ANIME NEWS

アニメ音楽丸かじり(129)
君は「フヤラ」を知っているか? 『ノラガミ』サウンドトラックに見る霊魂の音

 2月26日の記者発表会にて「15thAnniversary Live ランティス祭り2014~つなぐぜ!アニソンの“わ”~」の開催内容について発表があった。7月から11月にかけて東海、関西、関東、東北の4会場で、合計9公演が行われるというものだ。アニソン界最大のイベントと言われる「Animelo Summer Live」でも2~3公演が基本だから、そのスケールの大きさがうかがえる。実際のところ、7月開催の東海・関西公演と、9月開催の関東公演、11月開催の東北公演にはそれぞれ2ヶ月のインターバルがあるため、観客としての体感的には長期ツアーというよりも群発イベントと受け取られるだろう。それでもなお、過去に類例を見ない大規模の企画であることは間違いない。
 もともと「ランティス祭り」という名は、同社の創立10周年を記念して、2009年に富士急ハイランド・コニファーフォレストで2日間開催されたイベントにつけられていた。僕は両日ともに参加した(当時のレポートはこちらの記事にて)が、当時は観客もスタッフ側もこれは1回限りのお祭りであり、慣例化するとは思っていなかったはずだ。それというのも、両日ともに20組を越えるアーティストを集め、富士宮焼きそばなど近隣の屋台を招集し、全出演者のCDなどグッズを手配するオーガナイズ面の苦労が大きいこと。さらに大変なのは、天候リスクのある野外会場で行ったことだ。音響や撮影にも制約が多いから、「Animelo Summer Live」のように映像パッケージで資金を回収するビジネスモデルも難しい。2009年の「ランティス祭り」では、結局映像作品はもちろん、ライブCDも発売されなかったのだ。
 しかしながら、「晴れ渡った青空の下で、心地よい風を受けながら、あるいは飲食をしながら好きなアニメソングを聴く」という体験は、他のコンサートでは経験できないもの。参加した僕としても、いまだに深く印象に残っているイベントだ。今回の「ランティス祭り2014」もやはり、
 東海会場:三重県 ナガシマスパーランド芝生広場
 関西会場:大阪府 万博記念公演もみじ川芝生広場
 関東公演:東京都 潮風公園太陽の広場
 東北公演:宮城県 ゼビオアリーナ仙台
 といった具合で、東北公演を除いて(さすがに11月の仙台で野外公演は難しいのだろう)、いずれも野外会場となっている。天候にさえ恵まれれば、きっと参加者にとって長く記憶に残るイベントになるのではないか。

Lantis 10th anniversary Best 090927~ランティス祭り記念ベスト 2009年9月27日盤~

LACA-9161~9162/3,400円/ランティス
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 さて今回紹介するのは、1月から放映中のTVアニメ『ノラガミ』のサウンドトラック盤だ。CDはエイベックスより2月19日にリリースされ、全24曲収録で67分の内容となっている。特典は初回プレスにステッカーのみで、初回限定盤などはなく、OP主題歌「午夜の待ち合わせ」ED主題歌「ハートリアライズ」ともに収録していない。インナースリーブも輸入盤CDのように1枚紙のシンプルなもので、完全に音楽のみで勝負する内容と言える。そういった商品構成が可能となるのも、本作の音楽を担当するのが岩崎琢という、人気・実力ともに現在のアニメ界でトップクラスの作曲家である事が大きいのだろう。
 この『ノラガミ』の音楽には、従来の岩崎琢の劇伴とは異なる特徴がいくつか存在する。まず、オーケストラやストリングスは一切用いていないこと。作品ごとに新しいスタイルを模索し、どんどん新たなジャンルとの融合を試みていく作家だけに、すでに初期の名作『るろうに剣心 ―明治剣客浪漫譚― 追憶編』のようなストリングス主体の作曲からは脱却してはいる。しかしそれでも、これまでは『GATCHAMAN CROWDS』のように、叙情的なシーンには美しいストリングスを用いるケースが多かったのだ。今回はそういったスタイルも捨て、本人の手によるシンセ演奏・打ち込みと、名手・今堀恒雄のエレキギター、サックス・クラリネットの佐野博美など、ごく少数のミュージシャンによって制作されている。
 さらに、岩崎琢本人によるフヤラ(フジャラ)の演奏が、全編でフィーチャーされている点がポイントだ。フヤラとはスロバキアの羊飼いに古くから伝わり、全長が150~200cmにもなる世界最大級のフルート系木管楽器である。バスフルートのような甘い低音から、尺八によく似たブレスたっぷりの中音域、さらにはディジュリドゥのようにノイジーな倍音も出せる多彩な音色が特徴だ。
 いくつか収録曲を見ていこう。1曲目はなんと次回予告で多用された「Delivery」から始めるという、なんとも斬新な構成だ(次回予告の曲はアルバム最後に配置するのが定番だろうから)。そして3曲目「野良譚」は注目の楽曲。第1話アバンタイトルで最初のバトルシーンや、第2話で雪音を初めて使役するシーンなど、何度も印象的に使用されてきた楽曲であり、いわば本作の顔とでも言うべきもの。いま欧米で流行のEDM(Electronic Dance Music)サウンドに乗せて、フヤラの調べと福岡ユタカのボーカリーズ、Lotus Juiceのラップが絡み合うハイブリッド感満点の楽曲だ。福岡ユタカとLotus Juiceの組み合わせは、『刀語』の主要楽曲「bahasa palus」の再現であり、同作の音楽を好むファンには嬉しいリバイバルとなるだろう。
 8曲目「Soul chosen」は第2話でヒロイン・ひよりが街中で様々な妖を見かけるシーンにて使用。アラビア音階のような不思議な旋律を奏でるフヤラの音色が、異国とも異界とも知れぬ不思議なムードを形作っていく。11曲目「Misogi」は、そのタイトルどおり第9話の禊ぎのシーンで使用。フヤラの音色と、AutoTuneでメリスマを作り出したボイスとの絡みが、こちらも浮き世離れした雰囲気を作り出している。
 13曲目「Blind spot」は第1話で夜トが妖に襲われて逃走するシーンや、第2話でのバトルシーンで使用。歪んだ音色の野太いモノシンセがパワフルで、近年の岩崎琢がストリングスに代えて身につけた、新たなシグネチャーサウンドのひとつと言えるだろう。16曲目「Shadow dancing」も、第9話で大黒が夜トのために禊ぎをする要員を集めるシーンにて使用。ここでは加工されたボイスの使用が神秘的な雰囲気を作り出している。
 全編にわたってフヤラの演奏がフィーチャーされており、神、神器、妖といった「この世ならざる者」を象徴する音色となっている。思えば我々日本人は古くから、能楽で能管の音色を霊魂に見立てたり(ヒュードロドロ)、締太鼓の迫力あるサウンドを死霊や鬼を象徴するものとして用いてきたので、フヤラのブレスたっぷりで尺八によく似た音色に、霊的な存在の比喩を感じ取るのはごく自然なことと言える。もちろん岩崎琢もそういった効果を狙って、『ノラガミ』のサウンドを生み出したのだろう。この浮き世離れした不思議なサウンドに、たっぷりと酔いしれてほしい。(和田穣)

『ノラガミ』オリジナルサウンドトラック~野良神の音~(音楽:岩崎琢)

AVCA-74236/3,150円/エイベックス・エンタテインメント
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