第44話「初めての敗北」
冒頭、また飛行機——そしていきなりのゴンドラマルチでのT.U(手前の飛行機をカメラ前につけたゴンドラにのせて遠景にT.U[トラック・アップ]……出崎演出の特徴的技法のひとつ)です! アメリカ・南米・ヨーロッパをまわって日本へ帰るジェット機内で、飛鳥拳はある男に逢います。ま、あっさりネタバレしますが、その男は香港で太極拳の達人・陳老人に習う弟子(カオ)で、飛鳥に「空手より太極拳の方が強い!」とカマをかけて師匠・陳と闘わせようとするんです。で、案の定、香港に立ち寄る飛鳥。さらにネタバレですが、飛鳥は珍と闘い(敗北し)、最終的に師匠のもとに帰ってきたカオと対決します。クサい。クサいです、この展開。多分これ出崎さんお得意の「シナリオ使ってない展開」かと……憶測です、憶測! だって導入でたまたま隣の席に座った男がラストの対戦相手だったって、いかにも出崎作品らしいドラマチックでハードボイルド展開だし、少なくとも崎枕コンテ話数以外の『空バカ』では一切見られませんから。ちなみにライター(脚本家)さんも他話数に普通にローテーションで入ってる方なんです……て事は出崎コンテオリジナルか? と。話は盛大に逸れますが、以前とある企画(現在凍結中なので発表はされてません)でご一緒したライターさんが「前に自分の脚本が出崎コンテになった事がある」と仰ってて、その方いわく「出崎さんはヒドいですよ、Bパート(後半)まるまる使わずオチ(ラスト)が全然違うんだもん!」……らしいです。しかもその作品は出崎さんが監督ではなかったらしく、つまり出崎さんはコンテのみ参加の作品でも——たとえそれが1本のみでも取り組む姿勢はいつも
俺のコンテだ!!
なんでしょう。そこから考えても『空バカ』における崎枕コンテ3本が、全47話中最も際立ってるのは当り前なわけ。
その他「初めての敗北」では、中盤、陳老人と飛鳥の対決で、その後の出崎作品『B.B』(原作・石渡治[1990〜1991年])の第2巻と同じ、出ました
「円」の動き!
です。キレのあるアクション演出はこの1970年の作品ですでに確立してるのです、出崎統という天才は!
で、ラスト、飛鳥はカオと対決——「円の心」を思い出しカオを倒します(ここはなんとなく黒澤明監督の「姿三四郎」[1943年]を模してるっぽい)。倒したあと、すぐにジェット機内の飛鳥に(カメラを)振るのがクールでこれまたカッコイイんです。そこに被るナレーション
陳老人は言った——「世の中に本当に強い男がいるとしたら、それは敗北から立ち上がり龍になる男だ」と!
俺もそう思いま——
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