COLUMN

第52回 熱い視線を浴びて 〜AIKa〜

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http://www.soundtrackpub.com/event/2015/02/soundtrack_pubmission26.html


 今回も1月21日に日本コロムビアから発売されたAIMEX1200シリーズの中からの1枚。「AIKa Music Collection」を紹介したい。
 『AIKa』は1997年から1999年にかけて全8巻(全7話+特別編1本)が発売されたOVA作品。大災害によって陸地の一部が海没してしまった近未来を舞台に、海底に沈んだ遺産や重要機密を回収する専門家=サルベイジャーとして活動するヒロイン・藍華(アイカ)の活躍を描く物語だ。
 といってもSF的な舞台設定はヒロインのアクションを描くためのお膳立て。ミニスカートの女性たちが敵味方入り乱れて「チャーリーズ・エンジェル」のような活劇を繰り広げるのが見どころの楽しい作品である。
 音楽も初期の『007』シリーズをほうふつさせるようなスパイ・アクション映画風の音楽に仕上がっている。音楽を担当したのは元スペクトラムのトランペット奏者・兼崎順一だ。
 兼崎順一は栃木県出身。武蔵野音楽大学在学中よりプロとして活動を始め、1979年より伝説のブラスロック・グループ「スペクトラム」に参加して一世を風靡した。別名、兼崎“どんぺい”順一。映像音楽の仕事としては、TVアニメ『魔神英雄伝ワタル』(1988/門倉聡と共作)、『桃太郎伝説』(1989/難波弘之と共作)、『覇王体系リューナイト』(1994/大島ミチル、奥慶一、佐橋俊彦と共作)、『ナジカ電撃作戦』(2001)などがある。
 スペクトラムで活躍していただけに、ブラスセクションを生かしたパンチの効いた音楽が持ち味である。本作のあとに手がけた『ナジカ電撃作戦』では自身のバンド「江古田勉強会(現EKOBEN BIGBAND)」を率いて音楽を制作、迫力のビッグバンド・サウンドを聴かせてくれた。
 今回復刻された「AIKa Music Collection」は、OVAの後半エピソード第5話〜7話と特別編で使用された音楽を収録したアルバム。収録曲は以下の通り。

  1. 真夏の星座(歌:Mink)
  2. 楽園のバカンス(M5-3)
  3. CASINO(M5-4)
  4. 避暑地の恋(M5-5)
  5. 不穏な愛(M5-6)
  6. 二人の夜(M5-7)
  7. デルモ本部(M5-1)
  8. 彼の正体(M5-8)
  9. 熱帯夜(M5-8)
  10. 罠(M5-10)
  11. 装甲車迎撃(M5-11)
  12. バカンスの終わり(M5-12)
  13. 碧の十字架(歌:岸恭子)
  14. 秘密(M6-3)
  15. Backroom(M7-2)
  16. 依頼(M6-1)
  17. 追走(M6-2)
  18. ゴールデンデルモ・アクションテーマ(M7-3)
  19. シヴィエ・アイカ復活(M7-4)
  20. 帰還(M7-5)
  21. Dance with me tonight(歌:Punky Fruits!)

 トラック1「真夏の星座」は第5話〜7話のオープニングに使用された主題歌。作曲と編曲を高梨康治が手がけている(大畠翔太朗と共作)。
 トラック2「楽園のバカンス」からトラック12「バカンスの終わり」までは、第5話「黄金のデルモ作戦」のために作られた曲。藍華たちが休暇で訪れた南の島のリゾート地で敵に遭遇するエピソードだ。
 「楽園のバカンス」「CASINO」「避暑地の恋」「二人の夜」など、ジャジーな曲やムーディーな曲が続く。アクションものっぽくない印象だが、初期の007映画「ドクター・ノオ」などでもこうしたリゾートミュージックは映画音楽の大事な要素だった。ここはサントラを聴くというより、南の島のロマンスをイメージしながら、飲み物でも片手にリラックスして聴きたい。
 敵の登場を描写するトラック7「デルモ本部」で雰囲気は緊迫。藍華が出会ったイケメンの正体が判明する「彼の正体」、ヒートアップするエレキギターとブラスのかけあいが最高の「熱帯夜」としだいに音楽も熱を帯びてくる。ブラスセクションが活躍する兼崎順一らしいアクション曲の連発で気分も盛り上がる。「これこれ、こうでなくっちゃ」というところだ。
 トラック10「罠」はスリリングな危機描写から始まる音楽。1分を超えたあたりから曲調は軽快なジャズ風に展開。60年代アクション映画風の音楽が堪能できるしゃれた曲になっている。
 ミリタリー調のリズムに緊迫したフレーズが重なるサスペンス曲「装甲車迎撃」で戦いはクライマックスに。ちょっと苦い味の平和をかみしめるリリカルなピアノ曲「バカンスの終わり」で「黄金のデルモ作戦」編は幕を下ろす。
 特別編「Special TRIAL」に使用されたヴォーカル曲「碧の十字架」を挟んで、後半は第6話「白銀のデルモ作戦」と第7話「決戦突入!デルモ基地!!」のための音楽。
 トラック14「秘密」はヴィブラフォンとサックス、トランペットなどの競演による大人っぽい曲。夜のクラブで流れていそうな雰囲気だ。「Backroom」は不安な弦の調べから始まるサスペンス曲だが、途中でピアノのメロディが入ってきてラウンジミュージック風になるのがいい。ギターの音色がさわやかなフュージョン曲「依頼」に続いて、へビィなロック調の「追走」で音楽はふたたびバトルモードに転換する。
 敵側のアクションを想定した「ゴールデンデルモ・アクションテーマ」と愛華の活躍テーマ「シヴィエ・アイカ復活」はブラスセクションが活躍するノリノリのカッコいい曲。アルバムのクライマックスにふさわしい力の入ったナンバーだ。以前筆者が兼崎順一氏から聞いた話によれば、本作の音楽録音には元スペクトラムのメンバーも参加していたそうである。互いに手の内を知っているので譜面で細かく指示しなくてもわかってもらえる安心感があったという。そんなスタジオの雰囲気が伝わってくるような熱演だ。
 ビブラフォン、ピアノ、ギターなどがメロディを歌い継ぐボサノバ風の「帰還」で物語はひとまず終幕。アルバムのラストを締めくくるのは、第5話〜7話のエンディング主題歌として使用された「Dance with me tonight」。

 本作の音楽は各曲が2分〜3分の長い尺で作られている。映像に細かく合わせた劇伴ではなく、独立した音楽として楽しめるように作られているのだ。それだけに聴きごたえがあり、アルバム1枚を通して聴くと、良質の娯楽映画を観終わったような心地よい満足感がある。兼崎順一のセンスと持ち味が生かされた名盤のひとつである。
 なお、本作の第1話〜4話で使用された音楽は「AIKa Original Soundtrack Vol.1」と「同 Vol.2」の2枚のアルバムにまとめられていたが、残念ながら現在入手困難。ぜひそちらも復刻してもらいたいものだ。
 本アルバムを聴いて兼崎順一の音楽に興味を持たれた方は、兼崎順一1stソロアルバム「ナチュラル‐E」がタワーレコード限定で2013年に復刻されているので、合わせてお楽しみいただきたい。詳細は下記を参照ください。
http://tower.jp/item/3304193

AIKa Music Collection

COCC-72280/1200円/日本コロムビア
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AIKa Original Soundtrack Vol.1

COCC-14492/2718円/日本コロムビア
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AIKa Original Soundtrack Vol.2

COCC-14808/2718円/日本コロムビア
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