COLUMN

第735回 父の最後

 前回に引き続き私事です。父が“癌でステージ4”だと知らされたのは2年前でしたか? 姉からの電話で。俺も浅い知識で高齢者は癌の進行が遅いと聞いていたし、既に80も過ぎていたので、緩やかに寿命を迎える時期かとくらいに思ってました、本音を言うと。実際、治療に入ったばかりの時は抗がん剤も効いていたらしく、その後の姉とのやり取りでも「お父さん、元気だよ」と、去年までは言っていたのです。しかし今年に入ってコロナワクチン接種のため、抗がん剤治療を一時中断したあたりから、徐々に「具合が悪い」との報告が来るようになって、奈良に嫁に行った姪(姉の長女)のフォト・ウェディング撮影が行われる際(家族が一同に会する最後の機会)も、本来12月に予定していたところを、父の体調から前倒しの10月になりました。

ところが、そのラスト・チャンス、自分は仕事が忙しく、不参加……!

結局、最後に父親と言葉を交わすことも出来ず終いに。
 そして、先月末(11月28日[朝])「お父さんが吐血した」と連絡が入り、次の連絡を待つように姉に言われて待機。結局その日の午後、「今すぐどうこうなる訳ではなさそう」と連絡が入りました。が即、次の日(月曜日)の夜、会社で会議中、甥(姉の長男)から「伸兄ちゃん、今すぐ(名古屋に)来れる!?」との電話。また、直ぐに出れる状況ではなく次の日(11月30日)の朝早く、名古屋に向かいました。10時、名古屋駅着。もう一人の甥(姉の次男)の車で迎えに来てもらい、そのまま病院に直行。到着した際、自分が父の額に手を当てるとまだ体温が残ってましたが、すでに父の意識はなく、間もなく担当医の先生が生命反応の確認。「11時38分、死亡確認とさせて頂きます」と仰り退室。
 ——本当に泣きました。亡くなるまで本当に何もしてやれなかった情けない長男で、申し訳ありません。せっかく息子として生まれたのに、父と男同士の会話とかなんてほぼ皆無。自身が好きだった野球にもプロレスにも相撲にも俺は完璧に無関心! 碌に一緒に遊んだ思い出もなく、ようやく一緒に酒でも飲めるようになるかと思えば、その前に上京。東京で専門学校からアニメーターになり忙しくて2~3年に1回くらいしか帰れていませんでした。こういうのを親不孝と呼ぶのでしょう。月並みですが、孝行したいときには親はなしで、もっと頻繁に実家に帰って一緒に酒酌み交わしたりしてたくさん話しておきたかった、とこれも後悔も先に立たずでした。父も俺に失望はしていたんじゃないでしょうか。
 ただ、そんな俺にあの不器用な父の方から積極的にニコニコと話しかけて来た時の事を憶えています。あれは、専門学校のアニメ制作のため、長期休暇中実家に帰らず、春・夏・冬休みは寮を追い出されるので本来は実家に帰るのがルールだったところ、友人の伝手で東京・墨田区で1ヶ月半ほど住み込みで新聞配達をやらせて貰い、無事制作を終え、帰省した時のことでした。自室で腰を下ろして荷物を片付けてた時、ニコニコと上機嫌で俺の前に座り、「新聞配達やってきたのか?」と。母の方から新聞配達の件を聞いたらしく、父は“知らないところで一人新聞を配って生活出来るようになった息子”と話がしたかったようでした。子供の頃、細くて色白、目が大きくてまつ毛も長く、画を描いたりパソコンのキーボードを叩いたりしていた自分の指の長い手を見ては「女の子みたいだ」と父が良く言ってたくらいひ弱だったはずの息子が「少しは逞しくなったか!」と。それと父の山形の生家は元々新聞屋をやってたので息子もその体験をして来たこと(多分、父も経験済み)が嬉しかったのでしょう。「何件回った?」「自転車か?」など、やっと息子と話が合ったので暫く話しました。
 ちなみにアニメの話にまた無理やり繋げると、『迷い猫オーバーラン!』(2010年/制作・AIC)で脚本・監督した第1話に出てくる少年は板垣の幼少期がモデル。自分が4〜5歳の頃、山形の父の実家で早朝ちょくちょくお爺ちゃん(父の父)の新聞配達に付き合って散歩した思い出が元になってます。
 後は帰省した際に、何回か(本当に数えるほど)一緒に酒飲んだけど、何話したのかは憶えていません。

 「父から見たら俺なんかつまらない息子だったに違いない」などと思いつつ、病院から自宅に父を連れて帰ると、ほどなくして山形から叔父(父の弟)と従兄(父の兄の息子)が駆けつけて来て、父の傍らで一緒に飲みました。叔父・従兄と会うのも何十年振りでしたから。その時、叔父から意外な話を聞きました。叔父曰く、

(父を指して)この人、伸の名前が出てるジブリの本さ持って来て、自慢してたぁ

と言うのです。本と言うのは多分『もののけ姫』の映画パンフレットのことかと。つまり、父が山形に帰省した際、パンフレットを持って「息子の名前が出てる」と皆に見せてたらしいのです。もちろん、板垣が監督した作品なんか観たこともないはずで、というか俺の仕事なんて無関心だとばかり思ってた父が、俺のことを人に自慢したことがあったらしいのです。

 それ聞いた時は、また泣けてきました。

 ……だめだ、またイラストなしで、且つまとまらなかった。

次回はアニメの話しますので、続かせて下さい……!