COLUMN

第47回 社長はつらいよ 〜無敵ロボ トライダーG7〜

 腹巻猫です。11月15日開催「渡辺宙明トークライブPart7」@阿佐ヶ谷ロフトAがいよいよ今週末に迫ってまいりました。今回は渡辺宙明先生に加えて、『機動戦士ガンダム』や『戦え!!イクサー1』の音楽制作を手がけた元キングレコード/ユーメックスの藤田純二氏と80年代にキングレコードで多くのアニメサントラの構成を手がけた氷川竜介氏がゲスト。アニメ音楽革命期を知る顔ぶれがそろいました。前売券はe+で発売中!
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/28036


 『機動戦士ガンダム』の後番組は? と聞くとリアルタイムに観ていない人だとちょっと考え込むのではないだろうか。『伝説巨神イデオン』と答える人もいるかもしれないが、放送局が違う。『太陽の牙ダグラム』でもない。答えは『無敵ロボ トライダーG7』(1980)である。
 小学6年生の竹尾ワッ太は父から引き継いだ会社・竹尾ゼネラルカンパニーの社長。「宇宙のなんでも屋」としてあらゆる仕事を引き受けるが、その中には地球をねらうロボット帝国からの防衛も含まれている。異星のテクノロジーで作られたスーパーロボット・トライダーG7を使って、今日も怪ロボット撃退のために出動するのだ。
 ……という『機動戦士ガンダム』とはうってかわった子ども向け設定とストーリー。しかし、このテイストがのちの勇者シリーズやエルドランシリーズに受け継がれていると思うと、なかなか愛すべき作品なのである。出動時の「白線の外までお下がりください」は『烈車戦隊トッキュウジャー』よりもこちらが先だ。

 主題歌と音楽を担当したのは茅蔵人。聞きなれない名前だが、「およげ!たいやきくん」を作曲した佐瀬寿一の別名だ。アニメの音楽担当は珍しく、たぶん本格的なものは本作のみである。
 佐瀬寿一は1975年にずうとるびが歌った「みかん色の恋」で作曲家デビュー。400万枚以上を売った「およげ!たいやきくん」をはじめ、「ホネホネロック」「パタパタママ」などの『ひらけ! ポンキッキ』に提供した歌で印象深い名作を残している。歌謡曲でも山口百恵の「赤い衝撃」、キャンディーズ「暑中お見舞い申し上げます」、畑中葉子「後から前から」などヒット曲、話題作を提供。アニメソングでは本作の主題歌と、なんといっても八代亜紀が歌った「ラッキーマンの歌」(『とっても! ラッキーマン』主題歌)だろう。
 1980年代はアニメ音楽のマーケットが広がり、レコードメーカーが新しい音楽の作り手を求めていた時期。そこで『ひらけ! ポンキッキ』で実績のある佐瀬寿一=茅蔵人に白羽の矢が立った……のではないかと推測しているが、あくまで推測である。
 連続TVアニメの音楽担当の実績はないとはいえ、佐瀬寿一(茅蔵人)は「およげ!たいやきくん」「ホネホネロック」などで編曲も手がけている。BGMの作曲もお手の物だった。
 サントラアルバム第1弾として発売されたのは『無敵ロボ トライダーG7 トライダー大百科』。これが面白い。BGM集ではなく、ドラマと歌と音楽を収録したバラエティに富んだアルバムなのだ。こういうのは日本コロムビアのお家芸で、キングレコードの新作アニメサントラには非常に珍しい。
 収録トラックは以下のとおり。

  1. がんばれ若社長〜トライダーG7のテーマ
  2. ワッ太は遅刻の常習犯〜ああ宿命のライバル
  3. 6年2組ただいま授業中
  4. 専務は会社の金庫番
  5. 安全確認、とびだせG7
  6. 敵はロボット帝国だ!
  7. シャトルの中でお食事を!
  8. 闘え!トライダーG7!!
  9. 妹思いのワッ太〜ゆうやけこやけで日が暮れて
  10. 俺は社長だ

 歌とドラマが1トラックにまとめられていたり、ステレオBGMにナレーションがかぶったりする。純然たるサントラを期待していたファンにはちょっとがっかりのアルバムだろう。けれど、今聴くとこれはこれで味がある。特に音楽にSEとセリフをかぶせて劇中シーンを再現した「安全確認、とびだせG7」や「闘え!トライダーG7!!」は激燃えのトラック。やはり本来は「SEもセリフも含めてサウンドトラック」なのだと実感してしまう。そして、永井一郎をはじめ芸達者な声優が参加したドラマは音だけ聴いても楽しめる。現在は東映スーパー戦隊シリーズのサウンドトラックがBGMとミニドラマを交互に収録した形式になっているが、こういうスタイルはもう一度普及してもいいのではないかと思うのだ。
 とはいえ、やはり熱心なアニメ音楽ファンには不評だったのか、のちにBGMだけを収録した「無敵ロボ トライダーG7 BGM集」が発売された。こちらはブリッジ・コレクションや予告音楽もフォローした全16トラックの内容(構成は氷川竜介氏)。

  1. トライダーG7のテーマ
  2. 今日も元気に学校へ
  3. わんぱくワッ太の一日
  4. ガバール帝国の陰謀
  5. 襲来!メカロボット軍団
  6. 涙と友情
  7. ブリッジ・コレクション
  8. さあ、仕事!仕事!
  9. 広くて はてしない大宇宙
  10. お食事のお時間でーす
  11. 陽気な社員たち
  12. 希望の光
  13. 決意も新たに
  14. G7大激戦!
  15. 明日もがんばろう!
  16. 俺は社長だ〜予告BGM

 多くのヒット曲を送り出してきた佐瀬寿一(茅蔵人)の音楽は、明確なメロディを持った親しみやすい曲ばかり。曲を聴いているだけで場面が思い浮かぶようなイメージ喚起力にすぐれた音楽で、作品のカラーにぴったりだ。
 音楽的特徴としては、当時普及してきたアナログシンセサイザーを多用していることが挙げられる。プロフェット10、オーバーハイム、ポリムーグなど、アナログシンセのファンが聞いたらニヤニヤしてしまうような機材が使われている。特筆すべきは音使いの巧みさだ。シンセの音が耳障りでなく、軽妙でぬくもりのある音に聴こえる。また、音を詰め込まず、あえて「隙間」を設けて、セリフやSEと一緒に鳴っても音楽が聴こえるような作りになっている。子ども向け作品を多く手がけた佐瀬寿一ならではのこだわりと技だろう。
 ワッ太の日常を描写する「今日も元気に学校へ」「わんぱくワッ太の一日」からスタートするのが本作品らしい。
 「広くて はてしない宇宙」はちょっと『ポンキッキ』風なノリのよい曲。「お食事のお時間でーす」は食事シーンが多い本作品の雰囲気を伝える楽しい曲。「決意も新たに」は「苦境から立ち上がれ!」という雰囲気の曲調だが、シリアスになりすぎないバランスがすばらしい。ちょっとセンチメンタルで美しい「希望の光」も佐瀬寿一(茅蔵人)のメロディメーカーぶりが発揮されたいい曲だ。
 あと驚くのは「ブリッジ・コレクション」が5分もあること。ブリッジといえども手を抜かず1曲1曲しっかり「音楽」として書かれているので、飽きずに聴くことができる。
 ロボットアニメらしい激しい曲が凝縮された「G7大激戦!」はバトル曲好きにはたまらない聴きどころ。収録時間の都合か曲がフェードアウトして終わっているのがもったいない。
 締めくくりに置かれた「明日もがんばろう!」は筆者のお気に入り。希望に満ちた曲調はタイトルどおり「がんばろう!」という気持ちになる。
 思うに、この雰囲気は60年代日本映画の若大将シリーズとかクレージーキャッツ映画のノリなんだろう。明るく前向きで、いつもユーモアを忘れず、くじけない。その精神が音楽にも反映されている。
 惜しいのは「トライダー大百科」にステレオ収録されていたBGMが「BGM集」には収録されていないこと。特に「トライダーG7のテーマ」のメロオケは単独でも聴きたかったなあ。
 2枚のアルバムは長らくCD化されなかったが、2005年に「トライダー大百科」と「BGM集」をカップリングにした2枚組CDが発売された。そして、この2枚では歌だけを独立して聴けなかったエンディング主題歌「俺は社長だ」も2009年発売の3枚組コンピレーション・アルバム「サンライズ ロボットアニメ大鑑」で補完されている。
 なお、本作がたいらいさおのアニメソング・デビュー作。そして、後番組が渡辺宙明音楽の『最強ロボ ダイオージャ』になる。11月26日発売の『最強ロボ ダイオージャ 総音楽集』もぜひお聴きいただきたい。

オリジナル・サウンドトラック 無敵ロボトライダーG7

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サンライズ ロボットアニメ大鑑

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最強ロボ ダイオージャ 総音楽集

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