COLUMN

第104回 はるかなる呉を思いつつ

●2014年12月8日(火曜)

 作画打合せ12カット、カット488から499。
 一回の打ち合わせの量はこれくらい。おおむねワンシーンの分量がこれくらいということ。
 現状で全1400カットくらいあるので、この100倍のことをやっていかなくてはならない。昭和8年12月から21年1月までの12年間余りの物語でもあり、それくらいのカット数にはなる。戦争があっても戦争に負けてもだらだら続く日常の日々を描こうとすると、それくらいの積み重ねが必要になってくる。
 前に打合せした原画の人がそろそろ受け持ち分をやり終わる時期にもなってきているので、次の分を用意しなければならない。
 しかし、ふつうのアニメーションと違うのは、その都度キャラクターの設定を起こさなければならないことだ。戦争があっても負けてもだらだら続く日常の日々を描こうとするなら、毎日の着るものの変化も負わなくてはならない。季節によっても着るものは変わるし、戦時中といっても一様な状況ではないので段階ごとに変わる。それだけでなくごくあたりまえに日々着替えたりもする。そうしたことが原作に織り込まれていたりするので、原作を踏襲できる部分はできるだけ踏襲してみようとも思っている。
 「次はどこどこのシーンを誰々に振ります」
 というたびに、松原さんがキャラ表起こしにかかる。
 松原さんは、そうして何度も同じ人物を描くうちに、だんだんとキャラクターの等身が下がった絵になってきている。
 本人の言では、
 「はじめはヱヴァンゲリヲンが入ってたけど、段階を追って原作に近くになってきてるはず」
 これにさらに「僕ももうあと2段階くらいいければいいところまでいくと思うんですが」と続く。
 この前12月7日のイベントで、来場者に配るチラシを作ろうとして、たまには新絵柄に変えてみるかと思って、ゴールデンウイークに広島のレイアウト展で初公開した、中島本町シーンのキャラ表の絵を引っ張り出したところ、松原さんは、
 「いや、これは初期のものだから」
 といって、それを使うことを拒むのだった。
 そういいつつ、松原さんは原作を広げてはキャラ表の作成に挑んでいる。

●2014年12月15日(月曜)

 社内に入ってもらっている原画マンが、描きかけのレイアウトとキャラ表をもってやってきた。そのキャラ表というのが、松原さんが「いや、これは初期のものだから」といったその絵だった。
 「あの、等身ですが」
 配られたキャラ表より少し頭でっかち目に描いたもの。もっと思いっきり頭でっかちに描いたもの。
 それを見せてもらった松原さんと自分の反応は一致する。
 「こっちだと等身ありすぎるし、こっちだとなさすぎるし」
 元のキャラ表より少し頭でっかち目に描いたものでもまだ頭が小さすぎる印象であるようだった。
 等身のほか、こうの史代風の印象を作ろうとするならば、動画の割り幅を小さくするのがよいのではないかと思ってきている。これは『マイマイ新子と千年の魔法』あたりからそうなってきているのだが、あまり中ナシにして動きを飛ばしてしまうような、いわばアクロバットな感じの動きを作るよりも、日常的な生活感を描くときには適しているように思う。
 じっさいそんな感じで動きを作った『花は咲く』では、キャラクターが猫背になっていることと並んで、「こうの史代的な動きが実現している」という感じで評してもらえたことが多かった。
 アニメーターによっては欲求不満に陥りかねないことではあるのだが、少なくとも今回の作品では大事なポイントなのだと思う。
 そんなふうに仕事を進めながらも、頭の中を時々よぎるのは呉の風景だったりしてしまう。ついひと月前に行ったばかりなのだが、長逗留して腰を落ちつけて見える風景をじっくり味わっていたい気持ちに襲われてしまうのだ。
 とはいえ、そんなふうに仕事場を離れられる機会は、もうとっくの以前に失われてしまっているのだった。自分たちの毎日までだらだら続けていられるわけでは、もはやなくなっている。
 年末年始の休みをいつからいつまでにするか、スタジオの大掃除はするか。せちがらくも押し迫ってゆく。

親と子の「花は咲く」 (SINGLE+DVD)

価格/1500円(税込)
レーベル/avex trax
Amazon

この世界の片隅に 上

価格/680円(税込)
出版社/双葉社
Amazon

この世界の片隅に 中

価格/680円(税込)
出版社/双葉社
Amazon

この世界の片隅に 下

価格/680円(税込)
出版社/双葉社
Amazon