『少年ハリウッド』の7話「人生に人生はかけられない」は意欲的なエピソードだった。物語構成も面白いし、演出的にも尖っていた。
アイドルユニット少年ハリウッドのカケルは、歌うことが上手とは言えず、そのことで悩んでいた。他のメンバーはカケルに苦手意識を克服させるために、彼をとともに原宿の街に飛び出す。少年ハリウッドは歌う。街を歩きながら、走りながら、あるいは振りをつけて。彼らは歌い続ける。やがて、少年ハリウッドの歌は、路上パフォーマンスに発展していく。
なにがすごいって、Bパートの間、ずっと少年ハリウッドのメンバーが歌い続けているのだ。しかも、この話のBパートは、Aパートより長い。だから、彼らが歌っているシークエンスは相当たっぷりしている。尺の使い方からして、通常のTVアニメの感覚からはみ出している。
『少年ハリウッド』は作品世界も、キャラデザインもリアル寄りである。そういった作りでありながら、登場人物が延々と歌い続けるような、大変な内容に挑んでいるのだ(マンガ的な世界感&キャラクターであったら、そんなには驚かなかっただろう)。そして、この話のBパートで、少年ハリウッドのメンバーは、終盤以外は、同じ場所に留まることはなく、歌いながら移動し続ける。つまり、舞台が変わり続けるのだ。当然、街のいろいろな場所を描き出すことになる。美術も見応えたっぷり。それだけでなく、カメラアングルも、芝居も凝っている。作り手の労力が、そのまま作品の価値になるわけではないが、それにしても手間のかかったエピソードだ。
歌い続けているといっても、曲が流れて、それにあわせてキャラクターがノリノリで歌って踊るような、いわゆるミュージカルのような作りではない。あくまで現実的な世界の中で、キャラクターたちが、アカペラで歌い続ける。彼らが歌うのは、きちんと作曲されたものではなく、彼らが自分たちの言葉に即興で節をつけたものだ。その意味でもリアル感がある。
演出のタッチはクールでもある。少年ハリウッドが街中で歌うことは、周囲の人にとっては奇異に感じられる出来事であり、それが視聴者にもはっきりと分かるように演出されている。他人の目にどう映っているかは、カケルのドラマとして必要なことであり、ここではドラマと演出の狙いが合致している。劇中の人々に限らず、視聴者の多くもまた、彼らの言動をおかしなものだと受け止めたはずだ。「なにこれ、笑っちゃうなあ」と思った視聴者は少なくなかっただろう。
最後には、少年ハリウッドのパフォーマンスが、街の人たちの心をつかむ。そこにいくまでに、たっぷりと描写を重ねているのがいい(心をつかんだと言っても、人々がパフォーマスに熱狂するわけでなく、パラパラと拍手をする程度というのが、またリアルである)。そして、ここは視聴者にカタルシスを与える場面でもあるはずだ。「なにこれ、笑っちゃうなあ」と思ったからこその感動だ。ただ、演出がストイックなので、そのカタルシスはささやかであったかもしれない。それでも、作り手の伝えたかったものは、多くの視聴者に届いたのではないかと思いたい。
僕がこのエピソードでいちばんグッときたのは、ラストシーンに入るところ(「俺たち、5人。少年ハリウッド!」のセリフの直後)だ。まさしく「演出されている」感じだった。
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