COLUMN

第616回 アニメ監督の仕事、令和元年(4)

 第613回からの続き。飛び過ぎてすみません。何度もくり返しますが、自分は「画が描けない人はアニメ監督になるべきではない」などとは言ってません。一言も言ってないのですよ! あくまで、

これからは(もうすでに?)「僕は監督(演出)、君はアニメーターなんだから頑張って線を引き続けてね! 僕はこれから飲み会、そして直帰だから」という昭和なワークスタイルはアニメ監督(演出家)に約束されていません!

と言いたいだけ。つまり早い話、誤解を恐れずにハッキリ言うと、

画が描けないなら描けないなりに、最後まで「画以外」の実務作業を手伝うべき!

なんです。少なくとも今は! 仕上げでも撮影でも、もっと言うと制作的外回りとか。制作出身の監督(演出)なら動仕撒きだってできるはず。

現場での追い込み作業すら手伝わず、監督・作家ヅラだけ一人前の方は、これからのアニメ業界には不要でしょう? だって「人手不足」なんだから!

 監督や脚本が不足って、少なくとも現場では聞かないですよ? そんな業界的に不足していないブルジョア役職(スミマセン、俺らアニメーター側からはそう見えます)を何職も兼ねたって、制作現場には何も寄与しません。アニメーターの傍らで「あの作品、印税メチャメチャ美味しかったんだよね〜」的発言を、画が描けない監督や脚本家がしているのを実際聞いたことがあります。これ、想像力が必要不可欠な監督や脚本家なら「貴方のを画にして作品にしてあげてる俺らの目前でどう思われているか?」と想像してから発言してます? アニメーターって99%の人が印税とかに縁のないトコで描いてるんですよ。その商売道具のひとつである「想像力」を持っていれば、アニメーター側から白い目で見られるであろうことは容易に想像がつくと思うのですが。ちなみに自分は今だから言いますが、『てーきゅう』に関する脚本・音響監督料は監督料の枠内でやっており、もちろん印税とかもありません。そして監督料も1期分(2分+12本)で普通のTVシリーズ1話分の演出料ですから。さらにあとがきにも書いたとおり、コンテ集(委員会認可)の売り上げも、会社の新人歓迎会や忘年会などの費用にあててます。あと、これも監督や脚本家に限らず他の役職にも言えることですが、

「俺が贅沢しないと後進・後輩が将来に夢を持たないから」や「俺が代表してギャラを釣り上げてやってる」云々といった詭弁を大義だと勘違いしてる昭和人は、アニメ制作費の振り分けを勉強してからギャラの話をすること! 一部のスタッフだけ贅沢して8割が貧乏するような道理は、令和になってもあるはずがありませんから!

「じゃあアニメ作ってていつ楽になるんだよ?」と仰るブルジョア役職の方々、考えてみてください。アナログ(セル)時代からデジタル制作時代になって、アニメ業界のあらゆる役職が以前より楽に短時間で稼げるようになりました。例えば美術は、PCの導入で絵の具の乾き待ちがなくなり、大量に蓄積したテクスチャやBANK素材で作業の効率化が成されました。仕上げ・撮影も高速化・少人数化に成功。音響方面ではデジタル導入で、かつては1日がかりだったダビングもアフレコと同日でこなせるようになり、仕事の掛け持ちが増えました(てことは稼ぎも)。制作進行業務もたいがいの素材がデータでやりとりできるようになって車両進行も減ったはず。で、作画方面は?

デジタル化しようが線の量は増え続け、ハイビジョンや4Kに耐えられる質が求められ、単価は何十年変わらず!

ちなみに作画はまだ半数以上が紙に鉛筆(アナログ)、デジタル作画に持ち替えようと、おそらく「消しゴムをかける時間の短縮」と「多少バレない程度のコピペが使える」くらいの効果しかありません。もちろんそれでも単価は変わらず(クドい?)。
 だから俺が言いたいのは、

作画のデジタル化を進めている今だからこそ、業界をあげて各セクション(役職)のギャラの見直しが必要でしょう! 難しそうですが!

 実務時間で言うなら、各話作画監督が1日中机にへばりついて必死で修正を入れて1話分こなす期間、シナリオは5本上がります。監督も同じでコンテも微チェックで各話のレイアウト・ラフ原もノーチェックで2〜3シリーズ掛け持ちすれば大金持ちになれますが、一所懸命コンテも全部書き直し、レイアウトもラフ原もバンバン描き直してたら掛け持ちなどできるはずなく、稼ぎは各話演出とさほど変わりません。自分の場合、作品の掛け持ちをやっても、ホン読み(シナリオ打ち)とコンテ作業期間が重ならないようにスケジュールを切ります。次の仕事を受ける際、「今やってる作品のコンテが終わらないとそっちのコンテに入れませんがそれで大丈夫?」と聞いてからお受けするようにしてるわけ。シナリオとコンテは頭の中で常に1本にしておきたい主義で。でもなぜか今まで、それで断られたことはありません。で、今の自分の月収は各話演出と変わりません。
 ま、話がとっちらかってしまいましたが、ここまで書いてたことは、あくまで自分の考えです。業界のデジタル化とギャラの見直しもせず、ブルジョア役職が無節操に荒稼ぎしてるうちは「アニメ制作費を多く出させる」など、たとえ国がメーカーやTV局に命じても叶うはずがありません。だってメインスタッフがさらに高いギャラを持っていくだけですから。まずは何本も掛け持ちしてるブルジョア階級クリエイターに目がくらまないスポンサーが、制作費をちゃんと上手く使える制作会社にお金を出すようになること(難しそう、これも)。あとはその制作会社で監督や脚本家を育てること。そのためにブルジョアさんらがギャラを少しの間ガマンして生活水準を下げて、制作費分配の見直しに協力してくれることなど。最後のがいちばん難しそう。

とにかく「いつまでも」というわけでなく「今は」制作体制の見直しに協力していただけないでしょうか、ブルジョア様! アニメってみんなで作ってるんだから!