2012年は、ゼロ年代に芽生えたファン層の動向、あるいは技術革新がいくつもの成果として結実した年である。
Production I.G 制作、多田俊介監督による「ジャンプ」アニメ『黒子の バスケ』は、キャラクター同士の友情のドラマに女性層の支持が集中し、『テニスの 王子様』『戦国 BASARA』のムーブメントをひき継ぐ勢いを見せた。その一方、10月には原作者・藤巻忠俊の出身校をはじめ、関係各社に中傷・脅迫文とともに毒物が送りつけられ、ついには12月の「ジャンプフェスタ2013」でのイベントが中止に至るという、人気の高さが裏目に出る事件も勃発した。行き過ぎたファン心理が、人命に関わる社会問題に発展した点でこれは重要である。
水島努監督の『ガールズ & パンツァー』は、ミリタリー趣味と萌えを合致させた内容が男性層を中心に反響を呼ぶと同時に、作中の舞台である茨城県大洗町が本作と全面的にタイアップ。震災によるダメージや風評被害が続くこの地に聖地巡礼による活気が呼び戻されることとなり、各メディアにて大きく報道された。
前年からは週1回・5分枠のショートアニメの数も増加した。竹書房、アース・スター エンターテイメントなどが『リコーダーと ランドセル』『森田さんは無口。』『しばいぬ子 さん』『ゆるめいつ』『てーきゅう』など自社雑誌で連載中の4コママンガを次々とアニメ化。放映での人気が原作本の売り上げにフィードバックされる成功を生んだ。これは、制作面のリスク軽減を目指してきたゼロ年代の業界動向とも符合するものだった。
進化著しいデジタル技術は、効率化と複雑化の両面に恩恵をもたらした。『LUPIN the Third 峰不二子という女』『ジョジョの 奇妙な冒険』では、さまざまな前衛表現や、アニメとマンガのメディアを越境するような大胆な漫符表現にデジタルが有効に機能した。『AKB0048』『アイカツ! アイドルカツドウ!』では、手作業では難しいモブの歌唱シーンに3DCGが駆使された。逆に『坂道のアポロン KIDS ON THE SLOPE』では、要となる演奏シーンは実写を参考に作画し、一部にCGを交えつつも手作業へのこだわりが徹底された。
TVアニメの50年は、作業や予算の合理化と、新たな表現との綱引きが紡いだ歴史だ。視聴者は、画面の何に臨場感を求めるのか。手描きで作る意義は何なのか。それは半世紀の間に変化し、今後も変化していくだろう。