COLUMN

第561回 高畑監督の話の続き

 板垣がいちばん好きな高畑勳監督作品は何を隠そう

劇場版『じゃりン子チエ』!

です。これはもう名古屋(実家)にいた頃、妹と一緒にビデオで何十回観たことか! 何回観ても、笑えて泣けるのはなぜだろう? と真剣に考えました。学生時代(東京デザイナー学院)の先生、小田部羊一さんと以下のような会話をしたことを憶えています。

板垣「先生、自分『じゃりン子チエ』大好きなんですけど、どちらかというとリアリズムの高畑監督にしてはチエの顔がデーン! と大きくなったり、アントニオのキ○タマ描写とか、現場でどんな感じでやられてたんですか?」
小田部先生「いやあ、パクさん(高畑監督)は大喜びで『原作どおりやるんだ!』ってやってたよ〜! パクさんは原作好きだったから」

質問がファン丸出しの青臭いとこはご容赦いただきたいのですが、先生の返答にはちょっと嬉しく思ったものです。先生とその話をした時(1993年)の高畑監督のキャリアから逆算すると、81年の『チエ』は、どこにでもいるアニメ監督がたまたま貰ったマンガ原作モノとしてやった、いわゆる「仕事」と言われてもなんの不思議もない作品だから。でも、そんな流し仕事を高畑監督がするはずがなかったのです。卒業後、その『チエ』を制作したテレコム・アニメーションフィルムに入社した1994年3月15日、俺が目にしたのは高畑監督の『平成狸合戦ぽんぽこ』の狐の嫁入りシーンで苦しんでいる動画の先輩方の姿でした。妖怪大作戦のシーンをテレコムが原画・動画・仕上げをやってたんですね、たしか。その時も「えっ、こんなの手描き動画でやらせるの鬼だな、高畑監督!」と思ったものです。当時の先輩いわく「1日2枚しか上がらない(汗)」と。その横をニコニコ通り過ぎる大塚康生御大。大塚さんの高畑監督に対する信頼は絶大(に見えました。後の『となりの山田くん』[1999年]の時も同様でしたが)で、「高畑は絶対面白いのを作る!」と仰ってました。そんな大塚さん、『平成狸合戦ぽんぽこ』というタイトルを最後まで『平成ぽんぽこ狸』と呼んでました(笑)。で、大塚さんにも『チエ』の話を訊きました。

板垣「高畑さんて、ほんとに芝居の一挙手一投足にこだわりますよね」
大塚さん「そーだね〜。『チエ』の時にもチエが布団を押し入れにしまうトコを何度も『こうなるはずだ』って説明してリテイク出すんだけど、結局最後は僕が直すことになってね〜」

こんな感じの話、あちこちのインタビュー記事などでいくらでも紹介されてると思うので、これくらいにしておこうと思いますが、最後に2002年、すでにテレコムは辞めて演出の仕事を始めた頃に小田部先生とお食事した際の会話。

板垣「(自分の描いた絵コンテを見せて)先生見てください! コンテ描いたんですよ、僕!」
小田部先生「あれっ!? 板垣君って演出やりたいの?」
板垣「え、言ってませんでした? 最初から自分は演出志望ですよ」
小田部先生「(板垣のコンテ『グラップラー刃牙』をパラパラめくりつつ)凄い! 頑張ってるね!」
板垣「先生は演出ってやってみようと思わなかったんですか?」
小田部先生「いやあ、僕はない。演出っていうのはパクさんみたいな人がやるもんだと思ってたから」

この先生の一言「演出はパクさん」が全てを物語ってると思います。異口同音に大塚さんからも「演出ってのは高畑のこと」と聞いていたし、やっぱり周りが認めてるからこそ高畑”監督”なんですよね。改めて

高畑勳監督のご冥福をお祈りします