ANIME NEWS

アニメ音楽丸かじり(149)
寒い冬、澤野弘之ボーカル曲ベスト盤で熱くなろう!

 遅ればせながら、今回が2015年最初の更新となる。今年も「アニメ音楽丸かじり」をよろしく。2009年1月の連載開始からはや6年、次の更新で150回を数えるまでになった。これもひとえに読者の皆様のご支持と、アニメスタイル編集部のお力添えがあってのもの。改めて感謝の気持ちを記させてもらいたい。
 さて、昨年最後の更新となった12月16日の記事以降にも、年末にかけて様々なCDがリリースされた。とりわけ注目すべきは、12月17日にポニーキャニオンから発売された『俺、ツインテールになります。』の挿入歌「テイルオン! ツインテイルズ」ではないだろうか。ご存じの方も多いと思うが、この楽曲は渡辺宙明の手になるもの。深夜枠のTVアニメに関わるのは2003年の『神魂合体ゴーダンナー!!』以来だから久々だ。しかもシリーズ構成・脚本の荒川稔久が作詞、高梨康治が編曲という「夢のコラボレーション」と称したくなるような組み合わせ。マイナー調でドラマティックな宙明節と、高梨康治お得意のハードロックサウンドとは相性がよく、今後も継続的にこの両者のコラボを聴きたくなるような仕上がりとなっている。なお、『ゴーダンナー』サントラについては、昨年10月に本サイトにて腹巻猫さんが詳細な記事を書いているので、そちらも参考にしてほしい。

TVアニメ『俺、ツインテールになります。』挿入歌「テイルオン! ツインテイルズ」

PCCG-70239/1,500円/ポニーキャニオン
発売中
Amazon

 さて、今回は2月4日リリース予定の「澤野弘之 BEST OF VOCAL WORKS[nZk]」を紹介しよう。澤野弘之といえば、『戦国BASARA』『機動戦士ガンダムUC』『ギルティクラウン』『進撃の巨人』『キルラキル』など数々の作品のBGMを手がけ、3月からはNHKの連続テレビ小説「まれ」の音楽を担当するなど、着々と人気作曲家としての地歩を固めているのは皆さんご存じのとおり。今回は初のベストアルバム、しかもボーカル曲に絞った内容とあって注目の1枚だ。収録内容は全19曲で約78分。残念ながら新録曲はないが、様々なサントラに分かれて収録されていたボーカル曲をこの1枚でまとめて楽しめるのだから、お値打ち感は高いのではないか。2枚組でもないのに、ボーカル曲だけで19曲というボリュームも嬉しいところだ。
 作品別の内訳で言うと、『ギルティクラウン』から5曲、『キルラキル』から5曲、『青の祓魔師』関連が3曲、『機動戦士ガンダムUC』から2曲、『進撃の巨人』から2曲、『戦国BASARA』から1曲、『ALDNOAH.ZERO』から1曲となっている。大ヒット作である『ガンダムUC』と『進撃の巨人』からの楽曲が少ないのは意外と言えるが、『ガンダムUC』は昨年10月に全主題歌を網羅したベスト盤「機動戦士ガンダムUC COMPLETE BEST」が発売ずみであること、『進撃の巨人』はサントラ盤がヒットしたことですでに多くのファンが入手ずみと思われること、などに配慮した結果なのではないか。

 1曲目「βίος」は『ギルティクラウン』サントラ盤でも1曲目に配置されていた楽曲。シンセと各種サンプリングを駆使したエスニック調のイントロから、ブリティッシュロックを思わせるヘビーなサウンドに移行し、小林未郁の物悲しくも力強いボーカルが聴き手にカタルシスを与える。「これぞ澤野節」と言いたくなるような、澤野作曲のボーカル曲における典型的スタイルの楽曲と言えるだろう。
 2曲目「The Reluctant Heroes」は『進撃の巨人』サントラ盤からで、曲名の意味は「不承不承のヒーローたち」というもの。作中屈指の人気キャラクターである、リヴァイ兵長の戦闘時のテーマ曲にもなっている。歌唱を担当したmpiは澤野と同じ事務所に所属しており、いくつか澤野楽曲の作詞も行っている。ニューヨーク在住経験があり翻訳業も行うなど英語に堪能で、英語詞を好む澤野にとっては欠かせない仲間の1人と言えるだろう。
 3曲目「Battle Scars」は『青の祓魔師』劇場版サントラ収録曲。TVシリーズの重要なBGMだった「祓魔師強奏曲 第二楽章:X」に、東京都在住のアメリカ人ラッパーDavid Whitakerによるライムを乗せたものだ。オーケストラ、合唱、シンセ、エレキギター、ブレイクビーツが重なり合う重厚・壮大なサウンドに、切れ味の鋭いラップがぶつかっていく様はミクスチャー色満点。岩崎琢が『天元突破グレンラガン』で見せた音楽スタイルとの近似性を感じた方もいるのではないか。
 9曲目「Till I Die」、11曲目「Light your heart up」は『キルラキル』より、13曲目「Rë∀L」は『ギルティクラウン』から。いずれも明るくポップなメロディと、R&Bやガールズロックを思わせる曲調で、重厚・壮大ばかりが澤野サウンドではないところを見せてくれる。カロリーの高い楽曲が詰まったアルバムの中で、一服の清涼剤となってくれるようだ。
 アルバムの最後を飾る19曲目「A/Z」は、1月から第2期の放映が始まった『ALDNOAH.ZERO』の第1期ED主題歌。澤野によるボーカル曲プロジェクト、SawanoHiroyuki[nZk]名義での楽曲となっている。澤野自身が作詞も担当しており、日本語詞であるのがポイント。これまで澤野作曲のボーカル曲では英語詞が多かったが、このプロジェクトでは主題歌を担当することもあり、また違った方向性を試そうとしているようだ。

 19曲のいずれも力の入ったナンバーで、それぞれアニメの劇中でハイライトを飾った楽曲が揃っている。各作品の名場面に思いを馳せるのもよし、全曲を一気に聴いてテンションを上げるのもいいだろう。CDの収録時間をギリギリまで使ったボリュームや、レーベルの垣根を越えて幅広い作品から楽曲を集めた努力には拍手を送りたい。
 一方で選曲については、『進撃の巨人』を代表する楽曲である「attack ON titan」がないとか、『ALDNOAH.ZERO』劇中で最高に格好いい「BRE@TH//LESS」が入っていないとか、『戦国BASARA』からの曲がもう少しあっていいとか、入手困難となってしまった『ZOMBIE-LOAN』サントラに収録の「Solitary Serenade」も掘り起こしてほしかった、などファンの好みによって色々と意見も出てくるだろう。しかしながら、それだけ澤野作曲のボーカル曲には素晴らしいものが多すぎて、1枚のCDには収まりきらなかった、ということ。こうなったら、少し気は早いがボーカル曲ベスト盤の第2弾の登場を期待し、選に漏れた楽曲や『七つの大罪』『終わりのセラフ』などの新作からもピックアップしてもらいたい、と願う次第だ。(和田穣)

澤野弘之 BEST OF VOCAL WORKS[nZk]

DFCL-2106/3,500円/DefSTAR RECORDS
2月4日発売予定
Amazon