COLUMN

97 OVA『ああっ女神さまっ』1巻

 「アニメージュ」2016年12月号(vol.462)の「この人に話を聞きたい」第百九十一回のゲストは松原秀典だ。その取材の予習のために、松原さんの代表作である『ああっ女神さまっ』を観返した。今観ても凄かった。いやむしろ、同傾向の作品が幾つも作られた後だからこそ、その価値がはっきりと分かる。

 念のために説明しておくと、『ああっ女神さまっ』は藤島康介の同名マンガを原作にした作品である。大学生の森里螢一と女神のベルダンディーの二人を軸にして展開するラブコメディだ。1993年にリリースが始まったOVAシリーズで、監督はこの後も『ああっ女神さまっ』の映像化を手がけ続ける合田浩章。キャラクターデザインは松原秀典だ。

 OVA『ああっ女神さまっ』はあまりにも出来がよかったため、「ハイ・クオリティ・アニメーション・ビデオ」というキャッチコピーがつけられた。リリースが始まった頃、僕も作画等の完成度の高さに「大変な作品が始まった」と思ったものだ。

 1巻では螢一とベルダンディーの出逢いから二人が一緒に暮らし始めるまでが描かれている。1巻の絵コンテは合田監督が担当。クレジットはないが、演出も彼がやっているのだろう。作画監督は松原秀典と北島信幸。1巻に、OVA『ああっ女神さまっ』の魅力が凝縮されている。ますなりこうじが絵コンテ・演出を、本田雄が総作画監督を務めた2巻もいいところが沢山あるのだが、1巻は別格だ。中でもベルダンディーが螢一の前に姿を現したシーンの仕上がりは凄まじいほどのものだ。女神が地上に現れるというのはこういう事か。目の前に女神がいるというのはこういう事か。手で描いた画でそれを表現している。モニターを観ていて思わず、息を飲む。

 合田監督はこの1巻で衒いなく、まっすぐに「理想的なヒロインを魅力的に描く」という事をやっている。それだけでなく、彼女が降臨した世界を爽やかで瑞々しいものとして描いている。さっきも述べたように、ヒロインを魅力的に描く事を主な目的とした作品が何本も作られたが、ここまでやりきったものは少ないのではないか。Pureという言葉がぴったりだ。OVA『ああっ女神さまっ』1巻は非常にPureな作品である。

 作画は端正であり、主要場面においては緻密ですらある。リリース当時にベルダンディーの複雑な髪の毛をきっちりと、しかも立体的に描いているのに驚いたのを覚えている。色彩設計、美術も上品でいい。そして、ベルダンディーを演じる井上喜久子はハマリ役中のハマリ役。本作における彼女の力は非常に大きい。『ああっ女神さまっ』は1990年代半ばに始まる声優ブームのきっかけとなった作品のひとつであり、井上喜久子の代表作となる。原作とアニメスタッフ、キャストがいいタイミングで出会ったのだろう。

 1巻の物語は原作の1話から3話に相当するものだ。螢一の妹の恵は原作だと3話よりも後で登場するのだが、OVAでは1巻終盤に顔を出す。当時は原作の話を端折り過ぎていると思ったが、観返すと30分に内容をギュッと詰め込んでいる感じがいい。『ああっ女神さまっ』には劇場版、TVシリーズ、OAD等もあるのだが、未見の方にはまずはOVAをお勧めしたい。

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