腹巻猫です。『新・エースをねらえ!』のオリジナルBGMを収録したCDアルバム「新・エースをねらえ! 音楽集」が12月25日に発売されます。本作の音楽は、劇場版『エースをねらえ!』のDVD特典サントラで劇場用に編集された音源がCD化されたことがありますが、オリジナル・マスターテープからのCD化はこれが初! ヒットメーカー・馬飼野康二が手がけた瑞々しい音楽をぜひお聴きください。
「新・エースをねらえ! 音楽集」
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いよいよ年の瀬。
今回は今年(2013年)10月25日に亡くなった作詞家の岩谷時子さんを偲んで、その仕事を振り返ってみたい。主に歌謡曲やミュージカルの分野で活躍した岩谷さんだが、アニメソングでも名曲を遺している。
岩谷時子は1916年(大正5年)生まれ。出生地は京城(現在のソウル)。5歳のときに兵庫県西宮市へ移り住んだ。少女時代から文芸の才を発揮し、神戸女学院を卒業後、宝塚歌劇団出版部に就職。機関誌『歌劇』の編集に携わった。編集部で当時15歳だった歌劇団員の越路吹雪と出会って意気投合し、越路が独立して歌手をめざしたときに越路とともに宝塚を退団。東宝文芸部で働きながら、マネージャーとして越路をサポートした。
作詞を始めたのは、越路吹雪が歌ったシャンソン「愛の賛歌」の訳詞を手がけたことがきっかけだった。以来、数え切れないほどの作詞・訳詞を手がけ、ヒット曲を生み出した。
岩谷が歌詞を提供した歌手は越路吹雪をはじめ、ザ・ピーナッツ(「恋のバカンス」「ウナ・セラ・ディ東京」)、布施明(「これが青春だ」)、加山雄三(「旅人よ」「君といつまでも」)、ピンキーとキラーズ(「恋の季節」)、岸洋子(「夜明けのうた」)、沢田研二(「君をのせて」)、郷ひろみ(「男の子女の子」)、尾崎紀世彦(「この胸のときめきを」「マイ・ウェイ」)、本田美奈子(「つばさ」)ら日本歌謡界を代表するそうそうたる顔ぶれ。タイトルや歌を聴けば、「ああ、あの曲も」と多くの人がひざをたたく作品ばかりだ。また、「王様と私」「レ・ミゼラブル」「ミス・サイゴン」などのミュージカルの訳詞も数多く手がけて、日本に日本語によるミュージカルを定着させた。
岩谷時子の詞のイメージは、どこか宝塚歌劇と重なる。ロマンチックで情熱的。愛を歌いながら下世話にならず、上品で格調がある。いっぽう、男性歌手に提供した詞は、同じロマンチックでも、大陸や大海原を旅するような解放感と夢が感じられる。
岩谷時子は愛とロマンの作家だった。
岩谷はテレビドラマ主題歌もたくさん書いている。布施明が歌った「これが青春だ」は1967年放送の同名青春ドラマの主題歌。日本テレビの青春ドラマでは「青春とはなんだ」(1966)、「進め!青春」(1968)など、いずみたくとのコンビで多く作品を手がけた。そして、『デビルマン』の三沢郷が作曲を手がけた「サインはV」(1970)、「アテンションプリーズ」(1971)、『サザエさん』の筒美京平が作曲した「美しきチャレンジャー」(1971)の主題歌も岩谷の作。とりわけ、英語のつづりを読み込んだ「サインはV」はインパクト抜群の名曲だ。キャッチ—な歌い出しが耳に残るが、「空」「雲」「風」「光」「虹」と爽快感に富んだ言葉をスポ根ドラマの歌に盛り込んだところに岩谷の本領が発揮されている。
そんな岩谷時子がはじめて主題歌を手がけたアニメ作品が『ふしぎなメルモ』(1971)。曲は『悟空の大冒険』『ムーミン』の宇野誠一郎が担当。原作の手塚治虫も宝塚と縁が深く、手塚と岩谷は交流があったという。
「ふしぎなメルモ」はちょっとドキッとする歌だ。きわどい言葉が使われているわけではない。けれど、岩谷時子の詞には「大人の世界をこっそりのぞき見る」ようなドキドキする感触がある。歌詞では、大人とベイビーを行ったり来たりするキャンディのひみつを歌ったあと、「連れてって」と呼びかけるくだりが特にそうだ。連れていってほしいのはどんな世界なのか、歌詞には明らかでない。「それはたぶん大人の世界なんだろう」と子ども心に感じ取っていた。そこがドキドキするところである。「呼びかけ」は岩谷時子がアニメソングの歌詞でよく使った手法でもある。
『ミラクル少女リミットちゃん』(1973)の主題歌「幸わせを呼ぶリミットちゃん」には「ふしぎなメルモ」ほどのドキドキ感はない。代わりに、明るい中にどこか切ない感傷がにじむ。
歌はリミットちゃんへの呼びかけから始まる。リミットちゃんを愛する子どもたちがリミットちゃんを讃える歌だ。顔を合わせると言えないけれど、リミットちゃんが大好き。幸せな歌詞である。それを切なく感じるのは、リミットちゃんが実は悲しい運命を秘めたサイボーグであることをわれわれが知っているからだ。深読みしすぎかもしれないが、「大好き」と歌われるところで、ぐっときてしまうのである。
『草原の少女ローラ』(1975)はドラマでも有名な『大草原の小さな家』を原作とするTVアニメだ。主題歌「草原の少女ローラ」は元気な言葉を重ねて活発なローラをの姿を歌った正統派主題歌。走るローラ、遊ぶローラ、自然の中のローラ。鮮やかな画が次々と目に浮かぶ。あまり岩谷時子らしさはないけれど、名作アニメ主題歌らしいやさしさとワクワク感に満ちた歌である。
長編劇場アニメ『アンデルセン物語 にんぎょ姫』(1975)の挿入歌「あこがれ」と「待っていた人」はいかにも岩谷時子らしい作品。恋を知る少女のよろこびとときめき、そしておそれを描いて、行間から「愛とロマン」があふれている。宝塚歌劇の劇中歌にしてもよいようなロマンティックで情熱的な歌だ。
そして、いよいよ登場! この連載でも取り上げた『宝島』(1978)ですよ。岩谷時子アニメソングの傑作である。
主題歌「宝島」の歌詞は、加山雄三の名曲「旅人よ」から感傷を取り去って、よりスケールを大きくしたような詩情豊かな冒険ロマンの世界になっている。
この歌も「呼びかけ」から始まる。ともに冒険の海へこぎだそうという誘いの呼びかけである。羽田健太郎の曲が先に作られ、歌詞をあとからはめたそうだが、そうとは思えないほど言葉がばっちり決まっている。とくに中盤の、真心を信じよう、のくだりが泣ける。この部分は本放送当時から大好きだったが、大人になってから聴いても、ぐっとくる。
最近になって、この歌は岩谷時子から少年たちへの「こうあってほしい」という願いなのではないかと思うようになった。ファンならご存知のとおり、『宝島』はほとんど女性キャラクターの登場しない作品。岩谷時子は『ふしぎなメルモ』や『ミラクル少女リミットちゃん』のように少女キャラに思いを重ねることはせず、理想の少年像を歌いこんだのではないだろうか。少女マンガ家が描く少年像のように。
単発で放送されたTVアニメ『アンネの日記 アンネ・フランク物語』(1979)の主題歌「愛がある明日がある」は坂田晃一の美しいメロディに乗せて歌われる静かな希望の歌。等身大の少女としてのアンネの思いを岩谷らしい品格のある言葉でつづった作品だ。悲劇を連想させる表現はないのに、これも『ミラクル少女リミットちゃん』同様、アンネの運命を知るわれわれは、生きていればきっと……と願う少女の思いに胸を打たれてしまう。ミュージカルの訳詞をたくさん手がけた岩谷時子ならではのドラマ性のある詞だ。
岩谷時子が手がけたアニメソングのもう一つの傑作が『ママは小学4年生』(1992)の主題歌「愛を+ワン」だ。作曲は樋口康雄、歌は岩崎宏美(当時・益田宏美)。樋口康雄のオーケストレーションのすばらしさと岩崎宏美のみごとな歌唱に耳を奪われてしまうが、岩谷の歌詞もすばらしい。
歌い出しはやはり「呼びかけ」だ。歌は赤ん坊主観の問いかけから始まる。そのあとに続くのは美しい絵画のような夕暮れの情景。赤ん坊主観? と思っているとママが語っているようにも聴こえてくるふしぎな詞だ。赤ん坊がこんな洗練された言葉で語るのもおかしい。まるで、成長した少女が時をさかのぼって赤ん坊の目から両親の姿を見ているような、入れ子構造になった構図を感じる巧妙な歌詞である。それはもちろん、小学4年生の主人公・なつみが未来からやってきた自分の赤ん坊を育てるという物語の構図をなぞっているわけだ。
この歌には、『ふしぎなメルモ』のようなドキドキ、『ミラクル少女リミットちゃん』のような感傷、『宝島』のような大きなロマンはない。だけど、愛のよろこびと命の賛歌がある。楽しく聴けるけれども、すごく味わい深い歌詞だ。ことに歌の終盤、大事に生きる、という言葉、そして、家族といるのになぜか泣きたいと歌っている箇所は、何度聴いてもはっとさせられる。
そうなんだ、幸せって、なぜか泣きたくなるんだ。
なぜかというと、人は成長して、いつか年をとって、去っていくのだから。だから、家族といる時間、愛を感じる時間を大事に生きないと。夕暮れの幸せな瞬間をとじこめたようなこの歌に、岩谷時子の人生観が結晶化されている。
名作「宝島」を生んで間もない1980年に、岩谷時子は最期までマネージャーとして支えた親友・越路吹雪を喪っている。そして、「愛を+ワン」が発表された1992年、岩谷は76歳。燃えるような愛とロマンの歌を書く作家から、人生の来し方行く末を見つめた深みのある詞を発表する作家になっていた。このとき岩谷時子に作詞を発注したスタッフの慧眼がすばらしいと思う。
岩谷時子は愛とロマンの人だ。その愛とロマンは、やがて、人生への深い洞察と慈しみへと形を変えて歌に受け継がれていった。洋楽曲に、歌謡曲に、ミュージカルに、多くの名曲を残した岩谷時子。曲数はけして多くないアニメソングだけど、その歌詞をひもとくだけでも、岩谷時子が時代と人によりそいながら遺したメッセージが伝わってくる。
あらためて、哀悼の意を表します。
ありがとうございました。
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