COLUMN

第94回 どこか見慣れた風景を

 アメリカ製のゴジラ映画を観に行った。
 ほんとうはもうちょっと早く行こうとは思ってたのだが、封切り(という言い方も最近あまりしなくなっちゃったけど)の頃には広島へ行ったり、その翌々週はアメリカへ行ったり、いろいろしているうちに今頃になってしまった。
 山本弘さんの「MM9—invasion—」創元SF文庫版のあとがきでも触れられているように、「災害としての怪獣を防ごうとする人たち」の映画を作りたいと企画をいじっていた時期があり、そういう興味もあった。
 2011年3月11日の震災以来、津波だとかの災害的カタストロフの映像表現は難しくなり、すでに製作ずみのものでしばらくお蔵に入らざるを得なくなっていたものもある。けれど、まあ、今回の「GODZILLA」を通じてそうした表現が、日本でもふたたびポピュラリティを復活させられるようになってゆくのじゃないか、という声も耳にしていて、果たしてそうなんだかどうなんだか、今この時点の自分の目で見定めておきたいと思ったのだった。
 結果からいうと、冒頭のビキニ環礁での核実験の爆弾が広島型原爆の形をしていたところでもやもやしてしまったのがまず。現実の戦後最初の核実験「クロスロード作戦」はA実験もB実験も長崎型なので、いずれにしても気持ちに暗雲が垂れ込めたのかもしれないのだけれど。それから、ゴジラ上陸の際に起こる津波の場面では、かなり心の底の痛いところを刺されてしまった。
 広島出身のこうの史代さんが「ヒロシマもののマンガを描いてみたら?」と「夕凪の街」の執筆に誘われるまでは原爆にはほとんど気持ちを向けていなかったと述べておられ、自分もそのこうのさんの「この世界の片隅に」を読むまでは、もっと原爆からは気持ちを遠ざけていたはずだったのだが、いったん踏み込んで、少しばかり深入りしてしまうと、こんな感じで抜き差しならなくなってしまう。その心理の延長線の上に2011年の震災や津波を捉えてしまっていたところがあって、津波の映像を見てしまうと、当時読み聞きしてしまった様々な情景がぶり返してきてしまうのだった。
 ということで、自分自身からすると、まだちょっと無理な感じ。
 アメリカの人たちだって、事故を起こすジャンジラ市の原発を、福島のものよりもスリーマイル島のに近い外観にしていたり、あきらかに「9・11」を思い起こさせる部分もあって、ひとごとと思わない態度はちゃんと見て取れたとは思うのだけれど。
 その「GODZILLA」に登場する架空の日本の町「雀路羅(じゃんじら)市」なのだが、あらかじめ話に聞いていたよりも、それらしく日本の町っぽくは見えた。ネーミングのすさまじさから予想されるほど、メチャメチャな日本描写ではなかったように思う。
 ためしに、ハリウッド映画でありながら、日本を舞台にしたソフィア・コッポラの「ロスト・イン・トランスレーション」のDVDを引っ張り出して眺めてみたのだが、実際の新宿でロケをしていても、ジャンジラ市と同じくらい、やはり自分たちからは縁遠いものに見えた。ちなみに、「ロスト・イン・トランスレーション」は嫌いな映画ではない。
 なんだろう、美しく完成させようとするカメラマンの映像は、多くのものを切り落とした上で、必要と思える要素だけで再整理した形で提示されるのだろうけれど、たぶん、フレームから排除されてしまったいろいろの中に自分らの琴線に触れる部分があるのかもしれない。
 そうしたところに絡む意味でハリウッド映画の映像が「美しく」、日本映画の映像が「汚い」と思う気持ちはまったくない。きちんと片づけられてしまった景色はよそよそしい。
 ずっとリアルタイムなものと思って見続けてきた「男はつらいよ」の、わりと初期の方の一本を観直してみたら、雑然と生活臭を残した画面の中に、唐突にまだ走っていた蒸気機関車が登場したりして、その記録性に驚かされてしまったりする。

 長いこと描き直しを続けてきた、広島市中島本町の大津屋さんのカットのレイアウトだが、とうとう先日、そのとなりに住んでおられた方から、さらにその従姉の方にまで絵を見ていただいた上で、
 「覚えている限り、全体の雰囲気は十分に出ていると思う。これ以上は、もう言いようがない」
 と、いっていただけた。
 レイアウトの上での考証はここまでと思う。次は色をつけてゆく作業だ。色のことでは様々あって、中島本通の鈴蘭灯は、おそらくアルミ塗料と思われる銀色で塗られているところまでは間違いないのだが、基部のところだけ暗い色になっていて、それがまたわからないときている。
 それにしても、この中島本通関連では、そうやってたくさんの旧住民の方々からお話をうかがったのだが、「以前別の方がされていたCGでこの町の景観を再現しようとしていたものより、見慣れた感じがして、雰囲気が出ている」といっていただけることが多かった。これは、CGだから手描きだからという手法の特質によるのではなく、単純にわれわれの方が整理することなく画面内に雑然といろいろな物を持ち込みたがっているからなのだと思っている。
 今日も浦谷さんは、レイアウトの隅っこを埋めるための小物を探しまくっている。

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