COLUMN

第73回 開眼!マサユキロック 〜銀河旋風ブライガー〜

 腹巻猫です。渡辺宙明のユーメックス・レーベルからリリースされた作品を集めたCD-BOX「渡辺宙明 ユーメックス・イヤーズ」が1月27日にユニバーサルミュージックから発売されます。オーケストラによる「マジンガー組曲」を収録した「渡辺宙明グレイテストヒッツ」や初CD化となるイメージアルバム「とってもひじかた君」、OVA『剣狼伝説レイナ』3部作のサントラ復刻盤などがセットになった6枚組。筆者は解説とインタビューで参加しています。


 1月13日から東京MXテレビで『銀河旋風 ブライガー』の放映が始まり、ちょっとした話題になっていた。
 『銀河旋風 ブライガー』は1981年10月から1982年6月まで全39話が放送された国際映画社製作のTVアニメーション。『銀河烈風 バクシンガー』(1982)、『銀河疾風 サスライガー』(1983)と続く、J9シリーズの第1弾である。22世紀の未来を舞台に、宇宙の始末屋・コズモレンジャーJ9の活躍を描くSF作品だ。ストーリー構成と脚本に山本優、チーフディレクターに四辻たかお、キャラクターデザインに小松原一男。主役4人を塩沢兼人、森功至、麻上洋子、曽我部和行が演じ、粋な台詞の応酬が人気を呼んだ。
 音楽を担当したのはタイムボカンシリーズの山本正之。
 天才という言葉を軽々しく使うべきではないが、山本正之は天才だと思う。作詞・作曲・アレンジ・演奏(ギター)・歌唱をひとりでこなす多才さ。変幻自在の詩とメロディが尽きることなく湧き出る才能。幼少時から歌作りを始め、デビュー前には1000曲を超えるストックを書き溜めていたという。
 山本正之が作り出した曲は、『タイムボカン』(1975)をはじめ、『ヤッターマン』(1977)、『おじゃまんが山田くん』(1980)、『Gライタン』(1981)、『魔境伝説 アクロバンチ』(1982)、『おちゃめ神物語 コロコロポロン』(1982)、『亜空大作戦 スラングル』(1983)、「究極超人あ〜る」(1987/イメージアルバム)など、どれも一度聴いたら耳から離れないユニークなものばかり。曲調はコミカルからブルース、フォーク、ロック、演歌風と多彩ながら、山本正之ワールドと呼ぶしかない独特の世界を創り上げている。
 『銀河旋風ブライガー』では、ロック好きの四辻監督の意向で音楽にもロックテイストが取り入れられた。たいらいさおが歌った主題歌は、山本正之の詩・曲、高田弘のアレンジ、柴田秀勝のナレーション、金田伊功作画の映像がみごとにマッチした、TVアニメ屈指の名オープニングだ。劇中音楽も山本正之が担当し、タイムボカンシリーズとはひと味違う新境地を拓いている。

 サウンドトラック・アルバムは1987年1月にキングレコードから「銀河旋風ブライガー BGM集」のタイトルで発売された。1987年3月と4月には、新たに作られた歌「星影のララバイ」「太陽の子ら」「ABAYO FLY BY」「カーメンカーメン」の4曲がシングル盤として発売され、6月にそれらを含めた音楽集アルバム第2弾「銀河旋風ブライガー J9 HARD SERENADE」が発売されている。
 2枚のアルバムは1993年にキングレコードからCD化された。現在は2009年にタワーレコードから復刻発売されたCDで聴くことができる。
 「銀河旋風ブライガー BGM集」の収録内容は以下のとおり。

  1. 銀河旋風ブライガー(歌:たいらいさお)
  2. PART I: BATTLE
  3. PART II: CITY
  4. PART III: COSMO
  5. さすらいキッド(歌:たいらいさお)
  6. PART IV: PEACEFUL
  7. PART V: MELANCHORY
  8. PART VI: PROCEED

※CD版にはボーナストラックとして主題歌のカラオケを収録。

 このアルバム、ジャケットのタイトル表記も曲名表記もすべて英語。黒バックにメインキャラクター4人が描かれたデザインがクールで、アニメサントラというより、ロックのアルバムみたいである。
 アルバムの構成にもロックのコンセプト・アルバムのようなこだわりが見られる。
 BGMはPART IからVIまで全6トラック。サウンドトラック・アルバムのトラック数としては異例の少なさだ。各トラックは5分から8分以上。短いBGM数曲を1トラックにまとめている。物語を意識した構成というわけではなく、音楽をテーマごとにまとめて『銀河旋風ブライガー』の世界観を表現した組曲という趣である。
 オープニング主題歌に続いて、いきなり「BATTLE」から入る構成がニクい。主題歌で高揚した気分そのままに2曲目に突入し、さらにテンションを上げていくねらいだろう。ロック・コンサートのような曲順だ。
 「BATTLE」の冒頭は女声コーラスが「ブライガー!」と叫ぶアイキャッチ曲。このアイキャッチは以降のBGMトラックにも漏れなくついていて、アルバムのアクセントになると同時に全体に統一感をもたらしている。
 アイキャッチに続いてはロックのビートが弾むアクション系の曲を収録。ギターのリフがワイルドな「Shining Jaguar」、ブラスロックの「Tiger Shout」、R&B風のリズムがファンキーな「Shark Sadistic」、ワウギターが泣き系のメロディ奏でる「Steal Bear」、緊迫感に富んだ「Eagle Combat」など、本作の音楽のロック色を象徴する曲が並ぶ。荒々しいエレキギターにクラビネット、スラップベースなどが絡むサウンドは80年代というより70年代風の味わい。ラストは第1話のコズモレンジャー出動シーンに流れた弦のメロディによる「Hawk Storm」。
 「CITY」は22世紀の未来都市を描写する楽曲集。はねたリズムにサックスのメロディが踊る「Milky Road」はジャジーな香り。テナーサックスが奏でる歌謡曲のような「Peach Town Melody」は山本正之らしい「歌メロ」の曲だ。ピアノ・ソロによる「Alone Subway」はエンディング主題歌「さすらいキッド」のアレンジ。「Asphalt Lady」「Funky Life」「Street Wispy」などソウル・ミュージック風のロックに大人の雰囲気がただよう。
 「COSMO」には宇宙の情景を描く壮大な曲、神秘的な曲が集められている。第1話冒頭で宇宙基地が登場する場面に流れた曲「Base」。「Colony」「Mystery」「Black Hole」とシンセサイザーによるスペーシィな曲が続く。「Mother Clock」はシンセとアコギの組み合わせによる山本正之らしいほのぼのした旋律の曲。「Pegasasu」は弦とブラスがメロディを受け持つオープニング主題歌のディスコ風アレンジだ。
 ここでアルバムの前半が終了。
 次の曲「さすらいキッド」(エンディング主題歌)はLPではB面の頭に収録されていた。LPレコードは内周よりも外周の方が音質が優れているので、重要な曲をB面1曲目に入れることはよくあった。ここでは、「ここからA面とは違った世界に入るよ」という2幕目の序曲のような役割も果たしている。実際、アルバムの後半(B面)は前半とは少し雰囲気が変わってくる。
 「PEACEFUL」は平和曲を集めたトラック。「タイムボカン」シリーズのような雰囲気の楽しい曲やノスタルジックな曲が収録されている。山本正之のリリカルな面が生かされたパートで、アルバム全体の中でもほっとする部分である。主題歌の印象で本作をとらえていると「こんな曲もあったのか?」と驚くかもしれない。
 「MELANCHORY」は悲しみや寂しさを表現する情感曲集。ここでは必殺シリーズの主題歌のような演歌調の曲やマカロニウェスタン風の曲が登場。『銀河旋風ブライガー』自体が「宇宙版必殺」のような作品なので、こうした曲もある意味、本作らしい楽曲なのである。
 アルバムのラストを飾る「PROCEED」には、タイトルどおり「前進」イメージの楽曲が集められている。「Mercury Horn」は悲壮感をたたえた「出陣」イメージの曲。ウェスタンのリズムの「Mars Profit」、アップテンポのマーチ「Jupiter May」、スパニッシュな「Bolero Saturn」、ラテン風の「Moon Thunder」と多彩なリズム・曲調が並ぶ。ラストはブラスと弦がオープニング主題歌のメロディを奏でるラテンロック「Dancing Venus」。

 アルバムを聴き終えた感想は、「うーん、やっぱり山本正之だ!」。
 ロックの印象が強い『銀河旋風ブライガー』だが、意外とバラエティに富んだ音楽が用意されていたのである。山本正之ワールドを代表するほのぼの曲や演歌風の曲もしっかり作られている。そうしたリリカルな曲も劇中で使われていた。
 番組が進むにつれ本作のロック指向は強くなり、新たに「星影のララバイ」「太陽の子ら」「ABAYO ABAYO」などのロックテイストを強調した名曲が生まれる。これらの歌の編曲を山本正之自身が手がけている点も注目ポイントだ。番組終盤になってリリースされた「J9 HARD SERENADE」は、4分から5分の長尺の曲4曲で構成されたロック組曲で、BGM集第1弾よりもずっと濃厚なロックアルバムになっていた。そして、本作の続編『銀河烈風バクシンガー』の主題歌とBGMで、山本正之は、よりハードなロックを追求していく。
 思うに、山本正之はJ9シリーズの音楽を通して、自分の中のロックを見出したのでないだろうか。山本正之が吸収してきた音楽の中には当然ロックもあったはずだが、タイムボカンシリーズでは、それはあまり表に出てこなかった。そのロック成分が、J9シリーズによって芽を出し、花開いていったように思えるのだ。『銀河旋風ブライガー』の音楽には、山本正之なりのロック、いわば「マサユキロック」が生まれ、進化していく過程が刻まれているのである。
 山本正之は80年代後半から、音楽活動の主軸をアニメ音楽から自身の音楽を追求するアーティスト活動へと移していく。アニメソング以上にユニークな作品や泣ける作品、カッコいい作品が、オリジナル・アルバムやライブを通して次々と発表され、熱心なファンを生んでいった。
 が、アニメ時代を含む山本正之ワールドの中でも、J9シリーズの音楽は特別な輝きを放っている。ここまで荒々しく、ここまでとがったロックの作品は、その後の山本正之作品の中にもほとんど見られない。だから、つい、呟いてしまうのだ——「J9って知ってるかい……」と。

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銀河旋風ブライガー/銀河烈風バクシンガー/銀河疾風サスライガー

※J9シリーズ3作の主題歌・挿入歌を集大成したアルバム。
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