「コクーン」(1985)では、のちの「タイタニック」を予感させるようなやさしさに満ちた美しいスコアを書いている。
ああ、けれども、やっぱりサントラファンが期待したのは「スタートレックII」のようなホーナーなのだった。アーノルド・シュワルツェネッガー主演の「コマンドー」(1985)や「今度は戦争だ!」の「エイリアン2」(1986)の迫力たっぷりのスコアに、「これがホーナー節だよ」とファンはひざを叩いた。ワン・パターンと言われようとも、この頃のホーナーの燃える音楽が好きだったというファンは多いのではないだろうか。
個人的に筆者が好きだったのは、ロン・ハワード監督のハイ・ファンタジー「ウィロー」(1988)のヒロイックな中に情感を込めた音楽や「フィールド・オブ・ドリームス」(1989)のノスタルジックで感動的な音楽、ドラマ性と美しい旋律を兼ね備えた「アポロ13」(1995)の音楽など、ちょっと渋めの作品だった。特に「アポロ13」はマイ・ホーナー・ベストと言いたいくらい好き。これは作品の印象も大きいかもしれないが……。
1980年後半あたりから、ホーナーの音楽はバリバリ鳴らすよりも、繊細なメロディを聴かせるヒューマンな作風に変わってきた印象がある。男子向けから女子向けになってきたとでも言おうか。
そして、「タイタニック」(1997)の大成功を経てハリウッドのトップ作曲家に上り詰めたホーナーは、2000年代も快進撃を続ける。が、実は筆者は「タイタニック」以降の作品はあまり熱心に聴いてないのである。筆者好みのSF・ファンタジー作品が減ってきたことも一因だ。それでも、ミステリアスな人間ドラマにファンタスティックな音楽をつけた「ビューティフル・マインド」(2001)や民族音楽風のサウンドを取り入れた「アバター」(2009)などは、やっぱりホーナーはすごいよなと思わせてくれる意欲作だった。
燃える音楽好きのサントラファンにはダイナミックなスコアが好まれたホーナーだが、真の持ち味は、最近の映画音楽には珍しくなった「美しいメロディで聴かせる」スコアだったように思える。ホーナーが劇中音楽ばかりでなく主題歌でも心に沁みる曲を多く生み出していることからもそう思う。その代表はもちろん、アカデミー賞をはじめ、ゴールデングローブ賞、ゴールデン・サテライト賞などを受賞した“My Heart Will Go on”(「タイタニック」主題歌)だ。
思えば60〜70年代にはメインタイトル曲とは別に「愛のテーマ」「ラブ・テーマ」といったタイトルの曲を含むサントラがたくさんあった。「愛のテーマ」はメインタイトルと並ぶスコア・サントラの聴かせどころであり、作曲家の腕の見せどころだった。ホーナーはそんなロマンティックなサントラを現代に継承する作家だったかもしれない。環境音のようにべたっとつける音楽やリズム重視の音楽が増える中で、しっかりメロディを聴かせるホーナーの作風は貴重だった。
ホーナーの音楽が活躍する、スケール豊かで、わくわくするようなドラマを描いたSF・ファンタジー作品がもう一度観たかったなあ。心より、哀悼の意を表します。
最後に、アニメファンにもお奨めのホーナー作品を紹介したい。ホーナーは劇場アニメの音楽も手がけているのだ。
スティーブン・スピルバーグが製作を手がけた『アメリカ物語』(1986)と『リトルフットの大冒険』(1988)である。『アメリカ物語』はネズミ、『リトルフットの大冒険』は恐竜が主人公のファミリー向けアニメだが、大人が観ても十分面白いし、感動する。勢いに乗っていた頃のホーナーの音楽も聴きごたえのある力作だ。
特にリンダ・ロンシュタット&ジェームス・イングラムが歌った『アメリカ物語』の主題歌“Somewhere Out There”とダイアナ・ロスが歌った『リトルフットの大冒険』の主題歌“If We Hold on Together”は胸にじーんとくる名曲。後者は日本でもヒットしたので、ホーナーの作品とは知らずに口ずさんだ人もいるだろう。すばらしい音楽を遺してくれたジェームズ・ホーナーに感謝。