SPECIAL

【ARCHIVE】 「この人に話を聞きたい」
第24回 吉松孝博


●「この人に話を聞きたい」は「アニメージュ」(徳間書店)に連載されているインタビュー企画です。
このページで再録したのは、2000年10月号掲載の第二十四回のテキストです。




この10年間、『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』、劇場『スレイヤーズ』、『TRIGUN』、『十兵衛ちゃん』と、間断なく人気作のキャラクターデザインを担当し、その一方でゲーム誌やアニメ誌で痛快なマンガを発表し、カルト的な人気を得ている彼。「特殊アニメーター」という肩書きで、ヘンテコな原画を描いていたりもする。マジメなのかフマジメなのか、腕がいいのかセンスがいいのか、なんとも正体がつかめない人物である。今月は、そんな彼の素顔に迫ってみよう。




PROFILE

吉松孝博(Yoshimatsu Takahiro)

 1965年(昭和40年)8月27日生まれ。大阪府出身。血液型はB型かO型。高校卒業後、スタジオライブに入社し、アニメーターとしての活動を始める。代表作は『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』、劇場『スレイヤーズ』(キャラクターデザイン・作画監督)『TRIGUN』、『十兵衛ちゃん』(キャラクターデザイン・総作画監督)、『風まかせ月影蘭』(総作画監督)等。サムシング吉松のペンネームでマンガ家としても活躍しており、『セガのゲームは世界いちぃぃ!!』(ソフトバンクパブリッシング)「週刊ドリームキャストマガジン」連載はカルト的な人気を集めている。

取材日/2000年8月23日 | 取材場所/東京・スタジオ雄 | 取材・構成/小黒祐一郎





―― え~と、それじゃあ、よろしくお願いします。

吉松 よろしくお願いします。さっき、撮影で缶ビールを2本飲んで、今、飲んでるこれで3本目なんだよね。あはは(笑)。いいですねえ、こういうインタビューも。

―― お酒、飲みながらで大丈夫?

吉松 大丈夫ですよ。普段も素面じゃやってませんから。

―― 普段から、酒飲んで仕事してるの?

吉松 いや、そういうわけじゃなくて(笑)。それくらいの勢いで、やっておりますという事でね。

―― 俺は吉松さんとは10年近いつきあいになるんだけど、実は、昔の話って訊いた事ないんだよね。そのあたりからいきたいんだけど、良い?

吉松 ええ、お任せします。

―― まず先に確認するけど、あなたの仕事の基本はアニメなの?

吉松 そうですね。やっぱり、基本はアニメーターですよ。「特殊アニメーター」、「特殊マンガ家」といった肩書きもあるけど、それはアニメーターである自分に付随しているものだよね。

―― じゃあ、「特殊アニメーター」の話は後回しにしてだね。そもそも、どうしてこの仕事をやろうと思ったわけ?

吉松 やっぱり、中学の頃に『ヤマト』とか、『ガンダム』とかの洗礼を受けまして、中学の時は、美術部に所属してアニメーションを作ったんですよ。美術部の部員だけだと人が足りなかったんで、周りからヘッドハンティングして、巻き込んで、それで、8ミリのアニメを作りまして。そこで作品を作り上げるという悦楽にですね、どっぷりと浸かってしまったのが事の発端というか。

―― 高校でも部活でアニメを?

吉松 中学の時は、別の高校に行ったりしてバラバラになっちゃったんですよ。だけど、付き合いはずっと続いてたんで、高校の頃にも中学の時の仲間と自主制作サークルという感じでやっていたんです。今度はセルアニメーションに挑戦してですね。

―― ああ、中学の頃はペーパーアニメだったんだ。

吉松 そうそう。それが例のDAICONの頃なんですよ(注1)。アニメ誌でDAICONの記事を読んで、素人でもセルアニメが作れるという事を知ったんです。ちゃんとしたセルじゃなくて、大きなセルを買ってきて自分達で裁断すれば、安く作る事ができるという事を知って。「うちらも工業団地までセル買いに行かなきゃ」という話になって(笑)。問屋へ行ってセルを買って、みんなで裁断して。で、どのサイズで切り取るかという問題がそこで発生したんです。確か、DAICONのアニメは、B5版ぐらいにセルを切ってたんですよね。そのくらいにしておけばよかったんだけどねぇ。うちらはB4版ぐらいで切ってたんですよ(笑)。

―― (爆笑)。

吉松 あれはねえ、やめたほうがよかったなぁ(笑)。

―― (笑)。そんなに大きいと絵の具が大変じゃない。

吉松 そうそう。1500枚ぐらい描いたんだけど。塗るのが大変でねえ。後々考えると、そのセルのサイズって、通常の……。

―― TVアニメより大きいね。B4っていうと、劇場アニメサイズだね。

吉松 あれは誤算だったなぁ。当時、メカとかわいい女の子が出てくるのが自主制作でも王道だったんですけどね。メンバーの中にそれに異を唱える者がいたんですよ。それで宇宙飛行士が出てくるやつを作ったんですよ。

―― 宇宙飛行士?

吉松 宇宙空間に二つの米ソの宇宙船があって、片やアポロからアメリカの宇宙飛行士が出てきて、片やソユーズからソ連の宇宙飛行士が出てきて、大気圏に突入するんですね。酸素ボンベは1コしかなくて、それで、どっちが勝つかっていう(笑)。生きてた方が勝ちという。

―― ああ、なるほど。酸素ボンベを奪い合う。その奪い合う様子を作画で見せるわけだ。

吉松 そうそう。ドンドン真っ赤に燃えて、煙が出てですね(笑)。

―― それで、ちゃんと完成したの?

吉松 した、した。

―― 高校時代に作ったのは、その一本だけなの。

吉松 高校の文化祭の時に、生徒会でもなんか出品しようという事になったんですよ。当時、僕は生徒会に出入りしてて、出入りと言っても放課後に行って、うだうだと遊んでただけなんですけど。それで生徒会の作品を、その自主制作サークルに協力してもらって作りました。これは実写で『地蔵人間カタイダー』という(笑)。馬鹿馬鹿しいヒーローもののパロディです。

―― 吉松さんは、生徒会の役員だったの?

吉松 役員ではなかったんです。

―― 毎日遊びに行ってるだけの人だったの?

吉松 そうそう。生徒会にいる謎の男(笑)。

―― で、高校卒業後、専門学校に行くわけだよね。

吉松 行かない、行かない。

―― いきなりスタジオライブに行っちゃうの?

吉松 そうそう。マンガ家の眠田直さんが、自主制作サークル仲間のひとりの先輩だったんですね。それで高校の時に、眠田さんに地元で葦プロのアニメのイベントがあるんで手伝ってくれって言われて。上映会&トークショーだったんですけど、その幕の緞張を上げたり下げたりとかのスタッフをやっていたんですよ。そのイベントの時に芦田(豊雄)さんと、わたなべひろしさんに会って。そん時にまあ、将来。スタジオライブに行けたらいいなあ~と思ったわけです。将来と言っても、すぐその後なんだけどね。

―― 当時のライブは『アラレちゃん』をやってる頃?

吉松 『アラレちゃん』と『ミンキーモモ』ですねぇ。

―― すでに、ゴーゴーな時期だ。

吉松 ええ。「アニメージュ」でも特集なんかが組まれていてですね。スタジオライブは楽しい職場みたいだから、行けたらいいなあと思っていたわけです。

―― で、具体的にどうやってライブへ。

吉松 芦田さんに話したら「とりあえず画が見たい」という事だったので。ルーズリーフにしこたま落書きを描いてですね、見せに行ったんですよ。

―― 東京まで持っていって。

吉松 ところが場所が分かんなくてね(笑)。アポも取らずに行っちゃって。電話帳で調べて、まあ、なんだかんだでライブに行く事はできたんだけど。行ったら、たまたま芦田さんがいなかったんで。とりあえず、その落書きだけ置いて帰っちゃったんです。その後、芦田さんから連絡があって、「来たければ来てもいいですよ」みたいな話になって。

―― 高校卒業して、そのままライブに行って、それですぐに『超獣機神ダンクーガ』に参加する事になるの?(注2)

吉松 そうなりますね。4月にライブに入って、秋口には『ダンクーガ』をやっていたんじゃないかな。

―― あれって、ライブのみんなでキャラデザインをしようみたいな感じだったんでしょ?

吉松 そうそう。芦田さん以外の人にもキャラデザインをやるチャンスを、みたいな企画だったんだと思うんですけどね。

―― と言いつつも、動画マンがTVシリーズのキャラデザインに参加するなんて前代未聞だよね。

吉松 そうだよねえ。しかも、三将軍のデスガイヤーとシャピロ・キーツを。未だに「スパロボ」に出てるんで、嬉しいんですけどね。

―― ああ、そうだね。大活躍してるね。

吉松 あのですね、当時の吉松は、凄い生意気だったと思うんですよ。

―― まあ、自分で言うのもなんだけどね(苦笑)。

吉松 僕が入った頃のライブは『バイファム』をやっていたんですよ。で、その後の作品の『ガラット』のキャラ設定を芦田さんが作りはじめて。それを見せてもらった時に僕は「ああ、やっぱり、こっちの方向に来ましたか」みたいな(笑)、そういう非常に生意気な事をベラベラと喋ったんですよ。そんな事があったから、芦田さんとしては「吉松を困らせてやろう」という考えがあって、僕に『ダンクーガ』のキャラデザインの仕事で声をかけたのかもしれない(笑)。

―― なるほどなあ。アニメーターになってからの印象的な作品は何になるの。

吉松 何だろう? 初原画は『ダンクーガ』でしたけど。『ハイスクール! 奇面組』が印象深いかなあ。その作品でギャグ作画っていうのを思う存分できたかなぁ、という感じで。

―― と言うと。

吉松 僕は『ハイスクール! 奇面組』には途中参加だったんですよ。それで、自分が参加するまでの話数を観ると、ギャグ作画とかがですね、非常にイカンと(笑)。まあ、そんな風に思ったわけですね。あれって、集団ギャグだからドリフターズみたいなギャグをイメージしていたんだけど、なんか違和感があってねえ。で、たまたま一番最初にやった回が、割とコンテ段階で内容を決め込んだ感じじゃなかったんで、そこでちょっと色々とやらかせていただきまして。

―― 愉快な作画をしたわけ?

吉松 愉快な作画ですねえ。頭身が低くなった奇面組の5人が唯を取り囲んで、なぜかツイストを踊るという(笑)。

―― (笑)。

吉松 それも2枚で(笑)。

―― 動画2枚のパカパカした動きの繰り返しで(笑)。

吉松 そうそう、2枚の繰り返しを2パターン使うから、計4枚なんですけどね。豪君とか無表情なんで、結構イイ感じのギャグになって。

―― 他にも『奇面組』では愉快な事をしたわけ?

吉松 今思うと非常に情けない話ですけど、大爆発が起こって画面の奥から、ばくはつ五郎が飛んでくるとかですね(笑)。(注3)

―― (爆笑)。ばくはつ五郎がそのまんま飛んでくるの?

吉松 そう。うろ覚えで描いているから、似てないんだよね。

―― ああ、なるほどね。ばくはつ五郎みたいなキャラが。

吉松 そうそうそう。画面に向かってウインクして去っていく。

―― ああ、なんか若気の至りだねえ。

一同 (爆笑)。

吉松 ええ、ええ。そんな事をやってましたよ。

―― 『奇面組』の臨海学校の話もライブがやっていなかったっけ。

吉松 オイラは臨海学校のヤツだと、スイカを切ってるところをやってる。スイカを切るところは結構、無茶をしてて。あれこそ若気の至りだよね。コンテにない事をやらせて下さいって言ってね。スイカをバラす技のバリエーションを色々いれて。1カットなんだけどね、「1カットじゃね~だろ、それ!」というものになってしまって(笑)。

―― (笑)。

吉松 1カットの中で、さらにカット割りをしまくったんですよ。背景を何枚も作って。

―― つまり、「カット100」だったら、カットの100A、カットの100B、カットの100C って、必要な背景を増やしちゃったんだ。勝手に内容変えちゃって、秒数も増えまくり?

吉松 増えまくり。秒数はね、さすがに演出の人が抑えて、少し縮まったんだけど。縮まったなりに、むちゃくちゃでしたけど(笑)。零君が南斗水鳥拳を使ったりね。

―― ああ、覚えているよ。あれは吉松さんがやったところなんだ。

吉松 そうそう。南斗水鳥拳でスイカを斬っちゃうんだよ。結構、そういう事をやらしてもらっちゃいましたね。

―― なるほどなあ。初作監は何になるの。

吉松 一番最初にやったちゃんとした作監は、『グランゾート』の最終回。

―― 『ワタル』と『グランゾート』で、美少年を描くのはどうだったの?

吉松 ああ。う~ん、そうですね……まあ、その辺は何ですかね? 芦田の血ですかね(笑)。

―― ライブで育っただけあって、無理せず描けたわけだ。

吉松 割とそっち系のスキルはあったのかな。虎王とかラビとかは楽しんで描けましたけどね。

―― 吉松さんのは、割と濃いめの画だったよね。

吉松 僕のはね、ほっぺたの感じとか、鼻のところの影とかは、当時、ふくやまけいこさんと今井ひづるさんが歌にするぐらいの(笑)。(注4)

―― なに、それ?

吉松 今井ひづるさんが歌ってたんだね。「えぐれほっぺ~、鼻の上に影~♪」とかなんとか。

―― 吉松さんの画の事を?

吉松 そうそう。100メートル先からでも分かるという(笑)。

―― 俺、『ワタル2』の時に「アニメージュ」で吉松さんに描き下ろし描いてもらったんだよ。(注5)

吉松 『ワタル2』で? 後ろに黒龍がいるヤツ。

―― そうそう、あれは俺がラフ切ったんだよ。

吉松 ああ、そうだっけ?

―― うん。やたらと線に力のある画が上がってきて、「へー、上手い人がいるんだ」と思ったのを覚えている。その後に『サイバーフォーミュラ』が始まる時に「あの版権イラストの人だ」と思って、ちょっと期待したんだ。

吉松 ああ、そうなんだ。

―― で、吉松さんは『サイバーフォーミュラ』でキャラクターデザインに大抜擢される。

吉松 そうそう、大抜擢。

―― これは、いきなり天から降って湧いたような話だったの?

吉松 たまたま、という感じですね。『サイバーフォーミュラ』の話がライブに来た時に、芦田さんが「じゃ~、吉松やってみっか~」みたいな感じで。多分、別の人に振る予定もあったんだろうけど。

―― もっとキャリアのある人に?

吉松 うん。その時の作品の兼ね合いとかで、僕のところに話が来たと思うんだけど。

―― その当時、25歳、26歳?

吉松 そのくらいかな。

―― 自分の中で『サイバーフォーミュラ』は大きい?

吉松 大きいですねぇ。最初はやっぱり、僕という人間の実力が、あんまり信用されてなかったと思うんですよね。その辺をどうやって払拭していくかというのが課題だったんです。まあ、結果で見せるしかないんですけどね、そういうのは。

―― 信用されてなかったというのは、サンライズ側に?

吉松 サンライズにも、周囲の人達にも。

―― で、実作業をやってみてどうだったの。

吉松 制作状況が良くなかったのも大変でしたね。実作業は……う~ん、まあいつもそうなんだけど「できる範囲で、できる事をやる」という心がけでやりました。

―― なるほど。

吉松 その結果、充実感もあったし、楽しかった。何よりもファンに支持されたっていうのが、大きかったッスね。一生懸命にいいものを作っても、なんのリアクションも起きなくて埋もれてしまう場合もありますからね。

―― 当時は話題になる事が多かったよね。

吉松 「アニメージュ」的には、アニメグランプリも頂きましてですね。(注6)

―― 吉松さん自身も、雑誌でバシバシと描き下ろしを描いていたし、マンガも描いたしね。

吉松 そうそう。サムシング吉松の名前が世に出たのも、「サイバープレス」からですからね。

―― そうだよね。懐かしいなあ。ここで読者の方に説明すると、昔、「アニメージュ」で「サイバープレス」という連載記事があってですね。で、この連載のインタビュアーである小黒さんが「サイバープレス」の担当だったんです。

吉松 そうそう。

―― 「サイバープレス」での吉松さんはマンガを描いていたんだけど、それ以外の「サイバープレス」の記事に関しても、吉松さんの愉快なノリの影響が出ていたような気がする。

―― (笑)。自画自賛しちゃうけど、面白かったよね。

吉松 あれ、そのまま単行本にしたら良かったのに(笑)。

―― (笑)。『サイバー』の後の吉松さんの仕事は、『スレイヤーズ』『TRIGUN』『十兵衛ちゃん』『月影蘭』……と。あっ、こんなもんだっけ。

吉松 そう、作品数少ないんだよね。そういった意味では。

―― 『サイバー』と『スレイヤーズ』が長いんだ。

吉松 長いねぇ。『スレイヤーズ』も、まあ実作業的には4年くらいやっているから。

―― その前の『サイバーフォーミュラ』も足かけ4年ぐらいだね。

吉松 その後、『TRIGUN』以降はマッドハウスさんにお世話になってますね。マッドハウスに自分の机があるという状況は、この仕事を始めてからも、想像だにしなかったですね。

―― よもや、『幻魔大戦』を作った会社に行く事になるとは。

吉松 長生きはするもんですよね(笑)。

―― 『サイバーフォーミュラ』から『月影蘭』の間で、転機はある?

吉松 やっぱ大地(丙太郎)さんとの出逢いかなぁ?僕は、一緒に仕事をする監督や演出家には恵まれてきたし、面白い作品に関わってこれたと思うんですよ。その中でも、大地さんとの出逢いは大きいですね。

―― 『TRIGUN』では、ずっとライブで一緒に仕事をしてきた西村(聡)さんとのコンビだったよね。

吉松 西村とは、もう長い付き合いだからね。彼のやりたい事は非常によく分かるんです。彼が演出家として画に求めるものは非常に分かりやすいし、僕も表現しやすいんですよ。だから、彼とはあんまり組まない方がいいのかなという気も、最近はしてる(苦笑)。

―― あっ、なるほど。

吉松 お互いに頼っちゃうんだよね。

―― ベストパートナーすぎるから。

吉松 うん、具合が良すぎるかもしれない。今後も彼とは一緒に仕事をやっていきたいんだけど、『TRIGUN』の後には、西村には僕じゃない人と組んでほしいなぁというのがあったんですよ。今、彼は監督作品を動かしてますけど、面白い作品になるんじゃないですかねえ。

―― 吉松さんは、実は今までオリジナルのキャラクターデザインは、ほとんどやってないんじゃない?

吉松 ハハハハハハハッ(パンと手を打つ)。そうなんですよ。

―― 今思ったけど、『ダンクーガ』ぐらい?

吉松 そうそう。そろそろ自分のオリジナルキャラで作品を作らなければいけない時期にさしかかってきてるのかなあと思っているところに、運良くそういう話がきまして。現在、その作品に関わっています。

―― タイトルは、もう公表できるの?

吉松 タイトルは『学園戦記ムリョウ』。今の段階で言える事は来年の4月放送開始予定で、マッドハウスが制作、監督が佐藤竜雄。それから、作監・キャラデザが吉松だっていう事くらいかな。

―― 今までは、他の人の原作やキャラクター原案のある作品に参加してきて、ストレスが溜まっていたとか。

吉松 うーん。ストレスって言うほどでもないですけどね。やっぱり、元があった方が、楽っちゃ楽ですしね。ただ、オリジナルでやりたいという気持ちも無かったわけじゃないんです。

―― 今までオリジナルキャラは、小出しにしてたわけだよね。『サイバー』のブリード加賀とかさ。次の作品のキャラクターも、シャピロのような、ブリード加賀のようなラインなの。

吉松 いや、それが実は……質素な(苦笑)。質素というと言葉が変だけど、あんまり濃い系のキャラという感じではないんだよね。それは佐藤さんのオーダーもあるんですけど。非常に普通な感じの少年少女の活躍するアニメになると思いますけど。

―― なるほど。

吉松 少年マンガらしさっていうか、みんなのイメージの中にあるような少年マンガらしさというものを狙っていますね。

―― 吉松さんには、さっき言った「特殊アニメーター」という顔もあるわけだよね。(注7)

吉松 はいはい。

―― ここでまた、読者に説明するとですね。『ゲキ・ガンガー』の劇画タッチ作画とかですね。『ジェネレイターガウル』のアイキャッチとかね。

吉松 それと『天なる』のアイキャッチとか。

―― 『デ・ジ・キャラット』のペーパーアニメ風作画とか。それと『新・天地無用!』とか。

吉松 ああ、『新・天地』のポリスメンね。まあ、なんつんでしょうねぇ、「一芸アニメ」というか。他の人が真面目にやってる中で、少し芸を見せるというかね(笑)。

―― あそこら辺の仕事は、サムシング吉松としてマンガを描いているのに近いんだようね。

吉松 そうそう。

―― 「特殊アニメーター」の仕事は息抜きに近い?

吉松 息抜きに近いですね。特に、ポリスメンの時なんかは、どれくらいイイ加減にやって画面を成立させられるか、という事にチャレンジしていましたから(苦笑)。でも、でき上がると、結構、ちゃんとしたものに見えちゃうんだよね。あれは口惜しかったです。ハハハハハッ。

―― 『ゲキ・ガンガー』やるまで、吉松さんがあんなに芸達者な人だとは思わなかった。勿論、『サイバー』みたいな格好いい画を描くのは知っていたけど。

吉松 芸という事では、そうだよね。キャラデザインや作監は全体で見る仕事だけど、原画で参加する場合は、そうじゃないからね。特に「特殊アニメーター」の場合は、どうやって目立つかというのを考えるよね。

―― 「特殊アニメーター」の仕事の場合は「特殊な仕事をしてくれ」って依頼されるわけ?

吉松 最近はそういう形の方が多いかもしれない。そういうオーダーでくる場合は、非常にやりやすいよね。要するに、周りとの違和感を求められているわけだから。「そういう事なら、オッケー!」って暗示ですね。

―― ちょっと意地悪な質問になっちゃうけど、アニメの『セガのゲームは世界いちぃぃ!!』は、現在、どういう状態なの?

吉松 ハハハハッ。あれはポシャった事はポシャったんですけど、僕としてはあきらめたつもりはまだないので、あのー、機会があれば。(注8)

―― そういう事なんだ。機会があるといいなあ。

吉松 あるといいなぁ。完全に芽が無くなってるわけではないので、まあ、運が良ければ、何かしらのかたちに。たとえ10分のものでも、アニメの作品として発表できるといいなぁと思っとるわけですよ。

―― それはさっき言った自主制作に始まり、『奇面組』を経由して「特殊アニメーター」に至る、愉快ラインの。

吉松 そうそう。愉快ラインの集大成というかね。キャス子をアニメにしようと考えてたりすると、やっぱり自主制作をやってて良かったなぁと思いますね。プロとしてモノを作るのとは、別の傾向の作品というか。そういうものをプロのスキルで作れたら面白いんじゃないかなと思いますね。最近、アメリカのアニメーションが好きなんですよ。『サウスパーク』とか『キング・オブ・ザ・ヒル』とか、ああいった作品の根っ子にあるものは、少人数で作品を作る自主制作イズムみたいなものじゃないかと思うんですよ。

―― プライベートっぽいけど、芸術作品じゃない。

吉松 そうそう。猥雑な、単なる受け狙いというか。最近、そういう純粋な面白さが、ちょっと薄れてきているような気がする。

―― それは自分に関して、業界に関して。

吉松 自分と業界の両方で。そういうのをやってもいいんじゃないかという気もしている。

―― 今まで、特殊アニメーターとして細々とやってきたものを。

吉松 全開にしても、良いのかも。ひょっとして作品として成立するんじゃないかなという気がしてるわけですよ。

―― 吉松さんは『サイバーフォーミュラ』とか、『十兵衛ちゃん』と、ちゃんとした商業的なモノをやりつつ、特殊な事をやってるのがバランスいいよね。

吉松 僕は、やっぱり自分は商業アニメーターだと思うんですよ。

―― マンガを描こうが何しようが。

吉松 うん。それでアニメーターとして、めちゃくちゃ素晴らしいレイアウトが切れるわけでもないし、かっこいいエフェクトができるわけでもない。自分のできる事をできる範囲でやるという生き方を、ずっとしてるんで(苦笑)。

―― 実は俺、吉松センセに憧れてるところがあるんだよね。吉松さんてさ、やっぱ気張んないよね。

吉松 気張らないですね。無理しないッス(笑)。

―― 昔、『サイバーフォーミュラ』で、雑誌用の描き下ろし頼んだ時に、何となく仕上がりがイマイチだった時があったんだよね。それで「どうしたの」って訊いたら、「いやあ、調子が出ない時には、何を描いてもダメですね。わっははははっ」って、豪快に笑われた。

吉松 ハハハハッ! ひでえ。それはひどいよ、君! はっははは。

―― その時は「コイツめ」と思ったんだけどね。後でよくよく考えてみると、こだわるときはものすごくこだわって、ダメな時は「ダメでした」って笑えるというのは、羨ましい事だなと思った。

吉松 (笑)。そんな事がありましたか。まあ、表面だけ繕ってもしょうがないからね。

一同 (大爆笑)。

―― 身も蓋も無いなあ。で、マンガの方はどうなの?

吉松 マンガは、まあ、頼まれればぼちぼち描くという感じで。

―― 吉松さんは、基本的に毎日スタジオで作画監督の仕事をしているわけじゃない。マンガはその仕事の合間をみてパパッとやっちゃうわけ?

吉松 そうですね。多分、原稿頼んでる人が、僕がマンガを描いているところを見たら、怒り出すと思いますよ。あまりにもサッサッと描いちゃうんで(笑)。ハッハハハハッ。僕のマンガっていうのは、本業に支障をきたさない程度の範囲内で描いているんで。

―― 下書きとかはするの?

吉松 下書きは一応あります。と言うと、みんな驚くんだけど(笑)。ただ、動画用紙に描いてますけどね。最初はちゃんとした紙に描いてたんだけど。タップがあると便利だしね。下書きの上に……。

―― ああ、乗せるとしたが透けて見えるからね。

吉松 そうそう。動画用紙は薄いからグチャグチャになりやすいんだけど、どんなにグチャグチャになっても、それを「味」と言い張る(笑)。「これは味ですから」と。

―― 去年から今年にかけては凄かったんじゃない。『セゲいち』のグッズが出たり、単行本が出たり、あなたの人生の仲でもかなり大きいイベントだったのでは?(注9)

吉松 やっぱ、楽しかったですね。

―― こんな事になるとは思わなかったでしょ。

吉松 ええ。単行本にする目論見なんて無かったですから。単行本になる時も「えっ、単行本になるんですか? うそー」って感じだった。グッズにしても、プロレスラーにしても、別にこっちから仕掛けてるわけではなくて、外部からきた企画ですからね。そういった意味では『セゲいち』は結構みんなに愛されていて、幸せなマンガですなぁ。

―― じゃあ、ここらでちょっと真面目な話に。吉松さんの、今後の目標は?

吉松 そこだぁ!(ビシッと膝を叩く) 実は目標が無いんですよ。

―― 無いの?(笑)35年間も生きてて、ずっと無いの?

吉松 いやいや、今年に限って無いの。

―― あっ、今まではあったんだ。

吉松 何かあったんだよね。でも、今は、これ以上望む事は無いんじゃないかって……。マンガもそこそこ受けたし。

―― 欲の無い人だなぁ(笑)。

吉松 僕は「知る人ぞ知る」っていうところに留まるのがいいんだよね(笑)。このくらいの位置でしょう。これ以上は頑張らない方がいいと思うんだよね。

―― 君のアニメーター人生は幸せなんだな、今のところ。

吉松 ハハハハッ。そうだねえ。ただ『セゲいち』のアニメ化の話が、このまま実現せずに埋もれてしまうと寂しいかな。一応、『セゲいち』の監督としてですね、フイルムを仕上げたいですね。それが目標かな。

―― なるほどね。監督願望はあんまり無いけど、1本くらいはやりたいわけね。

吉松 演出願望は無いけど、監督願望は無い事はないんだよね。

―― つまり、いろんな人と打ち合わせしたり、指示したりしながら、フイルムを作るような監督にはなりたくないのね。自分で、面白いフイルムを勝手に作る事はしたいわけだ。

吉松 そうそう。

―― あのさあ、ケーブルTVとかの音楽専門チャンネルでアイキャッチとしてやってる、妙なアニメがあるじゃない。

吉松 ああいうの作りたいよね。

―― あれを作ってる人達って、メチャメチャ幸せそうだよね。

吉松 そうだよね、ああいうのだよね。アニメーターの人でも、キャリアを積んで演出家になる場合があるじゃない。オイラは、そういう気持ちはあんまりないんだよね。そういう部分はマンガで発散しているし。フイルムを作るのは、プライベート的なものならできるだろうけど、シリーズや長いビデオ作品の監督はできそうもないし。色々ね、難しいですよ(笑)。

―― 話は全然前後しちゃうんだけど、吉松さんは『TRIGUN』と『十兵衛ちゃん』で全話のレイアウトチェックをしていたじゃない。『月影蘭』でもやったの?

吉松 一応全話見てます。ほとんど手をいれなかった回もあるけど。

―― 吉松さんは普段から自然体でさ、今、言ったみたいに「やれる事だけやってまーす」みたいなノリに見えるんだよね。だけど、実際に周囲の人に話を聞くと「吉松さんは凄いですよ」とか「『十兵衛ちゃん』のレイアウト、全部自分で見たんだよ」とかって話を聞く。

吉松 うーん。

―― 『TRIGUN』や『十兵衛ちゃん』では各話の作監はほとんどやらないので、その分、全話全カットのレイアウトを見たわけだよね。自分の作監担当回だけキッチリ修正入れてレベルを上げようとするんじゃなくて、シリーズ全体を良くするために、全話のレイアウトをチェックしたわけでしょう。

吉松 僕のスタンスとしては、そこまでがキャラクターデザインの仕事なんですよ。キャラクター設定を作った時点では、僕の中でキャラが完成してないんですよ。

―― ああ、なるほどね。

吉松 原画の人が描いてくれたキャラクターや表情をチェックして、こなしていくところまでがキャラクターデザインだというスタンスで、やってるんですね。

―― 各話に手を入れて、よりこなれたモノにしていきたい。

吉松 そうそう。だって、アニメってシリーズが進んでいくと、キャラクターが生き生きしてくるものじゃないですか。だから、そういう部分を自分でコントロールしたい。それが一番楽しんでるところでもあるんですよ。マッドハウスの仕事で、何がありがたいって、そういう事をやらせてくれるところですよね。

―― という話からも分かるように、吉松さんは、かなり制作現場寄りの人だよね

吉松 それはそうですね。

―― ファンの人は、自宅でドリキャス子のマンガ描いてて、時々現場に行ってると思ってるかもしれないけど(笑)。

吉松 今年、『ミルクチャン』と『月影』で、初めて2本掛け持ちっていうのをやってみたんですよ。大地さんって、たくさん掛け持ちをするじゃないですか。

―― どうだね。

吉松 そうれに触発されたわけでもないんだけど、そういう風に作品を同時に関わるやり方もあるかと思って。『月影』は総作監だけだったんで、自分的にはできるんじゃないかなと思って、『ミルクチャン』のキャラデザインだけを受けたんですよ。やってみたら、やっぱりキャラデザインだけやるのは僕には苦痛でしたね。

―― 自分で各話に手を入れないと。

吉松 うーん、なんか中途半端な作品の関わり方をしちゃったなぁという反省がありましてね。やっぱり、自分にとっては、各話のチェックまでするのがキャラクターデザインの仕事なんだなあと感じましたね。

―― 偉いなあ。根っからの作画の人なのね。

吉松 動画用紙の上の世界までやらないといけないというか。キャラ表だけだとやっぱり表現しきれない。その後の過程も、後追いでやりたいっていう感じなんですよね。



(注1)
81年に大阪で開催された第20回日本SF大会(愛称「DAICON Ⅲ」)のために制作されたOPアニメーションは、当時、アニメ雑誌等でも記事になり、アニメファンの間で話題となった。このフィルムの制作に関わっていたのが、当時はまだ学生だった庵野秀明さん、赤井考美さん、山賀博之さんといったメンバー。

(注2)
『超獣機神ダンクーガ』は、スタジオライブの数人が「いんどり小屋」というチームを組んでキャラクターデザインを担当した作品。吉松さんは動画を始めたばかりの新人アニメーターでありながら、いんどり小屋の1人としてキャラクターデザインに参加している。当時、弱冠19歳。

(注3)
『ばくはつ五郎』は70年に放映された学園アニメ。主人公の名前が五郎。

(注4)
ふくやまけいこさん、今井ひづるさんはマンガ家。『魔動王グランゾード』の大ファンであり、ライブのメンバーとも友達付き合いをしていた。

(注5)
91年2月号の巻頭特集。

(注6)
第14回アニメグランプリ(92年5月号発表)で、『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』は作品部門、男性キャラクター部門、アニメソング部門を獲得。

(注7)
「特殊アニメーター」とは『機動戦艦ナデシコ』の劇中アニメの『ゲキ・ガンガー3』の劇画タッチ作画や、『新・天地無用!』の劇中劇『ポリスメン』のヘナチョコ作画等、特殊なシーンで特殊な作画を担当する場合の彼の肩書き。『ゲキ・ガンガー3』では、東映動画系の劇画タッチと、虫プロ系の劇画タッチを描き分けるという技を見せた。『ジェネレイターガウル』と『天使になるもんっ!』では、1回ずつアイキャッチの作画を担当している。

(注8)
彼が描いている人気マンガ『セガのゲームは世界いちぃぃ!!』は、一度アニメ化が決定し、マスコミでも報じられたが、諸般の事情で企画自体が凍結されてしまった。彼自身が監督・脚本.キャラクターデザイン・作画監督を務める予定だた。

(注9)
『セガのゲームは世界いちぃぃ!!』(通称『セゲいち』)は、ソフトバンクパブリッシング「習慣ドリームキャストマガジン」連載中の人気マンガ。単行本の売れ行きも上々、グッズも発売され、主人公のドリキャス子をモデルにしたプロレスラーが登場する等、熱い盛り上がりをみせた。