COLUMN

第53回 よみがえるヒーロー 〜新 破裏拳ポリマー〜

 腹巻猫です。2003年に放送されたTVアニメ『カレイドスター』のサウンドトラック・アルバムが3月25日に発売されます。これまでDVD/BD-BOXの特典CD等でしか聴けなかった音楽に未収録曲を追加した完全版! 3月22日には音楽を担当した作曲家・窪田ミナさんと佐藤順一監督による発売記念トークライブが阿佐ヶ谷ロフトAで開催されます。お楽しみに! 詳細は下記リンクを参照ください。

「カレイドスター 究極の すごい サントラ」
http://www.amazon.co.jp/dp/B00TPRA5JK/
窪田ミナ×佐藤順一 トークライブ
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/31534


 前々回、前回に続いて1月に発売されたANIMEX1200シリーズからもう1枚。「新 破裏拳ポリマー MUSIC COLLECTION」を取り上げよう。
 『新 破裏拳ポリマー』は1996年から1997年にかけて全2巻(全2話)が発売されたタツノコプロ制作のOVA作品。1974年放映のTVアニメ『破裏拳ポリマー』を現代的にリメイクした作品だ。
 舞台は近未来の海上都市TOKIO PLUS。車探偵事務所に居候する青年・武が破裏拳ポリマーに転身し、悪の秘密結社と戦うSFアクション作品。……と主要人物と物語の大枠は旧作と同じだが、ポリマー誕生の背景など細かい設定が変更されている。とりわけ、武以外が転身するポリマーが現れる展開には驚いた。梅津泰臣によるキャラクターデザインと作画も見どころだ。全2巻と紹介したが、実は続巻の予定で制作されていたのが中断して物語は決着していない。未完が惜しまれる作品だ。

 音楽を担当したのは矢野立美。東映スーパー戦隊シリーズ「超電子バイオマン」(1983)、「電撃戦隊チェンジマン」(1984)や円谷プロの「ウルトラマンティガ」(1996)、「ウルトラマンダイナ」(1997)等の音楽を手がけて特撮ファンには人気の作家である。アニメでは『サイコアーマー ゴーバリアン』(1983)、『CITY HUNTER』(1987-1990)等の作品がある。
 矢野立美は秋田県出身。フォークグループとしてデビューしたのち作・編曲家に転身した。『銀河鉄道999』の音楽で知られる青木望に師事して作曲を学んだ。ちなみにフォークグループでコンビを組んでいた女性が映画音楽の巨匠・佐藤勝の夫人の妹で、その縁で佐藤勝とも親交があったという。歌謡曲のアレンジの仕事も多い。色彩感豊かでビートの効いたサウンドが持ち味で、独特のドラマティックな音楽が魅力だ。
 アニメの代表作というと知名度の点でもボリュームの点でも『CITY HUNTER』ということになるだろう。『新 破裏拳ポリマー』は少々マイナーな作品だが、矢野立美の音楽性がよく出た燃えるアクション音楽作品の1本だ。
 「新 破裏拳ポリマー MUSIC COLLECTION」は1996年9月21日、OVA第1巻と同時発売された。収録曲は以下のとおり。

  1. 新 破裏拳ポリマー(歌:杉山真理)
  2. 武のテーマ
  3. 戦闘I
  4. 新 破裏拳ポリマー 〜INSTRUMENTAL VERSION〜
  5. 車探偵長のテーマ
  6. 虎五郎・男爵のテーマ
  7. テルのテーマ
  8. 戦闘II
  9. ニーナのテーマ
  10. スカムーグ・涼子のテーマ
  11. ノーヴァのテーマ
  12. 悪の基地・警察本部・探偵事務所
  13. 愛あるかぎり 〜INSTRUMENTAL VERSION〜
  14. 愛あるかぎり(歌:杉山真理)

 アルバムの構成はストーリーを細かく追うのではなく、曲調ごとにまとめた組曲風になっている。音楽アルバムとしての聴きごたえを重視した構成だ。
 1曲目と最後の曲がオープニング&エンディング主題歌。主題歌は『聖闘士星矢』の主題歌「ペガサス幻想」「聖闘士神話〜ソルジャー・ドリーム〜」等を手がけた松澤浩明の作曲。2曲ともヒーローソングの王道と呼べる高揚感抜群の名曲である。
 トラック2「武のテーマ」は主人公・鬼河原武のテーマ。1曲目は武の初登場シーンに流れた明るいタッチの曲。旧作同様、ふだんはのほのんとしている武のキャラクターが表現されている。後半は曲調が変わり、武の悲しみを描写する曲になる。ミュートされたトランペットが奏でる主題歌のメロディから弦とペットのアンサンブルによる悲哀曲に展開する。第1話ラストで武が悪の組織に惨殺された旧友・涼子を想う場面に流れていた。矢野立美らしい、ドラマを感じさせる曲だ。
 トラック3「戦闘I」にはサスペンスを盛り上げる戦闘曲4曲を収録。ギター、ベース、ドラムスが刻むリズムがテンポアップしていく1曲目はシンプルながら演出効果抜群の曲。謎の怪盗団登場場面に選曲されている。2曲目はブラスとピアノ、弦を中心に緊迫感が盛り上がる不気味な敵の登場を予感させる曲。第2話で悪の首領ノーヴァが正体を現わす場面に使用された。3曲目はシンセのリズムに緊迫したブラスのフレーズが乗る「苦戦」の雰囲気の曲。4曲目はロックのリズムに乗ってシンセ・弦・ブラスがメロディを奏でる軽快な戦闘曲。インサートされるジャジーなピアノのアドリブが実にいい。
 トラック4はオープニング主題歌をスローテンポにアレンジした悲しみの曲。
 トラック5「車探偵長のテーマ」は第2話冒頭の車探偵長登場シーンに使用された。探偵長には似合わないカッコいい曲調からオトボケ曲になるのが楽しい。2曲目は武と車探偵長が捜査をする場面に流れたミディアムテンポのブラスの曲。前作に続いて車探偵長を演じた青野武の快演がよみがえる曲調だ。
 トラック6は武の父である警察署長・鬼河原虎五郎と車探偵事務所で飼われている犬・男爵のテーマ。ちょっとオペラの音楽を思わせるような大げさな曲調に仕上っているのが面白い。少年時代はクラシック好きだったという矢野立美らしい曲だ。
 トラック7は本作のヒロインであるテルのテーマ。弦を主体にしたクラシカルなワルツになっている。テルの曲としては上品すぎる気もするが(失礼!)、テルの登場シーンに流れると画面が華やかになったのが印象的。後半はラテンパーカッションを入れたポップな強調になり、こちらのほうがテルのイメージに近い。
 トラック8「戦闘II」は本アルバムの聴きどころのひとつ。1曲目はオープニング主題歌のストレートなアレンジ。杉山真理のボーカルもすばらしかったが、インスト版のこちらも聴いていてぐっと力が入る。2曲目は緊迫感をあおるリズムに導かれてブラスの咆哮が激戦を描写する曲。初めてポリマーに転身した武が怪人スカムーグと死闘を繰り広げる場面に流れた曲だ。3曲目はホルンの響きが勇ましい「ヒーロー活躍!」という雰囲気のバトル曲。『ウルトラマンティガ』などのヒーロー音楽に通じる矢野立美得意の曲調である。ポリマーの活躍場面に選曲されている。
 トラック9は第2話で登場する敵の女幹部ニーナのテーマ。前半はピアノとサックスが主体のジャジーな曲。大人の香りをふりまくニーナを描写する曲だが、本編ではほとんど流れなかったのが残念。後半は一転してサスペンスタッチになり、正体を現わしたニーナの脅威を描写する曲になる。第2話のポリマーとニーナの戦闘場面に流れた。
 トラック10は第1話に登場した怪人スカムーグのテーマと武の旧友・西田涼子のテーマをメドレーで聴かせる構成。後半のエンディング主題歌アレンジは涼子が転身した女ポリマーの戦闘シーンに流れていたのが印象深い。
 トラック11は冥王党の首領・ノーヴァのテーマ。第1話のスカムーグ対ポリマーの戦闘シーンに使用されている。
 トラック12には敵の基地を描写するサスペンス曲、警察側のヒロイックな曲、車探偵事務所の場面に流れたユーモラスなバロック風の曲を収録。コミカルなシーンにもクラシカルな曲調を当てているのが本作の音楽の特徴である。
 トラック13はエンディング主題歌のピアノと弦、ソプラノサックスによる哀切なアレンジ曲。苦い後味の勝利をイメージさせる余韻を残した締めくくりだ。

 本作の音楽は、映像に細かく合わせたフィルムスコアリングではなく、必要になりそうな音楽をあらかじめ作っておいてシーンに応じて選曲する溜め録り方式で作っているようである。そのため本編で流れていない曲もあるのがもったいないが、楽曲単体で聴いたときの聴きごたえは満点だ。イメージアルバムとしても楽しめる1枚だろう。
 生楽器とシンセの音を巧みにブレンドし、クラシックとポップスのサウンドを融合した華麗な曲調は矢野立美ならでは。『超電子バイオマン』や『ウルトラマンティガ』の音楽が好きという特撮音楽ファンにも気に入ってもらえるに違いない隠れた名盤のひとつである。
 1980〜1990年代にアニメ・特撮作品の音楽で活躍した矢野立美だが、2003年公開の映画「ウルトラマンコスモスVSウルトラマンジャスティス THE FINAL BATTLE」以来、めだった作品がなかった。が、2014年春、矢野立美ファンを驚かせる作品が現れた。TVアニメ『暴れん坊力士!! 松太郎』である。この作品で矢野立美は主題歌編曲と劇中音楽を担当。矢野サウンド復活に涙したファンも多いだろう。古くからのファンにも聴いていただきたい作品だ。

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