COLUMN

第115回 得られてきたいくつかの結果

 2015年3月9日(月)午前11時を持ってスタートしたクラウドファンディングは、81日間のスケジュールのうちまだ最初の1週間が過ぎたところなのだが、ひじょうにありがたい経過をたどっている。これについては、なるべく早い時期に、製作委員会と監督との連名でメッセージを出せるように図っているところであり、このクラウドファンディングについていただいたいろいろなご質問にもその場をお借りして応えられることになるのだと思う。
 いましばらくお待ちください。

 広島方面の識者の方から、
 「レイアウトに描かれている海苔作りの梯子が6段になっているが、ほんとうは7段のはず」
 というご指摘をいただいた。
 実は、わかっていつつ手抜きをしてしまっていた。パースをつけて作画する都合上、「7等分」というのがやっかいなので、まだしもの「6等分」にしてしまっていたのだ。
 ご指摘いただいて、やっぱりごまかしたらいかんなあ、と我々も反省し、「8等分」した上でその1段を半分切って梯子の脚にする、という方法を編み出してみた。ひょっとしたらこっちの方がより描きやすいかもしれない。
 中島本町の大正屋呉服店、大津屋モスリン堂を描いたカットのスチールをヒロシマフィルドワークの中川幹朗先生にあずかっていただいて、これまであの町のことを色々と教えてくださった方々に見ていただいている。おおむね、ご満足いただけているようで、ありがたい。繰り返し繰り返しレイアウトを見ていただいて、ようやくここまでたどり着けた。
 ただ、みなさんご高齢なので、家から出歩くこともままならなくなってしまった方が多くなっているとのこと。なるべく早く冒頭のエピソードの映像を作り上げて、DVDに焼いてご自宅に持ち込んででもご覧いただかなくては、と心に誓う。
 その中川先生は、お仕事の勤め先がたまたま江波にあり、江波の漁協や商店、なかんずくお好み屋さんを回っては、この映画のポスターやクラウドファンディングのチラシを貼っていただいているとのことで、徐々に「江波の映画」にもなってきつつある。
 中川先生にはどんなにお礼を述べても述べつくせない。

 考証的に最初からの懸案だった、「M69焼夷弾の空中着火問題」は、もともとは『火垂るの墓』のとき高畑勲さんが演出助手に「空中着火のメカニズムを調べてこい」といってきちんと調べられなかった、というところが原点みたいなものでもあるのだが、結果的にいうと、
 「空中着火装置は存在しない」
 ただ、焼夷弾の筒の何かに何らかの火が引火して、弾着前から炎を発してしまう「事故」が多々あったのはまず間違いない。
 色々考えた末にこのへんを結論としようと思ったのは、何に何の火が引火していたのかという問題は、ひとつに答えを絞りきれるものではなくて、複数の回答が同時存在し、要するに色々な形の「事故」が空中で起こっていたのではないかということだった。
 集束焼夷弾のクラスター丸々ひとつ分の焼夷筒が全部筒体の尻から炎を発して落下している写真があって、これなど弾体から漏れ出た油脂にクラスターを強制開束させる爆薬の炎が引火したのだと考えるのがよさそうだ。ガソリンをジェルにした油脂(ナパーム)は、製造時には素手で詰めていたらしく、詰めすぎたときにはまた人の手でほじりだして均すようなこともしていたらしい。気化しやすいガソリン成分のものが十分に密閉されていたとはいい難い。この場合は、焼夷弾が尻に引きずっているリボンではなく、筒体の尻自体が炎を放つ。
 そのほか、弾着後にナパームを発火させる信管の安全装置が、ものすごくいい加減なものだったことも分かった。筒体から飛び出たボタンを押した状態で安全装置がかかり、ボタンが押されなくなったら撃発可能となる。で、何でこのボタンを押していたかというと、となりの筒体なのだった。クラスターに束ねられている状態では全部の筒のボタンが押されていて、いったん開束すると衝撃次第でいつでも炎を吹き出す状態になる。空中で焼夷弾の筒体同士が接触すれば、たちまち空中着火してしまう。このケースでは、たぶん、近所で炎がついたナパームをぶちまけられた周囲の焼夷弾のリボンが燃えたのではないか。
 高畑さんの『火垂るの墓』の表現を見ると、どうも前者のケースであるように見える。そして、この映画で、焼夷弾が屋根を突き破ってから、ボン! ボン! と爆発的な火災が発生するまでに、数秒間の静寂がある。これはM69の例の押しボタン式の信管が、命中から3〜5秒後に爆発する遅延信管だったことを考えると、ものすごくリアルなのだということも分かった。清太の周囲の路上に落ちて、ただめらめら燃えているだけの焼夷筒は全部不発弾なのだろうと思うと、これもつじつまが合う。当時の米軍の砲弾や投下弾にはものすごい数の不発弾があった。
 不発弾、といえばM69焼夷弾の亜種として終戦間際の昭和20年7月に登場したM69Xというタイプは、3〜5秒後の遅延信管の下にさらに30秒から6分程度の導火線を持つ遅延起爆装置がついている。つまり時限焼夷弾ということになる。不発弾だと思って片づけよう近づくと、発火する。これは消防活動抑止用なのだそうだ。一般の爆弾にも時限爆弾が混ぜられていたのも同じ理由なのだが、落とされた側の神経はそばだったままになる。

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