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アニメ音楽丸かじり(99)今年最後は『ヱヴァ:Q』で締め!

 諸般の事情で掲載が遅れてしまったが、11月17日より劇場公開が始まった『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』を、公開直後に鑑賞してきた。劇場はTOHOシネマズ錦糸町で、場内はほぼ満席という人気ぶりだ。男女比は7:3くらいだろうか。以前から言われていたことだが、『ヱヴァ新劇場版』ではだいぶファンの世代交代が進んでおり、TVシリーズ世代よりも大学生前後の若い客層が目立つ。
 内容については差し控えるが、今年1番の話題作となったのは間違いないだろう。

 さて今年最後の連載では、その『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』からの1枚。「Shiro SAGISU Music from“EVANGELION 3.0”YOU CAN(NOT)REDO.」を紹介したい。11月28日にリリースされたもので、キングレコードからサンプル盤を提供していただいた。
 このCDの位置づけについて少し説明しておく。2007年に公開された第1作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』の時には、劇場公開と同時に「Shiro SAGISU Music from “EVANGELION: 1.0 YOU ARE (NOT) ALONE”」がリリースされ、翌年になってから改めて「サントラ盤」が発売になった。前者は各楽曲をフルサイズで収録し、後者は実際に劇場版で使用された尺にカットして収録したものだ。つまり『ヱヴァ新劇場版』のサントラは、2種類存在するということになる。本盤は各楽曲をフルサイズで収録しており、前者の路線を踏襲したものだ。各楽曲はおおむね3分以上の尺があり、長いものでは5分半を超えている。
 内容は、CD2枚組に合計34曲を収録し、トータルで2時間にもなる大ボリューム。DISC2には5曲の未使用音源もボーナストラックとして収録されている。CDタイトルにあるように、本盤は「鷺巣詩郎の音楽集」であるから、宇多田ヒカルによるテーマソング「桜流し」などは含まれていないのでご注意を。

 さて『ヱヴァ:Q』の音楽は、当然ながら新曲を中心に構成されているが、少数ながらTVシリーズなどで過去に制作された楽曲のリメイクもある。そして後述するが、それ以外の出典となる楽曲もまた興味深いのだ。
 まずはDISC2の1曲目「Bataille d’Espace」だ。TVシリーズで「Decisive Battle」と題された曲のリメイクであり、「ダン・ダン・ダン・ダン・ドンドン」というティンパニから始まる曲想が独特で、『エヴァ』のシリーズ全体を象徴するような楽曲だろう。
 そしてあるシーンで大々的にフィーチャーされたのが、DISC1の4曲目「The Anthem」という楽曲。なんと、『ふしぎの海のナディア』からの楽曲「万能戦艦N‐ノーチラス号」のリメイクである。古参の庵野監督ファンにとっては嬉しい1曲だ。リメイクとは言っても、編曲の緻密さ、オーケストラの規模、録音の素晴らしさなど、そのスケール感は3倍にも4倍にも増しているように感じられる。
 そして注目したいのがDISC1の2曲目「The Ultimate Soldier」だ。ストリングスの6連符から始まるスリリングな楽曲で、本作における新曲の中でも、個人的にひときわ格好いいと感じたナンバー。DISC1の1曲目から5曲目までは、いずれも大規模なオーケストラに混声合唱まで加わって、そのサウンドは近年のアニメサントラの中でも屈指の壮大さ。収録はロンドンAir StudioのLyndhurst Hallという、元々教会だった建物で行われており、その響きが『ヱヴァ:Q』のサウンドに、深みと壮大さを与えているのかもしれない。余談だが、同じく鷺巣詩郎が音楽を担当した劇場版『ベルセルク』のBGMも、やはりこのLyndhurst Hallにて収録されている。

 本作で大きな意味を持つ楽器がピアノだ。7曲目「Quatre Mains (à quatre mains)」のタイトルは「4手」の意であり、つまりはピアノ連弾のことだ。その意味するところは、実際に作品を見ていただければ分かるだろうと思う。
 本盤の楽曲の多くが「ストリングス」「ピアノ」「ギター」の3要素で構成されており、電子楽器や民族楽器などの出番は少なめ。「なんでもあり」のハイブリッド音楽が当たり前になってきた近年のアニメ業界において、ストイックかつクラシカルな響きは逆に新鮮に感じられる。

 DISC1の15曲目「From Beethoven 9 =3EM27=」は、『エヴァ』ではすっかりお馴染みとなった、ベートーヴェンの「交響曲第9番」第4楽章から。本作ではBGMに混声合唱が多用されていることもあり、他の楽曲とも違和感なく溶け合っているのも好印象だ。
 12曲目「 It will mean Victory」は、歪んだエレキギターの3連リズムから始まる緊迫感の高いナンバー。
 DISC2の14曲目「Peaceful Times (choeur)」はTVシリーズからの伝統である次回予告の音楽。混声合唱が加わってゴージャスな仕上がりだ。これを聴いて次なるサービス、完結編となる劇場第4作への期待で胸を膨らまそうではないか。

Shiro SAGISU Music from“EVANGELION 3.0”YOU CAN(NOT)REDO.

KICA-3202~3/3,000円/キングレコード
発売中
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 私事で恐縮だが、12月26日にリリースされるPS VITA版「Fate/stay night [Realta Nua] 」のサントラ「Fate/stay night [Realta Nua] Soundtrack Reproduction」のライナーノーツを担当させてもらった。TYPE-MOONのこれまでの歩みを音楽面から振り返るような内容となっているので、ファンの方にはおすすめしたい。もちろん、楽曲解説にもかなり力を入れさせてもらった。
 パッケージはCD3枚組の横並びで、武内崇の描き下ろしイラストをフィーチャーしたダイナミックなものだ。楽曲はリマスターを行い、新録もいくつか入っている。特に新アレンジの「EMIYA #LEGACY」はプログレッシブ・ロック色が強く、なかなか格好いいトラックに仕上がっている。現在、PS2版「Fate/stay night [Realta Nua] 」のサントラが入手しにくい状況なので、これから購入を考える方にはおすすめの1枚だ。(和田穣)

Fate/stay night [Realta Nua] Soundtrack Reproduction

SVWC-7920/3,990円/アニプレックス
12月26日発売予定
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