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アニメ音楽丸かじり(94)『もやしもんリターンズ』のサントラは知的な遊びの宝庫!

 先日放映を終えた『じょしらく』で興味深かったのが、オープニング主題歌「お後がよろしくって…よ!」とエンディング主題歌「ニッポン笑顔百景」の組み合わせ。それぞれ別のアーティスト・作曲家ながら、揃って和風のサウンドを導入していた。具体的に言うと、OPでは三味線、箏、小鼓、拍子木など。EDは三味線、尺八、小鼓、篠笛、笙など。EDには三味線奏者の吉田兄弟が参加している。
 現代のポップスで和楽器を用いる場合、実演ではなく打ち込みを使う場合が多い。上記の2曲についても、吉田兄弟のパート以外はほとんどが打ち込みだと思われる。音源にはサンプリングCDやソフトシンセを使う場合が多いのだが、ここで問題になるのが「音楽ソフトの大半は欧米製である」という事実。日本勢はかつてヤマハ、KORG、Rolandなどハードウェアのシンセでは世界をリードしてきたが、ソフト時代に入ってからは劣勢が続いている。そうなると必然的に、和楽器の音源は質・量ともに不足気味という事になる。和楽器の収録法や適したマイクを知らなかったり、そもそも演奏者が日本人でなかったり。そういった不満・不便を感じながら、欧米製の音源を本国の日本人が使っているという、やや情けない状況なのだ。
 そんな中で期待が持てるのは、東京都中央区のSONICA INSTRUMENTS社が2008年に発表した太鼓音源「JAPANESE TAIKO PERCUSSION」と、先月25日に発売されたばかりの「KABUKI & NOH PERCUSSION」だ。演奏者、収録エンジニア、発売元とオールジャパンスタッフで制作された貴重な音源。もちろん僕も発売と同時にすぐ購入した。和楽器特有のアンビエントをたっぷり収録しており、オンマイク・オフマイクも自ら調整できる優れものの音源だ。

『じょしらく』オープニング主題歌「お後がよろしくって…よ!」

KICM-3250/1,200円/キングレコード
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『じょしらく』エンディング主題歌「ニッポン笑顔百景」

KICM-3252/1,500円/キングレコード
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 先日までノイタミナ枠で放映していた『もやしもんリターンズ』は、2007年に放映された第1期からかなり間があいたせいか、シリーズものにも関わらずキャラクターデザイン、美術監督などかなりのスタッフが入れ替わっている。音楽担当も同様に、第1期の佐藤直紀から羽毛田丈史へとバトンタッチされた。10月3日にアニプレックスから本作のサントラ盤がリリースされたので紹介しよう。CDを目いっぱい使った76分に48曲を詰め込み、オープニング主題歌「Wake Up」とエンディング主題歌「サイキン」「最近」はそれぞれTVサイズで収録されている。
 第2期の見どころと言えば、野菜の無料配布に主婦が殺到するなど、ユーモラスな描写が楽しかった第5話の収穫祭と、そこから連続して展開するフランス編だろう。サントラ7曲目の「収穫祭だぜ~! Banjo&Fiddle」は収穫祭の賑わいを表現した楽曲で、タイトルどおりバンジョーとフィドル(バイオリン)をたっぷり使ったブルーグラス調の音楽。3曲目「牛が通るかも」5曲目「美里と川浜」などにもバンジョーは大々的にフィーチャーされており、農大を舞台とした本シリーズ前半を象徴するような楽器となっている。
 フランス編では12曲目「格式のあるホテルリッツパリ」が、ホテルでの長谷川遥と龍太の会話シーンなどで使用。ストリングスにチェンバロを加えた編成だが、J・S・バッハ「管弦楽組曲」の作風を完璧に再現しており、個人的に大ウケした1曲。もちろん作曲家による意図的なパロディだろうと思う。
 13曲目「花のシャンゼリゼ通り」は主旋律にアコーディオンを配した3拍子の小粋な1曲。日本人の頭の中にあるパリ・シャンゼリゼ通りのイメージを、これほどまで的確に表現した曲を僕は他に知らない。アコーディオンにはパリ生まれで日本在住の奏者、パトリック・ヌジェを起用。これぞまさしく「本場の音」である。22曲目「パリの休日」も同路線の洒落たナンバーで、適度に気だるいムードに思わずワインが飲みたくなってしまう。27曲目「黄金の丘」にもアコーディオンが使用されており、農大編がバンジョーなら、フランス編はアコーディオンがキーポイントとなっていると言えるだろう。
 14曲目「禁断の愛」は、出だしのメロディが映画「ある愛の詩」のテーマ曲を彷彿とさせる。この映画も身分違いの禁断の愛がテーマだから、諷意は明らかであるように思う。他にも様々な音楽ジャンルからの影響、引用、パロディなどが散見され、聴けば聴くほどにマニア心をくすぐられる内容。今年耳にしたサントラ盤の中でも、個人的に特に楽しめた1枚だ。作曲者は原作「もやしもん」の愛読者、かつフランス編の主役とも言える長谷川遥のファンだそうで、本当に楽しんでノリノリで楽曲制作していたことが伝わってくる。(和田穣)

『もやしもんリターンズ』オリジナルサウンドトラック(音楽:羽毛田丈史)

SVWC-7888/3,045円/アニプレックス
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