腹巻猫です。8月23日、24日に開催された「高梨康治 CURE METAL NITE Vol.1」に両日とも行ってきました。「プリキュア」シリーズを中心とした高梨康治のアニメ・サントラ・ライブ。すさまじい演奏&盛り上がりでした。会場で販売していた応援グッズ「キュアメタルライト」を全力で振ってきましたよ。ぜひ、Vol.2、3と続けてほしい。
8月中旬までTOKYO MXで再放送されていた『トラップ一家物語』。面白くて第1話から最終話まで全話観てしまった。オープニングで毎回「ドレミの歌」が聴けるのも気持ちいい(映像ソフトでは諸事情でほかの曲に差し替えられているので……)。
この『トラップ一家物語』の音楽を担当していたのが風戸慎介。70年代末から90年代初頭にかけて、多くのアニメ作品の音楽を手がけた作曲家だ。記憶に残るものだけでも、『キン肉マン』(1983-86)、『うる星やつら』(1981-86:安西史孝ほかと共同)、『じゃりン子チエ』(TV版:1981-83)、『未来警察ウラシマン』(1983)、特撮もので「バッテンロボ丸」(1982)、「ウルトラマンG」(1990)などがある。
風戸慎介は筆名で、本名は川辺真(かわべ・しん)。武蔵野音楽大学音楽学部作曲科を卒業したのち、米国ロチェスター大学イーストマン音楽院大学院作曲科を修了。武蔵野音大で講師として教鞭を取るかたわら、映像音楽の仕事を手がけた。本名でのオリジナル作品も多い。1979年に日生ファミリースペシャルの1本として放送された単発TVアニメ『あしながおじさん』の音楽は川辺真名義で担当している(堀江美都子が歌った主題歌が大傑作!)。
そんな風戸慎介のアニメ音楽の代表作といえば——『未来警察ウラシマン』だろう。
『未来警察ウラシマン』は1983年に放映されたタツノコプロ制作のSFアニメ作品。監督は真下耕一。キャラクターデザインがなかむらたかし。1983年から2050年にタイムスリップした少年リュウを主人公に機動メカ分署マグナポリス38と犯罪組織ネクライムの対決を描く。新世代のタツノコプロ作品! という印象のイキのいい作品だった。
本作が発表された1983年は、キングレコード、ビクター音楽産業(現・ビクターエンタテインメント)、キャニオンレコード(現・ポニーキャニオン)などが従来の「アニメ音楽」の枠にとらわれない音楽づくりでヒットを飛ばし始めていた時期。「アニメ音楽が変わる」「アニメ音楽が売れる」——そんな時代の息吹が渦巻いていた。アニメ音楽では老舗の日本コロムビアも「何かこれまでと違う新しい風を」と試行錯誤していた時期……ではないかと想像する。
そこで『未来警察ウラシマン』である。
「これまでの殻を破った音楽を作ろう!」という意欲をびんびんと感じる作品だ。
主題歌「Midnight Submarine」と「Dream City Neo Tokio」のカッコよさ! 作曲を手がけた鈴木キサブローと芹澤廣明は、このあとアニメ・特撮ソングの名曲を次々と生み出していく。
劇中音楽を手がけた風戸慎介は歌曲の作曲にも長けた作家で、本作でも全7曲の挿入歌を作曲している。アレンジもできるメロディメーカーなのだ。日本コロムビアから発売された『未来警察ウラシマン』のサントラは音楽と挿入歌を1枚に収録したスタイル。番組の人気も手伝って「音楽集第1弾」「第2弾」と続き、放映終了後に「第3弾」まで発売された。80年代コロムビア・アニメ音楽を代表する作品のひとつである。
「未来警察ウラシマン 音楽集」の収録曲は以下のとおり。
- Midnight Submarine(Vocal:HARRY)
- Wind Shower
- Dusty Connection
- Crystal Knight NECRIME(Vocal:MoJo)
- Combat Scramble
- Rainbow
- Battle URASHIMAN(Vocal:MoJo)
- Secret Zone
- Fire Dancing(Vocal:かおりくみこ)
- Magical Sky
- Sunset
- Dream City Neo Tokio(Vocal:HARRY)
曲名がすべて英語で表記されているあたり、「子ども向けとは違うのだよ」というメッセージを感じる作りだ。
SFポリス・アクションという題材なので、音楽もノリのよい曲が並ぶ。70年代の泥臭さから解放されたいかにも80年代! という音だ。70年代末から80年代にかけてヒットした海外ドラマ「チャーリーズ・エンジェル」や「白バイ野郎ジョン&パンチ」などの香りを感じる作風である。
オープニング主題歌「Midnight Submarine」は鈴木キサブロー作曲、HARRY編曲によるドライブ感満点のナンバー。歌と編曲を担当したHARRYは、ロックバンド・TALIZMANのボーカルとして「ウルトラマン80」の主題歌などを歌っていた木村昇/ハーリー木村の別名。『ルパン三世[新]』のエンディング「LOVE IS EVERYTHING」や「宇宙刑事ギャバン」の挿入歌、『科学救助隊テクノボイジャー』の主題歌などでも歌声を聴くことができる。
この歌、よく聴くと番組とぜんぜん関係ないことを歌っているようにも聴こえる。でも、作品にこの上なく合っているのだ。歌の内容というより、この軽快でロックな感じ、サウンド感が『ウラシマン』そのものなのだった。
2曲目の「Wind Shower」はサックスの音色がまぶしい爽やかなフュージョンの曲。「1日の始まり」もしくは「目覚めればそこは未来……」といった感じの開幕にふさわしい音楽だ。
続く「Dusty Connection」は不穏な雰囲気をただよわす「捜査開始」もしくは「犯罪の予感」というイメージの曲。ベースとピアノの音が闇を抱えた未来都市を描写しているようだ。
MoJoが歌う「Crystal Knight NECRIME」は風戸慎介作曲の挿入歌。悪のテーマなのにやたらカッコいい曲だ。MoJoのヴォーカル、ベースが刻むリズム、エレキギターの合いの手、サックスの間奏、すべてがみごとに決まってる。アルバムの聴きどころのひとつだろう。
「Combat Scramble」はベースラインが印象的な出動のテーマ。「さあ行くぜ!」的熱気はなく、スマートに未来都市を駆けるリュウたちのシルエットが目に浮かぶ曲調だ。
小粋なシティポップスという雰囲気の「Rainbow」に続いて、MoJoが歌う2曲目の挿入歌「Battle URASHIMAN」が登場。
この歌も作編曲は風戸慎介。主題歌でもおかしくないくらいのいい曲だ。抑えた前半から曲調が変わり、たたみかけるような展開になるのが爽快。MoJoもこの歌がお気に入りらしく、「Crystal Knight NECRIME」とともに自身のライブでたびたび歌っている。
悪の暗躍や謎を秘めた事件をイメージさせるミステリー曲「Secret Zone」を挟んで、かおりくみこが歌う「Fire Dancing」。「おお、80年代ポップス!」と思わず座り直したくなるような、ちょっと気恥ずかしくなるような(つまり80年代を思い出してしまうということですな)1曲だ。かおりくみこの大人っぽい声がこの歌ではすごく生きている。そして、「風戸慎介、いい曲を書くなあ」とあらためて感じ入る曲である。
アルバムの終盤を飾るのは、明るいサンバ風の「Magical City」、ムーディなR&B風の「Sunset」。最後までバラエティに富んだ曲調で飽きさせない。『ウラシマン』の物語をイメージしたというより、音楽的な流れ重視でまとめた構成だ。
ラストは芹澤廣明作曲、HARRY編曲・歌によるエンディング主題歌「Dream City Neo Tokio」。本作の舞台である未来都市をイメージした歌だ(沢田研二「TOKIO」の未来版といった趣)。これも作品の設定を反映した歌というよりも、サウンドと歌詞のイメージで『ウラシマン』の世界を描いた印象。オープニングに劣らぬ名曲である。
『未来警察ウラシマン』では、主題歌と劇中音楽が異なる作家によって作られている。が、音楽イメージはみごとに統一され、とってつけたような感じがない。それも、「主題歌のメロディを劇中音楽に生かす」という方向ではなく、サウンド感の統一によって実現されているのがすばらしい。
子ども向けでもない、かといって歌謡曲・ポップスの借りものでもない。新しいアニメ音楽のイメージが、キラキラした未来の風景にインスパイアされて結実した。そんな可能性を感じる作品である。鈴木キサブロー、芹澤廣明、HARRY、風戸慎介といった新しい才能が挑んだ「未来のアニメ音楽」の夢が本作に息づいている。今聴いてもワクワクしないではいられない、80年代アニメ音楽の名作のひとつだ。
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