1965年は、国産初の本格的なカラーTVシリーズ『ジャングル 大帝』が放映開始された年である。
原作は手塚治虫による同名作品。スポンサーは、自社製カラーテレビを発売し、その普及を目指していた三洋電機だ。製作を手がけた虫プロは、継続中の『鉄腕アトム』から大量のスタッフを分離編成。テレビ受像器を通じてフィルムの色がどのように映るのか、数々の検証を行いつつ1年以上の期間をかけて周到に制作を進めた。山本暎一がプロデューサーと総監督を兼任し、漫画家として多忙な手塚の管理からは独立しつつ、制作全般を統括した点でも本作は画期的な試みだった。一方、手塚は自らが陣頭指揮できる作品として、残ったスタッフを集めてオリジナル作品『W3』を企画。同作は『ジャングル 大帝』よりひと足早く、6月に放映開始している。手塚はほかにも、毎週1時間のシリーズ『虫プロランド』を企画準備していたが、第1話「新宝島」が完成したのみで中断。同作は1月3日に放映され、結果的にこれがTVアニメ初の1時間スペシャルとなった。
5月からはフジテレビで、竜の子プロダクションの記念すべき第1作『宇宙エース』の放映がスタート。同社の設立は62年。挿絵画家&漫画家として知られる吉田竜夫が、弟の吉田健二、九里一平らとともに立ち上げた原稿執筆のための工房だった。『宇宙エース』も当初は、東映動画第3作として企画され、竜の子プロはあくまでも原作提供と制作一部下請けという範囲での関与を予定していた。だが、権利関係をめぐる交渉が暗礁に乗り上げたことから制作は中断。吉田は『宇宙エース』の企画を引き上げ、あらためてスタジオを建設しつつ自社製作を決意した。この時点から、竜の子プロはアニメ制作会社としての新たな第一歩を記したのである。
一方、東映動画は『宇宙エース』に代わる企画として、養成スタッフをそのまま起用して『宇宙パトロール ホッパ』を製作。TCJもまた若手SF作家たちを脚本に参加させつつ『未来からきた少年 スーパージェッター』『宇宙少年 ソラン』『遊星少年 パピイ』など諸作品を送り出し、『鉄腕アトム』に始まる“SF少年ヒーロー物”は全盛を迎えることになる。ただし、8月には東京ムービーが第2作『オバケのQ太郎』をTBSより放映開始。生活コメディ物の元祖となる作品が、同じ年に風穴を空けるように産声を上げた点は注目に値する。
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データ原口のサブコラム
『ジャングル 大帝』について、あえて「本格的な」という語句を挟んだのには理由がある。実は本作以前にも、1965年4月4日からフジテレビで放映された『ドルフィン王子』の例があり、実質的な最初のカラーTVアニメ“シリーズ”は同作だと思われるからだ。ただし『ドルフィン王子』はカラー実験放送という名目があり、しかも3週放映されたのみ。対する『ジャングル 大帝』は全52回。シリーズとしてまるまる1年放映したという実績があることと、後年に到るまで虫プロやフジテレビが「初のカラーTVアニメ」という肩書きで同作を紹介しているため、ここではその意向も尊重しつつ、正確を期する意図で「本格的な」という表現を足してみたわけだ。ちなみに、当初は全3話だった『ドルフィン王子』も、後に66年に『がんばれ!マリンキッド』へ、69年に『海底少年 マリン』へと改題され、順次エピソード本数も追加されて最終的に全78話の堂々たるシリーズへと成長している。むしろ、初回放映版の『ドルフィン王子』のみが、フィルム原版ともに幻の存在となってしまっていることが残念だ。
なお、シリーズでなく単発のカラーTVアニメという範囲に拡大すると、その最初はもっと遡ることになる。
まず、1958年10月にはすでに、カラーTV用テスト作品『もぐらのアバンチュール』の放映事例がある(1963年のコラムを参照)。同作は“テスト”という名目上、カラー信号で送信されていた可能性が否定できない。ただし、国産カラーTV第1号が東芝より発売されるのは60年7月なので、仮にカラー放送だったとしても、一般家庭が同番組をカラーで視聴することはほぼ不可能だったに違いない(輸入品の受像器を購入し、感度の高いアンテナを立てて視聴した場合はこの限りではない)。
62年11月にNHK教育テレビで放送された実写+アニメ合成作品『銀座の山賊』もカラー制作だったことが判明しており、同じように放送もカラーだった可能性がある。
63年10月と12月にそれぞれ放映開始されたTV用人形アニメシリーズ『ピノキオの冒険』『シスコン王子』も本来はカラー制作だが、当時の新聞の記載を確認する限り、オンエアはモノクロだったようだ。
64年1月25日放映の『鉄腕アトム』第56話「地球防衛隊の巻」もまた、実験的にカラー制作されているが、同じく初放映時はモノクロ。この「地球防衛隊の巻」のカラーフィルム版はその後、64年7月公開の劇場映画『鉄腕アトム [宇宙の勇者]』のなかに組み込まれる形で一般公開され、後年『鉄腕アトム』がビデオやDVDでソフト化されることで、普通に視聴できるようになった。
64年の『少年忍者 風のフジ丸』は、6月7日の第1話のみカラー制作されたという変わり種だ。これまた、本放映時はモノクロだったが、ビデオソフト黎明期にこの第1話のみが収録された高価な商品として発売されており、マイナーな形だが一般公開されている。その後も、80年代半ば以降にビデオ、LD、DVDの各形式で発売された「主題歌集」の中にも、オープニングやエンディングのみは収録され、視聴が可能となっている。気になるのは、64年7月21日に「まんが大行進」の1本として公開された『フジ丸』の再編集劇場版「謎のアラビヤ人形」のオープニングだ。内容的には、第1話を含む初期話数の再編集版であるため、この時点で、もしかしたらカラー上映されていた可能性もある。
(12.06.25)サブコラム修正
(12.07.31)サブコラム修正2稿