COLUMN

第117回 女神が届ける音楽 〜ああっ女神さまっ〜

 腹巻猫です。10月28日から公開される『映画 キラキラ☆プリキュアアラモード パリッと!想い出のミルフィーユ!』のサウンドトラックが10月25日に発売されます。構成・解説を担当しました。カメオ出演するあのゲストキャラクターの曲も収録。本編とともにお楽しみください!

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 前回『かんなぎ』を取り上げたので、こちらも取り上げないわけにいかないだろう。男の子のもとに女神がやってきて同居することになる『ああっ女神さまっ』である。
 原作は藤島康介の同名マンガ作品。1988年から2014年まで『月刊アフタヌーン』に連載された。1993年にOVAとして初映像化。以来、1998年の外伝TVアニメ、2000年の劇場版、2005年のTVアニメ第1期、2006年のTVアニメ第2期、2007年のTVアニメ特別編と、数回にわたってアニメ化されている。息の長い作品だ。長期にわたって多くの作品が作られているのに、外伝を除いて、合田浩章監督をはじめとするメインスタッフはずっと変わっていない。メインキャストも同じだ。スタッフ、キャストの愛を感じる作品である。
 音楽はOVA版を安田毅、外伝を村山達哉が担当。劇場版以降は一貫して浜口史郎が担当している。今回は浜口史郎が手がけたTVアニメ第1期の音楽を紹介しよう。

 モテない大学生・森里螢一は偶然「お助け女神事務所」の女神ベルダンディーを呼び出してしまう。ベルダンディーから「一つだけ願いごとをかなえることができる」と言われた螢一は、とっさに「君にずっとそばにいてほしい」と口にする。その願いが聞き届けられ、ベルダンディーと螢一との共同生活が始まる。……というのが物語の発端。やがて、ベルダンディーの姉ウルド、妹のスクルド、魔族のマーラーらが登場して、螢一は天界・下界・魔界を巻き込む大騒動に巻き込まれていく。純粋で天真爛漫なベルダンディーが人間世界の生活にとまどいながら螢一と心を通わせていく展開が見どころだ。
 このTVアニメ版、最初のOVA版で描かれた物語の始まりからをもう一度描く、いわゆるリブート作品である。先行する劇場版は螢一とベルダンディーの関係が確立したあとの物語だったので、TVアニメで話が巻き戻されたことになる。劇場版から参加した浜口史郎はその点をふまえて、『ああっ女神さまっ』の音楽世界をあらためて構築したという。
 浜口史郎は1969年生まれ。東京藝術大学音楽学部作曲科を卒業後、ビクターエンタテインメントに制作ディレクターとして入社。1996年より作曲活動を開始した。アニメ、ゲームの音楽を中心に活躍するほか、歌曲のアレンジやコンサート用のオーケストラアレンジも多く手がけている。アニメでは、『ONE PIECE』(1999〜/田中公平と共作)、劇場版『クレヨンしんちゃん』シリーズ(1999〜)、『おおきく振りかぶって』(2007)、『ジュエルペット』シリーズ(2009〜2011)、『ロザリオとバンパイア』(2008)、『ガールズ&パンツァー』(2012)、『SHIROBAKO』(2014)などの作品がある。
 スケール豊かなオーケストラサウンド持ち味だが、シンセの打ち込みを使った音楽もうまい。『ガールズ&パンツァー』では吹奏楽を意識した音作りで「戦車+女子高生部活もの」の雰囲気を巧みに演出していた。大編成の音楽でも暑苦しくなく、明朗でキラキラ感のある上品なサウンドが魅力だ。筆者は『ジュエルペット てぃんくる』と『ジュエルペット サンシャイン』のサントラ構成を担当させていただいたが、メロディラインのくっきりした可愛い音使いの曲が多く、「小さい女の子はこういう音楽好きだろうな」と思ったことを思い出す。
 『ああっ女神さまっ』では、クラシカルで上品な音楽を中心に、ロックサウンドやテクノ風のサウンドも取り入れている。劇場版はワルシャワ・フィルが演奏した壮大な音楽が印象的だったが、TVシリーズはぐっと現代的になっているのが特徴だ。
 また、物語をあらためて始めることになるので、浜口史郎は各キャラクターをちゃんと説明するための音楽を書いたという。サントラには「ベルダンディー」をはじめ、「ウルド」「スクルド」「沙夜子」などのキャラクターをイメージしたテーマが収録されている。
 サウンドトラック・アルバムはジェネオンエンタテインメントから「Original Soundtrack-1」「同-2」のタイトルで2枚発売された。1枚目の限定版には2枚をまとめて収納するスリーブケースが付属している。ブックレットは8ページと簡素ながら、1枚目には浜口史郎の、2枚目には音響監督の岩浪美和のインタビューが掲載されて資料性も高い。ジャケットは実景を映した写真とアニメ画を組み合わせるなど、凝ったパッケージになっている。こんなこだわりも、本作がスタッフに愛されているなあと感じるところだ。
 1枚目の内容から紹介しよう。収録曲は以下のとおり。

  1. OPEN YOUR MIND 〜小さな羽根ひろげて〜 (On Air Ver.)(歌:石田耀子)
  2. プロローグ
  3. 自動車部
  4. レース
  5. ウルド
  6. お色気攻撃
  7. 田宮、大滝先輩
  8. 大騒ぎ
  9. ドキドキ
  10. 恋する気持ち
  11. トラブルメーカー
  12. 2級神1種限定
  13. tiny waltz
  14. 強制力
  15. アイキャッチA
  16. ベルダンディー
  17. 優しい心
  18. 悲しみ
  19. 愛する人のために
  20. 微かな胸騒ぎ
  21. 沙夜子
  22. 静かな対決
  23. 迫り来る恐怖
  24. 魔法バトル
  25. 1級神2種非限定 〜Sanctus〜
  26. 友情
  27. ハッピーエンド
  28. 予告
  29. 願い (On Air Ver.)(歌:石田耀子)

 オープニング主題歌に始まり、エンディング主題歌で終わる、TV放映のフォーマットを再現した構成。アイキャッチ音楽や予告音楽がちゃんと収録されているのがうれしい。
 オープニング主題歌は浜口史郎とのコラボ作品も多い田中公平が作曲。異国の空を舞うような優雅でエキゾティックなメロディで女神と天界のイメージを広げる。岸村正実と浜口史郎によるケルトミュージック風アレンジもすばらしい。歌手の石田耀子は作詞も担当。彼女の代表作と呼べる曲になった。
 トラック2からがBGMパート。「プロローグ」は第1話の冒頭、大宇宙を描く映像をバックに運命の不可思議をナレーションが語る場面に流れた曲だ。
 トラック3「自動車部」とトラック4「レース」は螢一の大学生活を描写する活気のある音楽。「レース」は第10話の大学対抗ラリーの場面に使用されていた。
 次のトラック5からの構成はちょっと変わっている。物語の流れからすればベルダンディーのテーマを頭のほうに持ってくるところだが、ベルダンディーの姉ウルドのテーマが登場。グラマラスなお姉さまキャラに螢一が翻弄される場面の「お色気攻撃」が続く。
 この構成についてちょっと考えてみた。
 アイキャッチをはさんで前半と後半に分けると、前半には冒頭の「自動車部」「レース」をはじめ、「田宮、大滝先輩」「大騒ぎ」「トラブルメーカー」「tiny waltz」などコミカルな曲やアクティブな曲が多い。
 いっぽう後半は「ベルダンディー」「優しい心」「悲しみ」「愛するの人のために」「友情」など、じんわりと胸にしみる曲が多く収録されている。
 これは前半を明るく活動的な雰囲気に、後半をしっとりした雰囲気にまとめようとしたのではないか。レコードでいうなら、A面とB面を雰囲気を変えて対比させるような感じに。
 もちろん別の意図がある(もしくは何もない)可能性もあるけど、そんな風に考えながら聴くのもサントラの愉しみのひとつだ。
 トラック12の「2級神1種限定」は女神の資格を表す言葉。「2級神1種限定」はスクルドの資格だ。トラック25の「1級神2種非限定」はベルダンディーの、2枚目に収録された「2級神管理限定」はウルドの資格を表している。曲調から三姉妹のサブテーマか法術(魔法)を使う場面を想定した曲とも思われるが、実際にはほとんど(もしくはまったく)使用されなかった。
 トラック14「強制力」はベルダンディーと螢一の契約が生む強制力をオペラ音楽的な曲調で表現する曲。タイトルどおりの場面には使われず、第13話で螢一とスクルドが協力してバグ取りマシンを作る場面に使用された。本作では意外にファンタジー的な曲の出番は少ない。
 魔法系の曲やサスペンス曲、戦いの曲などがあまりシリアスにならず、使用頻度も少なめなのが本作の音楽設計の特徴である。劇場版のクライマックスがシリアスで壮大に描かれていたのと対照的に、TVシリーズは日常の中のドタバタに主眼が置かれている。
 だから、アルバム後半に登場する「静かな対決」「迫り来る恐怖」「魔法バトル」といった曲もビリビリするほどの緊迫感はない。そういう狙いなのだ。
 本作の音楽のハイライトは心情描写音楽である。美しく胸に沁みる曲の宝庫だ。
 トラック9「ドキドキ」は夢見るような恋の始まりをイメージさせる曲。チェレスタの音色にフルートがやさしくメロディを添え、ストリングスの流麗な旋律へと展開する。第1期の最終話となった第24話で螢一の危機を救ったベルダンディが「出会えてよかった」と泣くクライマックスに流れて涙を誘った。
 トラック10「恋する気持ち」はピアノが奏でるロマンティックな曲。後半はストリングスが控えめに加わって合奏になる。昔日の恋の想い出がよみがえるような、切なく甘い曲である。
 トラック17「優しい心」もピアノが美しい曲。螢一のベルダンディーへの思いやりや二人の気持ちが通い合う場面などに流れて、しみじみとした余韻を残した。
 トラック18「悲しみ」はヴァイオリンとアコースティックギターだけのシンプルな編成による情感曲。第12話で螢一への自分の気持ちに気づいたベルダンディーが迷う場面や第20話で体調を崩したベルダンディーを螢一が介抱する場面など、「悲しみ」というより、泣きたくなるような切ない気持ちを表現する曲として使われている。
 トラック19「愛する人のために」はオルガンとアコースティックギターをバックにケーナが哀愁を帯びたメロディを奏でるフォルクローレ風の曲。異国の丘に1人立つ、という雰囲気で、爽やかな風を浴びているような気分になる。
 トラック26の「友情」は大事な曲だ。ピアノのシンプルな導入からストリングス、木管が加わり、美しいアンサンブルになる。心の大切な部分を温かく包みこむようなメロディ。「友情」というタイトルがつけられているが、実際には、第5話でベルダンディーが螢一に幸せになってほしいと願う場面、第12話で螢一がベルダンディーに契約とか関係なくずっとそばにいてほしいと伝える場面、そして第24話のラストでベルダンディーが契約は消滅したけれどずっとこの世界に留まりたいと螢一に話す場面など、螢一とベルダンディーの絆が深まる重要な場面に使用された。天界と人間界の境界を超えた2人の愛情を表現する曲である。
 トラック27「ハッピーエンド」はタイトルどおり、明るいエンディングによく使われた曲。なかなか進展しない螢一とベルダンディーの関係を中心に、明日もドタバタが続く。そんな作品の雰囲気をよく表わしたエンディング曲だ。

 音響監督の岩浪美和は音楽発注に際してあまり具体的な指定はせず、キーワードを提示するくらいで自由な発想で作曲してもらったそうである。浜口史郎は自分なりの解釈で作った曲を合田監督に聴いてもらいながら作曲を進めた。結果、音楽的な遊びもありつつ作品イメージを裏切らない絶妙のバランスの楽曲が生まれた。サウンドトラックであると同時に、その枠にとどまらないイメージアルバム的な面白さもある。原作ファンにも楽しめるサントラだと思う。
 サントラ1枚目は日常のドタバタや螢一とベルダンディーとのふれあいをイメージした曲が多かったが、2枚目は魔界や天界を描いた曲が登場し、ファンタジー色が濃くなる。もちろん、キャラクターの心情を描写するしみじみした曲も収録されている。ぜひ2枚セットで、欲を言えば劇場版も加えて3枚まとめて聴いてもらいたい。女神がやさしく幸せを届けてくれるような音楽である。

ああっ女神さまっ Original Sound Track-1
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ああっ女神さまっ Original Sound Track-2
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劇場版 ああっ女神さまっ ORIGINAL SOUNDTRACK
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