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第21回 1983年(昭和58年)「週刊少年ジャンプ」アニメの黄金時代始まる

TVアニメ タイトルリスト1983年

 1983年は『キン肉マン』『キャプテン翼』を皮切りに「ジャンプ」アニメが本数を伸ばし始めた年である。
 ゆでたまご原作の『キン肉マン』は、東映動画がアニメ化。超人ヒーローものとプロレスものに、さらにギャグアニメのテイストを加えた作品であり、ドジで三枚目のキャラクターを主役にした点に新鮮味があった。登場する超人たちをかたどった消しゴム、通称“キン消し”は子どもたちの間で大流行。主演の声優・神谷明にとっても、本作との出会いは定番だった二枚目役を脱し、自身の芸域を広げることにつながった。
 高橋陽一原作の『キャプテン翼』は、土田プロがアニメ化。主人公・大空翼の活躍は未来のJリーガーたちに夢と目標を与えたのみならず、作品の人気は幅広い年齢の女性層にも波及した。特に、男性キャラクター同士の性愛をモチーフにした“やおい”同人誌の活動が爆発的に広がっていく大きなきっかけとなった。
 他にも年内には、江口寿史原作の『ストップ!!ひばりくん!』(東映動画製作)や北条司原作の『CAT’S・EYE』(東京ムービー新社製作)がスタート。「週刊少年ジャンプ」原作のアニメはますます勢いを増していく。
 ロボットアニメでは、異世界ファンタジーという新境地に挑んだ富野由悠季監督の『聖戦士 ダンバイン』、リアルロボット路線の到達点ともなった高橋良輔監督の『装甲騎兵 ボトムズ』、アニメ版「十五少年漂流記」というべき神田武幸監督の『銀河漂流 バイファム』など、日本サンライズが秀作を連発した。
 竜の子プロの『未来警察 ウラシマン』も忘れられない。監督の真下耕一、キャラデザ・作画監督のなかむらたかし、加藤茂、井口忠一らニューウェーブが腕を奮い、同社の第2次黄金期を印象づける完成度を示した。
 スタジオぴえろは『魔法の天使 クリィミーマミ』を製作。魔法少女ものと芸能界ものをミックスさせた作品であり、主演には新人歌手の太田貴子が選ばれ、現実のレコード売り上げでも成功を収めた。また、ベテラン監督の小林治を中心に、安濃高志、望月智充などの若手演出家が主人公を取り巻く日常のディテールを瑞々しく描写したことも話題となった。これは、80年代半ばに向け、青春もの、少女ものにおいて特に顕著になる傾向で、同年では、あだち充原作の『みゆき』『ナイン』にも同様の試みの萌芽が見られた。

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データ原口のサブコラム

●「ジャンプ」対「サンデー」の80年代

 60年代後半〜70年代初頭が、『ゲゲゲの 鬼太郎』『巨人の星』『タイガー マスク』『あしたのジョー』『天才バカボン』『デビルマン』などに代表される、講談社「週刊少年マガジン」の時代だったとするならば、80年代は「週刊少年ジャンプ」を擁する集英社と、「週刊少年サンデー」「ビックコミック」を擁する小学館とが、TVアニメ化を通じてしのぎを削った時代ととらえることができる。81年、『Dr.スランプ アラレちゃん』の鳥山明、『うる星やつら』の高橋留美子をそれぞれのイメージリーダーとしてスタートしたこの戦いは、82〜83年になると集英社がゆでたまご(『キン肉マン』)、高橋陽一(『キャプテン翼』)、江口寿史(『ストップ!!ひばりくん!』)、北条司(『CAT’S・EYE』)を、小学館が細野不二彦(『さすがの猿飛』)、あだち充(『みゆき』『ナイン』)をその戦陣に加えたことで本格化した。83年時点での発行部数は「ジャンプ」371万部に対して「週刊サンデー」が228万部(ともに自社発表)。80年代を俯瞰すると、総じてアニメ化された作品数、部数の双方において集英社が小学館をリードし続けたといえる。だが、バトル色の強い「ジャンプ」アニメと、ラブコメ色の強い「サンデー」アニメには、自ずと絵柄やジャンルの棲み分けがあり、両者は互いに相手にはない特色を有していた。どちらかが欠けても補うことができない、バランスのとれた好敵手だったともいえるのだ。

●アニメソング歌手の変化

 アニメソングの傾向に変化が生じるのも、83年前後を飾るトピックスのひとつだ。70年代を独占していた日本コロムビアのアニメソング・シンガー、水木一郎、ささきいさお、堀江美都子、大杉久美子らがゆるやかにその担当曲数を減らす一方、一般のポップス歌手やロック・シンガーが楽曲を担当するケースが増えていく。
 H2Oの「想い出がいっぱい」(『みゆき』のエンディング)や杏里の「CAT’S EYE」(『CAT’S・EYE』オープニング)のように、作品から独立した形でその主題歌がヒットし、歌手が「ベストテン」などの歌謡番組で上位にランクされて出演する、というパターンも83年から登場してくる。
 82年の『超時空要塞 マクロス』や83年の『魔法の天使 クリィミーマミ』などは、ヒロインが作品中でもアイドル歌手という設定であり、それを演じる声優にも、新人歌手である飯島真理や太田貴子が起用された。彼女たちが劇中で歌う楽曲が、そのまま現実のレコード業界でも同名曲としてリリースされ、好調な売れ行きを示した点は注目に値する。その理由のひとつとして、楽曲の歌詞内容が、仮にアニメ本編の設定を知らなくても成立するような、一般性と普遍性をもっていたことが挙げられるだろう。
 これは、83年を境界として、アニメソングと通常のポップスとの間の垣根がなくなっていくことを示している。そのことは、固有名詞や必殺技を歌い込むような伝統的なアニメソングが徐々に作られなくなる、という変化をも意味していた。80年代後半になると、『CITY HUNTER』のEPIC・ソニーや『きまぐれ オレンジ★ロード』の東芝EMIのように、各レコード会社が新曲をプロモーションする際のショーケースとして、アニメのオープニングやエンディングの枠を活用するまでに変化するのだ。