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第183回 キルかキラれるか 〜キルラキル〜

 腹巻猫です。『ヒーリングっど プリキュア』 のオリジナル・サウンドトラックCDが5月27日に発売されます。今年は新型コロナウイルスの影響で春の劇場版が公開延期になり、TVシリーズも4月26日から「おさらいセレクション」を放送中。でも、TVシリーズのサントラ盤は予定どおり発売されるのでご安心を。プリキュアシリーズ初登板となる作曲家・寺田志保の音楽がたっぷり楽しめる1枚。構成・解説・インタビューを担当しました。「おさらいセレクション」のおともにぴったりです。
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 今いちばん勢いがある作曲家といえば澤野弘之である。
 『機動戦士ガンダムUC』(2010)、『進撃の巨人』(2013)、『七つの大罪』(2014)、『機動戦士ガンダムNT』(2018)、昨年公開の『プロメア』(2019)など、人気作・話題作を次々と手がけ、自身のライブやコンサートを積極的に開催している。筆者もコンサートに足を運んだことがあるが、若い熱心なファンで会場はぎっしり。いわゆるサントラファンとは違った層のファンがついている印象を受けた。
 映像音楽(いわゆる劇伴)の作曲家は、あまり表に出ず、裏方に徹する職人的な作家が多い。澤野弘之は違うタイプである。自身のプロデュースする音楽プロジェクト「SawanoHiroyuki[nZk]」名義で楽曲を発表し、オリジナルアルバムもリリースするなど、自身が前面に出た活動に意欲的だ。2017年にはリットーミュージックからCD付きアーティストブックまで発売された。
 今回は、澤野弘之が2013年に手がけた『キルラキル』を紹介しよう。

 『キルラキル』は2013年10月から2014年3月まで放映されたTVアニメ。『天元突破グレンラガン』(2007)を手がけた監督・今石洋之と脚本・中島かずきのコンビがふたたびタッグを組んで作り上げた学園SFアクションアニメだ。
 父の死の謎を追って本能字学園に転校してきた少女・纏流子。学園は「極制服」と呼ばれる特殊な服をまとった生徒たちによって支配されていた。その頂点に立つのが生徒会長の鬼龍院皐月。皐月と生徒会の支配に反発する流子は、命を持つセーラー服「鮮血」をまとって皐月に反旗をひるがえす。
 全編が激しいアクションの連続。極制服を着た生徒と流子との激しくエキセントリックな戦いが見どころだ。音楽もアップテンポの熱い曲が多い。澤野弘之らしい、勢いのある曲が満載である。
 澤野弘之の音楽の特徴のひとつにボーカル曲がある。映像音楽(劇伴)は台詞と重ねて使用されることが多いため、歌のないインストゥルメンタルで作られるのが通常だが、澤野弘之はあえて劇伴用に歌入りの曲を作るのだ。この手法はTVアニメ『ギルティクラウン』(2011)から意識して採用するようになったという。もっとも、それ以前から澤野は「テーマ的な曲を書くときは歌を想定して書いている」と発言している(2009年のオリジナルアルバム「musica」ライナーノーツより)。
 『キルラキル』の音楽においても、ボーカル曲は重要な位置を占めている。サントラアルバムの1曲目に置かれた「Before my body is dry」は歌詞のあるボーカル曲であり、同時にメインテーマでもある。
 劇中の盛り上がる場面には、必ずこの曲のメロディが流れる。「Before my body is dry」であることもあるし、それをBGM用にリメイクした曲であったり、インストにアレンジした曲であったりする。どのバージョンが使われるにせよ、サビのメロディが強調され、耳に残る。昨今のアニメ音楽はメロディが豊富でバラエティに富んでいる反面、明快なメインテーマが設定されず、音楽の印象が薄まってしまうケースがあるが、『キルラキル』は逆。メインテーマが牽引する力強い音楽である。
 メインテーマとともに重要な主題となっているのが、流子と対立する皐月のテーマだ。こちらは歌ではなく、インストゥルメンタルの曲。劇中に流れる回数はこちらのほうが多い。メインテーマと皐月のテーマ、ふたつの主題が対立構造を明確にし、ドラマの流れを作っている。  2クール目からはラスボスと呼ぶべき皐月の母・鬼龍院羅暁のテーマが登場(追加録音と思われる)。これが、第3の主題となって物語にうねりを与える。テンポのよい展開とダイナミックなアクションに目を奪われがちだが、音楽に注目するのも本作の楽しみ方のひとつである。
 本作のサウンドトラック・アルバムは2013年12月25日に「キルラキル オリジナル・サウンドトラック」のタイトルでアニプレックスから発売された。アニメ本編は1クール目が終わり、物語の折り返しとなる時期。2クール目で印象が強い羅暁のテーマや後期の対決シーンによくかかっていた曲などは、このアルバムには収録されていない。未収録曲は、完全生産限定版ブルーレイ&DVD第5巻の特典CD「オリジナルサウンドトラック Vol.2」に収録された。サントラファン泣かせのリリース形態だが、2019年6月に上記2枚のアルバムを含む3枚組CD「キルラキル コンプリートサウンドトラック」が発売された。これから買うなら、こちらがだんぜんお得だ。
 今回は1枚目の「キルラキル オリジナル・サウンドトラック」から紹介しよう。収録曲は以下のとおり。

  1. Before my body is dry(Vocal:Mika Kobayashi/Rap:David Whitaker)
  2. goriLLA蛇L
  3. 犬Kあ3L
  4. Blumenkranz(Vocal:Cyua)
  5. AdラLib
  6. 鬼龍G@キLL
  7. KILL7la切ル
  8. Suck your blood(Vocal:Benjamin Anderson & mpi)
  9. Kiっ9=KELL
  10. k1ll◎iLL
  11. Light your heart up(Vocal:Aimee Backschleger)
  12. 昼裸lilL♪
  13. 斬LLLア生LL
  14. キ龍ha着LL
  15. I want to know(Vocal:Benjamin Anderson)
  16. 寝LLna聴9
  17. Kiる厭KiLL
  18. Till I Die(Vocal:CASG)

 全18トラック。そのうち歌詞のついたヴォーカル曲が6曲。12曲がインスト曲だ。
 ここで澤野弘之のサントラ・アルバムの特徴である「曲名」に触れないわけにいかない。
 ボーカル曲はオーソドックスな英語タイトルがつけられているが、インスト曲は一見、どう読めばよいかわからない、ユニークなタイトルがつけられている。これについて澤野はインタビューの中で、「タイトルによって曲の世界観を限定したくない」「もともとは英語で曲名をつけていたが、だんだん英語の意味を調べるのが面倒くさくなり、今のような形になった」と語っている。加えて、「こういうタイトルをつけておけば、過去に作った曲のタイトルとかぶることがないから安心」なのだそうだ。
 ユニークな試みだが、サントラファン的には悩ましい。どう読めばよいかわからなくて、曲名と曲がすぐに結びつかない。ただ、JASRACのデータベースには読み方も登録されているので、調べれば正式な読み方を知ることは可能だ。本作は言葉遊びのような曲名のつけ方が特徴で、「鬼龍G@キLL(キリュウガキル)」「Kiっ9=KELL(キックワケル)」くらいならなんとか読めるが、「犬Kあ3L(イヌカサル)」「KILL7la切ル(キルナラキル)」などはそうとう難読度が高い。もっとも、澤野弘之の熱心なファンはこういう曲名も楽しんでいるのだろう。
 アルバムの1曲目はすでに紹介したとおり、本作のメインテーマでもあるボーカル曲「Before my body is dry」。劇中では劇伴用にアレンジした「劇伴特化型1☆極★服(ゲキバントッカガタ ヒトツボシ ゴクセイフク)」(サントラVo.2に収録)もよく使われている。
 ドイツ語で歌われる4曲目「Blumenkranz」は鬼龍院羅暁の登場場面によく流れた曲。ボーカル曲の中では、この2曲が特に本編での印象が強い。
 15曲目の「I want to know」は、第20話と21話で、心が傷つき苦悩する流子の場面に流れたバラード。使用されたのはこの2話のみだが、心に残るナンバーである。
 インスト曲は本能字学園四天王の1人・蟇郡苛のテーマとも呼べる「goriLLA蛇L(ゴリラジャル)」がまず登場。エレキギターのリフを強調したワイルドなナンバーだ。後半はミリタリーマーチ調になる。ここは生徒会の学園支配を象徴するような曲調。
 続く「犬Kあ3L(イヌカサル)」は、軽快なリズムとシンセの特徴的なサウンド、歌ともかけ声ともとれるヴォーカルを組み合わせたダンサブルなナンバー。初期のエピソードで反制服ゲリラ組織ヌーディス・トビーチのメンバーでもある学園の教師・美木杉愛九郎の登場場面に流れていた。
 「AdラLib(アドラリブ)」と名づけられた5曲目は、ピアノ・ソロによるしっとりした曲。流子やマコの心情描写によく使われて印象深い。本作にはストレートな心情曲が少なく、特にさびしげな曲は、この曲を含めて数曲しかない。そのぶん、同じ曲がくり返し使われて耳に残る。
 澤野弘之にとって、ピアノは「声と同じくらい大好きな楽器」だそうだ(アルバム「musica」ライナーノーツより)。自身でピアノを弾くことも多く、本アルバムも「Piano:HIROYUKI SAWANO」とクレジットされている。曲名からすると、アドリブで弾いたのだろうか。
 トラック6「鬼龍G@キLL(キリュウガキル)」は曲名が示すとおり、鬼龍院皐月のテーマ。第1話の皐月登場場面から使用されている。細かく刻まれる弦の緊迫したフレーズから始まり、生徒会の脅威を表現する圧迫感のある曲調に展開。続いて、ダークヒーロー的なカッコよさを秘めた皐月のモティーフが現れる。皐月の強い意志と暗い闘志を表現する曲だ。
 トラック10「k1ll◎iLL(キルワ イル)」は中盤以降のバトルシーンでよく使われた重要な曲。軽快なリズムから始まるが、弦が入って緊迫した曲調に。シンセベースとギターによるブリッジを経て、女声ボーカリーズがフィーチャーされた美しくも悲壮な曲調に変化する。第12話で流子と鮮血が暴走する場面や第18話で流子が生命繊維の精神介入を破る場面、第23話で流子と皐月が共闘する場面など、流子のすさまじい闘志を表現するシーンに選曲されている。メインテーマと並ぶ、ここぞという場面のキメの曲だ。
 弦のピチカートから始まるトラック12「昼裸lilL♪(ヒルラリル)」は日常シーンを彩るユーモラスな曲。流子の親友マコとその家族のシーンによく流れていた。戦いに次ぐ戦いの中でほっとひと息つく曲。
 トラック13の「斬LLLア生LL(キルラキル)」は流子の戦いの場面にたびたび使用されたインスト版メインテーマと呼べる曲。特に「Before my body is dry」のサビのメロディを管楽器が力強く演奏する部分は「流子の決意のテーマ」的に使われている。これが流れたら勝利確実、というとっておきのBGMである。
 しかし、後半は曲調が変わり、重いリズムをともなった不穏なムードに転じる。このパートはヌーディスト・ビーチのメンバー・黄長瀬紬の登場場面などに使われていた。
 次の「キ龍ha着LL(キリュウハキル)」はふたたび鬼龍院皐月のテーマ。頭から力強い曲調で皐月と生徒会の強大な力と闘志を表現する。第21話の流子と皐月の対決場面の使用が印象深い。後半は弦楽器主体の不安な曲調になり、金管楽器群の緊迫したメロディが危機感をあおる。この部分は第12話、13話の三都制圧襲学旅行の場面で効果的に使用されている。
 トラック16「寝LLna聴9(ネルナ キク)」はいろいろな要素が混然としたカオスのような曲。民族音楽風だったり、不気味だったり、ユーモラスだったり、サスペンスタッチだったりと、さまざまな顔を見せる。ある意味、『キルラキル』らしいトラックだ。
 アルバムのクライマックスのはトラック17の「Kiる厭KiLL(キルアキル)」。「ダダン!」と緊迫した導入からじわじわとサスペンスが盛り上がり、危機感に満ちたメロディがコーラスをともなって奏される。強大な敵を描写し、決戦ムードを盛り上げるスケールの大きな曲だ。このパートは次回予告にも使用されている。
 後半はチェレスタの音色をともなうファンタジックな曲調に。女声ボーカルが加わり、狂気を秘めた熱情的な曲に展開する。この後半パートは、第11話から登場する流子の宿敵・針目縫の登場場面に使われ、激しく妖しい戦いの場面を彩った。
 アルバムのラストはクールダウンをうながすようなやさしいボーカル曲「Till I Die」で締めくくられる。
 テンションの上がるアルバムだ。倒れても立ち上がり、戦って戦って戦い抜く流子のイメージがアルバムに反映されている。BGMパートが強敵登場で盛り上がる曲で終わるのがいい。
 もっとも、本アルバムはストーリーを離れて、『キルラキル』にインスパイアされたコンセプトアルバムとして聴くほうがよいだろう。本編では映像の軽快なテンポにあわせて音楽もめまぐるしく切り替わるが、サントラ盤では1曲1曲をじっくり聴くことができる。曲を聴くうちに心と体が動き出す。気分を奮い立たせたいときに格好の音楽である。

キルラキル コンプリートサウンドトラック
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