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第137回 オーディーンとは何だったのか? 〜オーディーン 光子帆船スターライト〜

 腹巻猫です。夏のコミックマーケット2日目・8月11日(土)に東ホールG-29b「劇伴倶楽部」でサークル参加します。新刊「劇伴倶楽部Vol.15 THE MUSIC OF YAMATO 1977 宇宙戦艦ヤマト(1977)の音楽世界」を頒布します。1977年公開の劇場版『宇宙戦艦ヤマト』と1977年発売のドラマ編LP、および「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」、そして1977年12月に放送されたオールナイトニッポンのラジオドラマ『宇宙戦艦ヤマト』を中心にした内容です。既刊は「THE MUSIC OF YAMATO 1974 宇宙戦艦ヤマト(1974)の音楽世界」と「THE MUSIC OF TRITON 海のトリトンの音楽世界」他を予定しています。会場でお会いしましょう。


 前回と同じく、最近入手したアナログレコードの話。
 1985年に公開された劇場アニメ『オーディーン 光子帆船スターライト』には「音楽集Vol.1」「音楽集Vol.2」と題された2枚のサントラ盤がある。その2枚は前から持っていたのだが、今年に入って、「もう1枚、音楽集があるんですよ」とライターの早川優さんから教えられて、自分の勉強不足を痛感。その後、それほど熱心に探していたわけでもないのだけど、ある日、中古レコード屋でレコードをチェックしていたら目の前にそのレコードがあるではないか!
 当時の定価より安かったこともあり、迷わず購入。これがアニメ音楽史的にもなかなか興味深い盤であった。

 『オーディーン 光子帆船スターライト』は1985年8月に公開された劇場アニメ。西崎義展プロデューサーが『宇宙戦艦ヤマト 完結編』(1983)の後に製作・総指揮を務めて完成させた宇宙SFアニメだ。
 西暦2099年、試験航海中の光子帆船スターライト号に乗りくんだ若者たちが、2万年の昔に地球を訪れていた異星人の宇宙船を発見したことから、異星人の故郷オーディーン星をめざして冒険の旅に出る物語。危険を承知で未知の星をめざす若者たちの冒険心や挑戦心が、本作の大きなテーマである。
 「『ヤマト』の夢ふたたび」をめざしたものの支持を得られず、『ヤマト』の二番煎じ、三番煎じと呼ばれたり、「宇宙を航行するスターライト号の美しさのみが救い」と言われたり、評価の芳しくない作品だ。しかし、作画監督に湖川友謙、高橋信也、金田伊功らをそろえた作画は見応えがあるし、血気盛んな若者たちが大人に反抗してがむしゃらに突き進む展開は『宇宙戦艦ヤマト』にはなかった味で、悪くない。あらためて観た筆者は、「ああ、この味は『宇宙からのメッセージ』(1978年公開の東映実写作品)だなあ」と思った。
 実際、西崎プロデューサーも、これはは若者たちのエネルギッシュなバイタリティが主眼の作品だと語っている。その躍動感にあふれるドラマを表現するには、『ヤマト』でおなじみの宮川泰と羽田健太郎の音楽だけでは不足と考え、へビィメタルとシンセサイザー音楽を取り入れた。
 結果、本作の音楽は、宮川泰&羽田健太郎によるシンフォニックサウンドと、へビィメタルバンドLOUDNESSのロックサウンド、T.P.O.によるシンセサイザーサウンドの3種類のサウンドが共演するぜいたくなものになったのである。
 LOUDNESSは人気ロックバンド・レイジー(影山ヒロノブがいたバンド)が解散したあとに、レイジーのメンバーだった高崎晃と樋口宗孝らが1981年に結成したバンド。1983年には全米ツアー、ヨーロッパツアーを行うまでの人気と実力を兼ね備えたバンドになり、本作に参加した頃は絶好調だった。その後、メンバーの交替はあれど、現在も活動を続けている。
 LOUDNESSが本作に提供したのは、主題歌「Odin」と挿入歌「Gotta Fight」、そしてインスト曲の「CONTACT!! スターライト号発進」(ストリングス編曲:羽田健太郎)と「Flash Out」の4曲だ。
 「Odin」はエンドクレジット(LOUDNESSも映像で登場する)を飾ったほか、スターライト号のクルーたちが異星人の記憶装置を解読してオーディーン星のことを知る場面に流れている。
 「Gotta Fight」は冒頭、若者たちがスターライト号に乗船する場面にたっぷり流れた印象深い曲。スターライトが帆を輝かせて重力遮断航行を開始する場面や、若きクルーたちがスターライト号を奪取する場面にも使用された、若者たちの勢いを象徴する曲である。
 「CONTACT!! スターライト号発進」はタイトルどおり、スターライト号発進シーンを盛り上げた曲。ロックサウンドに乗っての発進シーンは『ヤマト』と対照的だ。また、スターライト号が宇宙のサルガッソー的な異空間ギンヌンガ・ガップを脱出する場面にも流れている。
 「Flash Out」はアクションシーンで流れる野性味あふれる軽快な曲。サントラ盤には入っておらず、LOUDNESSの12インチシングル「Gotta Fight」のみに収録された曲である。
 宮川泰と羽田健太郎が手がけた楽曲は、『宇宙戦艦ヤマト』の流れを汲む壮大かつメロディアスな仕上がり。プロローグに流れる8分に及ぶ大曲「大航海時代」(宮川泰作曲)や羽田健太郎が作曲したスターライト号のテーマ「光子帆船スターライト」、激しいバトル曲「スターライト号の反撃」「THE WAR—大戦争—」(ともに宮川泰作曲)、颯爽とした曲調の「宇宙軍最高速戦闘機」(羽田健太郎作曲)などはサウンドトラック盤の中でも聴きどころだ。
 ところが、60人を超えるオーケストラで録音した宮川泰と羽田健太郎の楽曲は、劇中ではほとんど使われていないのだ。
 本編で印象に残るのは、LOUDNESSの手がけたハードなロックサウンドとT.P.O.が手がけたシンセサイザー音楽のほうなのである。

 本作は3種類のサウンドトラック・アルバムが発売されている。「音楽集Vol.1」(1985年8月発売)、「音楽集Vol.2」(1985年9月発売)は宮川泰と羽田健太郎の音楽とLOUDNESSの楽曲を中心にしたアルバム。そして3枚目が、T.P.O.のシンセサイザー音楽のみを収録したアルバムである(1985年10月発売)。
 このシンセサイザー音楽集、正式タイトルがよくわからない。帯には「オーディーン 光子帆船スターライト音楽集/SYNTHESIZER T.P.O.」と書かれている。ジャケットの表面は「T.P.O. オーディーン 光子帆船スターライト」。ジャケットの背は「オーディーン・シンセサイザー/T.P.O.」。そして、レコードのレーベル面の表記は「DIGITAL TRIP オリジナルサウンドトラック 劇場用アニメーション オーディーン 光子帆船スターライト 音楽集」。店頭でLPの背だけを見たら、あるいは帯なしのジャケットだけを見たら、サントラとは気づかないデザインである。むしろ、T.P.O.のアルバムとして売ろうとした形跡がある。
 そういう事情と、発売時期が公開から2ヶ月もあとだったこともあり、このT.P.O.のアルバムはアニメファンにあまり認知されず、そんなに売れなかったのだろう。現在に至るもほとんど忘れられた存在になっている。
 しかし、これが実は重要なアルバムなのである。

 そもそも「T.P.O.」とは何者か。アルバムには安西史孝と天野正道の名前がクレジットされている。前回取り上げた『みゆき』の音楽に参加した2人だ。この2人を含む5人組ユニットが、1983年にCBS・ソニーからデビューしたTPOなのである(『オーディーン 光子帆船スターライト』では「T.P.O.」と表記されているが、オリジナルアルバム等でのアーティスト名は「TPO」表記なので、以下、これに従うことにする)。
 TPOのデビュー時のメンバーは片柳譲陽、安西史孝、天野正道、岩崎工、福永柏の5人。バンドではなく、単独で音楽作りができる作・編曲家の集まりだった。そのなれそめは、1981年に開催された神戸ポートアイランド博覧会(ボートピア81)のパビリオン用の楽曲制作を請け負った安西史孝が、他のメンバーに声をかけたことだったそうだ。
 アルバム「TPO1」でデビューしたTPOは「ソニーのYMO」と異名を取るほどの注目を集める。そのデビューの年、1983年に、安西史孝と天野正道が手がけたのが劇場アニメ『うる星やつら オンリー・ユー』とTVアニメ『みゆき』の音楽だった。TPOはメンバーの組み合わせで名義を使い分けていて、安西史孝と天野正道の2人が受けた仕事は「TPO2」の名で担当することもあったという。『オーディーン 光子帆船スターライト』もまさにそういう仕事だが、クレジットはTPO(T.P.O.)となっている。
 『オーディーン 光子帆船スターライト』の仕事が特異な点は、T.P.O.名義で1枚アルバムを出したことである。
 そのアルバム=3枚目の音楽集の収録曲は以下のとおり。

A面

  1. 大要塞の出現
  2. 空間要塞体ベルゲル
  3. スクランブルII
  4. アースゴードのテーマ
  5. サスペンス
  6. ベルゲルの苦悩

B面

  1. ベルゲルロボット兵士の行進
  2. 宇宙軍最高速戦闘機
  3. 歪曲点突入
  4. 歪曲点通過
  5. GOTTA FIGHT
  6. オーディーン星

 「大要塞の出現」は謎の敵の本拠地・空間要塞体ベルゲルが登場する場面にたびたび流れた曲。
 「スクランブルII」はシンセによるアクション曲で、「音楽集Vol.1」に収録された「スクランブル」(これもTPOの曲)とともに、スターライト号の戦闘場面を盛り上げた。
 「宇宙軍最高速戦闘機」は「音楽集Vol.2」に収録されている羽田健太郎作曲の同名曲をシンセでアレンジ・演奏した曲。オーケストラ版が録音されているのに劇中ではわざわざシンセ版を使用している。
 「歪曲点突入」は、スターライト号が超光速航行が可能な「歪曲点」(一種のワームホール)に突入する場面に流れる現代音楽的な楽曲。2度にわたって使われている。
 「オーディーン星」は「音楽集Vol.2」に収録された「オーディーン星への想い」の後半部分を新たなアレンジでシンセで演奏した曲。「オーディーン星への想い」は羽田健太郎が作曲、TPOが演奏を担当した曲で、謎の美少女サラがオーディーン星人の残した記憶装置を解読する場面や、物語の終盤でベルゲル要塞のサイボーグ兵士がオーディーン星の思い出を語る場面などに使われた神秘的で叙情的な曲だ。「オーディーン星」のほうは、激闘の末にベルゲル要塞を退けた主人公たちがオーディーンに向けて旅立つラストシーンに流れている。
 未使用曲もあるが、重要な場面で流れる曲も多く収録された本アルバムは、『オーディーン 光子帆船スターライト』の音楽を語る上で忘れてはならない、また、欠けてはならない、重要な1枚である。そして、TPOのアルバムとしても、その筋のマニアには溜まらない1枚だろう。
 「音楽集Vol.1」のライナーノーツに掲載されたプロデューサー・メッセージによれば、もともと、機械に支配される敵異星人を描写する音楽としてシンセサイザーサウンドを取り入れることにしたのだという。
 しかし、これは想像だが、制作を進めるうちに、西崎プロデューサーの中ではTPOのサウンドがどんどん重要になってきたのではないだろうか。完成作品では敵側のみならず、スターライト号側の描写にもシンセサイザー音楽が使用されている。「音楽集Vol.1」「Vol.2」のオーケストラ曲があてはまる場面も、シンセサイザー音楽に置き換わっているのだ。最終的には、本編音楽の半分以上をTPOのシンセサイザー音楽とLOUDNESSのロックサウンドが占めることになった。
 それは、結果的によかったと思う。『ヤマト』との差別化につながったからだ。

 本作が公開された1985年は「SF大作にシンフォニックサウンド」という「スター・ウォーズ」(1977)以来の伝統(もしくは流行)が過去のものになりつつあった時代である。1982年公開の「ブレードランナー」「トロン」はすでにシンセサイザー音楽を採用しているし、1984年にはジョルジオ・モルダーが自身のシンセサイザー音楽をつけた「メトロポリス」をリバイバル公開している。日本でも、『1000年女王』(1982)、『風の谷のナウシカ』(1984)、『銀河鉄道の夜』(1985)など、シンセサイザー音楽が全編を彩るSF・ファンタジーが現われていた。大オーケストラによるシンフォニックな音楽は、『クラッシャージョウ』(1983)、『超時空要塞マクロス 愛おぼえていますか』(1984)を経て、本作を最後に見られなくなっていくのである。そもそも宇宙SFというジャンル自体が劇場アニメから消えていく。
 そんな過渡期のアニメ映画音楽をふり変える意味でも、本作は興味深い。
 残念ながら本作の3種の音楽集は、一度もCD化されていない。LOUDNESSの歌った2曲だけは、LOUDNESSのベスト盤で聴くことが可能だ。音楽集の復刻が望まれる。
 『オーディーン 光子帆船スターライト』では、主人公たちはオーディーン星にたどりつけないまま終わる。オーディーン、それは若者たちの胸に燃えるあこがれや夢の象徴なのだろう。そう思うと、旅を続ける決意で閉じる終幕もさわやかな印象が残る。この作品自体が、見果てぬ夢の象徴のようなものなのだ。時代のあだ花と呼んで切り捨てるには惜しい。その音楽とともに、今一度、鑑賞のチャンスがほしい作品である。

LOUDNESS EARLY SINGLES
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