COLUMN

61 ちょっとした職業病と「アニメスタイル」の印刷

 「アニメスタイル007」の『響け!ユーフォニアム』特集では、カラーページの構成に相当悩んだ。具体的に言うと、本編カットのどれを選んで、どう並べるかで悩んだのだ。どんな写真をどう載せるかで、読者に伝えられる事も、伝える力も変わってくる。試写会で『劇場版 響け!ユーフォニアム~北宇治高校吹奏楽部へようこそ~』を観ている間にも、構成で悩んでいた時の事を思い出した。
 「ああ、このカットは選んだな。大きく載せてよかった」「このカットは滝先生の手がいいんだよなあ。載せたかったんだけど、悩みに悩んで落としてしまったな」などと思いながら観た。10話ラストで、再オーディションを望んだ中世古香織が手を高々と挙げたカットは、観る度に「これがセルで作られたアニメだったら、セル撮して誌面に掲載したい」と思ってしまう。今回の試写でもそう感じた。セル撮とは、アナログ制作のアニメで、セルを印刷物などで使用するために撮影する事を言う。セル撮したポジを使うと、PANなどのカメラワークがついた大判作画のキャラクターを、1枚の画として雑誌に掲載する事ができたのだ。

 『響け!ユーフォニアム』に限らず、アニメを観ていて、画作りが凝った作品に出会って「ああ、誌面に載せたい」と思う事がある。作画のよいアニメでも、原画ではなく、完成映像をその魅力が伝わるかたちで誌面に載せたいと思う場合もあるのだ。映像を観て「いいな」と思うのは当たり前の事だが、それと同時に「載せたい」と思ってしまうのはちょっとした職業病だ。

 「アニメスタイル007」の話に戻るが、『響け!ユーフォニアム』の本編カットをいかに綺麗に載せるかが、この号の編集テーマのひとつだった。他の雑誌で同作の本編カットが掲載されているのを見たのだが、画像の色がくすんでいて、僕の目には残念な誌面になっていた。あの作品の凝った撮影が裏目に出たのかもしれない。
 きちんと作品の魅力を伝えるには、構成に気を遣うだけでなく、綺麗に印刷しなくてはいけない。そこで「アニメスタイル007」では、『響け!ユーフォニアム』特集を含むいくつかの記事で、「吉成曜画集 イラストレーション編」や「田中将賀アニメーション画集」と同じ印刷方式を採った。つまり、画集並みのクオリティで印刷したのである。これは自慢ととってもらっても構わない。そこで僕の作品への愛情を示したつもりだ。

 もう少し話を続ける。「アニメスタイル008」の『心が叫びたがってるんだ。』特集でも、同じ印刷方式を採るつもりだった。そこで編集の初期段階でダミーのデザインを作成し、印刷会社に試し刷りをしてもらったのだが、その結果「吉成曜画集」などで使った方式の印刷は、落ち着いた色遣いで作られている『ここさけ』の本編カットには向かない事が分かった。色が鮮やかに出過ぎてしまい、かえって作品の味わいを損なう事になるのだ。そこで、「アニメスタイル008」の『ここさけ』特集では、普段の号よりも凝った画像変換と通常の印刷の組み合わせで刷る事にした。結果としては『ここさけ』の映像の印象に近い誌面となり、僕は満足している。こちらは職業病ではなく、編集者としてのこだわりについての話だ。

(2016/04/26)

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