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第5回 1967年 本格的ギャグアニメの挑戦と挫折

TVアニメーション タイトルリスト1967年

 1967年は、怪獣ブーム全盛のなか、ギャグ&生活コメディアニメが質・量ともに連作された年である。

 1月よりフジテレビ系で虫プロの『悟空の 大冒険』、7月よりNET系で東映動画の『ピュンピュン丸』がスタート。どちらも、スラップスティックギャグを志向した意欲作だった。杉井ギサブローがチーフディレクターを務めた『悟空』では、不条理すれすれの“笑い”に挑戦。同作が『鉄腕アトム』の後番組だったことは、SFからギャグへの移行という時代の流れを感じさせるものでもあった。しかし、春には裏番組に異色のヒーローもの『黄金バット』が出現して視聴率は下降。『ピュンピュン丸』もまた、ナンセンス時代劇という新境地を開拓して健闘したものの、同じく視聴率は伸び悩み、全26話のうち12話で打ち切りという結果に終わってしまった。これら2作の苦戦は、純度の高いギャグアニメは日本では受け入れられにくいのでは、という懸念を残すことともなった。一方、『オバケのQ太郎』を踏襲した、日本を舞台とする生活コメディは着実にその根を下ろしつつあった。放送動画制作の『かみなり坊や ピッカリ★ビー』、ピープロの『ちびっこ怪獣 ヤダモン』、竜の子プロの『おらあ グズラ だど』などがそれで、怪獣ブームの影響も巧みに吸収しながらその作品数を伸ばした。

 4月にはエキゾチックな彩りを添える2作も登場した。虫プロの『リボンの騎士』は、剣と魔法のファンタジー、戦う男装のヒロインなどの新味により、『サリー』とは別の角度から少女アニメの地平を広げることに成功。竜の子プロの『マッハ GoGoGo』はカーレースアニメの元祖。吉田竜夫のアメコミ風キャラクターとアクション、シャープなメカニックなど、同社カラーを特徴づける諸要素の出発点ともなった。

 同年は、海外との共同制作という面でも特筆すべき作品が生まれた。東映動画はアメリカのヴィデオクラフト社からの受注で初の合作を経験。前年末の特番『世界の王者 キングコング大会』に続き、TVシリーズ『キングコング』と『001/7 親指トム』を製作した。第一動画は逆に、韓国のTV局・東洋放送と協力し、作画、仕上、背景などの作業を同国へ発注しながら『黄金バット』を製作。これは65年6月に日韓の国交が正常化したのを受けて始まったプロジェクトであり、以後連綿と続く日韓のアニメ協力関係の起点ともなる出来事だった。

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データ原口のサブコラム

 『ハリスの旋風』第53話は、主人公・石田国松と弟のアー坊が『怪人アメラグ』『怪獣ゴドラ』という裏同士の怪獣番組を巡ってチャンネル争いをするシーンで始まる(1967年5月4日放映「アメラグの卵」)。アメラグは類人猿タイプ、ゴドラは爬虫類タイプの怪獣で、それぞれキングコング、ゴジラを連想させるデザインだ。
 『魔法使い サリー』第51話では、サリーの魔法の力により、親友・よっちゃんが天国で亡き母と再会する。編みものが得意だった母は、天国で雲を編む仕事をしていた。明日の雲はどんな形がいいか尋ねる彼女に、よっちゃんは「弟たちは怪獣が大好きよ」と告げる。翌朝、子供たちの頭上には、怪獣によく似た大きな白い雲が浮かんでいた(1967年11月20放映「おかぁちゃん の 匂い」)。
 どちらも、怪獣ブーム華やかな当時を感じさせるエピソードである。しかも、怪獣とは一見縁がなさそうなジャンルのアニメ(スポーツものや少女もの)にまで登場していることが、逆に影響力の大きさを物語っている。
 アニメと特撮怪獣番組は、同じ子供の視聴者をターゲットとしている点でライバル同士だった。と同時に、両ジャンルには、映像の特性からくる長所と短所、得意分野、不得意分野があった。そこが共存の鍵でもあった。
 一言でいえば、セルアニメは“絵”であるのに対し、特撮は“実写”である。その手法の差は、映像の質感の差へとつながることになる。空想上の生き物やメカニックを登場させる場合、セルアニメはシンプルな線と平板な彩色になってしまう弱点がある。それに対し、特撮は着ぐるみやミニチュアなどの造形物を実際に作って撮影しており、その“現実味”が映像にもたらす質感、触感の差は歴然としていた。
 1967年を境にSFアニメが激減した理由として、このような特撮番組からの影響を無視することはできない。SF分野については、むしろ“アニメ”よりも“特撮”のほうが映像ジャンルとしての適性があったからだ。SFに対する子供たちのニーズは決して退潮したのではなく、“怪獣もの”という特化された形で存続し、その舞台をアニメから特撮へと移したのだ、と考えるのはどうだろうか。
 一方、セルアニメが得意としたのは、デフォルメや象徴性が生かせる分野だった。同時期、『オバケのQ太郎』『おそ松くん』などギャグ、生活コメディがTVアニメの世界で隆盛を迎える陰には、このようなアニメ⇔特撮の棲み分け、共存の動きも大きく関係していたと思われる。
 『おらあ グズラ だど』『ちびっこ怪獣 ヤダモン』は、“怪獣”からシリアスな実在感、質感の要素を抜いて思いきりデフォルメすることでセルアニメに馴染ませ、さらにTVアニメが得意とする“生活コメディ”の世界で主役を演じさせた、という二重の意味で実に67年らしい2作品だった。ちなみに主役ではないが、『ピュンピュン丸』にも「怪獣ゴロゴロン」(第3話)「ドテドテ怪獣騒動」(第7話)「怪獣ちゃんを 捨てないで」(第17話)など、ギャグ怪獣がゲスト出演するエピソードがある。
 一方、現実味が売りもののはずの特撮番組にも、マンガやアニメの生活コメディものから影響を受けたと見られる作品が登場する。円谷プロの『快獣ブースカ』(66年11月〜67年9月)が典型で、イグアナが人間大へと変異したブースカは、造形も大きな縫いぐるみといった印象で可愛らしく、特撮ファンタジーものとしての独特の空間を現出させることに成功した。ただし、当時の円谷プロスタッフの証言によると、ブースカ誕生のルーツには、『ウルトラQ』第15話「カネゴンの繭」(1966年4月20日放映)があるとのことで、オバQ→カネゴン→ブースカという流れでとらえたほうが自然なのかもしれない。同様に、特撮番組における生活コメディものとしては、東映テレビ部製作の『丸出だめ夫』(66年3月〜68年2月)『忍者ハットリくん』(66年4月〜66年9月)の例があり、むしろアニメ向きな題材があえて実写ドラマ化されている点が面白い。さらに『ハットリくん』の続編『忍者ハットリくん+忍者怪獣ジッポウ』(67年8月〜68年1月)では、怪獣ブームのど真ん中ということもあり、相棒としての怪獣ジッポウがレギュラーとして登場している。つまり、67年当時は、ファンタジー的な要素がブレンドされた生活コメディものに関しては、アニメと特撮との間にグレーゾーンが存在し、どちらの映像メディアも歩み寄りつつ競作していた、という状況が見えてくる。そのグレーゾーンを、グレーゾーンそのままに映像化した特徴的な作品もある。実写とアニメの併用作品『コメットさん』がそれで、ここには実写、セルアニメ、人形アニメのすべてが混在。しっかり怪獣ブームの影響も受け入れた上で、人形アニメで動くマスコット怪獣のベータンがレギュラー出演していたこともつけ加えておきたい。

(12.07.03)サブコラム追加