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第38回 6年目の衝撃 〜機動戦士Zガンダム〜

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 前回の『機動戦士ガンダム』に続いて、今回はその続編『機動戦士Zガンダム』を取り上げたい。
 『機動戦士Zガンダム』の放映開始は1985年3月2日。1stシリーズ放映から6年を経て実現した続編だった。舞台は宇宙世紀0087。1stシリーズ最終回のラストに「宇宙世紀0080」とナレーションが流れるので、その7年後の世界という設定である。物語は前作に登場したシャアが準主役的立場で登場、かつて戦ったホワイトベースのクルー、ブライトやアムロらと共闘するという驚くべき展開を見せる。陰謀・裏切り・愛憎が渦巻く容赦ないストーリーに圧倒された作品だった。
 音楽を手がけたのは三枝成彰(当時は成章)。東京藝術大学音楽学部作曲科を首席で卒業した俊英だ。管弦楽やオペラ等の純音楽作品を創作するかたわら映像音楽やゲーム音楽なども手がけ、キャスター、コメンテーターとしてTV出演もこなしている。
 そんな三枝成彰が手がけたアニメ作品というと、まず印象深いのが、1980年に放映されたカラー版『鉄腕アトム』。シンセサイザーやフュージョンサウンドを取り入れた意欲作だった。筆者も、この作品で三枝成彰の名を覚えたくらいだ。
 『機動戦士Zガンダム』の音楽は『鉄腕アトム』とはまったく肌触りが異なる。1979年の『機動戦士ガンダム』とはまた別の意味でアニメ音楽に変革をもたらした衝撃的な作品である。
 オリジナル・サウンドトラックは1985年4月に「BGM集 VOL.1」、5月に「BGM集 VOL.2」が発売され、12月に「BGM集 VOL.3」が発売された。VOL.1とVOL.2は発売時期が近いことからもわかるとおり、2枚で1セットともいうべき内容。ジャケットもVOL.1がザク(!)、VOL.2がガンダムMarkIIのイラストで対になっている。
 なお、当時はアナログレコードからCDへの切り替わり時期。BGM集のVOL.1とVOL.2はLPレコードで発売されたが、1985年6月には2枚の内容を1枚のCDに再編集した「機動戦士Zガンダム BGM COLLECTION」が発売されている。
 現在は、3枚のLPを当時のままの内容で復刻したCDが入手できるほか、1989年に初リリースされたたCD「機動戦士Zガンダム SPECIAL」でも本作の音楽を聴くことができる。これは『機動戦士Zガンダム』の音楽を物語の進行に沿ってCD2枚に再構成したアルバム(構成・解説は早川優)。『Zガンダム』の音楽をまとめて聴くにはこちらがお奨めだ。
 が、今回は前回の『機動戦士ガンダム』と同様、最初に発売されたBGM集アルバムの内容に沿って音楽を振り返ってみたい。リアルタイムに『Zガンダム』の音楽を聴いたときの驚きと感動が、当時のアルバムに結びついているからだ。
 「BGM集 VOL.1」の収録曲は以下のとおり。

  1. イントロダクション
  2. Z(ゼータ)・刻をこえて(歌:鮎川麻弥)
  3. 赤のリックディアス
  4. 新たな世界
  5. 反乱軍
  6. エウーゴ
  7. カミーユ・ビダン
  8. グリーン・ノア
  9. 潜在意識
  10. ティターンズ
  11. 虚構の空
  12. 星空のBelieve(歌:鮎川麻弥)

 構成は複数のBGMを1トラックに編集するスタイル。『機動戦士ガンダム』の音楽集は1曲1トラックだったが、この当時のキングレコードのサントラは、このスタイルが主流になっていた。
 1曲目の「イントロダクション」(D-1)は本編冒頭で流れるナレーションバックの音楽として書かれた曲。第5話、8話などではその意図どおりにサブタイトル前に使われている。1stガンダムの「長い眠り」(前半)的役割の曲ということになる。「長い眠り」は序曲的な雄大な印象の曲だったが、こちらはフルートが瞑想的な旋律を奏でる静かな曲。『機動戦士ガンダム』と『Zガンダム』との違いが、この1曲にも表れている。『Zガンダム』の世界への導入にふさわしい曲だ。
 主題歌をはさんだ3曲目「赤のリックディアス」はシャアのモビルスーツの名を冠したトラック。前半(A-6)はリック・ディアスのテーマ。メニューには「正義か悪かまだわからない」とあり、正邪が逆転する『Zガンダム』のドラマの緊張感をはらんだ曲であることがわかる。後半(A-7-2)はモビルスーツ戦の曲。バトル音楽だが、爽快感よりも混戦状態の焦りや緊迫が伝わる曲調。バトル曲でも、弦やオーボエ、フルートなどが活躍するのが『Z』の音楽の特徴のひとつだ。
 「新たな世界」はほっと気持ちがなごむトラック。本アルバムの中でも異色な印象のブロックだ。弦と木管がやさしく歌う1曲目(C-7)は仲間との友情を表現する曲。2曲目(D-3後半)はソプラノサックスの音色がまぶしい躍動的なテーマ。本作の主人公・カミーユの初登場シーンのために書かれた曲である。3曲目(C-9)は跳ね踊るような弦と木管が楽しい明るい曲。物語後半に登場する戦争孤児シンクとタムの描写に使われた。こうした曲は本編では長く使われることはまれで、まとまって聴けるのはアルバムならではの楽しみである。
 楽しい雰囲気から一転して「反乱軍」は不穏な印象に変わる。1曲目(B-6-1)は陰謀のテーマ。今聴いても「『Zガンダム』ってこういう雰囲気だったよね」と思い出してしまう、本編でも使用頻度の高い曲のひとつ。続く2曲目(B-7)も不穏な動きを描写する音楽。アタックの強いピアノのリズムはメカの動きを描写した表現である。ピアノで近代的なメカニックを表現するのは伊福部昭も好んで用いた手法のひとつだ。
 「エウーゴ」は反地球連邦組織エウーゴをテーマにしたトラック。1曲目(A-2)はエウーゴの艦隊の進行をイメージした曲だ。「勇壮で使命感を帯びた航行」というメニューだが、高揚感を押さえ、悲壮な印象が残る。この味わいが実に『Zガンダム』らしい。2曲目(A-1)はエウーゴの宇宙戦艦アーガマのテーマ。1stシリーズでホワイトベースのテーマのように使われた曲「戦いの恐怖」と比べても、ぐっと重く、不安な曲調で作られている。3曲目(A-10)は進撃のテーマ。第20話でカミーユがフォウの助けによって宇宙に脱出する名場面に流れた印象的な曲である。
 「カミーユ・ビダン」(C-1)はカミーユのテーマとして書かれた3分を超える長い曲。メニューには「このドラマのサブテーマ的なもの」と書かれている。劇中のカミーユのイメージとは違う印象だが、第19話でカミーユとフォウのつかの間の逢瀬を彩る曲として選曲された。アルバムのなかでもメロディの美しさが際立ったトラックである。
 「グリーン・ノア」の1曲目(B-5)も印象に残る曲だ。メニューでは「対決の緊張」と題され、緊張感が盛り上がる場面などによく使用された。チェンバロ風のシンセの音色が実に効果的。本作の録音には『鉄腕アトム』にも参加した難波弘之がシンセサイザー奏者として参加している。2曲目(D-8)はエウーゴの拠点となる星やコロニーをイメージした音楽。エレキギターが旋律を奏でるロックバラード風の曲調がなかなかカッコイイが、劇中では使用されていない。
 「潜在意識」の1曲目(C-2)はニュータイプの共鳴シーンに流れた曲。2曲目(B-1)は忍び寄る不安のテーマ。ふわっとした感情のゆれを空間的なサウンドで表現する手法は共通している。
 本作の敵役となる連邦軍の特別部隊をイメージしたトラック「ティターンズ」。1曲目(D-4)はティターンズの威圧感を描写した短い曲。続く2曲目(A-4-1)と3曲目(A-4-2)は宇宙戦艦の出撃、進撃をイメージした曲で、ティターンズの作戦行動の場面によく流れていた。暗い重圧感がのしかかってくるような、『Zガンダム』の雰囲気を代表する音楽だ。
 エンディング主題歌の前に置かれた「虚構の空」はカミーユの心情を描写する音楽。1曲目(C-3)はカミーユの両親に対する不信と苦悩を表現した曲。2曲目(C-4)はカミーユのいらだちから行動へ至る心の動きを描写した曲で、本編では第20話でフォウがカミーユの言葉に心を動かされるシーンに流れている。どちらも、不安定な気持ちのゆれを弦、木管、ピアノなどのアンサンブルで表現した曲だ。
 『機動戦士Zガンダム』の音楽は、心情曲でもアクション曲でも、単純に「哀しい曲」「勇ましい曲」と割り切れない複雑さを持っている。音楽的に「もっと歌ってくれたら気持ちいいのに」「もっと盛り上がったら気分が高揚するのに」と思うところにあえて行かずに、ちょっと突き放したところで楽曲が展開する。ではカタルシスがなくて退屈かというとけしてそうではない。アレンジも演奏も水準以上で、ぐいぐいと耳に刺さってくる。 この「もどかしい感じ」と音楽的クオリティの高さが、アニメサントラを聴き慣れた耳には新鮮だった。「なんだこれ!?」という感じである。『機動戦士Zガンダム』の物語がどこへ向かっていくのか、このアルバムが出たとき、ファンはまだ誰も知らない。
 「虚構の空」のもやもやした感じを残して、「BGM集 VOL.1」は終わり。内容的には『機動戦士Zガンダム』の世界観を示し、「役者はそろった」というところだ。次の「BGM集 VOL.2」で、いよいよ物語は大きく動き始め、激しい戦いに突入する。
 ということで「VOL.2」の紹介に入りたかったが、文字数いっぱいのため、今回はここまで。続きは次回。——君は、刻(とき)の涙を見る……!

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