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アニメ音楽丸かじり(95)『織田信奈の野望』サントラは劇伴の正統派!

 10月17日にポニーキャニオンから、『織田信奈の野望』のサウンドトラック盤が発売になった。58分に32曲を収録しており、オープニング・エンディング主題歌は含まれない。収録曲のタイトルを「南蛮渡来」「戦国乱世」など、いずれも漢字のみで揃えた硬派な1枚だ。僕も発売後にさっそく(自腹で)購入した。
 戦国武将のイケメン化・美少女化はすっかり近年のトレンドだが、本作はその中でも萌え傾向の強い作品。特に主人公・相良良晴の配下たる蜂須賀五右衛門、前田犬千代、竹中半兵衛にねねを加えた4人は、ファンから「幼女軍団」「ロリ四天王」「相良幼稚園」など様々な異名を与えられ、一部マニアから熱い支持を受けた(ちなみに僕は半兵衛ちゃん推しです)。そんな傾向のある作品のBGMを、あの高梨康治が担当したのだから、スタッフが発表になった時は驚いたものだ。

 高梨康治と言えば、やはり『NARUTO』『FAIRY TAIL』『プリキュア』の各シリーズにおける活躍の印象が強く、ここ数年は多忙もあってか深夜アニメを担当することは少なかった。『織田信奈の野望』 に起用されたのは、まず本作が萌え描写とともに、大人数がぶつかり合う合戦シーンを魅力の柱にしており、そこに高梨サウンドが適していること。そして高梨が以前に『一騎当千』シリーズの音楽を担当してたことが関係しているのではないか、と予想している。言うまでもなく、こちらも『信奈』と同様に三国志キャラの美少女化で人気を博したシリーズだ。
 高梨サウンドの特徴と言えば、まず得意とするヘビーメタル寄りのバンドサウンドを基調とし、そこへストリングスを絡ませてスケール感を生み出す。加えて、番組内容に適した特徴的な楽器群を投入していくのがセオリーだ。『NARUTO』では和楽器、『FAIRY TAIL』ではケルト音楽のフィドルやホイッスル、『プリキュア』では女声コーラスなどがそれに当たる。そして『織田信奈の野望』の場合はと言えば、男声コーラスと和楽器を用いた合わせ技となっている。ちなみにブックレットのクレジットによれば、そのコーラス隊には高梨自身も参加しているそうだ。

 1曲目「天下布武」はTVアニメ最終話と同じタイトル。実際に最終話のBパートで、信奈が失意から立ち直るシーンに使用された。雄々しい男声コーラスと激しいリズム、雄大なストリングスのメロディとロックギターが絡みあう、高梨康治の魅力のすべてを凝縮したような楽曲だ。2曲目「襲撃」も同路線で、ハイテンションのバトル曲。ドラムスに和太鼓を重ねた重低音が、合戦場の雰囲気を描き出している。3曲目の「伝来」もスローテンポながら、ストリングスの東洋的なメロディにコーラスと打楽器が彩りを添える壮大な楽曲。深夜アニメというよりは、まるで大河ドラマのようなスケール感だ。4曲目「先陣」もド派手なバトル曲で、冒頭から4曲をハイテンションで駆け抜ける構成に圧倒される。
 信奈のテーマ曲「題―織田信奈―」は、異国趣味だったと伝えられる信長公にあやかってか、洋楽器のハープのアルペジオに、和楽器の尺八がメロディを奏でるミクスチャー。サウンド面から分かりやすく人物像を捉えている。一方で良晴のテーマ曲「題―相良良晴―」はピコピコしたコミカルな電子音で、ゲーム好きという設定と、戦国世界における強烈な違和感を演出。高梨康治が格好いい音楽だけでなく、「三枚目のサウンド」も作れることを証明している。
 そのほか、和楽器の効果的な使用法が随所に見られるのもいい。15曲目「決意」ではストリングスの主旋律に尺八を重ねて、より叙情性を高める工夫がなされているし、20曲目「静粛」では尺八のムラ息を用いたり、篠笛で能管のようなヒシギ音(甲高い音)を出すなど、特殊奏法を駆使して緊迫感を演出しているのは見事だ。
 ストリングスの扱いの巧みさや、メロディラインの豊かさはもはや安心のレベルで、「高梨サントラに外れなし!」と言ってはやや言い過ぎかもしれないが、それに近い印象を受けるほど、近年の仕事ぶりはいずれも質が高い。ストリングスに打楽器、そして和楽器が加わる構成は先述した大河ドラマのほか、多くの邦画で用いられる伝統的な様式。日本人の琴線に触れるメロディ満載で、万人におすすめできる劇伴の正統派とも呼べるものだ。

『織田信奈の野望』―劇伴集― ORIGINAL SOUND TRACK(音楽:高梨康治)

PCCG-01300/2,940円/ポニーキャニオン
発売中
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 ちょっと発売から時間が経ってしまったが、9月26日にリリースされた『恋と選挙とチョコレート』のサントラ盤についても触れておきたい。原作となるPCゲーム版はI’ve、Elements Garden、ランティスがクレジットされるなど、かなり音楽面に力の入った作品だ。オープニング主題歌に川田まみ、エンディング主題歌にCeui、そしてヒロインごとのエンディング5曲をElements Gardenが担当するという豪華な布陣だった。
 TVアニメ版でもその点は維持されており、原作ゲーム版に続いてBGMをElements Gardenが担当している。学園もの・美少女ものであるにも関わらず、随所でElements Gardenらしいスケールの大きなサウンドが聴けるのがポイントだ。CDは全42曲で収録時間71分。 オープニング主題歌「シグナルグラフ」とエンディング主題歌「風のなかのプリムローズ」はそれぞれショートバージョンだが、第1話に使用された挿入歌「ハローメロウ」はフルサイズで収録されている。
 いきなり1曲目の「decision of beginning」から、スネアドラムのロールとストリングスがハリウッドの戦争映画ような雰囲気。2曲目「courage」は、ストリングによる勇壮なメロディに、シンバルやグランカッサまで入る。まるでロールプレイングゲームのテーマ曲のような壮大さだ。3曲目「tense」もビートの効いたサウンドに、ソロバイオリンの旋律が映え、聴き手のテンションを文字どおり上げてくれる。僕はこのド派手な冒頭3曲にすっかり魅了されてしまった。
 もちろん、日常シーンの楽曲もたっぷり収録しており、6曲目「everyday」などはフォークギターのリズムにアコーディオンの調べがルーズな雰囲気だし、7曲目「talk with me」はエレキギターのカッティングに、エレピの旋律が乗るフュージョン的な楽曲。8曲目「skip!」もギターとピアノの爽やかなリズムに、ガットギターとバイオリン2本のメロディが美しい牧歌的な楽曲。このあたりは「いかにも日常曲」といった雰囲気だが、随所に生楽器が使われたアコースティックな手触りで、電子音に慣らされた耳には優しく響く。ギター演奏のうまさも高く評価すべきだろう。
 深夜アニメの美少女ものと言うと、正直言ってあまり音楽に力を入れていない作品もあるのだが、本作は明らかにそれらと一線を画す作風。むしろ音楽がハイライトとなり、番組の風格を一段と高いものにしている。TVアニメや原作ゲームのファンには勿論オススメだが、「Elements Garden作品集」として音楽単体で聴いても、十分に楽しめる充実の1枚だ。(和田穣)

『恋と選挙とチョコレート』MUSIC SELECTION(音楽:Elements Garden)

LASA-5142/3,000円/ランティス
発売中
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