腹巻猫です。2月から放映中のTVアニメ『ひろがるスカイ! プリキュア』のオリジナル・サウンドトラックが5月31日に発売されます。腹巻猫が構成・解説・インタビューを担当しました。音楽はプリキュアシリーズの劇伴を初めて手がける深澤恵梨香。シリーズ20年目にふさわしい気合の入った作品です。今回はこのアルバムを紹介します。
プリキュアシリーズ20作目となる『ひろがるスカイ! プリキュア』は、原点回帰と新しい挑戦をミックスした意欲作。主人公は異世界スカイランドからこちらの世界(ソラシド市)へやってきた少女ソラ・ハレワタール。ソラはソラシド市で中学2年生の少女・虹ヶ丘ましろと出会い、友だちになる。2人はプリキュアになる力を得て、それぞれ、キュアスカイ、キュアプリズムに変身し、謎の敵アンダーグ帝国に立ち向かっていく。
本作では4人のプリキュアが登場することが明らかになっているが、中心になるのはキュアスカイとキュアプリズムの2人。2人で技を放つときに手をつないで技名を叫んだり、そらがノートに「ふたりはプリキュア」と書くシーンがあったり(第5話)と、シリーズ第1作『ふたりはプリキュア』を意識している部分が見られる。
いっぽうで、主人公のソラが異世界の住人でイメージカラーが青であったり、男の子が変身するプリキュアが登場したりと、これまでにない試みに挑んだ作品でもある。「伝統をふまえた上で新しいステージに行こう」という意欲が伝わってくるのだ。
音楽面でのトピックは、初めてプリキュアシリーズの劇伴を担当する作曲家・深澤恵梨香の参加。深澤は劇場作品や舞台、ゲーム等の音楽で活躍しているが、連続TVアニメの音楽を単独で担当するのは初めて。既存作品のイメージがないぶん、「どんな曲を書いてくれるのか」と期待がふくらんだ。
深澤恵梨香がインタビューやコラムでたびたび語る言葉が「あて書き」である。「あて書き」とは脚本家が役を演じる俳優を想定して脚本を書くことだが、深澤は演奏家を想定してスコアを書く意味で使っている。
劇伴音楽の制作ではインスペクター(通称インペク)と呼ばれる演奏家のコーディネーターがスタジオミュージシャンを集めて録音を行うのが一般的だ。その際に作曲家が「トランペットは○○」「ギターは○○」とミュージシャンを希望することがある。その多くは、「ファーストコールミュージシャン」と呼ばれる実力のある演奏家である。作曲家が演奏家を指名することは広く行われていることだ。ただし、演奏家のスケジュールの都合などで、その希望がかなうとは限らない。
深澤恵梨香の「あて書き」はこれとは少し異なるようだ。深澤はミュージシャン1人ひとりに直接声をかけて参加してもらい、最初から誰が演奏するかを想定して、それこそ、1人ひとりの顔を思い浮かべながらスコアを書くという。深澤いわく「スコアは演奏家へのラブレター」なのである。「こう書けばこう演奏してくれる」という信頼関係が、完成した音楽を単に「譜面どおりに演奏した音楽」以上のものにしている。
プリキュア20作目の音楽を担当するという大役を任された深澤恵梨香は、過去のシリーズを観て、サントラもすべて聴いて、それをいったん置いた上で新しいものを作ろうと作曲に取りかかった。
『ひろがるスカイ! プリキュア』は「ヒーロー」がテーマとして掲げられている。タイトルの「ひろがる」は「Hero Girl」とのダブルミーニングだ。「ヒロイン」ではなく「ヒーロー」であるところにスタッフのこだわりがある。
音楽作りも「ヒーローってなんだろう」と考えるところから始まった。深澤恵梨香は自分なりのヒーロー像をスコアで表現し、さらに録音時に、ミュージシャンにそれぞれのヒーロー像を思い浮かべながら演奏してもらった。「ヒーローはこうだ」と決めるのではなく、それぞれの考えるヒーロー像を反映した音が集まって、ヒーローの音楽になる。「ヒーローとは?」と模索しながら進める音楽作りは、本編のソラの姿に重なる。
オーケストラはプリキュアシリーズ最大規模となる50人以上の編成。トランペット6本、ホルン6本など、金管が厚い編成になっているのが特徴だ。一部シンセやエレキ楽器も使われているが、大スケールのオーケストラサウンドを中心にした生音重視の音楽である。いくつかの曲では、主題歌歌手の石井あみがコーラスで参加している。
本作のサウンドトラック・アルバムは「ひろがるスカイ!プリキュア オリジナル・サウンドトラック1 プリキュア・サウンド・ミラージュ!!」のタイトルで、5月31日にマーベラスからリリースされる予定だ。
収録曲は以下のとおり。
- ひろがるスカイ!
- ひろがるスカイ!プリキュア 〜Hero Girls〜(TVサイズ)(歌:石井あみ)
- 空の王国スカイランド
- サブタイトル
- ソラシド市でこんにちは
- おしゃべりしましょう
- ランボーグ出現
- 激闘の嵐
- スカイミラージュ!トーンコネクト!
- ヒーローの出番です!
- 朝の息吹
- 今日はお出かけ日和
- 頬に風受けて
- うっかりドッキリ
- ドタバタつむじ風
- とまらないパニック
- どんより気分
- 会いたいな
- そばにいるよ
- 誰かを思う夜
- スカイキャッチ!
- 神秘の扉がひらく
- スカイランドの城
- 王都のにぎわい
- ヒーローになるために
- 猛烈にがんばります
- あこがれを胸に
- 不安な雲行き
- 凍りつく空気
- アンダーグ帝国
- 嵐の前兆
- 息詰まる攻防
- 迫りくる強敵
- 砕かれた希望
- 胸に燃える怒り
- 翔べ!ヒーローガール
- プリキュア・アップドラフト・シャイニング!
- 心の手をつないで
- 澄みわたる空
- ヒロガリズム(TVサイズ)(歌:石井あみ・吉武千颯)
- またみてね!
放映開始前に本作のために制作された楽曲は約80曲。アルバムにはその中から38曲を収録した。
1曲目に収録した「ひろがるスカイ!」は本作のメインテーマ。「空」と「ヒーロー」をイメージした曲になっている。冒頭に聴こえてくるのは、エリックミヤシロによるトランペットソロ。もちろん、エリックミヤシロの演奏を想定して書かれたスコアである。そのトランペットの響きに呼ばれるように、ほかの楽器が少しずつ加わってくる。ヒーローのもとに次々とヒーローが集まってくるようなイメージだ。筆者は梁山泊に英傑が集う「水滸伝」を想像してしまった。この曲は第1話で、ソラがプリキュアの力を手に入れる重要な場面に選曲されている。
オープニング主題歌を挟んで、トラック3は「空の王国スカイランド」。第1話のアバンタイトルで、ソラがスカイランドの都にやってくる場面に流れた曲だ。6本のホルンの音を生かした雄大な曲想で、空に浮かぶ王国のファンタジックな情景が描写される。番組が始まったとたんにこの曲が流れて、「おおーっ」と思った人も多いだろう。
サブタイトル音楽に続いて、「ソラシド市でこんにちは」(トラック5)、「おしゃべりしましょう」(トラック6)と、使用頻度の高い日常曲を並べた。木管の響きが優雅な「ソラシド市でこんにちは」はクラシカルな室内楽風。ピアノソロを中心にした「おしゃべりしましょう」はラグタイムやジャズの雰囲気。どちらも第1話でソラとましろの出会いのシーンに流れていた。
トラック7「ランボーグ出現」はエレキギターがうなるロック。ランボーグ出現シーンによく選曲されている危機描写曲だ。
続くトラック8「激闘の嵐」は第1話で生身のソラがランボーグに向かっていく場面に流れた曲。以降のエピソードではプリキュア対ランボーグの場面によく選曲されている。プリキュアとランボーグの戦いをアップテンポのロックサウンドが描写する。スリリングな曲調は思わず「カッコいい!」と口に出してしまうほど。
そしていよいよお待ちかね。変身BGM「スカイミラージュ!トーンコネクト!」(トラック9)である。これまでのシリーズの華麗でキラキラした変身BGMとはひと味異なる音楽になっていることに注目。イントロのあと、抑えた曲調になり、続いて同じフレーズをさまざまな楽器が変奏していく展開。深澤恵梨香によれば、変身するソラの緊張感と期待感、そして徐々にプリキュアの姿が現れてくるようすを表現しようと考えたという。既成のイメージにとらわれない、ダンス音楽的な躍動感あふれる曲になった。
次のトラック10「ヒーローの出番です!」は第1話のキュアスカイ初登場シーンから使われているプリキュア活躍曲。メインテーマのメロディをアレンジした曲だ。オーケストラが奏でるスケールの大きなヒーローサウンドが爽快。
ここまでは、第1話をイメージした選曲と構成である。
トラック11「朝の息吹」からは、日常曲、コミカル曲、心情曲を並べ、ソラとましろの平和な(ちょっとユーモラスな)日々をイメージしてみた。アコースティックギターをフィーチャーした「そばにいるよ」(トラック19)、「誰かを思う夜」(トラック20)は、本編でもいい場面で流れていた胸にしみる曲だ。
アイキャッチ音楽を挟み、トラック35「神秘の扉がひらく」からは、ソラがスカイランドに帰還する第14話、15話のエピソードをなんとなくイメージして構成した。「なんとなく」というのは、構成したとき、第14話、15話は放映されておらず、使用される曲を想像しながら選曲したからである。放映が終わって、その想像は大きくははずれてなかったことがわかり、ほっとしている。
「神秘の扉がひらく」は第13話でスカイランドにつながるトンネルが開いた場面に流れていた神秘的な曲。
スカイランドの情景をイメージした「スカイランドの城」(トラック23)、「王都のにぎわい」(トラック24)が続き、ファンタジックなムードが高まる。「スカイランドの城」はクラシック音楽風の格調高い曲、「王都のにぎわい」は民族楽器を取り入れたエキゾティックでにぎやかな曲。どちらも第14話でソラたちがスカイランドの王と王妃に謁見するシーンで使われた。
「ヒーローになるために」(トラック25)と「猛烈にがんばります」(トラック26)はソラの特訓やトレーニングのイメージで収録。「ヒーローになるために」は第12話のソラの特訓シーンで流れ、第14話でソラがスカイランドの護衛隊に入隊するシーンにも使われていた。
トラック27「あこがれを胸に」は希望やあこがれをイメージした曲。第2話でソラがあこがれのシャララ隊長との出会いを語る場面で初めて使用された。第15話でソラが再会したシャララ隊長と語らう場面にも流れて、ふたつのシーンを結びつける役割を果たしている。ストリングスと木管が演奏するしみじみとした曲である。
トラック28「不安な雲行き」から雰囲気が変わり、アンダーグ帝国とプリキュアの戦いをイメージした構成になる。アルバムの中でもシリアスで緊迫感のある曲が続くパートだ。
トラック30「アンダーグ帝国」は、いまだ全貌が明らかでない敵・アンダーグ帝国のテーマ。
トラック31「嵐の前兆」から「息詰まる攻防」「迫りくる強敵」とバトル音楽が続いて、アンダーグ帝国の襲撃とプリキュアの激闘を表現する。手加減なしの激しいサウンドが燃える。熱気あふれる演奏はサントラでじっくり味わっていただきたいところ。
沈んだ曲調のトラック34「砕かれた希望」はプリキュア敗北のイメージ。その暗いムードを打ち破るように、トラック35「胸に燃える怒り」が熱い思いと強い決意を表現する。「胸に燃える怒り」は第15話でシャララ隊長がひとりで超巨大ランボーグに向かっていく場面に流れて、悲壮感を盛り上げた。
このままアルバムを終わらせるわけにはいかない。トラック36「翔べ!ヒーローガール」、トラック37「プリキュア・アップドラフト・シャイニング!」は、プリキュアの反撃と勝利をイメージして並べた。颯爽とした「翔べ!ヒーローガール」は「ヒーローの出番です!」と並ぶプリキュア活躍曲。「プリキュア・アップドラフト・シャイニング!」はキュアスカイとキュアプリズムがふたりで放つ浄化技の曲だ。
最後にエピローグをイメージして、平和なシーンに使われる2曲を収録した。
トラック38「心の手をつないで」は友情のテーマ。第2話でソラとましろが友だちになる場面(ブラス、ギター、パーカッション抜きバージョンを使用)、第5話でキュアプリズムがキュアスカイに「あなたは私の友だち」と言う場面など、ソラとましろの友情を描く大切なシーンを彩った。ふたりの場面を思い出しながら聴くとキュンキュンする。
トラック39「澄みわたる空」はハッピーエンドの曲。メインテーマのアレンジ曲のひとつである。木管とストリングスによる軽快なタッチの導入に始まり、途中からピアノソロとストリングスのしっとりとした曲調に転じる。シーンの雰囲気によって、曲を頭から使ったり、ピアノソロから使ったりできるように作られている。曲のラスト、トランペットソロがメインテーマのモティーフを奏で、その音が空に吸い込まれるように消えていく。1曲目に収録した「ひろがるスカイ!」と対をなす構成である。このアルバムもトランペットソロに始まり、トランペットソロに終わる。そのあとにエンディング主題歌と予告音楽が入って、アルバムは締めくくられる。
自分で言うのもなんだけれど、いいアルバムができたなあと筆者は思っている。
『ひろがるスカイ! プリキュア』第1話の放映日を、深澤恵梨香はドキドキしながら迎えたという。新しい音楽がファンにどう受け止められるか怖かった。しかし、いい音楽を作ったという自信はあった。
心配は杞憂だった。新しいプリキュア音楽はファンに好評で、SNSにも好意的な感想が流れた。深澤が音楽に込めたヒーローへの思いは、しっかりと視聴者に伝わったようだ。
この音楽を作った全員がヒーローです。とソラならヒーロー手帳に書いてくれるんじゃないかな。
ひろがるスカイ!プリキュア オリジナル・サウンドトラック1
プリキュア・サウンド・ミラージュ!!
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