腹巻猫です。前回『LUPIN ZERO』を取り上げたばかりのタイミングで、ディスクユニオンが展開するCINEMA-KANレーベルから『魔犬ライナー0011変身せよ!』のサウンドトラックCDが発売されました。音楽は『ルパン三世』第1作の山下毅雄。劇中音楽は初商品化! ヤマタケファン待望のリリースです。
『魔犬ライナー0011変身せよ!』は1972年7月に「東映まんがまつり」の1本として公開された東映動画(現・東映アニメーション)制作の劇場アニメ。同時上映には「仮面ライダー対じごく大使」「変身忍者嵐」「超人バロム・1」といった特撮ヒーロー作品が並ぶ。子どもたちのあいだで「変身ブーム」が盛り上がっていた時期の作品である。タイトルに「変身」の文字が入っているのが時代を反映している。
198X年、宇宙の侵略者デビル星人は地球に狙いをさだめ、ひそかに侵攻を開始した。異変を察知した科学者・林博士は、デビル星人の攻撃で命を落とした4匹の犬をサイボーグとしてよみがえらせ、息子ツトムにプレゼントする。サイボーグ犬はそれぞれに特殊能力を備え、さらに変形合体してサイボーグ艇ライナー号となるのだ。ツトムはサイボーグ犬と力を合わせてデビル星人に立ち向かっていく。
この劇場アニメ、ヤマタケファンのあいだでも、ちょっとマイナーな作品である。『ルパン三世』(1971)を手がけた直後の作品であるが、90年代末〜00年代の山下毅雄再評価ブームの際もほとんど話題に上らなかった。サウンドトラックが商品化されていなかったという事情もあるだろう。
公開当時、筆者は小学生。同じ時期に公開された「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」は観ているが、本作は観た記憶がない。怪獣好きだったので、「東宝チャンピオンまつり」に連れていってもらったのだろう。のちに日本コロムビアから発売された「なつかしの長編漫画映画傑作集」(1977)というレコードで本作の主題歌「ゴー!ゴー!ライナー」を聴き、「SFメカアニメとしては変わった曲調だなあ」と思った。本編を観たのはさらにあとになってからだった。現在はdアニメストアやAmazon Prime Videoなどで配信されているので、手軽に鑑賞することが可能だ。
少年とサイボーグ犬の活躍を描く本作は、SFメカアクションというよりは、ジュブナイルSFの香りがする。未来都市の描写やデビル星人のデザインなど、70年代というより60年代の雰囲気。『鉄腕アトム』の未来像を受け継いだような、懐かしい味わいがある。
そんな中で異彩を放っているのが山下毅雄の音楽だ。
山下毅雄のSF作品といえば『スーパージェッター』があるし「ジャイアントロボ」がある。「レッドマン」も手がけている。SFヒーローと縁がないわけではない。『魔犬ライナー0011変身せよ!』というタイトルから『サイボーグ009』みたいな、あるいは「007」シリーズみたいな、スピード感のあるカッコいい音楽が聴けるのでは? と思ってしまう。しかし、その期待は軽く裏切られる。
冒頭から「プレイガール」みたいな曲なのである。女声スキャットが入ったジャズ。意表をつかれる。作品を観ないでサントラを聴き始めたら「ディスク間違えたんじゃないか?」と思ってしまいそうなくらい。でも面白い。
本作の公開日は1972年7月16日。TVでは7月8日に『デビルマン』と「人造人間キカイダー」が始まったばかりだった。同じ年に放映される『科学忍者隊ガッチャマン』(10月放映開始)と『マジンガーZ』(12月放送開始)はまだ始まっていない。SFメカニックものや変身ヒーローものの音楽スタイルが確立されていない時期だった。そんなタイミングで誕生した本作の音楽は、SFアクションアニメ音楽の可能性のひとつと考えるといっそう興味深い。
「魔犬ライナー0011変身せよ! オリジナル・サウンドトラック」の収録曲は以下のとおり。
- アバンタイトル
- メインタイトル
- ツトムと4匹の仲間
- 悲しみのツトム
- 魔犬ライナー誕生!
- 「ゴー!ゴー!ライナー」映画バージョン
- 恐怖のデビル星人
- 富士山の洞窟
- 父とともに戦え!
- マンデラスとの死闘
- エネルギーが足りない!
- 魔犬ライナーの反撃
- 「魔犬ライナー」映画バージョン
- カウントダウン
- 魔犬ライナーの帰還
- 「ゴー!ゴー!ライナー」レコード・バージョン
- 「魔犬ライナー」レコード・バージョン
- 「魔犬ライナー」映画バージョンその2
- 「魔犬ライナー」映画バージョンその1
- 「魔犬ライナー」映画バージョンその1 カラオケ
- 「魔犬ライナー」映画バージョンその2 カラオケ
- 「魔犬ライナー」映画バージョンその3 カラオケ
- 「ゴー!ゴー!ライナー」映画バージョン カラオケ
- 別テイク集その1
- 別テイク集その2
トラック1からトラック15までが劇中使用順に音楽を収録したサウンドトラック。そのあとに主題歌のバージョン違いと別テイク集がまとめられている。
解説書には構成を手がけた大塩一志氏による詳細な楽曲解説が掲載されているので、そちらを読んでいただくのがいちばん。
ここからは、筆者が印象に残った曲を紹介しよう。
トラック1「アバンタイトル」は東映マークからメインタイトルが出るまでに流れる曲。東映マークの音楽からヤマタケサウンド全開で思わず笑ってしまう。続いて、未来都市の夜景とハイウェイを走るエアカーのシーンになり、しゃれたジャズの音楽が流れる。富士山頂気象観測所への場面転換には女声スキャットのブリッジ。観測所に謎のモンスターが現れて所員が襲われるシーンは打楽器のリズムにオルガンやトロンボーンの怪しいフレーズをからめたフリージャズ風音楽。曲だけ聴いていると、子ども向け漫画映画とは思えない。
トラック2「メインタイトル」はメインタイトルとスタッフ・キャストがクレジットされるタイトルバックに流れる曲。女声スキャットをフィーチャーしたヤマタケジャズである。「『プレイガール』の音楽」と言われても信じてしまいそうだ。これも音楽だけを聴くと「なぜこの曲調?」と思うが、タイトルバックはデビル星人のモンスターが次々と紹介される怪獣映画みたいな映像。相性はばっちりである。
トラック3「ツトムと4匹の仲間」でがらりと雰囲気が変わり、ブラスと口笛とパーカッションなどがセッションするディキシーランドジャズ風の曲になる。本作の音楽の主要モチーフのひとつである「犬のテーマ」だ。ツトムと犬たちの日常シーンに流れる曲は山下毅雄が手がけた『冒険ガボテン島』や『ガンバの冒険』に通じる明るいタッチの音楽。デビル星人側のサイケデリックな曲とは対照的なサウンドでメリハリをきかせている。デビル星人は昆虫から進化した、人間と対話不能の宇宙人という設定なので、アバンギャルドな音楽が似合う。
トラック4「悲しみのツトム」は犬たちの死を悲しむツトムの心情描写曲。副主題歌「魔犬ライナー」のメロディが女声スキャットをともなうムーディなジャズ風アレンジで奏でられる。続いて口笛とギターなどによる主題歌「ゴー!ゴー!ライナー」のさみしいアレンジ。感情を強調しすぎない音楽演出がヨーロッパ映画みたいでしゃれている。悲しみをムーディなジャズで表現する手法はトラック9「父とともに戦え!」の林博士の死の場面の曲(M28)でも反復される。
トラック5「魔犬ライナー誕生!」の終盤に収録された、ツトムがサイボーグ犬とともに父の研究所に急ぐ場面の曲(M16)がいい。「魔犬ライナー」のメロディーをサンバ風にアレンジした『ルパン三世』の音楽を思わせる曲調。短いながら印象に残るナンバーだ。
デビル星人との対決に向かってドラマが盛り上がる終盤ではアクション曲が多くなる。
トラック10「マンデラスとの死闘」のカマキリ型モンスター・マンデラスとの戦いの曲(M36)はオルガンと女声ボーカルなどによるグルービーなアフロロック。トラック12「魔犬ライナーの反撃」のカタツムリ型モンスター・エスカルゴンとの戦いの曲(M39)は「LUPIN WALKIN’」をテンポアップしたような軽快なロック。いずれも『ルパン三世』風サウンドでうれしくなる。本作の音楽の聴きどころである。
ラストに流れる「魔犬ライナーの帰還」(トラック15)は、口笛と女声スキャットをフィーチャーしたスペイシーなラテンロック。映画冒頭の音楽(「アバンタイトル」)と呼応するイメージである。大団円というより狂騒の音楽みたいだ。
主題歌「ゴー!ゴー!ライナー」と副主題歌「魔犬ライナー」はミディアムテンポの明るいジャズ風の曲。これが山下毅雄がとらえた本作のイメージなのだろう。SFやメカニックよりも、「少年と犬」をイメージした音楽だと思えば、この曲調も納得がいく。
『魔犬ライナー0011変身せよ!』の音楽は、ストレートにカッコいい、スカッとするというタイプの曲ではない。しかし、ヤマタケ成分100%の、山下毅雄ファンにはたまらない作品である。
もし本作が1973年や1974年に公開されていたら、音楽のスタイルも違っていただろうか。いや、山下毅雄なら同じ音楽を書いただろう。SFメカアクションであっても、いつものヤマタケサウンドを貫く。それが山下毅雄だし、だからカッコいい。やっぱりヤマタケはすごかった。
魔犬ライナー0011変身せよ! オリジナル・サウンドトラック
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