COLUMN

第96回 キリのない『世界』

●2014年9月28日(日)

 昼13時より阿佐ヶ谷ロフトAで「ここまで調べた『この世界の片隅に』4」。映画を作るためにこんな感じでリサーチを進めていますよ、というチラ見せをするイベントだが、東京で開いたのはこれで4回目。広島と呉で何回か同じようなことやってきたことが原型になっていて、さらに大阪やボルチモアのオタコンでもやったので、すべて合わせるとどれくらいの回数になるのか、ちょっと記憶が定まらない。
 それでいて、3ヶ月後の12月7日には「ここまで調べた『この世界の片隅に』5」がかねてから予定されているし、「6」もどうしようかという話が出つつある。
 そんなにネタが無限にあるのかといわれると、もちろんそんなわけはないし、これまででも内容のダブりがあった。なのだが、まだ自分のハードディスクの中身を開ききっていないのもたしかで、しかも、あとで資料集みたいにまとめて本とかにしにくいデータもいっぱいあるから、もうちょっとやってみるのもいいかもしれない。
 パソコンの画面をそのままプロジェクターでスクリーンに投影しながら、あのハードディスクを開けていって、フォルダがずらずら並ぶのが映った瞬間、笑われてしまう。フォルダの中にさらに自分でも数えられないフォルダの群が並んでいて、底なし沼みたいになってしまっている。
 それらの中身をある程度知っているのは、自分のほかには、2011年夏に準備室を開設して以来のスタッフである浦谷と白飯くらいで、その2人にしても、仕事と直接関係ないフォルダはほとんど開いてないのだろうと思う。
 そう、映画作りそのものとは関係のないデータが山になってしまっているのだ。

 『この世界の片隅に』というとき、その「片隅」を描くためには「世界」全体の姿もできるだけ捉えて踏まえておきたいという明らかに実行不能な願望がもとにあって、こういうデータ蓄積になってしまっているのだが、「世界」の全体像を把握することなんか全知全能ででもなければもちろん無理なことで、ただそれでも、「これとこれくらいは知っておかなくちゃ」とそれぞれちょっと毛色の違う方面に手をのばして手に入れた知識が、突然組み合わさって意味を持ち始めることもあるからおもしろい。
 そんなふうにリサーチなんかでおもしろがっていられるのは、本来なら、映画作りの準備作業(プリプロダクション)の前半部分の時期の話だ。準備の後半は、そうやって得られたものから必要な要素を抽出して、映画の中で使うデザインにまとめてゆく、いわゆる「設定」の作業に費やされ、次いで具体的な表現を組み立ててゆくプロダクションに移行してゆく。そうなったら、もうそれどころではない、ということになるのが普通だ。
 たぶん、『この世界の片隅に』の映画化という仕事では、どこまでいってもリサーチが追いかけてくるだろうという、予感ではなくて実感みたいなものが確実にある。
 衣服の線画でのデザインができたら、次にはそれに塗る色を考えなくちゃならなくなる。「和服」だからといって、バランスがよければ何色にでも塗ってよいというのでは、そうしたもので埋まった画面が「世界」とは違ったものになってしまいそうだ。
 戦前と呼ばれる時間的には割と短い時期の中にも、和服の柄の流行があって、色調の流行がある。戦時中にでもなろうものなら、色調にある種の制限や統制もかかってきてしまう。
 そうした時期にまたがって、女性の着物の色としては、「紫」「濃紫」が比較的長く主流みたいな位置にありつづけていたようなので、「パープル?」と思ってしまったものだが、いろいろとひもといてみると、この紫はもっともシックな色だとわかった。割と高い年齢層にも使えるベーシックな色合いである。和服に詳しい人にとっては当然の知識かもしれないところを少しずつ埋めていかなければ、「世界」というパズルは、一方向からの見た目だけでも完成に近づかないような気がしてしまう。
 強迫観念?
 いや、そこはやはり楽しんでいるのだ。
 松原さんが描きつつあるキャラクターを、こんな色合いだったのだろうかと自分で塗ってみながら、そんなふうに思った。
 さらに思いは膨らむ。夏服を着ているすずさんと冬服のすずさんの肌の色は同じでいいのだろうか、と。
 「変えます? 季節によって?」
 「うーん、変えてみたい……ような気がする」
 「いや、それはたしかに新しいかも」
 またしてもアニメーション的な表現としては普通になってしまっている部分からの逸脱。
 でも、季節があるのが「世界」なのだし、「日焼け」があってもしまうのも「世界」なんじゃないかな、と思う。

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