ANIME NEWS

アニメ音楽丸かじり(150)
祝!連載150回 記念回を飾るのは澤野弘之『七つの大罪』サントラだ!

 今回はついに連載150回目となった。開始当初はまさかこんな長期にわたって続くとは思ってもみなかったが、毎月のように良質のサントラや興味深い企画盤が登場してくれたお陰で、執筆の手が止まるようなことはなかった。ありがたいことである。改めて読者の皆様と、これまでに協力していただいたレコード会社各社、そしてアニメスタイル編集部に感謝の気持ちを述べさせてもらう。そして願わくば連載200回まで続けられるよう、今後も頑張っていきたいものだ。

 ひとつ興味深い同人誌を紹介したい。昨年末のコミックマーケット87が初出の「TOMINO’s Music Direction」という本だ。なんと富野由悠季監督作品における、音楽演出だけに焦点をあてて書かれたもの。本の大きさはCDサイズで、まるでブックレットのような作りが目を引く。54ページの内容全てがモノクロのテキストのみという、潔いスタイルだ。作者の日暮里炒飯さんは、サントラ盤のレビューやデータベースを掲載しているサイトNIPPORI SOUNDTRACKを運営している人物。サントラファンならば、閲覧したことがある人も多いだろう。
 実質的な初監督作品である『海のトリトン』のOPからすでに富野監督の独自性が発揮されていたこと、『伝説巨神イデオン』でオペラ的な演出の極北に達したこと、その後フュージョンやロックなど様々なジャンルを取り入れて方向性を模索していったこと、『OVERMAN キングゲイナー』がそれまでに蓄積したノウハウすべてを盛り込んだ総決算的な作風であったことなど、富野作品の系譜と音楽の傾向を一冊で概観できる本だ。富野作品のサントラを愛聴してきたファンならば、一読する価値があるように思う。
 この本は同人誌通販サイトCOMIC ZINにて委託販売されているので、興味のある方は当該商品ページをチェックしてみてほしい。

 さて、今回紹介するCDは昨年10月から放映中のTVアニメ『七つの大罪』のサウンドトラック盤だ。原作は「週刊少年マガジン」に連載中の鈴木央によるマンガ。偶然なのだろうが、同時期に放映開始した『トリニティセブン』とともに、七つの大罪をモチーフにした作品が肩を並べることとなった。また前回紹介した「澤野弘之 BEST OF VOCAL WORKS[nZk]」に引き続き、澤野弘之の作曲ということにもなる。CDは昨年12月24日にリリースされており、全17曲収録で77分。TVサイズも含めて一切の主題歌を収録しない強気の商品構成は、人気作曲家・澤野弘之だからこそ可能なのだろう。
 サントラの全体的な傾向として、まず澤野サウンドでお馴染みの英語詞ボーカル曲が1曲目の「Perfect Time」のみである点が特徴的であり、ここ数年の澤野作品では珍しい傾向だ。次に、作中の随所にアーサー王伝説に由来する地名・人名が用いられているせいか、BGMにケルト音楽の要素を大胆に取り入れている点は見逃せない。以前に高梨康治が『FAIRYTAIL』でケルト音楽とハードロックの融合を試みていたが、澤野弘之は主にケルト音楽とオーケストラのミクスチャーを志向しているようだ。
 最後に楽曲タイトルだが、「7角:the1」「Deerン怒&過多6-$」など、珍妙な曲名表記は澤野サントラではすっかりお馴染みのもの。実は使用場面やモチーフにしたキャラクター名をストレートに表現しているので、全ての解読を試みるのも面白いだろう。
 1曲目「Perfect Time」は前述のとおり本盤唯一のボーカル曲だが、フィドルをフィーチャーしたケルト風のインスト部分もかなり長め。各話の内容に応じてインスト部分、ボーカル部分のそれぞれがカットされて使われている。初出は第1話で主人公メリオダスが名乗りを上げるシーン。楽曲の格好よさと、悪党をいとも簡単に叩きのめすメリオダスの圧倒的な強さが相まって、大いにカタルシスを感じさせてくれる場面だ。
 2曲目「7角:the1」は第2話アバンタイトルなど、各話の導入によく使われた楽曲。タイトル(恐らく「ななつのたいざい」と読む)にもあるように、番組全体のテーマソングとして作られたものだろう。6/8拍子の勇壮なリズムに、ティン・ホイッスルとオーケストラの旋律が乗るという、ケルト風味たっぷりのナンバー。ちなみにアイルランドにはジグという6/8拍子の舞曲があり、フランスなどではジーグと呼ばれて、様々なクラシック音楽にその曲調が取り入れられている。本曲のリズムも恐らくはジグを参考にしたのではないか。
 多くの話数のアバンタイトルで使用されたのが3曲目「銅鑼Gong4N」。バンドネオンのエキゾチックな旋律に、重厚な16ビートを刻むオーケストラが絡み合うスペクタクル感満点のサウンド。バンドネオンといえば、アストル・ピアソラの数々の名演でも知られるタンゴの主要楽器であり、どちらかと言えば哀愁のあるメロディ・曲調に多く用いられる。本曲のように激しい曲調に導入されるのは珍しく、ユニークなアプローチだ。
 12曲目「Deerン怒&過多6-$」は「ディアンヌ&肩ロース」と読むのだろう。前半部は七つの大罪の1人であるディアンヌのテーマ、後半部は番組のマスコット的存在である豚のホークをイメージしたもの。曲名はもちろん、番組中に頻出する「ホーク=豚=食用」というネタにちなむ。ディアンヌの音楽は巨人族の少女をイメージしただけあって、チューバが主旋律を奏で、ティンパニが響き渡るという巨大感を強調したものとなっている。
 17曲目「Big罪罪罪罪罪罪罪」もまた番組全体のテーマソングであり、各話のクライマックスによく用いられている。初出は第1話のエンディングだ。こちらも「7角:the1」と同様に6/8拍子のリズムにバグパイプが使用されるなど、ケルト色の強いサウンドとなっている。ちなみにバグパイプには、日本でもよく知られている大型のスコットランド式と、座って演奏する小型のアイルランド式がある。ケルト音楽に用いられるのは後者の方だ。
 他にも様々なタイプのサウンドが収められているのだが、アニメ本編中ではおおむね「Perfect Time」「7角:the1」「銅鑼Gong4N」「Big罪罪罪罪罪罪罪」というケルト色の強い4曲が要所を締め、番組のシグネチャー的に使われている。『七つの大罪』の作品ムードを決定しているのは、主にこの4曲であると言ってもいいだろう。
 また、これは澤野弘之の他のサントラ盤にも共通することだが、日常シーンやコメディシーンの音楽、効果音的な短い音楽の大半は未収録となっている。そちらにもフィドルやアコースティックギターを活用した、ケルト趣味の魅力的な小品がたくさん含まれているので、なんとか世に出してもらいたいもの。4月8日には本作のサウンドトラック盤第2弾が発売予定のため、期待したいところだ。なお、『七つの大罪』では第14話から、音楽担当のクレジットが澤野弘之と和田貴史の連名になっている。サントラ第2弾には和田貴史の楽曲も収録され、2人の作風の違いが楽しめるのかもしれない。詳報の発表を待ちたい。(和田穣)

七つの大罪 オリジナル・サウンドトラック(音楽:澤野弘之)

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