COLUMN

70 アニメはいいぞ、オールナイトを開催

 10年ちょっと前に、やたらと映画館に通っていた。当時の僕はアニメの仕事をするためには実写の映画も観なくてはいけないと感じていて、半分は勉強のつもりだった。新作も観たが、名画座で過去の作品を観る事が多かった。土曜の夜はオールナイトに通っていた。根が凝り性なので、始めたら徹底的にやった。
 現在の僕達は予告を観たり、雑誌やネットで情報を仕入れてから映画館に行く場合が多い。だいたいどんな映画なのかを事前に知っているわけだ。期待以上に楽しめたなら大喜びだし、そうでなければガッカリだ。名画座等で過去の作品を手当たり次第に観ると、それがどんな映画なのかよく知らないでスクリーンに向かう事になる。それが面白かった。タイトルだけ見てアクション物かと思ったら、作家性の強い難解な映画だったとか。貼り出されたポスターを見て、渋い映画かと思ったら、シンプルなラブロマンスだったとか。オールナイトの役者特集(たとえばジョニー・デップ主演作品三本立てとか)のようなプログラムにフラリと入ると、次に始まるのがどんなジャンルの作品かも分からず、それがスリリングで楽しかった。
 事前に情報を集めてから映画を観るのも悪くないが、どんな作品なのかよく知らないで鑑賞するのも悪くない。予想もしなかった作品との出会いが楽しい。これも名画座やオールナイトの醍醐味かもしれないと思いつつ、通っていた。
 
 前置きが長くなってしまったが、先週末の土曜にオールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 86 アニメはいいぞ。『同級生』『百日紅』『花とアリス』『ガルパン』!」を開催した。

 丁寧に作り込まれた珠玉のBLもの『同級生』、江戸情緒と緩やかな語り口が魅力の『百日紅~Miss HOKUSAI~』、瑞々しさと意欲的な試みが共存した『花とアリス殺人事件』、少女と戦車の取り合わせによる超痛快娯楽作『ガールズ&パンツァー 劇場版』の4本立てである。
 繊細な女性向き作品から、マニアックな男性向き作品まで。あるいはコアなアニメファン向きから、映画好きな人向けの作品まで。技法で言えば、手書きアニメもあり、ロトスコープと3DCGのハイブリッドもあり。内容も方向性もバラバラであるが、それぞれが見応えのある作品だ。

 こういったテーマを絞らないプログラムは集客が難しいのだが、今回のオールナイトはチケット完売となった。上映後のSNSの反応を見ると、お客さんの反応は上々だ。『ガルパン』を目当てに劇場に来て『百日紅』に感心した人もいるだろう。『花とアリス殺人事件』再見のために足を運んで『同級生』に惚れ込んだ人もいるのではないか。

 最近、アニメスタイルのオールナイトで観客と作品の出会いを提供できているなあと思う事が多い。今回もそれができたのが嬉しい。タイトル通りに「アニメはいいぞ」という事を伝えられたと思う。


●イラスト/吉松孝博

(2016/09/23)