さてさて。
『ウテナ』のキャラクターの色デザイン作業、コピック塗り+切り貼りの決め込みで、徐々にメインのキャラが定まっていきました。
まず最初にザッと幾原くんと打ちあわせて、ポイントになる部分は幾原くんが色のイメージを示し、それ以外のキャラの色はまず僕が色を置いてみてそれにみんなで意見出して決め込んでいく、という進め方で始めました。
主人公ウテナのピンクの髪の色は最初から幾原くんのイメージでした(これはあとで知ったのですが、当初さいとうちほさんのマンガの方ではウテナは金髪+赤い制服で進んでたみたいで、アニメ制作の段階で僕が参加してからはピンク髪で進んでました)。瞳の色は髪とのバランスでエメラルドにしました。これも幾原くんだったかな? 僕のイメージだったかな? ウテナが着ているの男子生徒の詰め襟制服は最初「赤」案と「白」案もあって、それぞれテスト的に塗ってみてましたが、「なんか『王子さま』過ぎるよねえ」ということで、もうひとつの「黒」案の方向に向かいます。さらに「制服と決闘の服(デュエリスト)で同じ黒で大丈夫か?」という幾原くんとの検証のやりとりがあって、これも確かあれこれ試して「黒」に落ち着いていきました。
「黒」で行くことに定まってから、今度は「黒」の見せ方に関する決め込み。ノーマル部分+カゲという普通の作画のバランスにするか、あるいはノーマル(カゲなし)にハイライト作画とするか。「ノーマル部分+カゲ」で行くと、カゲ部分は黒(BL)になるけどノーマル部分を少しグレーや青などのやや明るい色にしていくことになります。そうなると、引きサイズ(全身が見えるロングショット)ではカゲ部分が小さくなって「黒」の印象が薄くなります。「ノーマル(カゲなし)にハイライト」のスタイルならば、引きサイズではハイライト省略すればそのまんま「黒」になります。で「こっちか!」ということで、現行のスタイルに決定。さらに長谷川くんからの装飾品(肩とかロープみたいなヤツとか)のフォルムの修正が加わって完成に。
ウテナの制服は「黒」にしたこともあって、それ以外の男子生徒は「白」ってことに定まっていきます。一応他の色、黒とか濃紺とかも試しましたが、まあ「だよねえ」って感じで、上半身白にズボンは緑。女子の制服とのカラーデザインの合わせで結構すんなり決まりました。あ、女子の制服はほぼ最初に出したデザインのまんまなハズ。
チュチュは……あれはなんか最初の色からあのまんまだったかなあ?
「幾原くん、これはサルなの?ネズミなの?」と僕。
「さあ、わからん!」と幾原くん(笑)。
なので、どっちとも取れるような色、ってことでああなりましたw
ちなみに「劇場版」で登場したあの謎の生き物の時も、
「これってワニなの? なんなの?」と僕。
「さあ、まるでわからん!」と金子くん(笑)。
で、あんな感じになったのでした。
生徒会のメンバーは、それぞれにテーマカラーを決めていくことは決まっていて、冬芽の「赤」、樹璃の「オレンジ」、幹の「青」、そして西園寺の「緑」はほぼ最初のイメージです。当初、冬芽の髪はメッシュなしの単色だった記憶が。色つけて持っていったら「なんかフツウだなあ」みたいな話になって、で、前髪をひと房、メッシュっぽく塗り分けて「これだ!」ってことになったはず。それ以外は、肌髪瞳は割とすんなり決まったのですが、最後まで決まらなかったのは生徒会メンバーの制服でした。
上半身、上着のベースカラーは「白」、そしてそれぞれのキャラのテーマカラーのズボンにするコトは決まってたんですが、それだとバストショットだとみんな白い制服になって、それぞれのテーマカラー感が薄い、って話になっていきます。「上半身にも『色』を入れたデザインを考えられないだろうか?」ということで、いろいろ試行錯誤が始まりました。前身ごろに切り返しのライン入れて塗り分け増やしたり、肩口からスッパリと袖だけ色変えてみたりとか、色だけでなくデザイン自体の修正、見直しが始まるわけです。でも、基本線である、海軍の軍服みたいなデザインフォルムは崩さない、崩したくない。なかなかいい案が出ないまま、打ちあわせが重ねられていきました。
「もうそろそろ結論出してFIXしないと」。たしか作品のビジュアルを雑誌で公開しなければならないリミットが近づいてたんだと思います。でも、だいたいイイ感じにはなってきてたんだけど、その日も決定打が出ません。「じゃ、さ、これ僕の方で塗り分け作画いじってみるから」と切り出して、僕に預けてもらいました。で、数日後、辻田案を持ってBE-PAPASへ。
「これで行こう、これで!」と僕が出したのは片袖だけ、それも肘から先だけ金のラインで縁取って塗り分けたバージョンです。あれこれ考えてみた結果、これがイチバンそれっぽかったのでした。結果それがそのまま採用。生徒会メンバーの完成でした。
そしてアンシーです。アンシーのあの褐色の肌色は最初から幾原くんのイメージにあったものです。あんまり濃いめにして人種感を強調しすぎても微妙なことになっちゃいそうで気をつけて決めたバランスです。アンシーはあの肌にしたことによってフツウと違う感じ、謎めいた感じがいい塩梅で醸し出せたかな? と。
アンシーと言えば「薔薇の花嫁」であるあのウェディングドレスです。最初はフツウに「白い」ウェディングドレスで色を置いてみました。褐色の肌に純白のウェディングドレス。……でもね、フツウなのですね。で、思い切って真っ赤に塗ってみたのです。これくらいインパクトないと! そう思って、その「赤」バージョンを持っていきました。
「赤か!」
さすがの幾原くんもこれは予想外だった様子で、スタジオ内を歩きまわりながら時折「赤か」と。で、しばらくして幾原くん、どこかに電話をかけています。いつもの長電話モード。で、その電話で「薔薇の花嫁」の話をしていました。「赤」で行きたい、と誰かを説得しているようでした。その相手はさいとうちほさんでした。こうしてアンシーの「薔薇の花嫁」は真っ赤なドレスになったのでした。
時は流れて今年(2013年)の春。東京・池袋で「少女革命ウテナ展」が開催されました。よくもまあ残ってたなあ! という感じで展示された原画、セル画、版権画その他、夥しい数の当時の資料たち。その資料たちに埋め尽くされた会場のその真ん中にそのドレスはありました。そう、アンシーの「薔薇の花嫁」の真っ赤なドレスでありました。『輪るピングドラム』のペンギンたちのぬいぐるみなどを手がけられた、なすかさん作のホンモノのアンシーのドレスです。
劇中に登場したドレスをそのまま現実世界に再現させた、まさにホンモノでありました。会場のまん中に毅然として存在するそのドレスの存在感! ドレスの主である姫宮アンシーがいまこの瞬間に消え失せて、着ていたドレスだけがそこに取り残された、そんな瞬間を彷彿とさせるような完璧な出来映え。
アニメで色を考える時、絶えず気にしてるのは「どんな質感なのか?」という点。当然僕の頭の中にあったアンシーの花嫁衣装の質感はシルクでありました。でもリアルな質感で考えちゃうと画面に出したとき押し出しが悪くなっちゃう。なのでシルクというよりは、あえてサテンのように派手な赤に色味発色を振りました。ウテナの「黒」、アンシーの「赤」。
「少女革命ウテナ」のあの画面の上で、ウテナの「黒」に負けない「赤」はあの赤以外にはなかったわけです。でも僕の頭の中ではあの花嫁衣装はシルクであり、実際に僕の頭の中にあったドレスの質感はあの画面の赤とは違うんだよなあ、と。なので、あの会場でのあの花嫁衣装との出会いは衝撃的でありました。ああ、これだよ! と。シンプルにすっごく嬉しかったのでした。「中身がいないだけでホンモノのアンシーだ」。作品の制作資料という「過去」に囲まれたその真ん中に燦然と立ったそのドレスは、時を越えて唯一いま「新しい」ものでありました。
少女革命ウテナ Blu-ray BOX 上巻【初回限定生産】
価格/23940円(税込)
販売元/キングレコード
Amazon
少女革命ウテナ Blu-ray BOX 下巻【初回限定生産】
価格/23940円(税込)
販売元/キングレコード
Amazon
※「アニメスタイル ONLINE SHOP」で豪華画「少女革命ウテナ画集 The hard core of UTENA」を販売中!
http://animestyle.jp/shop/archives/10