COLUMN

第388回 アニメーター・演出相談、続き

 (前回の続き)アニメーター志望より「演出家志望」の人の相談にのる方が難易度はグン! と高いというお話。なぜなら、

アニメーター志望は画を見れば具合(?)が分かるけど、演出志望は画では判断しづらい!

んです。だからといって「1シーンだけのコンテ」を試験するのは賛成できません。会社(スタジオ)によっては、そーゆー演出試験をやってるトコがあると聞きますが、俺にはピンとこないのです。それはいわゆる「コンテを描くセンス=演出」と一言で言えないのがアニメ演出だからです。

たとえ、カッコいいシーンをコンテで描けたからといって、原画マン(アニメーター)への指示、
タイムシート、撮影指定などの「画作りの仕組み(仕掛け)」が分からないと絶対にカッコよくなりません!

 これがアニメの厄介なところで「僕のコンテはよく描けたのに(フィルム)の出来が悪いのはアニメーターや撮影のせいだ!」という演出に、自分はアニメーターの頃から何人も会ってます。撮影指定やセル分け、タイミングの管理などの裏方・下積みっぽい仕事に、ちゃんと興味をもってない人に演出をやらせるくらいなら、コンテも描けるアニメーターに演出も名乗らせた方がずっとマシですから。ぶっちゃけ、しっかり向上心をもって日々画作りに取り組んでるアニメーターはちゃんとコンテも描けますし(断言!)、現場では画の描けない演出家の描いたコンテより、アニメーターが描いたラフコンテの方が重宝もするんです。その現状で、

なぜ、画を描けない人に「演出」という
管理職をやってもらわなければならないのか?

です。この前置きをした上で以下をお読みください。以前ウチの会社を受けにきた、とある演出志望君と自分の面接での会話です。ちなみに結果から言うとこの演出志望君はこの後「いろいろ考えさせられました」と自ら去っていきました。

板垣「(貴方はこの会社で)何がしたいの?」
演出志望君(以下志望君)「自分の作品が作りたいです!!!」
板垣「う〜ん、自分の作品」
志望君「はい(と企画書的なものを見せようとしつつ)。こういう……」
板垣「あ(遮って)、まだ見たくないので結構です」
志望君「あ、はい(と企画書的なものを机の上に置く)」
板垣「あの『自分の作品』、つまり『貴方の作品』をここの皆で一丸となって作らなきゃならないのはなぜなんでしょう?」
志望君「えっ?(キョトン)」
板垣「いや、つまりですね。ここ(ウチの会社)にいるアニメーターや制作がなぜ『貴方の作品』を作らなきゃならないのでしょうか? と。アニメーターたちだって、いずれ監督になりたいと思ってる人もいると思うんです。なのにその彼らに、なぜ『貴方の作品』を描かせなきゃならないの?」
志望君「……(キョトン)」
板垣「だから、その貴方の企画を見もしないで判断するのは酷いとか思うかもしれないけど、その企画を自分で監督したいんでしょ? 順番に説明すると、まず貴方、画描きというかアニメーター志望じゃないんですよね?」
志望君「はい」
板垣「で制作やったり演出助手やったり、の下働き的なことを根詰めてやる気あります? 撮影フレームを確認したり、セル分け確認したり」
志望君「……(沈黙)」
板垣「でしょ? それでなんで画が描けるアニメーターさんや下働きをやってくれる制作さんを使って作品を作る資格が貴方にはあるのでしょう? 『監督』って役職ルールだけで何十人とかのスタッフに描かせたり塗らせたり撮らせたり役者さんらに演じさせたりできるとでも思ってます? 皆フリーなんだから拒否ることだってできるんですよ、この仕事?」
志望君「……(無言)」
板垣「よしんば、貴方の企画がメチャクチャ面白くて、どこの会社も飛びつくほどのものだったとしても、貴方に監督として現場を仕切らせてくれる会社ってあると思います?」
志望君「……(静寂)」
板垣「そもそも制作(進行)はやりたくない、画は描けない、だから自分は監督っておかしくないですか? 専門学校の学生制作ですら、そんな都合のいい話ないと思いません? 『自分は監督になるべく生まれた』と思い込んでる根拠はなんですか? 道行く米国アカデミー名誉賞アニメ監督に『君こそ天才だ!』とでも言われたんですか?」

 ここでもし彼が「とにかくまずは演出を学びたい!」と一言言えば「助手として面倒をみようか」と声をかけたと思いますが、彼はこの面接でついぞ演出の「え」の字すら口にすることはなかったので

板垣「その企画に自信があるのなら、まず小説にしたらどうですか? もし俺が読んで面白かったら出版社を紹介しますよ。もちろん面白かったら、という条件付きですが。編集者さんだって忙しいんだから、俺程度を面白がらせることができない小説を時間を取って読ませるわけにはいかないので。ただ、自分も企画絡みで原作を読むことは多いから、面白いか面白くないか? は嘘偽りなく判断しますのでご心配なく。是非書いて持ってきてください!!」

と小説化をお勧めしたところ「考えてみます」と帰っていったというわけです。つまり何が言いたいかというと、

自分のアニメ演出観(?)て、コレだ!

と。世に言う「ネットの普及」により、誰でも自分が面白いと思う企画・お話をマンガや映像作品などにして、不特定多数の視聴者に向けて発表できる世の中になり、まさに「1億総クリエイター時代」になった現在、個人や少人数で何か作るのを誰が邪魔するでしょう? ただ我々が作るアニメや映画は、何社からも出資を募って、何千万〜何億円規模の事業としてのフィルム作りで何十〜何百人のスタッフと一緒に作るものです。そうした大勢のスタッフを指揮して作る監督(演出)が「画も描けない」「撮影処理も勉強する気がない」で皆従ってくれると思ってるんでしょうか? 「監督」って誰でも黙らせられるオールマイティーな免罪符だと思ってる人が、たった1シーンカッコいいコンテが描けたり、企画書ひとつ書いたくらいで、演出やら監督やらにしていいのでしょうか、会社って? だめだ、まだ言い足りないので。