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アニメ音楽丸かじり(98)『峰不二子という女』サントラは今年もっとも先鋭的な1枚!

 今年もいよいよ年の瀬が近づいて、音楽業界ではCD不況と言われながらも発売点数はなかなかに多い。ざっとアニメ・ゲーム関連のサントラ盤を数えただけでも21作、主題歌は58作がリリースされる予定だ。もちろんキャラクターソング、ドラマCDのリリースも大量に控えている。水樹奈々、サイキックラバー、fripSideといった有力なアニメ関連アーティストの新譜も今月相次いでリリースされた。
 今回はそれらの豊富なラインナップの中から、アニメスタイルでも注目している作品『LUPIN the Third 峰不二子という女』のサントラ盤を紹介したい。日本コロムビアより12月19日にリリースされ、オープニングテーマ「新・嵐が丘」、エンディング主題歌「Duty Friend」(TVサイズ)を含む全43曲を収録予定だ。『峰不二子という女』については、現在好評発売中の「アニメスタイル002」に設定資料集と山本沙代監督のロングインタビューが掲載されているので、興味のある方はそちらも併せてご一読いただくと参考になるだろう。

 この作品の音楽路線を一言で言うとジャズという事になるだろうが、そこにはビバップ、クール・ジャズ、フュージョン、フリー・ジャズ、アシッド・ジャズまで様々なカテゴリが含まれているほか、アバンギャルドな要素もたっぷりと入っている。このようにこだわりのBGMになったのには、いくつかの理由が考えられるのだが、それについては後述しよう。
 さて、このサントラの内容面について触れるなら、まずはなんといっても過激なオープニングテーマ「新・嵐が丘」について語らないわけにはいかない。近年ではアニメ主題歌の作風も多様化しており、器楽のオープニング曲もそれほど珍しいというわけでもない。しかし、5拍子のミニマルミュージックに朗読を被せたこの曲のスタイルは、僕がこれまで見たアニメOPの中でもトップクラスに先鋭的だ。動画配信ポータルサイト「テレビドガッチ」のインタビューによれば、制作陣が初めてこの曲を聴いた時は「ひっくり返った」という。それはそうだろう。まるで新宿タワーレコードのアバンギャルドコーナーで、「店員オススメの1枚!」に挙がりそうなタイプの曲調なのだ(東京在住の人にしか分からない喩えで申し訳ない)。
 この曲を演奏するペペ・トルメント・アスカラールは、菊地成孔が主宰するいくつかの音楽グループのひとつ。朗読を担当しているのは、『RAhXePhON』『コードギアス 亡国のアキト』でBGMを手がけた音楽家・橋本一子だ。彼女は菊地成孔の専門学校時代の恩師だったというつながりがある。サントラに収録されているのは1分30秒のサイズだが、TVサイズという記載はなく、おそらくはこれが正規バージョンという事になるのだろう。シングルカットもされていないため、CDで聴取できるのは今のところこのサントラ盤のみという事になる。
 タイトルにも「新」とあるが、この曲はペペ・トルメント・アスカラールの楽曲「嵐が丘」のリメイクであり、彼らのアルバム「ニューヨーク・ヘルソニック・バレエ」にオリジナル版が収録されている。iTunesでも購入可能となっているので、聞き比べてみるのも面白いだろう。

 サントラの曲順に関しては、特に第1話「大泥棒VS女怪盗」について時系列が重視されているようだ。第1話冒頭シーンのオルガン曲が1曲目「聖痕」、2曲目にオープニングテーマ曲、ルパンと不二子がフラフラ様に捕まってしまうシーンでのアップテンポナンバーが3曲目「峰不二子という女-1」。ルパンと不二子の初会話シーンで流れる4ビートのジャズナンバーが4曲目「絶望と享楽」。不二子が服を脱ぎ出すシーンでの「いかにも」なエロティックなテナーサックスは5曲目「誘惑」、といった感じになっており、ほぼそのまま第1話の構成をなぞっている。

 アバンギャルドな曲調が多いため難解な印象を与えるかも知れないが、サントラは「峰不二子という女-1」「ルパン三世という男-1」など各キャラクターの名を冠した楽曲を中心に構成されており、ある意味オーセンティックとも言えるだろう。とはいえその多くはジャズの即興演奏であり、「ルパンにはこの音色」「不二子にはこのフレーズ」といった分かりやすいライトモチーフがあるわけではない。「そのキャラクターが活躍するシーンで比較的多く使用される」といった程度の位置づけだ。そんな中で異色なのが石川五ェ門絡みの楽曲。8曲目「石川五ェ門という男-1」9曲目「斬鉄の剣-1」など、三味線や尺八といったお馴染みの和楽器を持ち込み、分かりやすく五ェ門のキャラクター性を伝えている。それでいて音楽的には和楽器にブルーノートのフレーズを演奏させ、強引なまでにジャズやブルースのフィールドに引き込んでくるのが面白い。五ェ門初登場の第3話「淑女とサムライ」は、そのあたりをたっぷりと楽しめた内容だった。

 さて、本作はTVアニメの劇伴としては異例なほど過激でアバンギャルドな音楽性を有し、TV第1シリーズの音楽を手がけた山下毅雄、第2シリーズの音楽と「ルパン三世のテーマ」で一世を風靡した大野雄二の作風ともまったく異なるアプローチを辿ることになった。
そうなった理由についてだが、まず山本監督が本作の制作にあたってモンキー・パンチの原作をリスペクトし、TV第1シリーズの前日談という位置づけを与えたこと。したがって時代設定は原作(1967年~69年)からTV第1シリーズ(1971年~72年)にかけての時代の空気を、強く意識しているということだ。この時代はアバンギャルド芸術の最盛期であり、ジャズ界に目を向けるとオーネット・コールマンなどのフリー・ジャズが花開き、ロック界に目を転じればイエスやキング・クリムゾンなどプログレッシブ・ロックが全盛期を迎えていた。多くのアーティストがより革新的なもの、目新しいものを求めていた時代だったのだ。
 ふたつめは本作の音楽プロデュースを担当した渡辺信一郎の働きだ。彼は『カウボーイビバップ』で菅野よう子と組み、ある意味コテコテのビッグバンド・ジャズを極めた作風を世に示した。そして本作と同時期に放映された監督作『坂道のアポロン』では、ジャズの基本であるコンボ編成で、スタンダード・ナンバーを中心に演奏するという正統派のスタイルを貫いた。しかしジャズ通として知られる彼の守備範囲がそこに留まるわけもなく、『ビバップ』『アポロン』にはそぐわないジャズの持つ過激な側面、アバンギャルドな側面を、本作で極めたいと感じたとしても不思議はない。もちろんそれは「作品が求めるから」ではあるが、『峰不二子』がフリー・ジャズを用いるのにふさわしい題材であったのは間違いないところだろう。
 3つめは音楽担当・菊地成孔の多作で幅広い音楽活動歴だ。彼はサックス・プレイヤーであり、基本的にはジャズを活動の中心に据えているが、他ジャンルの演奏家とも積極的にコラボレーションするし、ダンスイベント的なライブも開催している。主宰するグループもホーン中心のダブ・セクステット、弦楽器を加えたペペ・トルメント・アスカラール、ギター2本を加えたエレクトリック・マイルス的なDCPRG、ボーカル入りのポップバンドSPANK HAPPYとなんでもござれ。どんな編成や音楽性にも対応できるタイプのアーティストだ。山本監督の求める時代の空気、渡辺信一郎が求めるジャズの幅広い作風に、対応できる人材としてうってつけだったのだ。
 山本、渡辺、菊地という3つの異才が組むことで、TVアニメ史上でも珍しい先鋭的なBGMができあがった。2012年の最後にして、今年もっともトンガったサントラの登場だ。

TVアニメーション『LUPIN the Third 峰不二子という女』
オリジナルサウンドトラック(音楽:菊地成孔)

COCX-37721/2,940円/日本コロムビア
12月19日発売予定
Amazon

 そして、渡辺信一郎監督つながりでもうひとつ。12月21日に『カウボーイビバップ』関連の旧譜8枚とDVD1枚が一気に再発されるので、まとめて紹介しておこう。改めて語るまでもない名作であり、菅野よう子による音楽もひとつの時代を代表するものだ。これまで入手する機会のなかった方にとっては、CDを手に取るいいきっかけになるのではないだろうか。  以下、再発タイトルとその内容を簡単に記しておく。

■「COWBOY BEBOP」

VTCL-60325/2,625円/フライングドッグ
 TVシリーズのサントラ第1弾。オープニングテーマ「Tank!」ほか17曲を収録。最初に手にとるなら、まずはこの1枚だろう。ビッグバンド・ジャズによる迫力満点の演奏が聴きもの。
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■「COWBOY BEBOP NO DISC オリジナルサウンドトラック2」

VTCL-60327/2,625円/フライングドッグ
 サントラ第2弾。「Don’t bother none」(山根麻衣)、「LIVE in Baghdad」(遠藤正明) など豊富な挿入歌が聴きどころだ。全18曲収録。
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■「COWBOY BEBOP originalsoundtrack3 BLUE」

VTCL-60328/2,625円/フライングドッグ
 TVシリーズ最後となるサントラ第3弾。「MUSHROOM HUNTING」、「CALL ME CALL ME」(Steve Conte)、 「WO QUI NON COIN」(多田葵)などのほか、最終話を飾った「BLUE」(山根麻衣)も収録した全17曲。
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■「COWBOY BEBOP Vitaminless」

VTCL-60326/1,785円/フライングドッグ
 エンディング主題歌「THE REAL FOLK BLUES」と劇伴を組み合わせたミニアルバム。8曲収録。ジャケットはキャラクターデザインの川元利浩による描き下しだ。
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■「COWBOY BEBOP Knockin’on heaven’s O.S.T FUTURE BLUES」

VTCL-60329/2,625円/フライングドッグ
 2001年に公開された劇場作品『カウボーイビバップ 天国の扉』のサントラ。渋い内容に見合った渋い楽曲の数々を楽しめる。「No reply」(Steve Conte)、「Gotta knock a little harder」(山根麻衣)など歌ものも充実した全16曲。
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■シングル 「COWBOY BEBOP Knockin’on heaven’s door Ask DNA」 

VTCL-35143/1,575円/フライングドッグ
 同じく『カウボーイビバップ 天国の扉』よりオープニング主題歌を収録したマキシシングル。ビッグバンドスタイルの1曲目「WHAT PLANET IS THIS」はファンの人気も高いナンバーで、菅野よう子のコンサート「超時空七夕ソニック(2009年7月)」でも演奏された。
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■「COWBOY BEBOP Tank! THE! BEST!」

VTCL-60330/2,100円/フライングドッグ
 2004年リリースのベスト盤。曲数は12曲と少ないが、入門者は最初にこちらを手に取るのもいいだろう。
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■「Cowboy Bebop Remixes “Music For Freelance”」

VTCL-60331/2,100円/フライングドッグ
 Luke Vibert、DMX Krew、Ian O’Brien、Ian Pooley、Fila Brazillia、Mr. Scruffなど豪華なリミキサー陣が『ビバップ』のBGMや挿入歌をリミックスした企画盤。原曲の活かし方がそれぞれ異なっていて面白い。ややマニア向けか。
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■DVD「SEAT BELTS/FUTURE BLUES」

VTBL-22/4,095円/フライングドッグ
 実写ロードムービーとシートベルツのライブ演奏をパッケージした映像作品。ライブは「Tank!」「BAD DOG NO BISCUIT」「Want it all back」「Blue」「Piano Solo」を収録。(和田穣)
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