原作・久米田康治、作画・ヤスによるコミックをアニメ化したTVシリーズ『じょしらく』が、MBS・TBSほかにて好評放映中だ。落語家を生業とする5人のヒロインが、高座が終わったあとの楽屋で延々繰り広げるトークをひたすら描くという斬新なエンタテインメント作品である。監督はホラーからギャグコメディまで、幅広いジャンルを手がける水島努。キャラクターデザインは『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の田中将賀が担当。現在、制作まっただ中の水島監督に、アフレコ終了直後にお話をうかがってきた。
PROFILE
水島 努(Mizushima Tsutomu)
1965年12月6日生まれ。長野県出身。1986年、シンエイ動画に制作進行として入社。『美味しんぼ』で初演出、その後『クレヨンしんちゃん』TV&劇場版シリーズに参加し、『ジャングルはいつも ハレのちグゥ』で監督デビュー。2004年にフリーとなり、以降は『xxxHOLiC』『おおきく振りかぶって』『ケメコデラックス!』『よんでますよ、アザゼルさん。』『侵略!?イカ娘』『Another』など、多彩な作品を手がけている。
取材日/2012年8月1日 | 取材場所/東京・プロセンスタジオ | 取材/岡本敦史、小黒祐一郎 | 構成/岡本敦史
── 水島監督が今回の作品に参加されたきっかけは?
水島 きっかけは、他の作品と同じように「監督をやりませんか」と声をかけていただいたのが始まりでした。今回の場合は、講談社さんのほうから「今、こういう作品をキング(レコード)さんと進めているんですけど、ご興味ありますか」という感じで、お話をいただきました。だから、特に劇的なことはありません(笑)。
── その時点で原作のことはご存知だったんですか。
水島 ええ、知っていましたし、普通に読者として面白く読ませてもらっていました。でも、アニメ化するのはなかなか難しい内容だと思っていたので、特に自分から「これはやりたい」と動いていたわけではないです。
── アニメ化は難しいと思われていたのは、どのあたりで?
水島 やっぱり、楽屋の中から全然出ない密室劇であるという点ですね。ドラマCDならありなのかな、とか思っていました。
── 監督を引き受けられて、まずどう料理しようと思われましたか。
水島 何かしら工夫はしないといけないな、とは思っていました。ただ室内でロングの1カットで会話しているだけでは成立しにくいですから。あと、原作ではキャラクターの服装が変わらないので、アニメではたまに衣装を変えたいな、と。
── アニメ版ではBパートがオリジナル編で、私服のキャラクターたちが楽屋から出て町に行くという趣向になっていますよね。あのアイデアはいつごろ出てきたんですか。
水島 かなり最初のころから決めていました。どちらかというと、服を変えたいから外に出た、という発想のほうが近いかな。で、どうせなら東京の名所っぽい所を回ろうと。
── あ、それで浅草とか、東京タワーとか、お台場とかに行くんですね。
水島 そうですね。後半はちょっと変わったところにも行きますけど。
── 原作者サイドや、プロデュース・サイドから、「ここは変えないでほしい」「ここは守ってくれ」みたいな注文はあったりしたんですか。
水島 いや、特になかったです。原作の中で実名が出てきたりするものの一部は隠さなきゃいけないとか、それぐらいですね。久米田(康治)さんからは特に何も言われていません。だから、すごく楽でした。
── そもそも、落語はお好きだったんですか。
水島 好きですよ。ポッドキャスト落語とかは大好きで、よく愛聴しています。でも、実際に寄席へ足を運んだのは2~3回かな。だから、落語は好きだけど大ファンかというと、それはおおげさかも。
── じゃあ、選択肢として「本格落語アニメを作る」という可能性は……。
水島 申し訳ないけどそれはなかったですね、全く(笑)。高座での落語をそのまま見せるとなると、どうやってもアニメ作品として敷居が高くなりすぎるので、それは考えていなかったです。ただ、ちょっとは高座のシーンを見せたいとは思ったんですよ。彼女たちが落語をしている場面が少しあるだけで、仕事を終えた人たちの話であるというのが視聴者に伝わるだろうと思ったので。そういうアクセントとして、落語のシーンを入れています。
── あくまで、落語家を職業としている女の子たちの話であって、女の子がメインであると。
水島 そうですね。
── とはいえ、原作よりもアニメは落語テイストが感じられるようになってますよね。やっぱりAパートとCパートの冒頭で、高座のオチを見せるという構成が効いていると思います。
水島 彼女たちがどんな落語をやってるのか分かるといいな、と思って。ほんの数カットでもいいからあると違うのかな、と。
── わりと自由に毒のあるネタも乗せられる、水島監督としては得意なジャンルの作品でもありますよね。
水島 いつもそういう方向に話を振られがちなんですけど、今回は基本的に「女の子を可愛く描く」ことが大前提なんですよ。まずその目標を達成できてからの話なので、むしろネタに関してはやりすぎないように気をつけています。とはいえ、ブラックな小ネタとかを考えるのって楽しいんですけどね。だけど『じょしらく』は断じてそっちの作品ではない、というつもりで作ってます。
── なるほど。
水島 「うそつけ!」って言う方もいらっしゃるかもしれませんが(笑)。私としては、きちんと萌えアニメとして作ろうと思っています。
── キャラクターを売っていく作品である、と。
水島 そういうことですね。キャラクターを可愛く見せてあげる作品にしたい。だって、可愛い女の子が変なことを言ったりやったりするからギャップが生まれるわけで、可愛く感じられないキャラクターがおかしなことを言ったって、しょうがないじゃないですか。
── 変なことをしすぎても、ダメなんですね。
水島 その「変」のレベルをどこまで持っていくかによると思いますけど。とにかく、可愛いという部分に関しては、今回は崩さないつもりです。
── 先ほど「室内劇なのでアニメ化は難しい」とおっしゃっていましたが、映像作品としてどう作るかのプランはあったんですか。
水島 ちょっと不安ではありましたね。ホントにひたすらしゃべっているだけなので、はたしてもつんだろうか、と。正直、その辺については勝算もないまま突っ込んでいった感じですかね(苦笑)。選択肢としては、イメージのカットやカメラワークを多用する、というやり方はあると思うんですよ。だけど、そっちじゃない方法でなんとかできないかな、と思っています。もちろん、時々イメージのカットも入れてはいるけど、あまり増えすぎないように注意しています。
── 確かに、それほど奇をてらった絵作りやイメージの飛躍はないですよね。
水島 ええ。イメージシーンを入れるくらいなら、女の子の顔を出したいですから。今回、きついデフォルメも全く入れてないんですよ。
── なるべくナチュラルに。
水島 そうですね。いきなり不気味な劇画タッチになったりするのは、この作品の目指す方向ではないだろうと思いますし。とにかく私の考える範囲での「萌え」でありたい、と。
── 演出のコンセプトとしては「リズム」?
水島 リズムというとかっこよすぎるんで、やっぱり「ダラダラした会話を飽きずに聴いてもらえたらいい」というぐらいですかね。
── キャラクターデザインの田中将賀さんとは、今回が初顔合わせですか。
水島 ええ。アニメーション制作のJ.C.STAFFさんが一流のスタッフを固めてくれて、田中さんにお会いしたのも今回が初めてでした。私としては非常に有り難かったです。
── かなり原作に忠実な絵になっていますね。
水島 そうですね。正直言って、私の中では原作の絵を忠実に再現する以外の選択肢は持っていませんから。例えば原作が何十年も前の作品だったら、現代風にアレンジするみたいなこともありうるでしょうけど、今現在やっている作品だったら、基本的には忠実な絵でやりたい。それは今回の『じょしらく』に限らず、他の作品でもそうです。
── SDキャラが踊るエンディングがすごく可愛いですよね。あれは作監の大木良一さんの画ありきで考えられたものなんですか。
水島 原作にも、SDのデフォルメが出てくるんです。その絵に合わせて大木さんにやっていただきました。
── 作画もよく動いていて楽しいです。
水島 枚数かかりましたから(笑)。最初は、スケジュールもなかったので、止めでいこうと思ったんですよ。
── え、そうなんですか?
水島 でも、上がってきたエンディングの音楽(桃黒亭一門「ニッポン笑顔百景」)がすごく元気のある曲だったから、これは止めにはできない。「悪い! ちょっとだけ動かさせて」とJ.C.に頼み込んで、ああいうかたちになりました。当然「ちょっとじゃねえじゃん」っていう総ツッコミが入りましたけど(笑)。オープニングよりも枚数かかっちゃいました。
── オープニングは非常にオーソドックスですよね。
水島 今回は、何度も言うように「女の子を可愛く見せる」というのが大前提でしたから。オープニングは下田(正美)さんに作っていただきました。俺じゃなくてよかったな、と思いますね(笑)。
── それはどうして?
水島 自分でやるとギャグに逃げてしまうと思うんです。そういうのはナシで、きちんと「可愛さ」がブレないOPを作っていただいて、よかったと思います。
── 女の子をひたすら可愛く描くというのは、監督にとってはチャレンジなんですか。
水島 何回かやってるけど、あまりうまくいってなくて……(苦笑)。というか、自分にとってのチャレンジ云々ではなく、もっと自然体で可愛く女の子を描きたいんです。それができないと、仕事がこなくなっちゃうんじゃないかなって。
── 他の監督さんは、わりと「これは萌えアニメじゃなく、青春ドラマなんです!」とか「普遍性のある群像劇なんです!」とか言いがちだと思うんですけど、ここまではっきり「これは萌えアニメです!」と断言するのは新鮮でした。
水島 いや、きっと皆さん「萌え」に自信があるんですよ。自分がこれだけ熱心に言うってことは、自信がないのかなあ?
── (笑)。
水島 シナリオ会議なんかでも、どうしても小ネタに走ってしまうんですよ。今回はアニメ系のネタも入ってくるので、楽しいからどんどん膨らんでいっちゃう。で、膨らませるだけ膨らませて、ハッと我に返るんです。「そうじゃないよな」って。だから、常にブレずにいたいと自分自身に言い聞かせています。
── 観る側としては、この先どんどんシュールギャグに走っていくんじゃないかという予感を持ちながら観ていると思うんですが。
水島 どうなんでしょう? 皆さんそれを期待されてるんですかねえ……自分ではそんな気がしないけど。まあ、ネタに関してはみんな無責任に「もっとやれ、もっとやれ」って言うわけでしょう。でもその手には乗らないよ、と(笑)。実際、怒られるのはこっちですからね。
── シリーズ構成は、水島作品とは縁の深い横手美智子さんですね。1~3話のシナリオが横手さんで、4話が吉田玲子さんでしたっけ。
水島 そうです。で、5話がまた横手さん。
── お2人のローテーションで今後も続いていくんですか。
水島 そうですね。後半、1本だけ私が書かせてもらっています。さっきアフレコしていたのは私の脚本回なんです。
── あ、そうなんですか。ちらっと映像を見ましたが、Bパートですごいところへ行ってましたね(笑)。
水島 ええ、舞台が例の街なので、その聖地といえばあそこですから。
── オリジナルのBパートは、毎回スムーズに書けているんですか。
水島 ええ、シナリオ会議にも全然時間がかからず、スムーズに進んでいますね。
── 作っていていちばん楽しいところとか、やりがいを感じるところは?
水島 今は楽しさを味わうまでの余裕はないです(苦笑)。ラッシュチェックでキャラが可愛いまま見られると、やっぱり嬉しいですね。「よかった、崩れてない!」って。あとは「納品できたー!」とか「上からリテイクこなかったー!」とか、そういう小さいことにしか喜びを見出せていないですね。
── (笑)。アフレコは結構、時間がかかりますか。
水島 いや、収録時間はだんだんと短くなってきていますよ。何しろ台詞の量が多い作品なので、1~3話ぐらいまではどうしても時間がかかってしまったんですが、どんどん短縮されてます。皆さん、さすがに器用というか、すばらしい適応力ですね。
── ひたすら掛け合いだけで乗り切る作品ですもんね。
水島 間も一切とっていないから、大変だと思います。カットが変わったら、一拍おいたりしないで、すぐに台詞が始まっちゃいますから。
── 監修にクレジットされている林家しん平師匠は、どういう関わり方をされてるんですか。
水島 しん平師匠には、新宿の末広亭にうかがって、ホントに落語のいろは中のいろはを教えていただいたんです。どれだけ初心者レベルだったかというと、前座は羽織を着ないとか、「お後がよろしいようで」という言葉は落語では本来使わないとか、そういう落語の基礎知識から教えていただきました。
── ああ、確かに普通は「お後がよろしいようで」とは言わずに、オチを言ってお辞儀するところで終わりますよね。
水島 あれは、後ろでちょっとドタバタしていて、次の人の準備ができていないときに使う言葉らしいんです。で、準備が整ったのを確認できたところで「お後がよろしいようで」といって高座から降りる、と。
── なるほど。本格落語アニメではないにせよ、落語の基本に忠実に作っているわけですね。
水島 ま、とことん忠実ではないですし、詳しい方が見たらツッコミどころはたくさんあると思いますよ。ただ、ポイントとして押さえたいところではあります。
── 末広亭ではロケハンもされたんですか。
水島 ええ、しました。すごく勉強になりましたね。楽屋側から高座に上がるところも見せてもらえて。
── 1話の冒頭で、舞台裏の光景も出てきますね。
水島 あそこはロケハンで撮ったビデオをもとに、忠実に再現しています。ただ、先輩方に「お先に勉強させていただきました」という時のお辞儀の仕方は、ちょっと違うんですけどね。本当はきちんと手をついて礼をするんですけど、そこは少し端折りました。
── それでは、そろそろまとめに入りたいと思います。今後の展開に向けて、意気込みなどはありますか。
水島 放送は中盤まで来ましたが、このダラダラした感じが最後まで続きます。もうメリハリも何もなく(笑)。このダラッとした感じを最後まで楽しんでいただければな、と思います。
── 今回ばかりはダラダラッとした感じで終わっても一向に構わない?
水島 それはもう全然。今回は、いろんなところで言っていますけど、お酒のおつまみとして観てもらう感じで十分だと思いますし、それが理想的なんじゃないですかね。ただ、できればもうちょっと話題にはなってほしいとは思いますよ。アニメ誌も全然取材に来てくれないし(涙)。
── いやいや、水島監督は「萌え」もいける! ということを世間に知らしめる作品になりますよ。
水島 いけるといいですけど。ま、なんとか踏み外さないようにしつつ、全く毒っ気がなくならないようにも気をつけます。それはそれで、魅力を損なうことになりますから。
── 何しろ第1話から作品中で謳ってるわけですからね(編註:劇中のテロップ「このアニメは女の子のかわいさをお楽しみいただくため邪魔にならない程度の差し障りのない会話をお楽しみいただく番組です」のこと。原作にも登場するテロップをアニメ用にアレンジしている)。
水島 あれは決して免罪符のつもりで入れたわけじゃなく、本心なんです。
── 実際、女の子たちはみんな可愛く描かれてますよね。しかも、特に誰かの影が薄くなったりすることもなく、みんな均等にキャラが立っている。
水島 「均等になるように」というのは、すごく気をつけてるんです。やっぱり、作っているほうとしては5人とも愛着があるので、みんなそれぞれ人気が出るといいな、と心から思いますね。
── 今回、一般向けのテイストもありますよね。
水島 アニメの好きな人にも観てほしいし、ちょっと変わったものが好きな人、コミカルなテイストが好きな人はもちろん、普段アニメを観てない人にも観てほしい。どの作品にも言えることなんですけどね。
── どの作品も、幅広い層に観てほしいと思って作っている?
水島 それはもう、昔からそう思ってやってますね。アニメ村みたいなところで狭く固まっちゃったら、なんかつまんないじゃないですか。
── 確かに『おおきく振りかぶって』なんかは、一般の視聴者も、いろんなタイプのアニメファンも楽しめる作品でしたもんね。
水島 そうですね。野球好きの人や、実際に野球部に入ってる人にも夜更かしして観てほしいと思ってましたから。そんな感じで『じょしらく』も広げていきたいですね。たまたまTVをつけて観ちゃった人が気にしてくれたりしたら、こんなにありがたいことはないです。
── 後半も期待しております!
水島 ありがとうございます。頑張ります!
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