ANIME NEWS

アニメ音楽丸かじり(152)
『アカメが斬る!』サントラは音の万国博覧会だ!

 2月25日にユニバーサルミュージックから「声優レアグルーヴ Vol.2」がリリースされた。「アーバン・メロウ編」と題された第2弾では、文字どおり都会的でAOR寄りの楽曲が多く収録されている。注目すべきは水野愛日の「speed of love」が入っていること。彼女が2000年前後にリリースした一連の楽曲は、いずれも洒脱で練りに練ったアレンジが楽しめるAORであり、現代のリスナーにとっても聴き応え十分だろうと思う。すでに声優レアグルーヴのファンにとっては定番だと思うが、今回のCDリリースによってさらに再評価の機運が高まるのではないか。なお、前作「声優レアグルーヴ Vol.1」については昨年11月の記事にて紹介済みなので、そちらも参照していただきたい。

声優レアグルーヴ Vol.2

UICZ-8162/2,484円/ユニバーサルミュージック
発売中
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 今回紹介するのは2月18日にリリースされたTVアニメ『アカメが斬る!』のサントラ盤、「アカメが斬る! オリジナルサウンドトラック1」だ。CDは2枚組で全40曲を収録しており、主題歌は含まれていない。僕がこのCDに注目する理由は3つあって、まずアニメ原作がタカヒロであり、本作が「タカヒロIVプロジェクト」の一翼を担っていること。次に東宝が自社名義でリリースしたCDであること。そして人気作曲家・岩崎琢の最新作であることだ。それぞれのポイントについて触れていきたい。
 「タカヒロIVプロジェクト」は、PCゲームブランドみなとそふとの代表であるタカヒロが、原作等を担当した4作品の連動企画である。「少女たちは荒野を目指す」(PCゲーム)、『アカメが斬る!』(TVアニメ)、「鷲尾須美は勇者である」(イラストノベル)、『結城友奈は勇者である』(TVアニメ)というラインナップだ。TVアニメ『結城友奈は勇者である』がそのハードなストーリー展開で話題となり、BD売上げも2014年10月期作品の中でトップクラス。その前日談である「鷲尾須美は勇者である」の単行本は12月20日の発売後、多くの書店で品切れになるほどの人気であり、プロジェクトは成功を収めたと言っていいだろう。その余波によって、すでに放映を終了している『アカメが斬る!』についても、放映当時は興味を持っていなかった層の中から、今後改めて視聴したい思う人が出てくるのではないか。
 東宝は映画配給の大手3社の一角であり、80年以上の歴史を持つ老舗企業だ。TVアニメの製作に力を入れだしたのは近年のことで、2013年にアニメ事業室を立ち上げ、音楽レーベルのTOHO animation RECORDSを作ってからその活動が顕著となる。映画会社だけあって劇場作品にも強く、最近では『弱虫ペダル Re:RIDE』『攻殻機動隊 ARISE』『劇場版 PSYCHO-PASS』などを公開している。TVシリーズは各クール2本程度をコンスタントに製作しているが、レーベルの所属アーティストが昆夏美1人という状況もあってか、主題歌制作はソニー・ミュージック系列各社が担当するケースが多い。サントラも同社からリリースされることがあり、前回の記事にて紹介した「PSYCHO-PASS サイコパス Complete Original Soundtrack 2」はそのパターンだ。その一方、2014年の作品だと、『アオハライド』『未確認で進行形』『ハイキュー!!』『アカメが斬る!』は東宝がサントラをリリースしている。最近では特典扱いや、未発売のケースも少なくないことを考えると、なかなか積極的なレーベルと言え、今後のリリース展開にも期待が持てる。
 2014年は岩崎琢にとって過去最高ともいえるほど多忙な年で、『ノラガミ』『魔法科高校の劣等生』『アカメが斬る!』『まじっく快斗1412』という4作品の音楽を担当。しかも『ノラガミ』以外は2クール作品なので、求められる楽曲数は相当なものだったはずだ。発売ずみのサントラから曲数を数えてみると、『ノラガミ』が24曲、『魔法科高校の劣等生』がサントラ2枚で23曲+21曲、そして今回紹介する『アカメが斬る!』のサントラ第1弾が40曲。これだけでも108曲になる。3月18日に発売予定の『アカメが斬る!』サントラ第2弾や、4月22日に発売予定の『まじっく快斗1412』サントラを加えると、ゆうに150曲を超えるだろう。すべてを2014年内に作っているわけではないにしても、すさまじい仕事量である。
 『アカメが斬る!』サントラのブックレットに掲載された岩崎琢のコメントには、「各々、某かの拘りとコンセプトを過剰に追求していた筈なのだが……もう今となっては、殆ど思い出せないのだ」と記されており、限られた時間の中、極限まで集中力を高めて一気に作曲した姿が想像できる。「本当にお疲れ様でした」とねぎらいたくなる働きぶりだ。

 楽曲内容についても触れておこう。『アカメが斬る!』は中世風の異世界が舞台ということで、これまでの岩崎琢の楽曲とは違ったサウンド傾向が見られる。かつてないほどに、世界各地の民族音楽に踏み込んだ作風なのだ。異世界を音楽で表現するやり方は色々とあるが、日本ではあまり知られていない地域の民族音楽を取り込むのは定石のひとつ。なんといってもエキゾチック感が比較的容易に得られるのが大きい。ケルト音楽、インド音楽、西アジアや東南アジアの音楽がよく用いられるが、本作では特にアラブ音楽の要素が際立っている。
 第1話アバンから使用されるディスク1の1曲目「Le chant de Roma(虐げられた者達の為に)」はボーカル入りのメランコリックなバラード。導入部からアラブ風のバイオリンがエキゾチックな旋律を奏で、視聴者を作品世界に引き込んでいく。途中からオーケストラ、エレキギター、リズム隊が加わってドラマティックに盛り上げるあたりは岩崎琢の真骨頂だ。第1話は冒頭とラストにこの曲が配置され、次回予告にも使用。いわば作品の顔として機能している。
 ディスク1の3曲目「緊迫」は、本作のメインキャラクターである暗殺部隊・ナイトレイドの面々が暗殺をするシーンにて使用。田代耕一郎によるウード演奏をフィーチャーしており、本盤の特徴であるアラブ趣味をたっぷりと満喫できる楽曲だ。ところで、本作はアバンタイトルのナレーションなどで、あの名作時代劇「必殺仕事人」からの影響が見える。ウードの音色にはどこか三味線と似通った部分があり、この曲が流れるシーンは「アラブ風時代劇」とでも言いたくなるような、独特の様式美と格好よさを楽しめる。
 ディスク1の4曲目「闇を斬る」は東京混声合唱団によるドイツ語の詠唱をフィーチャーした楽曲で、多くの戦闘シーンに使用された。メロディのない、シャウトのような合唱隊の声の迫力が、戦闘シーンを大いに盛り上げていた。アニメ全編の中でも、この楽曲が強く印象に残っている視聴者も多いのではないだろうか。子音をたっぷりと含んだドイツ語の響きは、それだけで男性的・攻撃的であり、言葉の意味が分からなくても緊迫感が伝わってくる。使用されたのがフランス語やイタリア語だったら、こうはいかなかったはずだ。また11曲目「強者」もまったく同傾向の楽曲で、やはりドイツ語が使われている。
 本盤は2枚組40曲というボリュームのお陰で、普通なら削られてしまいそうな日常シーン、コメディシーンの音楽が多く収録されているのもポイント。ディスク1の13曲目「入隊希望」、14曲目「酒場」、15曲目「市勢調査」や、ディスク2の10曲目「田舎者」などがそれにあたり、いずれもアラブ風のパーカッションが効いたエキゾチックな味つけだ。特に14曲目「酒場」は印象的であり、第1話でタツミが帝都の酒場でレオーネに金を持ち逃げされるシーンに使用されたもの。インドポップス風の女性ボーカルが、帝都の猥雑さとレオーネの色気を際立たせている。
 ディスク2の6曲目「イェーガーズ」は岩崎工の英語詞ラップと、ドゥーム・メタル風の重厚なエレキギターを絡めた楽曲。岩崎琢らしいミクスチャー感たっぷりのサウンドだ。他にも澄んだ声の女性ボーカルと、ストリングスの響きが感動的な「I’ve got to go home」(ディスク2の19曲目)や、福岡ユタカによるケチャをフィーチャーした「激戦」(ディスク1の9曲目)などは従来の岩崎サウンドの延長線上にあるもの。アルバム全体としては濃厚なアラブ趣味が基調をなし、その上に世界各地の民族音楽の要素をトッピングしているのが特徴だ。ブックレットの解説によれば、3月18日にリリース予定のサントラ第2弾と合わせると、本作のBGMはほとんどが網羅できるらしい。そちらも併せて、この音による万国博覧会を存分に楽しもうではないか。(和田穣)

アカメが斬る! オリジナルサウンドトラック1 (音楽:岩崎琢)

THCA-60046/3,564円/東宝
発売中
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アカメが斬る! オリジナルサウンドトラック2 (音楽:岩崎琢)

THCA-60049/3,024円/東宝
3月18日発売予定
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