ANIME NEWS

アニメ音楽丸かじり(128)
中島愛ラストアルバム「Thank You」がリリース!

 今期の主題歌シングルも続々と出揃ってきているが、僕が最も注目しているのが『生徒会役員共*』のオープニング主題歌で、トリプルブッキングが歌う「花咲く☆最強レジェンドDays」だ。この楽曲は一昨年解散したserial TV dramaのギタリストだった新井弘毅が作曲したもので、彼にとって職業作家として初めてのTVシリーズOP主題歌となる。
 serial TV dramaといえば、『銀魂’』の主題歌「桃源郷エイリアン」などでアニメファンにもお馴染みだろう。昨年11月にリリースされた「銀魂BEST3」の紹介記事で、serial TV drama解散後の新井弘毅について「我々は今後も彼のサウンドを聞く機会があるはずだ」と書いたのだが、さっそくそれが現実となって嬉しい。しかも楽曲の内容にも特筆すべき点があるのだ。
 まずひとつめは、楽曲展開の目まぐるしさ。この曲は大まかに言ってイントロ、Aメロ、Bメロ、ブリッジ、サビの5パートから構成されているが、その全てでリズムパターンが変わるのだ。しかも基本的にはマイナー(短調)の曲なのに、サビだけはメジャー(長調)に転調している。
 ふたつめはギター演奏の見事さである。購入したCDに演奏者クレジットはなかったが、まず間違いなく新井本人による演奏だろう。イントロのヌーノ・ベッテンコート風フレーズからライトハンド奏法への移行、Aメロの高速カッティング、サビ直前のミュート奏法など、ギター奏法の品評会的なバラエティの豊かさ。TVサイズでは聴けないが、ギターソロも速弾きを連発しており、全体としてアニメ主題歌としては異例なほどテクニカルなギターを楽しめる楽曲だ。

花咲く☆最強レジェンドDays/トリプルブッキング

KICM-3272/1,200円/キングレコード
発売中
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 すでにご存じの方も多いと思うが、中島愛が3月末で音楽活動を無期限休止するという発表があった。『マクロスF』での声優デビューと『星間飛行』のリリースから6年、個人名義でのCDデビューから5年。シングル9作、アルバム3作のほか様々なライブ、イベント出演をこなし、短いようで長い濃密な歌手活動だったように思う。個人的には『輪廻のラグランジェ』から始まったラスマス・フェイバーとのコラボレーションに無限の可能性を感じており、「TRY UNITE!」のリリース当時も2012年ベストソングに推す記事を書いていたので、活動休止はなんとも残念ではある。
 しかし直ちに彼女の歩みが止まるわけではなく、2月26日にラストアルバムとなる「Thank You」と、ライブBlu-ray「5th Anniversary Year’s Final Live メグミー・ナイト・フィーバー」がリリースされるほか、3月20日にはラストライブが開催される。また声優としては今月からスタートした『ハピネスチャージプリキュア!』で、主役のキュアラブリー/愛乃めぐみ役を演じている。

 さて、今回はそのアルバム「Thank You」を紹介していこう。「ラストアルバム」と言うとベスト盤を発表するアーティストも多いのだが、今回の「Thank You」は中島愛3枚目のオリジナルアルバムという位置づけで、前作「Be With You」(2012年リリース)以降の楽曲によって構成されている。シングル曲の「マーブル」(『輪廻のラグランジェ season2』OPテーマ)、「そんなこと裏のまた裏話でしょ?」(『琴浦さん』OPテーマ)、「ありがとう」(『たまゆら~もあぐれっしぶ~』EDテーマ)を中心とした、全12曲を収録。
 その他のタイアップ曲としては、全編英語詞の「Flower in Green」が『輪廻のラグランジェ season2』の第8話挿入歌、「風色のフィルム」が『たまゆら~もあぐれっしぶ~』の第11話エンディングに使用されたほか、「Carry Out!」「あの日の海」は、今月から稼働の「パチスロ 輪廻のラグランジェ」にて使用されている。また、「Mamegu A Go! Go!」はシングル「そんなこと裏のまた裏話でしょ?」のカップリング、「風色のフィルム」はシングル「ありがとう」のカップリング、「Megu2 Magic」は2週間限定の配信シングルで、今回初収録曲だ。
 新録曲についても触れておこう。まずトップを飾る「愛の重力」は、爽快なリズムと複雑なコード進行の、ややフュージョン寄りのAORサウンドで、名手・山木秀夫のドラムが大活躍している。かつてパラシュート、スティーリー・ダン、エアプレイ、寺尾聰あたりを好んで聴いていたようなAOR世代にはたまらない楽曲だろう。2曲目「Carry Out!」も同路線の軽快なナンバーで、縦横無尽に展開される華麗なストリングスが聴きものだ。5曲目「Wish」も生バンドならではの疾走感あふれるリズムにより、グイグイと引っ張っていくアップテンポの楽曲。アルバム最後を飾る「とうめいにんげん」は、コトリンゴ書き下ろしによるバラード。ピアノとボーカルだけのシンプルな構成だが、コトリンゴの華麗なピアノと、中島の内省的なボーカル表現との対比を楽しめる楽曲となっている。

 さらにこの「Thank You」で注目すべき点は、初回限定盤の充実した特典内容だろう。まず「BONUS CD」として「B面コレクション+1」というディスクが付属する。文字どおりシングル盤のカップリング曲をまとめた内容なのだが、あえて「B面」というアナログレコード時代の表記にしたところに、昭和期のアイドルを愛好する中島愛らしさが出ている。
 収録曲を見ていこう。まず「パイン」はデビューシングル「天使になりたい」のカップリング、「天使の絵の具」はセカンドシングル「ノスタルジア」に収録されたもので、言うまでもなく飯島真理による『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』エンディングテーマをカバーしたものだ。「陽のあたるへや」はセカンドシングル「ジェリーフィッシュの告白」のカップリングで、宮川弾の手によるもの。「ナイショのはなし」はシングル「メロディ」のカップリングで、窪田ミナが作編曲を担当している。「星空」はシングル「神様のいたずら」から、「パンプキンケーキ」はシングル「TRY UNITE!/Hello!」のカップリング曲だ。「忘れないよ。」はシングル「マーブル/忘れないよ。」の表題曲のひとつで、『輪廻のラグランジェ season2』でEDテーマとして使用された。「素直」はシングル「そんなこと裏のまた裏話でしょ?」から。CDの最後を飾る「マーブル~Rasmus Faber Remix~」はこのディスクのための新録で、同名シングル曲をラスマス・フェイバーがリミックスしたものだ。これがタイトル「B面コレクション+1」の「+1」を意味している。
 もうひとつの重要な特典として、アルバムタイトルと同じく「Thank You」と題された、44ページにも及ぶミニフォトブックが付属する。これが実にストーリー性に富んだ内容で、中島愛のデビューからの歩みと歌手活動の回想、そしてステージへの決別が、一切のキャプションを用いずに写真のみで余すところなく表現されている。彼女のファンならば見ておくべき内容だと言っておきたい。

 全体として「ラストアルバム」という感傷よりは、いずれの楽曲にもポジティブなエネルギーが満ちており、いい意味で予想を裏切られたかたちとなった。マイナー(短調)の楽曲は「愛の重力」「Wish」くらいで、明るい曲と爽快な曲がアルバムのほとんどを占めている。そのあたりが「Thank You」というアルバムタイトルを選んだ、中島愛と制作スタッフからのメッセージなのだろう。涙よりも、笑顔が似合うようなラストアルバムとなった。(和田穣)

Thank You/中島愛

初回限定盤:VTZL-77/4,095円/フライングドッグ
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Thank You/中島愛

通常盤:VTCL-60362/2,940円/フライングドッグ
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