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窪岡俊之監督インタビュー
第2回 脚色で変えた部分、原作に立ち返った部分

── 長大な原作を再構成するにあたって、特に留意した点は?

窪岡 大河内さん自身がおっしゃってますけど、ガッツとグリフィスの物語を中心に抜き出しているので、この2人とドラマ的に関わり合いが薄いと判断したものは、カットの対象になっていきました。たとえば王妃のエピソードだったり、フォスのエピソードだったり。いいキャラだし、みんな面白いんですけどね。公開してみたら、ファンの方からの厳しい意見もありましたけど(苦笑)。

── 「どうしてあのシーンがないんだ」みたいな?

窪岡 ええ。まあ、各人、思い入れのあるキャラがいますから仕方ないですけどね。

── 原作と異なる部分ですが、第2部のドルドレイに潜入するくだりで、アドンの部下のふりをして入っていくという脚色は、スマートで見事だなあと思いました。

窪岡 あれは大河内さんのアイデアですね。あそこは三浦先生も褒めていました。

── ほかに原作から変えた部分はありますか?

窪岡 ちょこちょこはあります。比較的小さいレベルだと、合戦シーンの戦術だとか。なるべくリアルにやろうと思っていたので、そうなると原作と辻褄が合わないところも出てきてしまう。中世の戦闘に詳しい人から話を聞くと、やっぱり弓矢とか大砲とか、遠距離の武器から始まって、刀で斬り合ったりするのは最後のほうらしいんです。ただ、原作ではそうなっていなかったりする。そういうところでは原作よりもリアリティをとったりしました。グリフィスたちがドルドレイ戦で敷く「背水の陣」というのも、リアルとは少し違うじゃないですか。

── そうですね。

窪岡 ドルドレイのくだりは、大河内さんと2人でもう一捻りしたいと結構あがいたところでして、愛人だったユリウスの仇討ちを目論む王妃を絡ませたらどうだろう? とか、しばらくいじってたんです。結局、それが「すごくいいアイデア」にはならなくて。手間をかけたわりには効果もなさそうだったので、最終的には原作に沿ったかたちになりました。

── 変えようとしたけど、原作に戻したところもあったんですね。

窪岡 そうです。ただ、いたずらに変えようとしていたのではなく、プロットは変えずに、もう一味リアリティを付け加えたいという目的でした。
 ドルドレイはチューダーが間抜けに見えてしまわないか不安だったんです。ボスコーンなら素直にゲノンの言うことに従うとは思えないし、そういうところで共感を獲得できればな、と思いました。ゲノンとグリフィスの関係なんかも、わりと回り道してああなっているんです。当初、ゲノンは出てこない予定だったんですよ。

── 今回の映画には?

窪岡 ええ。ゲノンの役割を、幼いころのキャスカを襲った貴族に代弁させて、シナリオ要件を一本化しようとしていたんです。

── そうなんですか。

窪岡 元の脚本では、キャスカを襲った貴族は耳を切られるだけで、殺されてないんです。で、ドルドレイで耳のない貴族が出てきて、ゲノンの代わりの役割を担うというつながりになっていた。
 こういった役割の一本化は、たくさん色んなキャラが出入りして観客が混乱するのを避けるために行われるテクニックの一つですが、コンテを進めているうちに、いろいろ辻褄が合わなくなってることに気がついて。グリフィスを連れて来いというわりに、その後うやむやのまま終わってしまったり(笑)。シーンを長くできなかった時の弊害が出ていたんです。そこで大河内さんに相談して「やっぱり元に戻しましょうか」と。それでゲノンを復活させたんです。

── 紆余曲折あったんですね。

窪岡 で、結局はゲノンを出すことになったので、やっぱり貴族はキャスカに殺させることにした。死んで当然のキャラだと思わせたいので、逆算してキャスカに酷いことをさせたりしました。

── ゲノンとグリフィスの過去の関係も、映画では具体的に描写されませんでしたね。

窪岡 ゲノンを出すことになったので、なんとか大木のほこらのシーンで、「体を売ったグリフィス」のネタを復活させられないか考えたのですが、それを入れると、どうしてもグリフィスに興味のフォーカスが移ってしまって、キャスカの話が弱くなるんです。
 でも実は、コンテでは最初にちょっとだけカットがあったんですよ。ゲノンが浴場で美少年たちを侍らせてるシーンがありますけど、あそこでゲノンがボスコーンを怒鳴ったあと、ぐいっと酒をあおって、脳裏の映像がフッと浮かぶカットがあったんです。

── 回想シーンが。

窪岡 ええ。裸の少年が出てきて、胸から上は見えないんですけど、首からベヘリットをぶら下げているという。

── ああ、なるほど。

窪岡 そこから現在に戻って、ゲノンが横にいた小姓を抱いてホモ行為に走るというシーンにしてたんです。そしたら、あまり観たくないと言われてしまって(笑)。

── (笑)。

窪岡 まあ、そこでそういう風に見せてしまうと、グリフィスってそういう人なんだという気持ちのまま観客が見てしまうのではないかという意見もあって。悩んだ末にカットしてしまいました。今でも「やったほうがよかったかな」と思っているシーンではあるんですが。

── でも、具体的には描かずに、最後にゲノンとグリフィスのやりとりだけで分からせるところが、逆にクールだなと思いました。

窪岡 じゃあ、あれでよかったんですかね(笑)。

── 第III部では「蝕」が起きる前の部分が、わりと大胆に省略されていますね。黒犬騎士団のワイアルドとか、魔物が出てくるあたりが。

窪岡 そうなんです。原作ではずいぶんボリュームがあるんですが、クライマックス寸前にあの強烈なキャラクターを出す余裕はありませんでした。あいつの前では「蝕」もかすんでしまいます(笑)。グリフィスを鷹の団の前で晒しものにするシーンはやりたかったですけど、そのままは無理なので、グリフィスが馬車でキャスカを襲うシーンに、その要素を少し乗せてます。
 全般に、魔物の登場のさせ方については、悩みどころでしたね。OPを付けたのも、『ベルセルク』の世界観を先出ししておきたい、という意図も大きかったんです。「黒い剣士」と「黄金時代」を切り分けた結果、こちらには魔物があまり出てこなくなってしまった。三部に分かれたことでバランスも変化したため、第III部の冒頭に、何か異様なものが森で目撃されるというプロローグを後足しでつけたりしました。それ以外にずっと出てくる魔的要素というと、ベヘリットぐらいしかないんですよ。

── ああ、確かにそうですね。

窪岡 もっと魔的要素の描写を入れたかったんだけど、なかなか入れどころが難しくて。

第3回につづく

●関連サイト
『ベルセルク 黄金時代篇』公式サイト
http://www.berserkfilm.com/