COLUMN

第663回 杉井監督のMV

こないだ話題にした大塚康生さんに関する原稿を上げた流れで、そのままこちらの原稿に入ります!

 先日、なんとなくYouTubeを観てたら

杉井ギサブロー監督・コンテの『ナンバアナイン』というMVが目に留まりました!

観ると「やっぱり杉井監督は凄えっ!」と。いつの間にUPされてたアニメか知りませんが(ごめんなさい。ネットに疎いもんで)、あまりのカッコよさに感嘆して、繰り返し擦ってました(てか、これ書いてる最中も擦り中!)。黒の中に赤が映える色彩で、月と桜。着物で疾走する美少女。すべてが幻想的かつスタイリッシュで美しく。あと作画技術に頼りすぎないで、ちゃんと「演出の技で見せる」ところが大ベテランならでは。つまりこの手のMVを若いクリエイターに作らせると、必ず作画が死ぬほど頑張ることが大前提の大暴れ何十ページコンテを上げがちなんですが、杉井監督の場合は、これまで手がけられたオープニング・エンディングの仕事を観ても分かるように「MV(TVアニメのOP・EDも含む)の半分は楽曲(歌)が埋めてくれる」ということをとてもよく計算されています。むしろスーパー・ヤンチャ・アニメーターのドタバタ作画など杉井監督には不要なのかと。『ナンバアナイン』も走る少女のリピート数パターンの編集と、くり返す度に微妙な変化を加えて1カット1カットが演出で制御されているフィルムで、そこが個人的に好きなんです。こんな瑞々しいフィルムを作られる方が、間もなく御年80歳になられるとか。信じられません。どういう経緯で今回のMVを手がけられたのか知りませんが、お年を召されて尚もジャンル問わず自身の「色」を滲ませたアニメを作れる杉井監督は本当に凄い方だと思います。
 ちなみに何年も前にこの連載で話題にしましたが、自分は杉井監督の『タッチ』(1985〜87年)OP・EDアニメが大好きで、当時小・中学生だった俺から見て、他のアニメにない「センス」を感じたんです。ただでさえ1分半〜2分しかないフィルムに何カットもBGオンリー(キャラなしの背景のみ)が入る大胆さ! ディゾルブ効果(残像をいくつも重ねる)によるストップモーション! そして、これでもかと寄るドアップの部分ショット! で最後に「総監督・杉井ギサブロー」のクレジット! 誰がどう見てもカッケー! です。
 実際、プロになって『キャプテン翼』(2001〜2002)でお会いした時、作品どおりカッコイイ印象の方でした、杉井監督は。『キャプテン翼』はシリーズ後半からコンテのみで参加させていただき、後半26本(3・4クール)中、計8本(その内1本はコンテ・演出・作監)、つまり2〜3本おきにコンテを切らせていただきました。本当によかったのか? でも制作終了後にプロデューサーに聞いた話では「杉井さんはとにかく”板垣さん指名”だったんです」とのことでとても嬉しい話。確かに2本目(第30話)の打ち合わせの際、1本目(第27話)のコンテを褒めてくださったし、杉井監督的には「まあ楽しそうに描いてるからローテーションで使ってやろうか」くらいには思っていただけたのでは? と好意的に受け取っておくことにしました。で、そのコンテの打ち合わせでも杉井監督は仰ってました。

板垣さんはアニメーターだけど、演出家になったんだから、作画じゃなく”演出で魅せる”箇所を作るようにね

と。コンテを切る際のアドバイスほか、大塚さんとの話、虫プロ興亡記など、杉井監督に教わった話はまた今度!