COLUMN

024「これが本当のアンツィオ戦です!」は「まんが映画」だ(2014年9月2日)

 『ガールズ&パンツァー』のOVA「これが本当のアンツィオ戦です!」について、どのように人に伝えればよいのか。『ガルパン』ファンに対して、今さら僕がこの作品の魅力を伝える必要はないだろう。『ガルパン』を知らない人たちにどのように伝えればいいのかを考えた。最近、ずっと考えていた。
 「これが本当のアンツィオ戦です!」は好ましい作品だ。試写会で観て、劇場に足を運んで再見して、さらに劇場限定版Blu-rayまで購入してしまった。重たいドラマもなければ、主人公たちの葛藤のようなものもほとんどない。だけど、きちんと面白い。大勢いるキャラクターを満遍なく魅力的に描いている。作り手たちが「キャラ愛」をたっぷりと込めたのだろう。内容が詰まっているので、物足りないということもない。むしろ、いわゆるドラマに重きを置いていないから、楽しさが際立っているのだ。こんなバランスの作品は初めて観た。
 戦車同士の戦闘シーンもいい。TVシリーズの最終回もよかったけれど、その数倍いい。3DCGの戦車でエンターテインメントを成立させていた。手描き作画が大好きな僕が「戦車はCGで十分だ」と思ってしまったくらいだ。戦闘シーンの音響もいい。音響に関しては、劇場での上映が、試写会よりもずっとよかった。迫力満点の音響に、戦車の映像が負けていないところもよい。
「これが本当のアンツィオ戦です!」の楽しさについては、この作品がTVシリーズの番外編であり、大筋を追わなくていいからこその気楽さ(TVシリーズはもう少しドラマがあるのだ。念のため)、そして、敵チームであるアンツィオ高チームのキャラクターによるところが大きい。アンツィオ高チームの連中は、お馬鹿で元気で調子がいい。愛すべき連中だった。
 以上のような内容を、なんとか簡潔に言葉にできないかと考えていた。このあたりはライター的な思考なのかもしれない。ずいぶん長いこと考えて、ある日、突然思いあたった。

「これが本当のアンツィオ戦です!」は「まんが映画」なのだ。

 「まんが映画」なんて、若い人にはピンとこない言葉かもしれない。ある作品をどのようにカテゴライズするかという話であり、言葉遊びのようなものだ。「僕たちの『ガルパン』を変な言葉でまとめるなよ」と思われる方がいるかもしれない。もしもいたなら、ごめんなさい。
 この場合の「まんが映画」とは、東映長編の『どうぶつ宝島』、宮崎駿監督の『名探偵ホームズ』のような作品のことだ。『未来少年コナン』にも「まんが映画」的な魅力がたっぷりと詰まっていた。つまり、「まんが映画」とは、シンプルで明朗な娯楽作。そして、動き(アクション)が魅力に直結している作品だ。アニメのよりプリミティブなかたちである。
 「これが本当のアンツィオ戦です!」の明朗さが「まんが映画」的。あれだけ戦車同士で撃ち合っているのに誰もケガをしないところも「まんが映画」的(TVシリーズの『ガルパン』も同様だったはずだが、そういったところがより際立っていた)。アンツィオ高チームのあっけらかんとした、ノリのキャラクターも「まんが映画」的。彼女たちのふざけた作戦も、それが失敗した理由も「まんが映画」的。小さい戦車がチョロチョロ走りまわるところも「まんが映画」的だ。
 中盤でアヒルさんチームの磯辺典子が、八九式中戦車甲型が傾いた際に、戦車の上で身体を伸ばして(つまり、自分の体重を移動させて)車体を立て直すカットがある。まるで宮崎監督か大塚康生さんが参加した作品のようだ。つまり、「まんが映画」的感覚たっぷりの描写だ。初見時に「まんが映画的だなあ」と思ったわけではないけれど、デジャブを感じた。
 これからビデオソフトで観る人もいるだろうから、ここだけは具体的なことを書かないが、試合が終わった後のシーンのちょっとした描写で、ウルっときてしてしまった(ラストシーンではない)。どうしてそんなところに反応してしまったのか、自分でも分からなかったのだけれど、あれは自分の中の「まんが映画」好きな部分のツボを押されたのだろう。
 『ガルパン』は1980年代OVAから続く「メカと美少女もの」の完成形のひとつだ。「これが本当のアンツィオ戦です!」を観て分かった。それについても、機会があったらいつか書きたい。

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